フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン、自身をレミリア達が探しに来ている事を知る

「シェール様! こんな所に……」

「あ、レクノヤ! もしかして、僕を探しに来たの?」

「勿論です。相変わらず突然居なくなってしまわれて、わたくしを含む皆で心配していましたよ。まあ皇帝陛下、貴方のお父様は怒っていらっしゃいましたけども」

「だろうね……」

 

 シェールが親しげに話している様子を見るに、あのレクノヤと呼ばれていたメイドさんは彼の専属なのだろう。

 

 彼女曰く、どうやら居なくなったシェールを探すように言われ、シェイニーグの街をウロウロしながら探し回っていたらしい。ようやく本人の無事を確認出来た事で安心したのか、スカートが汚れるのも気にせず座り込んだ。

 

「とにかく、これで安心ですけど……そちらの彼女達は一体?」

「僕が頼んだら遊んでくれた、吸血鬼のお姉ちゃん達だよ!」

 

 シェールが私たちの事をそう紹介すると、一瞬敵意のこもった視線をこちらに向けてきたが、すぐに元の穏やかな雰囲気のメイドさんに戻った。

 

「吸血鬼……ですか。まあ見た感じ、いきなり襲いかかってくるような輩では無いみたいですけど、シェール様。もし仮に襲われてたら大変でしたよ? もう少し危機感と言うものを持って下さい。後、突然居なくなられるとわたくし含む皆様が心配なされますから、止めて頂くかせめて一言残してもらえると嬉しいです」

「ごめんなさい……」

「まあ、でもあの作法の教え方では退屈な上に厳しいですから。逃げ出したくなるのも理解は出来ますけどね」

 

 怒鳴る訳でも、ネチネチ文句を詠唱のように言い続ける訳でもなく、諭すように優しく注意をするメイドのレクノヤ。その様はまるで、母親と小さな息子のやり取りそのものであった。

 そんな彼女の注意に耳を傾け、素直に謝るシェール。ほのぼのとした光景を見ながら頭の片隅で考えていると、私たちの方にレクノヤが近づいてきた。

 

「どうもこんにちは、わたくしはメイドのレクノヤと申します。シェール様の我が儘にお付き合い頂いた方に先ほどはあの様な視線を送ってしまい、申し訳ないです」

「全然気にはしてないから大丈夫。それと後、私の名前はフランドール・スカーレットって言うの! こっちの黒髪の子は妹のヴァーミラ・スカーレット、銀髪の子はミアって言うんだ!」

「そうですか、よろしくお願い致します。では、行きますよ。大丈夫、一緒に謝ってあげますから」

 

 そう言いながら、メイドのレクノヤとシェールは去って行ったのを私たちは見届けた。思わぬ人物の登場により今日の予定にポッカリ穴が空いたのでさてどうしようかと考えた。

 

 結果、こう言う時は取り敢えず暇潰しにでもギルドに行こうかと思った為、目的地へと歩みを進めていく。そうして10分経った頃にギルドへと着いたので、建物に足を踏み入れて辺りを見回していると、不意に他の冒険者達の噂話が聞こえてきた。普通ならそれは別に気にならないけど、今日は何故だか凄く気になったので聞き耳を立てる。

 

「お前、1ヵ月後の商団護衛依頼に参加するんだって? 金に目が眩んだのか知らんが、実力が伴ってねぇから止めておけ。何でもマジストの奴らが襲撃仕掛けて来るらしいからな」

「それはギルドの人に聞いたから知ってる。だけど、自分が参加を決めた理由がちゃんとあるんだよ」

「ほう。聞かせてくれ」

 

 どうやら、私たちも参加する事になっている商団護衛依頼にマジストの襲撃があると言う噂があるらしい。そう言えば、エリュカルでマジストに襲撃されたっけ。返り討ちにしたけど、その時はただのヤバい奴らだって思ってたなぁ。

 

 そんな事を思っていると、話している2人の内の1人が理由とやらを話し出した。

 

「ちょっと前に届いた最新の知らせだから君も知らないだろうけど、聞いて驚くと思う」

「勿体ぶらずに早く言えよ」

「はいはい。じゃあ理由を言うね……商団護衛依頼の襲撃を担当する支部が、5()()()()()()()()()()()()()()()()()からだよ。しかも1人は吸血鬼で、今冒険者界隈で結構有名なフランドールの姉だと――」

「え!? お姉様!?」

 

 あまりにも予想外すぎる一言に思わず私は叫ぶ。何故ならそれを聞いて思い付くのは、大切な私の姉であるレミリア・スカーレットただ1人だけだからだ。と言う事はもしかしたら、お姉様と八雲紫に加えて咲夜・パチュリー・美鈴辺りが来ているかもしれない。

 

「私を探しに来てくれたんだ……!」

 

 涙が出る位凄く嬉しいし、何も予定さえなければ今すぐにでも探しに行きたいけど、厄介な事に商団護衛依頼とか言う枷がある。それを居る場所が分からない状態で放り出すのはリスクがありすぎるし、ここは何とか堪えて護衛依頼が終わるまで耐えるしかない。

 

「こんな時に依頼さえ、依頼さえなければ! お姉様たちを探せたのに……!」

「うおっ! 本人が居たのか……様子を見るに、きっとしばらく会えていないんだろうなぁ」

「そうなんだろうね~」

 

 叫んでしまった事により、周囲の冒険者を含む人たちが私の事について考える話に一部なったりしたのに気づいたが、そんな事はどうでも良い。私にとっては冒険者に叫んだ恥を晒したと言う事実よりも、レミリアお姉様たちが私を探しに来てくれたと言う事実の方が余程重要なのだから。

 

「フランちゃん良かったね! あ、と言う事はもしかしてお別れとか?」

「そんな事はないよ。ヴァーミラだってミアだって、私の大切な仲間であり"家族"だから、幻想郷に帰ったって一緒だよ! あ、でも帰ったら多分ここにはもう戻れないと思うんだよね。だから、もし2人がこっちに居たいと言えばお別れする事になると思うの」

 

 私がそう言うと、2人は見つめあって考え込む。そして少しの沈黙の後、最初にヴァーミラが口を開く。

 

「レイゼさえ見つかったら、私は姉様に何処にでもついてくよ」

「わたしは、お師匠様に1度お別れの挨拶が出来たら嬉しいかな……」

 

 2人の言っている事を聞く限り、その(うれ)いが無くなってなおかつ八雲紫に許可を貰うことが出来さえすれば、一緒に幻想郷へと"帰れる"訳だ。

 

「ありがとう……!」

 

 まだ3人で幻想郷に帰れるのが確定した訳でもないのに、凄く嬉しくて仕方がなかった。思わず涙まで出て来てしまい、周囲の注目を更に集める事になるだろう。だけど、嬉し泣きを我慢する事は出来なかった。

 

 こうしてひたすら落ち着くまで泣き続けた後、何故か急に眠気が襲ってきた。耐えようとしたけど、抗う事は出来ずにそのまま眠りについた。

 




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