フランの異世界召喚記 作:松雨
「ふむ、あやつがフランドール・スカーレットか。見た目は可憐な少女じゃが……凄い威圧感を放っているの」
「隣に居るのは確か、吸血鬼ヴァーミラ・スカーレットでしたよね。妹の方からもかなりの威圧を感じます」
「だけど、封魔の腕輪を2個つけているから得意の魔法や身体能力は大幅に制限されている。万が一暴れられても問題ないだろう」
会議場へと足を踏み入れると、100人程だろうか。かなり沢山の人間以外にもエルフ、ドワーフに獣人等の多種多様な種族の人たちがそこには居た。全員それぞれの国の都から来たギルドマスターなのかな。
と言うか能力は問題なく使えるから、腕輪を破壊して彼らの言う問題のあるレベルで暴れようと思えば暴れられる。能力をあまり使っていないからバレていないのかもしれないけど、ここまで厳重な警備を敷くのであれば何らかの手段を講じて、私の能力を調べ上げてそれを封じるなり無効化する方法を考えるなりするべきだったと思うんだけど……そのお陰で焦りはそれほど感じないから良かったとも思うべきかな。
それ以外にも空いているスペースに重武装をした兵士さんや魔導師の人、見覚えのある白いローブを着た聖職者さんが所狭しと待機していた。私やヴァーミラが暴れて皆を壊すとでも思っているらしいが、それにしたって凄い数だ。
「来た様ですね。フランドールさんにヴァーミラさん、そしてミアさん。さあ、そこに座って下さい」
私たちにそう言ってきた男の人が指した場所は、周りを全員に囲まれたいわゆる『ど真ん中』だった。私たちの一挙一動をあらゆる角度から沢山の人が見ているし、怪しい動きをすれば全員で即制圧されるだろう。まあ、
そうして言われた通り鏡のある席に座ると、周りからの視線が凄かった。ど真ん中にこの席はあるので、全方位から見られているのは当たり前なんだけど、一部恐怖や恨み等の負の感情がこもった視線を感じるから、いつ襲われても対処出来るように気が抜けなかった。
「さて、君たちが呼ばれた理由は分かりますか?」
「うん、知ってる。私が
私が他の人とは違う椅子に座っている男の人の問いに対してそう応えると、会場に居る人たちがどよめく。
「聞いたか今の? ギルマスさん達が言った通りあの吸血鬼、人間を人間扱いしてねぇぞ」
「あれ? でも仲間の人間傷つけられて激昂したとも言っていたギルドマスターも居たけど……?」
「どうせ自分の大切な物を壊されそうになったからだろ。結局は人間を物扱いしてるだけだ」
何かさっきよりも敵意を向ける視線が増えた気がする。だとしてもこちらに攻撃をしてこない限りは何もしないと決めているので、こちらからは何もしない。と言うか、冒険者達を壊した事について私から聞く為に呼んだのに、それをそっちのけで別の議論が始まったけど……良いのかな?
