フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン、魔導剣士のイベントに参加する

「ちっ! どうやらクドセームの野郎のイベントが始まるみてぇだな。しゃあねぇ、退くか」

「小鳥さんがぁ……」

「クドセーム様ぁーー!!」

 

 ここに居る人たちの反応を見るに、今聞こえた楽器の音はクドセームと言う魔導剣士のイベントが始まるのを知らせる物らしい。確かに、遠くにそれらしき人物がぼんやりと見えている。

 

「君、水の小鳥さんならまた後で作ってあげるから。イベント終わるまで我慢して待ってて。あと、服が濡らしちゃってごめん……『水よ、(くう)に散れ』」

「わぁ……凄い! 服が一瞬で乾いた!」

 

 水の小鳥が突然消滅してただの水になってしまい、露骨に落ち込む子供にヴァーミラは、イベントが終わった後にまた作る事を約束し、濡らした服を能力で乾かしていた。それを聞いた子供は一瞬で笑顔になり、イベントが終わるまで我慢して水の小鳥との触れ合いを楽しみに待ってると、そう宣言していた。

 

「早く終わらないかなぁ~。どうでもいいイベント」

 

 しかし、あまりにも水の小鳥との触れ合いにハマったのか、クドセームを見る為に集まってきた人の前でこのイベントをどうでも良いと、場の空気を読まず無邪気に言ってしまう。当然、その場に居た半分弱の人は子供に不快感を露にする。それだけでなく、ヴァーミラに対しても少なからず睨むなどして敵意を向ける人まで出てきてしまっていた。

 

 それを見たヴァーミラは能力を使用し、1羽だけ水の小鳥を作って子供に止まらせ、触れ合わせる事で何とかこの場を収める事に成功した。

 

「お姉ちゃん、ありがとう!」

「ううん、気にしないで。それよりも、イベント始まるみたいだから大人しくしててね」

「はーい!!」

 

 そうして、遂にイベントが始まった。少しずつ魔導剣士らしき男の人が近づいてくるにつれ、観客の半分強が耳障りな声をあげながら盛り上がる。ただ、対照的に僅かながらではあるものの、冷ややかにそれを見つめる人や『この野郎、癪に障るから帰れ』と言った発言をする人も居た。今回のイベントの主役は好き嫌いが別れる人物なのだろうか。

 

「え~っと、今日は僕なんかの為に集まってくれてありがとう!」

「「「待ってたよぉーー!!」」」

「ふふっ。いつも通りだね君達は。所で聞きたい事があるんだけど、さっきまで僕よりも場を随分盛り上げていた少女が居ると聞いたんだけど、それは誰なんだい?」

「クドセーム様、それはコイツらです!」

 

 彼がそう言うと、そばにいたクドセームのファンらしき男の人たちが、ヴァーミラと何故か私とミアの手を掴んで持ち上げた。いや、私とミアは別に何も盛り上げてないんだけどと、抗議しても聞き入れて貰えなかった。

 

「ほう……吸血鬼なのか。僕に劣るとは言え、なかなかの美しさではないか。同種族の中ではトップクラスだろうな。それに、人間の方はかなり凄い。釣り合いそうだな」

「っ!」

 

 今のコイツの発言を聞き、筆舌に尽くしがたい何かを私は感じた。それがどう言った物なのかは分からないけど、とにかくアイツがミアに対して良からぬ感情を抱いているのは確かだと思った。

 

「ちょっとあなた! クドセーム様に()()()()()()として認められたんだから、さっさと行きなさい!」

「良いよねぇ、あんたみたいなガキが認められ――」

「え? 何言ってるんですか? ()()()()()()()なんてわたし、嫌ですけど」

 

 "花嫁"と言うのはよく分からないけど、ミアがあんなのとまで言って嫌がってると言う事は……まあ、そう言う事なんだなと思った。

 

 そんなミアの発言を聞いた観客は一瞬静まり返った後、声を荒げる。

 

「……はあ!? あの方と一生を――」

「だから、嫌です。重要な事なんでもう一度言いますけど、わたしにはフランちゃんとヴァーミラちゃんと言う仲間であり、家族でもある存在が居るんです。それに……」

 

 そう言うと、ミアは息を大きく吸い込み……

 

「第一、初対面でいきなり花嫁になってとかあり得ないし、そうでなくても手順があるでしょう! フランちゃんとヴァーミラちゃんが居るから怖くないけど、1人だったらどれだけ怖いか……考えて下さい!」

 そう叫んだ。あのミアがこれ程までにクドセームを拒否するとは、余程アイツの"花嫁"発言が怖かったと言う事だろう。

 

 そして、ミアに恐怖を抱かせたアイツは私たちにとっても"敵"。いくら人気の魔導剣士とは言え、敵認定したからには奴の一挙一動を警戒しなければ。自衛手段を持っている私やヴァーミラならともかく、攻撃魔法や武術等の自衛手段を持っていないミアの方に何かされたら堪らないからだ。

 

「……驚いたなぁ。まさか、僕の特性をものともせず誘いを断る女性が居るとはね。まあ、それなら仕方ないや」

 

 理由はよく分からないけど、ミアが大声を出してまで拒絶したのが効いたのか、割りとあっさり引き下がってくれたクドセーム。これでひとまずミアの安全は確保された、そう安心していると……

 

「じゃあ、そこの金髪の子。ちょっとこっちへ来て」

 

 また誰かをターゲットにし始めたようで、今度は金髪の子を呼びつけている。ぱっと見る限りでもかなり沢山の金髪の女の子や女性が居るけど、一体誰に対して"花嫁"発言をするつもりなんだろうか。事と次第によってはその人を守る為に動こうと思い、準備をしていると……

 

「あ~。ちょっと分かりにくかったかな。綺麗な魔法石の羽を持つ、吸血鬼の子だ――」

「誰かと思ったら私なの!?」

 

 まさか、私を指名して来るとは思っていなかったので思わず大声を出してしまい、注目が集まる。しかし、これは幸運だと思った。何故なら、私であれば種族特有の状態異常に対する耐性が高く、何かしらの魔法等で惑わされる確率が低い上に、攻撃されても即座に抵抗が可能であるからだ。

 

 とは言えわざわざ私を指名してきたのだから、何かしらの対策があるのは確実だと判断出来るので、油断して警戒を怠らないように気をつけて広場の中心に行こう。

 

「あ~はいはい。指名されたから来たけど、何か用? "花嫁"とか言う訳の分からない奴ならお断りだけど。後、ミアにも同様ね」

「今すぐ僕と、魔法や剣術の強さと美しさを競おうではないか。それで君が勝てば、僕はもう金輪際ミアとか言う子には近づかないでおこう。だが、僕が勝てば"花嫁"に貰う。これでどうだ? 君があの子の親のようなものなのだろう?」

「いやちょっと、何でそう言う訳の分からない考えに至るのか貴方の思考が理解不能なんだけど。と言うか、私の話を聞いてる? ねぇ?」

 

 一体何を言われるのかと思ったら、私と魔法や剣術の強さと美しさを競ってアイツが勝ったらミアを花嫁にくれと言う、身勝手な提案だった。しかも、こちらが勝った時の報酬がない。賭け事としても成立すらしていない、身勝手な物だった。

 

「で、どうする?」

「良いよ、やってやろうじゃない! 突然変な事言ってミアを苦しめたオマエを完膚なきまで――」

 

 そう言って奴の提案に乗り、速攻でスペルカードで勝負を決めてやろうとした時、この場に私のよく見知った人物が乱入してきた。

 

 




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