フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン一行、皇都で目立つ

「やっと終わったぁ~。さて、宿探そうかな」

「お疲れ、姉様。資格剥奪されなくて良かった」

「うん。でも、剥奪されたらされたで冒険自体は止めるつもりはなかったけどね」

 

 ギルド本部での話が終わってそこを後にした私たちは、シェイニーグに滞在する為に泊まる宿を探しながら皇都内を見て回っていた。

 

 カーテンド王国の王都も夜中は結構明るく人も多かったけど、ここは恐らくそれ以上の明るさを誇り、人も多い。路地裏とかに入れば暗いから人間が1人で歩くには危険かもしれないが、それ以外の場所では沢山の人の目がある上に警備兵士さんが巡回しているから、何かあればすぐに警戒態勢が敷かれてやらかした人の逃げ場はなくなるだろう……なんて思ってたら早速盗みを働いて連れてかれる男の人を見た。

 

「フフッ……まさかここでも『盗んだ? 違う、死ぬまで借りてくだけだ』なんて魔理沙みたいに堂々と泥棒する人を見るなんてね。しかも速攻で店主に捕まってるし、弱いなぁ」

「姉様、その魔理沙って人故郷の知り合い?」

「うん。私が初めて見た人間で、友達なんだ。さっき連れてかれた男の人みたいに館の魔導書とかを堂々と盗んで逃げてくのを何度か見ててさ。しかも、弾幕ごっこ凄く強いんだよね。私も昔負けたし」

「何その人間……改めて思うけど、幻想郷ってどんな魔境なの……?」

「確かに。わたしも逆にどんな所か気になってきたよ」

 

 連れてかれた男の人に対して私は少し笑いながら2人と会話しつつ町を歩き、それらしき建物を見かければ泊まれるかどうか聞くのを繰り返す。しかし、どこも明日のイベントの為に来ている宿泊客で一杯らしく、全て断られてしまった。私たちが皇都に来るタイミングが悪すぎたようだ。

 

「まさか、どこにも泊まれないなんて思いもしなかったよ。それにしても、皆が口を揃えて言う皇国トップクラスのイケメン魔導剣士『クドセーム』って誰? 全く知らないんだけど」

「私たちの前に居た冒険者の人も知らなかったみたいだよ、フランちゃん」

「まあ、そんな事は取り敢えず置いといて宿探そうよ姉様、ミア」

 

 ひとまずどう言う人なのか全く知らない魔導剣士の事は置いといて、宿探しを再開した。そして、1時間位歩いた時見つけて入った宿が偶然空いていた為、そこに泊まることにした。多少古さと狭さが目立つけど、中は綺麗でスタッフさんの感じもいい感じで、案内された部屋も3人で泊まる事は出来るくらいにはスペースはあった。

 

「そう言えば、何気に1つのベッドに私とヴァーミラにミアの3人で寝るのって初めてじゃない?」

「確かに。あ、でもそうなると羽が邪魔だね姉様」

「うん。まあ、それは引っ込めて寝れば良いだけの話だし」

 

 そんな事を話ながらベッドに3人で横になり、そのまま眠りについた。

 

 

 そして次の日の朝、いつも通り起きた私とミアは未だに夢の中に居るヴァーミラを上手く起こし、朝食を取るために宿を出た。昨日とは比べ物にならない程人が多く、かなりの盛り上がりを見せていた。

 

 なので、歩きで行こうとすると羽と日傘が邪魔になる事は確実だ。羽の方は収めれば大丈夫なんだけど、今日の太陽が照りつける良い天気の中、吸血鬼の私とヴァーミラが行動するには日傘は必須のアイテムだ。これを使わないと言う選択肢はない。

 

「凄いねこの人の数……邪魔になるから日傘差せなそうだし、どうしようかなぁ」

「空を飛んでいけば良いと思うよフランちゃん。何人か鳥系の獣人さんとか、箒に乗った魔導師の人とか居たしそれに、わたしは抱えて貰えば大丈夫だしさ」

 

 さてどうしようかと考えていると、ミアが自分を抱えて飛べば良いんじゃないかと言ってきた。確かにそれなら人混みを気にせず差せるけど、右手に日傘を持って左腕でミアを抱えると言う不安定な体勢になる。何かがあり、日傘はともかくとしてミアを落とすと言う、あってはならない出来事を起こしてしまう危険が出てくるだろう。

