フランの異世界召喚記   作:松雨

73 / 83
前の話から1ヶ月の時間経過があります。


フラン、依頼の為に皇都を発つ

 ノストライト皇国の皇帝から直々に息子の休日の遊び相手に命じられてから今日で1ヶ月、最後の町歩きをしていた。

 

「吸血鬼のお姉ちゃん達とも今日で最後、何だか寂しいなぁ。猫さんとも鳥さんとも今日のお昼でお別れなんだよね……そう言えば、お姉ちゃん達にお願いしてばっかりでごめんね。僕だけ楽しんじゃって」

「そんな事は無いよ。私たちも結構楽しめたし。ありがとう、シェール」

 

 確かにほぼシェールの行きたい所ばかりではあったけど、何だかんだ言って結構私たちの好みの物や食べ物が多く、食事面では最高と言っても過言ではなかった。皇都には1ヶ月前来たのが初めてな上に予備知識等も仕入れなかった為、見る物全てが新鮮に映る。だから、何処に連れていかれたとしても楽しめたし、他の面でも私たち3人はかなり満足している。

 

 強いて不満点を挙げるとするならば、ここに来た理由がギルド本部への聞き取りの為だと言う事と、滞在期間を自分では決められる状況に無いと言う事位かな。

 

「冒険者って大変なんだね。いくつもの町を行き来したり、長い間依頼で拘束されたり、時には怪我したり……死んじゃったりね。お父さんから聞いたよ、ミラお姉ちゃん」

「まあ、確かに色々大変だね。魔物とか盗賊とか、私の場合は吸血鬼狩りと言った存在と生死を分けた戦いをしたりね。けどシェール君、それ以上に"冒険"は楽しい物だよ。知らない場所に初めて来た時のワクワク感とか、美味しい食べ物を食べた時の幸せな感覚とかね。他にも色々経験した事があるけど……」

 

 そんな事を考えていると、シェールが不意にそんな事を口に出した。私たちが長期の依頼に行くと言うのを聞いて、皇帝から聞いたらしい話を思い出したのだろう。それに対して彼の問いに同意しつつ、冒険の楽しさをヴァーミラは説いていた。

 

 数百年単位でこの世界で生きてきた吸血鬼であるからこそ言える事もあったけど、まあ"国の滅亡"のような特大の出来事に遭遇するのは吸血鬼と同じく数百~数千年単位で生きる長命の種族はともかくとして、人間が経験する事は極めて稀だろう。

 

「そうなんだね! 良いなぁ……僕も皇子じゃなければ色んな所を回れたのに」

「まあ、確かにそうだけどね。でも、皇子で得した事とかってあるでしょ?」

「うーん……お姉ちゃん達と会えた事かな」

「ふふっ。嬉しい事言ってくれるね、シェール君」

 

 良い感じの雰囲気で話すヴァーミラに、水の猫や小鳥と戯れつつ笑顔を見せながら会話しているシェールの2人。その様子を私とミアは、少し離れた所から聞いていた

 。

 

 それが終わると、最後にシェールお気に入りのお店に入って、一緒に多種多様の料理を食べる事になった。ただ、今日の昼に別れるだけあってここ1ヶ月の間で最も静かな昼食になってしまったけど。

 

 そうして昼食を取り終わった後は3人でギルド本部へと向かい、入り口付近で待っていたレクノヤにシェールを引き渡した。

 

「吸血鬼のフラン様にヴァーミラ様、そしてミア様。色々ありがとうございました。お陰でシェール様に休日を与える事が出来、更に我が儘に付き合って頂けて感謝です。昨日も聞きましたが、依頼が終われば故郷に帰るからもう会えないと言うのが非常に残念に思います」

「うん。私の出身地がかなり特殊な場所だから、仕方無いんだよね」

「僕も会えないのは寂しいけど、仕方ないや。せめて僕の事を頭の片隅にでも気に留めておいてくれれば良いよ」

「シェール君……」

 

