フランの異世界召喚記 作:松雨
護衛の依頼と、採取の依頼を互いに終わらせた私たちとニーアたちはギルドへと戻ってそれぞれ報酬を貰って別れた後、のんびり町中を歩いていた。
「さて、これからどうしようかな? ギルドの依頼ばっかり受けてても飽きちゃうし」
「姉様じゃあさ、ここは定番の皇都観光しない?」
「う~ん。まあそうなるよね……よし、それにしよう! ミアはそれでも良い?」
「わたしはそれでも良いよ!」
皇都シェイニーグに来てから、レイゼ探し以外でまだやっていない事で思い付くのは皇都内の観光位だ。一口に観光と言っても美味しい物を食べたり、服を買ったり、何かお祭りがあれば参加したり等、1ヶ月後に控える商団護衛依頼まで楽しみはまだまだ沢山ある。
だから、次やるなら皇都観光かな。心の中でそんな事を考えていると、考えている事と同じ提案をヴァーミラがしてきた。それを丁度良いと思ったので私はその提案を了承し、ミアにも聞いてみたら彼女も提案をを了承してくれた。なので、次の予定は服飾店を中心にレイゼを探しつつシェイニーグの観光をする事に決めて
早速、目の前にある大きなお店に入る。
「いらっしゃい……あの時の"水操の吸血鬼"様と、"紅魔の少女"様に"蒼銀の天使"様方ではないですか」
「"水操の吸血鬼"ってもしかして、ヴァーミラの事? いつの間にそんな二つ名が……」
「勝手ながら、私が考えさせて頂きました。それにしても昨日の水の小鳥達を、まるで本当に生きているかの様に飛行させたりする技術には驚きましたよ。あんな芸当、魔法を非常に得意とするハイエルフですらそう簡単に出来る物ではないでしょうし」
入るやいなや私たちを見た店員さんが、昨日考えたと言う二つ名でヴァーミラをそう呼んだ。確かに、『見える範囲に存在する水とその状態変化を自由自在に操る能力』を持つ彼女にはピッタリな物だと私は思った。
ヴァーミラ本人もそう呼ばれる事に不快感を感じてはいない為、彼女の二つ名は自動的にそう決まった。これで私たち3人全員、誰かからつけられた二つ名を得た。
「あ、そう言えばここってどんなお店? 目立ってたから入ったんだけど、看板見ずに来たから分からないの」
「ここですか? 貴族や冒険者、各種祭りの主催者が一時的に仲間として雇ったり、警備兵士として雇われる傭兵を斡旋する場所です。あと、奴隷も扱っています」
「奴隷……ね」
どうやらここは、各所の警備や冒険者の護衛等をする為の傭兵に普段の生活をメインにしつつ、護衛の仕事もこなす為の奴隷を扱っている店らしい。
"奴隷を扱っている"と言うこの一言にヴァーミラは思う所があるらしく、若干の冷気を出しつつ警戒し始める。私も奴隷と言うものがどんな扱いをされるのか、少しではあるが知っている。なので皇都にある店であるとは言えもしかしたら私たち全員、特にミアの身が危ないと判断した。その為彼女を庇うようにして店から足早に立ち去ろうとすると、店主の男の人が口を開く。
「ああ、成る程……大丈夫です。普通の人を拐ってる訳ではなく、皇国で比較的重い罪を犯した人物に"束縛の刻印"で奴隷にしている感じなので。当然ですが、それ以外の人間や亜人種の人達を拐って奴隷にしているのがバレようものなら、良くて牢獄に種族ごとの平均寿命の半分、大抵は無期限の束縛か死刑になります」
「そうなの? じゃあここは、拐われた人は居ないんだね?」
私がそう問いかけると、店主の男の人は更にこう続ける。
「当然です。私共もこんな警備が厳重な所でやらかして死にたくないですしそれに、昔居た違法鬼畜商人の様に罪なき人々を苦しめる趣味は持ち合わせておりませんのでね。まあ、犯罪者とは言え奴隷を扱っている時点で似たような物かもしれませんが」
私は別に対象が重い犯罪者であるのであれば、それ位なら問題ないと思う。強いて心配事を上げるとするならば、犯罪者を縛り付ける"束縛の刻印"がしっかり効いてくれるのか、人を
そんな事を頭の片隅で考えつつ警戒を解いて店主の男の人と会話をしていた時、この店の中に入ってきた1人の男の子を見た。服装からして今まで見かけた事のある貴族とは違う、何処かの裕福な家の子供だろう。