「フラン姉様、これ長く続きそうだよ?」
「うん。それまで暇だし、魔導書でも読んでようかな」
そうしてこの本来の目的から逸れた議論が終わるまで、魔導書を読んでいる事にした。時折ミアやヴァーミラと魔法の話をしながら待っていると、ようやく違う椅子の男の人がこの状況を沈めるべく動き出した。
「皆さん、その議論は本題が終わってからにしてください!」
この一言によってやかましい位の喧騒が静まり、全員の視線が再び私たちへと向く。それを確認した私も魔導書を読むのを止めた。
「申し訳ないです、フランドールさん。それでは早速質問を……」
こうして、本来の目的である私への質問が始まった。大半はミロミスのギルドマスターに話した事の聞き返しだったので、改めて同じ事を話した。ただ、まさか『悪質冒険者を殺した時にどんな気分だったか』などと聞かれる事は想定していなかったので、少し考え込み……
「う~ん……あの時は完全に狂気に支配されないように耐えてたからなぁ~。あ、でもその時『ミアを傷つけたオマエらなんか皆壊れてしまえ』とは思ってたかな。で、実際に5人壊しちゃった訳だけど」
「なるほど。随分仲間思いなんですね、フランドールさん。ある意味安心しました」
「あ、そう? なら良かったけど」
「フランちゃん……ありがとう」
「気にしないで。ミアは私の仲間だしそれに、種族は違えど家族でもあるんだから!」
空いているスペースに居る人間たちから感じる視線は相変わらずだけど、議場のギルドマスターの方からは概ね好感触を得ることは出来ているようで、少し表情が柔らかくなったのが分かった。
その後はヴァーミラやミアにも質問が始まり、2人がそれに正直に答える。最後に議長役のギルドマスターが私の目の前にある
「ふむ……鏡もそう言っている事だし、フランは嘘をついていないと言うことだろう」
「そうだね~。でも、5人殺しはやりすぎなんじゃない?」
「そうかも知れぬ。じゃが、だからと言ってすぐに冒険者資格剥奪と結論づけるのは早いぞ」
真映鏡によって私の言った事が真実であると認められた後、私が冒険者を続けられるか否か、どれだけのペナルティを与えるか与えないかの話し合いが始まった。すると、状況が状況だから仕方ないので厳重注意辺りで済ませようとする派、資格剥奪はする必要は無いが何かしらのそこそこ重いペナルティを与えようとする派の真っ二つに割れた。
取り敢えず話が終わるまで暇だから、魔導書を読んで待つ事にした。そうして30分後……
「フランドールさん、今回は状況が状況だったので冒険者資格剥奪は無しとなりますが、流石に5人も殺るのはやり過ぎだとの意見もありますので……『1ヶ月後にある商団護衛依頼へのパーティー全員での強制参加+報酬の3分の1減額』のペナルティを与える事になりました」
「ふ~ん。想像よりも軽かったね」
「まあ、フランドールさん自身の今までの功績や状況を加味すればそれくらいにはなるでしょうし、パーティーとしても良い評判をちらほら耳にしたものですから」
そうして議長役のギルドマスターから私たちへと下された罰は、1ヶ月後の商団護衛依頼に強制参加するのと、それによって得た報酬の3分の1を減額されると言うものだった。色々な理由があるとは言え、やらかした事に比べれば易しいものであった。
「これで終わりなの?」
「あ、はい。1ヶ月後にまたここに来て下さい。それまでは自由です」
どうやら話を聞くのはこれで終わりらしいので、3人でこの会議場を後にしようとした時、再び呼び止められる。
「あ、すみません。その封魔の腕輪を外しますので……」
「大丈夫だよ。自分でやるから」
「「「え? 自分で――」」」
どうやら、中に入る時に付けられたこの腕輪を外してくれるらしい。まあ、それは当たり前か。
ただ、そこで私はギルドの人たちに反抗する意思はない事を示そうと何故か突然思いつき、自分とヴァーミラとミアの腕輪に対して『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』を使用する事に決めた。
「『皆壊れちゃえ!』」
そうして拳に腕輪の『目』を移動させた後に握りしめ、跡形もなく粉微塵に砕き散らせた。
「「「……」」」
「ね? 自分で出来るって言ったでしょ?」
「あはは……」
「なるほど。道理でこの子がこれだけの人数に囲まれても、封魔の腕輪をつけられても全く焦らなかったのは、こんな厄介な能力を隠し持っていたからだったと……」
「私から1つ質問なんだけどさ~。その能力、人間にも使えるの?」
「うん。使おうと思えばね」
「なるほど……これで分かった。君がここの人たちに反抗する意思が最初から全くなかった事がね~。あ、引き止めちゃってごめんね」
こうしたやり取りの後、会議場を出てギルド本部を後にした。
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