 実際いつ帰れるのかは分からないけど、紫とレミリアお姉様たちがこの世界に居ると分かった以上、ここに再び来れる確率は低そうだ。なので、依頼が終わればすぐに帰るからもう会えないと、そう言っておいた方が良いだろうとの判断故だ。

 

 こうしてシェールとレクノヤの2人に別れの挨拶をした後、ギルド本部の建物内部へと私たちは入っていった。

 

「お、来たようですね。集合時間に少し遅れていますが、まあいいでしょう。取り敢えずここで待ってて頂けますか? どうやら商団の到着が遅れているようなので」

「はーい!」

 

 良く考えてみたら、お昼時に集合なのにのんびり昼食なんか取ってたら時間に遅れるに決まっているけど、今更考えても仕方ない。それに、商団の到着が遅れているらしいから実質的にはギリギリセーフ……かな?

 

 そんな事を考えつつ、のんびり2人と話をしたり魔導書を読んだりしながら暇潰しをしていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。一体誰だと思って見てみると、そこに居たのは魔理沙の帽子と同じ形と似た色合いの帽子を被っている魔導師だった。私の読んでいる魔導書に興味があるようで、さっきからずっとそれを見つめ続けていた。

 

「おお、まさかこんな所でこの魔導書を持つ者をお目にかかる事が出来るとは! しかも吸血鬼と来るとは驚きました。まあ確かに、高い魔力を持つかの種族が持つには最適なのでしょうけども!」

「えっと……貴方は誰?」

「これはこれは誠に失礼しました。僕は"魔法の王"と言う冒険団のメンバー"マーカル"と言います」

「あ、そうなの? なんか魔導師ばかりが居そうな冒険団だね」

「はい。実際団長含め、魔導師が殆んどを占めています」

 

 声を掛けてきたのは、"魔法の王"と言う名前の冒険団に所属するマーカルと言う人だった。私の持っている珍しい魔導書にとても興味を惹かれ、思わず見つめ続けていたとの事。

 

「それを持っていると言う事は貴女も魔導師なのでしょう?」

「う~ん。まあ、魔導師って言っても良いのかな? 魔法だけじゃなくて剣を使った格闘戦も結構するし……」

「何と! 魔法のみならず、格闘戦までこなすとは流石ですね。うちもメンバー全員ある程度の近接戦闘が出来るまでになりたいものです」

 

 魔導書を持っていた事から私も魔導師だと思われていたようで、次から次へと魔法についての話が彼の口から飛び出している。具体的には何の属性魔法を使うのか、どの級まで使えるのか等だ。実際、魔導書を見ながらではあるけど最上級魔法を1回使った事があると伝えると、大層驚いていた。

 

「成る程、まさか『焔星落とし』を使えるとは驚きました。パーティーを組んでいなかったらスカウトしていた所です」

「そうなの?」

「ええ、そりゃあもう! 最上級魔法を使えるなんて逸材、なかなか見つかりなんてしませんからね」

 

 そんな感じで会話を交わしていると、ギルド本部の職員が耳が張り裂けそうな大声でこう呼び掛けてきた。

 

「あ、すみません。魔道具の音量調整間違えました……商団護衛依頼に参加される冒険者の皆様方、対象が到着致しましたので外へお願いします」

 

 どうやら、遅れていた護衛対象の商団がやっとここに到着したようだ。それを聞いた私たちは立ち上がり、ギルド本部の外へ向かった。

 

「凄いね、これはまた規模の大きな商団だ……」

「余程重要な物を運ぶみたい。冒険者の数もかなり多いよねフランちゃん」

「うん。まあ、頑張ろうね」

 

 こうして、依頼に参加する冒険者たち全員の準備が整った後、商団が目的地へと向けて動き出した。その際、レクノヤとシェールがこちらに向けて手を振っているのが見えたので、少し空を飛んで向こうから見えやすくしつつ、向こうの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。




ここまで読んで頂き感謝です! お気に入り登録や星評価、感想を下さった方にも感謝です! 励みになります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。