「おじさん! また来たよー」
「シェール君……またお城から勝手に抜け出して来たんですか。いくらここが国の中で1番安全な皇都とは言え、危険ですよ」
「良いじゃん別に。だってさぁ、将来皇帝になる為の作法の練習やらなんやらばっかりでつまんないんだもん!」
「君が良くても、下手したら私共の首が飛びかねないですし。と言うか、何で私の店へ良く来たがるんですか」
これはまた大物が来たものだと、私は思った。皇帝になる為の作法の練習と言っていたからあの子供は確か皇太子って言う人なんだろうけど、お付きの兵士と言った存在が見当たらない。まあ、城から抜け出して来たのだから当たり前か。
「おじさんは、僕を"普通の子供"として扱ってくれるから! 他の皆は僕を見るとすっごく気を使ってくれるけど、それが何か嫌なの!」
「あはは……」
「でさ、おじさん。そこに居る人達は誰なの? 羽が生えてるお姉ちゃんも居るけど」
「あの人達はですね、"紅珀の月"って言う吸血鬼の2人に回復魔導師1人で構成される冒険者パーティーで、金髪の子がフランドール、黒髪の子がヴァーミラ、銀髪の子がミアって言うんですよ」
「吸血鬼なの……へぇー」
会話の中、店主の男の人が私たちの事を男の子にそう紹介すると、凄く驚いたような顔をした。だけどすぐに、怖じ気づく事なく目を輝かせてこっちに近づいて来た。
どうやら私の羽とそれに付いている魔法石に興味があるらしく、触ったり叩いたりしながら遊び始めた。無理に退かして痛い思いをさせれば面倒な事になりそうだったので、気の済むまでやらせておこうと決めた。
「ねえねえ! 何でお姉ちゃんの羽ってこうなってるの? こんな羽で飛べたりするの? 後はさ……」
「生まれた時からこうだから、理由は分からないの。あ、勿論これでもちゃんと飛べたりするから大丈夫だよ」
凄く飛んで欲しそうな目をしている気がしたので、彼の望み通りに飛んであげる事にした。この店は見た目以上に広い為上下左右にある程度なら飛ぶ事が出来、色々な軌道を取れたりした。
1分位飛んであげると満足したらしく、今度は何か魔法とかで面白い事をやってとリクエストしてきた。生憎、ヴァーミラのように水の小鳥レベルの誰もが満足する技を持っていないから披露する事は出来ない。なので、ここから先はヴァーミラにお願いをする事にした。
「じゃあ、シェール君。私は水で動物を作る事が出来るんだけど、何を出して欲しい?」
「えっとね、猫さん!」
「猫ね……それ!」
ヴァーミラが出したのは水の小鳥ではなく、水の猫だった。流石に鳴き声までは無理みたいだけど、大きさや動きそのものは生きている本物の猫と言って差し支えないものであったし、おまけに姿形もかなり似ている。水の小鳥もそうだけど、私にはどうやってこんなにも似せる事が出来ているのかが全く理解が出来なかった。
「うわぁ……凄い! 猫さんだぁ!」
シェールと呼ばれる男の子もご満悦のようだ。私も思わず一緒に水の猫と触れ合おうとしたが、ヴァーミラの魔力がふんだんに込められた"水"に触れれば、耐性の無い私がどうなるか分かったものではないので止めておいた。
そうして、私よりも僅かに小さな男の子が動物と触れ合って楽しんでいると言うほのぼのとした光景を見ながら店主の人と話していると、不意にシェールが水の猫をそっと地面に置いた。もう満足したのかなと思っていると……
「ミラお姉ちゃんありがとう!」
「え、ちょっとシェール君!?」
突然駆け出して満面の笑みを浮かべ、お礼を言いながらヴァーミラに飛び付いたのだ。よくもまあ、初対面のしかも吸血鬼に対して自分から近づくなんて、危機を感じたりはしないのかな?
そんな事を考えながら目の前の光景を見ていると、この店に兵士さんが数人走って入ってきたのをこの場に居た全員で見た。
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それと急なのですが、明日からしばらく投稿をお休みします。理由は次章でこの小説が終わる予定で、そこまで書き溜めてから一気に投稿をしようと思ったからです。
※定期的に活動報告で進捗状況をお知らせします。