 

「う~ん。確かにそれなら日傘を差せるけど、もし落としちゃったら危険だよ?」

「やっぱり、それだと厳しい?」

「万が一を考えると、厳しいかな」

 

 ミアと私で話し合いをしていると、ヴァーミラが話に加わってきてこう言ってきた。

 

「フラン姉様。じゃあ、私が何とかするから一緒にあそこの広場に来て!」

「良いけど、何をするの?」

「まあ見ててよ」

 

 そう言うと、ヴァーミラは水色にほんのり輝く魔方陣を作った後に手をかざし、言葉を紡ぐ。

 

『水よ、大きな籠となれ』

 

 彼女がそう言うと、魔方陣上空に小さな水球が多数出現した。それらは空中を水色の尾を引きながら舞い、少しずつ人が入る位の大きさの籠を形作り始めて1分、それは完成した。

 

 気づけば周りには種族を問わず、そこそこ沢山の人が集まっていた。水で籠を作ったあれを何かのイベントとでも思ったのだろう、『こんなイベントあったっけ?』『もっとやってくれ』『他には何かあるか?』と言った声がちらほら聞こえてきた。

 

 その声はヴァーミラにも良く聞こえていたようで、作った水の籠を持って下に降りてきて皆にイベントじゃない事を伝える。

 

「ごめん。これ、イベントじゃない」

「そうなのか、なら仕方ねーな。と言うか、嬢ちゃん吸血鬼だろ? 何で水をあんなにも自由に操れるんだ?」

「生まれた時からこうだから、理由を聞かれても困る……」

「成る程な。しかし……ん? つーか良く見たら"紅魔の少女"に"蒼銀の天使"の2人居るじゃねーかよ!」

「「「え? お前今更気づいたん?」」」

「うるせぇ! さっきのあれに見とれてたんだよ!」

 

 すると、このやり取りが気になったのか更にヴァーミラの元に人が集まりだした。その過程で私とミアの方にも何人かの冒険者が来始め、ちょっとしたイベントと化した。

 

「なあ、頼むよ。またあれみたいなのやってくれないか?」

「吸血鬼のお姉ちゃん、やって! ダメ?」

「正直ウチも見たい……」

「……分かったから、ちょっと離れて待ってて」

 

 私とミアが冒険者たちの方に対応しつつヴァーミラの方を見ていると、どうやら大衆の頼み込みに根負けしたらしい。再び水色の魔方陣を今度は地面に作り、そこに手を翳して一言紡ぐ。

 

『水よ、小さき鳥となれ』

 

 そう言葉が発された瞬間、魔方陣上空に無数のかなり小さな水球が現れ、集まり始めた。1分経って最終的に6羽の水色に輝く小鳥が完成すると、周りの人が感心したようにそれを見つめる。

 

「吸血鬼のお姉ちゃん! その鳥さんって触れたりする?」

「うん、触れるよ」

「じゃあお願い!」

 

 一時の沈黙の後、1人の子供がヴァーミラに水の小鳥を触りたいとお願いをしたので、彼女はそれを了承して子供の肩と頭に6羽を止まらせた。そこで私とミア、観客の人たちは言葉を失った。何故ならその小鳥が子供の一挙一動に反応し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

「……凄すぎない、あれ」

「フランちゃん、あの水の小鳥本当に生きてるみたいだよ!」

 

 すると、こんな超絶技巧を見せられた観客の1人が言った言葉から、言い争いが始まってしまう。

 

「なあ。今から魔導剣士のイベント変更を主催者に申し上げないか? こっち見てた方がよっぽど――」

「はあぁ!? 確かにあれは凄いわ! でもねぇ、あの方とは比べ物にならないよ!」

「そうだ! クドセームの魔法と剣術に比べりゃあ雑魚みたいなもんだろ」

「あんなキザな男のどこが良いのよ! 剣術はともかく、魔法だったら絶対に……」

 

 最初はただ朝食を取ろうとしただけなのに、ヴァーミラに水の籠を作って貰った時からあれよあれよと人が集まり、いつしか本当にイベントと化してしまった。この事実に私は彼女に対して申し訳なく感じ、これが終わったら自由に行きたい場所に付き合おうと思っていると、突然この喧騒の中でも響く大きな楽器の音が聞こえ、水の小鳥たちと魔方陣が消え去ってしまった。

 

 




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