フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン、採取依頼の護衛をする

「今日3人で冒険者登録したの? と言う事はこの依頼が初めてってことだよね。正直言うとさ、無茶じゃないかな。もう少し慣れてからの方が良かったと思うよ」

「な? だから言ったろう、この依頼は無茶だって。あの吸血鬼のフランが率いる『紅珀の月』が好意で護衛として同行してくれる話になったから良かったものの……」

 

 あの後、3人と私たちは軽く自己紹介をしながら、まずはここから一番近い山にある天雫石(あまのしずくいし)の採掘に向かう事にした。洞窟の天井から染み出てくる薄い水色の液体が時間と共に固まったものらしく、採取難易度は飛べない彼らにとってかなり高い。

 

 私が飛んで採掘しても良いけど、それをやると契約違反になってしまい、依頼失敗となってしまう上に3人から怒られてしまうだろう。なので、採掘・採取に関しては私たちは見ているだけとなる。

 

 そんな事を考えているとヴァーミラが"3人の内の1人、弓使いのニーア"について話しかけてきた。

 

「姉様、あのニーアって男の人さ、弓の扱いが上手いよね。天井の天雫石をほぼ砕かずに上手く当てて採取してるし」

「うん。あれを普通の人がやろうとすると石を完全に砕くか、そもそも命中しないのが関の山だろうね」

 

 弓の威力自体は普通の人が放った感じではあったけど、技術力はかなり高い。順当に色々な経験を積んでいけば、きっと相当な名手になるだろう。

 

 そんな事を考えながら見ていると、どうやら規定の数を得る事が出来たらしい。なのでもう用のないこの洞窟から足早に去っていき、次の魔力草(まりょくそう)1束を採る為の平原へと足を進める。

 

「ねえ、ニーアって弓の扱いが凄い上手いけど、それってやっぱりお師匠さんとかから教わったの?」

「あ、はい。冒険者になりたいって言ったら、その日から何故か弓の技術だけを半年位仕込まれました。なんですけど、魔法とかは自分で何とかしろって言われてるんですよね……」

「なるほど」

 

 そうして平原へと到着した後は、またさっきと同じようにニーアたち3人が採取をし、私たちが彼らの対処出来ない魔物等が出てこないか見張り、仮に出て来たらそれを討伐すると言う流れになった。

 

 当然だけど、さっきの洞窟よりも見晴らしがいいからこっちも気づきやすいけど、魔物等の敵からも気づかれやすい。平原で見晴らしが良いからと言って油断は禁物である。

 

 なんて、そんな事を思いながらニーア一行に付いていってた時、遠くに何かがこちらに向けてかなりの速度で走ってきているのが見えた。

 

「あれは……オーガだね」

「え!? 大丈夫なんですか? 確かCランクの魔物ですけれど」

「大丈夫だからまあ、見ててよ。ヴァーミラ、『神滅 ミストルテイン』見せてあげて」

「分かった」

 

 その何かの正体はオーガ。Cランクの魔物の中ではトップクラスの凶悪さを誇り、魔法は使わないものの高い身体能力と防御力を持つ厄介な奴だ。私たち2人であれば調子に乗って遊んでいてもダメージは負いこそすれ、瀕死になるまで追い込まれたりはしないだろう。

 

 しかし、生命神の加護を持ち、回復のスペシャリストとは言え戦闘能力を持たないミアや、新人冒険者3人はそうはいかない。遠くに居る内に何とか消さないと、接近されてしまっては隙を突かれる等して瀕死あるいは死亡と言う最悪な出来事が起こる確率が、僅かではあるとは言え存在するからだ。

 

 本来なら私かヴァーミラのどちらかがそこまで飛んで行って殲滅するのだけど、離れている隙に万が一1人では対処出来ない何かが起こって、ミアやニーアたち3人の身に危機が降りかかるような事があってはいけない。なので、超遠距離にも居る敵に届くヴァーミラのスペルカードを使って貰うように頼んだ。

 

「さて、危機は排除しないと……『神滅 ミストルテイン』!」

 

 そうして蒼く輝く弓から放たれた、1本の紅い稲妻を纏う矢は大きな音を立てながらオーガの群れに高速で飛翔、射線上に居た全員は灰すら残らずに消滅した。

 

 左右に逸れて残っているオーガについては、ある程度こちらに近づいて来てから私が『禁弾 スターボウブレイク』、ヴァーミラが『天氷 降りし氷星』で完全に排除する事に成功した。

 

「えぇ……」

「あの、護衛して貰ってる立場で言うのもなんですけどこれ、最初のヤバイ攻撃って必要ありました? 次の光弾と氷塊の攻撃で全部済んだような……」

「「あ、確かに」」

 

 ニーアにそう言われて、確かにスターボウブレイクと降りし氷星だけで済んだかもしれないと思った。と言うか、極論私とヴァーミラの能力を使えば地面を抉らず、静かに解決したかもしれない。まあ、やった後に議論した所で後の祭りなので、もう考えることは止めよう。

 

 その後は何事もなく、ニーアたちが3時間程かけて魔力草(まりょくそう)を1束集めるまで護衛をしながら、周りの景色や雰囲気を楽しみつつ魔導書を読む。そろそろ一冊これだけを読んでいたら流石に飽きてきたし、また別の何か面白そうな魔導書とか物語が書かれた本でも探そうかな。

 

 そんな事を考えながら、最後は光癒草(こうゆそう)の群生地がある小さな林へと向かう。道中ゴブリンが僅かに出現するも、ニーアの卓越した弓の技術力によって頭を撃ち抜かれて討伐された。

 

「いやぁ、やはり私達のリーダーだな。1発で仕留めるとは」

「ええ。惚れ惚れする技術力です」

「あはは……マールカルの剣術にエリーの魔法に比べればなんて事ないさ」

 

 その光景を見ていたニーアの仲間2人は、その卓越した弓の技術力をお世辞でもなんでもなく、純粋な尊敬から発言していた。私たちも同じような気持ちで、割りとあっさりオーガを雑魚扱い出来るレベルまで成長出来そうな気がする。

 

 そうして林に到着した後はまた同じように、採取が終わるまで魔物が出てこないか警戒しながら待つ。今度は2時間もしない内に規定の数の光癒草(こうゆそう)が集まり、これで全ての素材を集める事が出来た。

 

「あの、今回はありがとうございました! お陰様でたった1日と言う短い期間で集める事が出来ました」

「私からもお礼をさせてくれ。ありがとう」

「ありがとうございます。安全に採取が出来ました」

「気にしなくて良いよ。それよりも、早く皇都に戻ろう」

 

 こうして、無事にニーアたちが採取を終えるまで、私たちは護衛をこなし切る事が出来た。




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