フランの異世界召喚記 作:松雨
フラン、ギルド本部に呼ばれる
「フランドール・スカーレット……吸血鬼ですね? お迎えに上がりました」
「お迎え?」
「はい。ここのギルドマスターから聞いてはいませんか? 実はですね……」
豪華な荷馬車から降りてきた人が言うには、私が悪質冒険者共を狂気の赴くままに壊したあの時にギルドマスターに話して見せた事が本部に伝わり、それが真実なのかどうか
そうなった事についてはミロミスのギルドマスターからは何も聞いていないけど、ギルド本部でそう決まったと言うのなら行くしかない。ここで断ってお尋ね者になっても困るし。
「分かった。行くよ」
「ああ、良かったです。妹様方もご一緒に」
そうして、停まっていた荷馬車に3人で乗り込む。エリエスたちも乗りたがっていたが、女王様たちに止められて若干膨れっ面をしながらも指示に従っていた。
「フランにヴァーミラ、そしてミア! いつかまた遊びに来てよねーー! 何年でも待ってやるからーー!」
「うん! またいつか、きっとここに来るから!」
「妖精さんたち、さようならー!」
「じゃあまたねー!」
こうして、私たち3人は無駄に豪華な荷馬車に乗ってギルド本部に向かう事になった。その道中、荷馬車の運転手さんが色々な話をしてくれた。
何でも今から向かうギルド本部があるのは、ノストライト皇国の最大の都市で皇都の『シェイニーグ』と言うらしい。治安は他国の王都や皇都・首都と比較しても良い方で、夜中に1人で子供や女性が出歩いても比較的安全との事。皇国としてはオススメはしていないらしいけど。
それに魔法技術も高く、カーテンド王国やノストライト皇国、クーア王国にネーマノシェン共和国他10ヵ国があり、世界のほぼ中心に位置する『ラウフィート大陸』国家群の中では上位に位置する程だと言う。
運転手さんがそれ程言うのなら、きっと人が沢山居て楽しい場所なんだろうなと期待を抱く。まあ、その前にギルド本部での聴取が待っている上に、その結果次第では楽しい冒険どころではなくなるのが痛い。上手く乗り切らないとなぁ~。
そんな事を揺られながら考えていると、突然荷馬車が急停止した。勢いでつんのめるも、何とかこらえて血の入った瓶を守りきる事が出来た。
「何があったの!?」
「分からないよ……」
「取り敢えず外を見てみようよ、フランちゃん」
ミアにそう勧められたので、荷馬車から外を覗いてみた。すると、道を塞ぐようにして如何にも盗賊もしくは強盗と分かるような格好をした男の人たちが居た。僅かだけど女の人も居たりした。
「運転手さん、あの邪魔な人たちは?」
「この辺を根城にしている有名な盗賊団です。申し訳ない、こんな目立つ荷馬車でこんな所を通る判断をしてしまい……」
「まあ、気にしないでよ。それより、盗賊団なら排除しても良いんだよね?」
「あ、はい。と言うか、是非お願いします。恥ずかしながらわたくし、戦闘能力が全くないのです」
そう荷馬車の運転手さんから頼まれたので、荷台から降りた私は道を塞いでいて邪魔な事この上ない彼らの元に向かう。
「と言う訳で、貴方たちと遊んでる暇はないからさっさと済ませるね!『チェーンパラライズ』」
「「「え……あぁぁぁーー!」」」
連鎖する麻痺の光を放つ魔法でまずは目の前の5人を麻痺させて戦闘不能に、次は茂みの中に隠れていた3人に向けて魔導書の項目の欄に例として載っていた『
そうして、麻痺して動けない盗賊を適当に茂みの方に放り投げてから荷馬車に戻ると、ヴァーミラの足元で盗賊が2人うずくまって気絶していた。聞くと、ミアを人質にしようと襲いかかって来たから殴って気絶させたらしい。
「ありがとう、ヴァーミラ」
「どういたしまして~」
お礼を言った後、ヴァーミラが気絶させた盗賊も茂みの方に放り投げ、全ての盗賊を戦闘不能にしてから再び荷馬車に乗り込み、出発した。
「ありがとうございました。まるで邪魔な虫を払うかのようにあっさりと排除したその魔法の腕前、流石です」
「褒めてくれるの? ありがとう!」
運転手さんとの会話をしながら外の景色を見ていると、遠目にかなり大きくて建物に綺麗な明かりが灯る町が見えてきた。どうやらあれがノストライト皇国の皇都シェイニーグらしい。
ここまで来れば、後は皇都の入り口で警備兵士のチェックを受けるだけだから、何かない限りは大丈夫だと思うけど、何しろこの世界に来てからどう言う訳なのか、かなりの確率で妙なトラブルに巻き込まれてるからなぁ……現にミロミスでは今までで1番厄介な出来事に巻き込まれたし。
そんな事を考えていると、私たちを乗せた荷馬車は皇都の入り口に到着していた。そこで止まって待っていると、運転手さんの元に警備の兵士さんが近づいていってなにやら話をしだした。
「あ~。ギルド本部の荷馬車ね。一体何を運んでんだ?」
「吸血鬼ですけど」
「へ? 今なんと?」
「だから、吸血鬼の女の子2人と人間の女の子1人です。冒険者なんで安心して下さい」
「吸血鬼って聞いて安心出来る奴が居るかぁ!」
「まあ落ち着け。取り敢えず中を見るぞ」
兵士の1人がそう言って数秒、荷馬車の扉が開いて目が合った。
「マジで居たわ……にしても、どんな化け物かと思ったらすげぇ可愛――」
「死にたくなきゃ黙っとけこの変態!」
「えぇ……そんなに危ねぇ発言だったか今の」
「可愛いって言うだけならまだギリギリ許せなくも無いが、どうせお前の事だからもっとヤバい事言おうと考えてたんだろ? 例えば……」
「あー! それ以上は止めてぇ……」
突然扉を開けた兵士の2人が私たちを見るなり、仕事を放り出して変な言い争いをおっ始めた。あまりの出来事にどう対処すれば良いのか迷っていると、ヴァーミラが超手加減した弾幕を2人に放って当てた後、無言で笑顔を見せながらじっと彼らを見つめていた。顔は笑っているが、少し冷気が出ている所を見ると心の中では全く笑っていないのが良く分かる。
ヴァーミラの無言の冷気込みの威圧を感じ取った兵士の2人は、今までの騒がしいのが嘘のように静まり、それから一切余計な事は喋らなくなった。
そうして手続きが終了、ギルドカードと運転手さんのお陰で特に何もなくシェイニーグに入る事が出来た後、町の風景を見ながら考え事をしていると、どこかの教会みたいな大きな建物の庭に少し入った所で荷馬車は止まった。
「着きました。ここがノストライト皇国ギルド本部です。少し待っていれば案内人が来る筈です」
運転手さんがそう言うので待っていると、建物の中から3人の魔導師が出て来て私たち3人の腕に見覚えのある腕輪を両腕につけられた。力が結構出しづらくなるものの、能力は問題なく使えそうだったので特に慌てる事はない。
「申し訳ない。上からの命令なのだ」
「そうなの? まあ良いや、仕方ないしね」
そんな会話を交わしながら魔導師たちの案内の元、私たちは巨大な扉の先にある広い会議場へと足を踏み入れた。
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