フランの異世界召喚記 作:松雨
「お師匠様、居ますかー! お師匠様ー……」
「ミア、そんなに叫ばなくても聞こえてるわ」
「……あ、ごめんなさい」
ヒリマの家に到着するやいなや、周りに良く響き過ぎる位の声量で何度も何度も"お師匠様"と連呼するミア。その声に反応してやって来たヒリマに少しの間気がつかず、彼女が声をかけてようやく気づく。
「あら、皆揃ってまたミロミスに来たの? 何か用事?」
「うん。実は……」
そうして、ヒリマにもカートラと同様の説明をした後、ミアが会いたいと言った為来た事を伝えた。すると、彼女は嬉しそうな笑顔を見せ、ミアの頭を優しく撫でながら話し始める。
「これまで数多くの弟子を育てて来たけど、ここまでミアの様に慕ってくれた子は居なかったわ。優しく教えようとしても、どうやっても過度に厳しくなってしまう悪い癖を含めて全て受け入れてくれた心が広くて強い貴女は、きっと私なんか超える回復魔導師に近い内になるでしょうね。ありがとう、そしてごめんなさい」
「ううん。確かに厳しかったけど、わたしの為に色々やってくれたのを知ってたから。だから、謝らなくても良いですよお師匠様」
この様子を見る限り、ヒリマとミアはとても良い師弟関係を築けて居たように見える……いや、これは師弟などではなくもはや親子と言っても過言ではない。やはり、この場所に来た事は正解だったと心から私はそう感じた。
そうして2人が良い雰囲気のまま会話を始めてから10分待っていると、ようやく会話が終わったらしくミアがこちらに戻ってきた。表情を見ると、かなり満足している事が見てすぐに分かる位の笑顔だった。
「ミア、もう話は良いの? まだ時間は沢山あるけど」
「うん、今はもう大丈夫。お師匠様はこれから森に薬草を取りに出かけるって言ってたし」
「そうなの? 分かった、じゃあヴァーミラ行くよ」
「分かった、姉様」
最後にヒリマに皆で挨拶してから家を出てからは、エリエスの住む妖精の森へ行ってのんびりくつろいだり、そこに居る妖精たちと弾幕遊びをしたりした。
その中でもやはり、ヴァーミラの能力によって作られた水の生き物たちは好評だった。しかも、小鳥・猫に加えて今回は子犬・蝙蝠・蛇の3種類が追加されている。彼女は一体、全部で何種類の生き物を作る事が出来るのだろうか。
そうして休憩も食事も忘れる程夢中で楽しんでいれば当然、時間などあっという間に過ぎて行き、気づいた時にはもう既に日が暮れ始めていた。
帰りはのんびり森を歩きながら帰ろうと計画していたけど、それでは真夜中になってしまう上に吸血鬼の私とヴァーミラは良いけど、ミアに取っては暗すぎて楽しめる所か身の危険まで感じる事になるだろう。
「さて、仕方ないけど飛んで戻るからミア、私に掴まって」
「分かったよフランちゃん」
と言う事で、まだ日が完全に沈む前に飛んで帰る事に私たちは決め、ミアを抱えて村に戻った。そこで今まで食べていなかった昼食と夕食の分、私とヴァーミラは店に行って出された料理をヒリマやカートラを含む周りにドン引きされながらも大量に食べ、泊まっている民家へと向かった。
お腹いっぱいになった私たちにまるで、魔法か何かを掛けられたかのような猛烈な眠気が襲いかかり、抗う事も出来ずにその場で眠りについた。
そしてミロミス滞在3日目の朝、滞在最後の日となった。お昼過ぎまでの護衛の仕事を終え、次の目的地の"ルコー"へと向かう準備をしていた。すると、ヒリマやカレット、エリエスに妖精たちが見送りに来てくれた。
「もう行っちゃうのかー。しかも、もう会えないかもしれないって悲しいよ……」
「まあ、フランドールの故郷が相当面倒な場所にある上、迎えがこの世界の何処かに来ているとあれば、もう会えなくなると言うのも仕方の無い事だ。誰だって故郷に帰れれば帰りたいだろうさ」
「ミア、フランの故郷に行っても元気で居てね。それ以外に私は求めないから」
昨日の夜、もう会えなくなるかもしれないと言った時は驚かれたが、それほど気にしてくれてたと言うのが嬉しかった。可能であるならば、数ヶ月に1回程度でも会う機会が作れたら良いなと私は思った。
そうして商団がルコーの町に向けて動き出したので、見えなくなるまで私たちも見送りに来た皆に手を振りながらミロミスを出発した。
「これでお師匠様とも最後かぁ~。実感わかないけど」
「ミア、大丈夫? 無理してるなら私についてこなくても良いよ」
「ううん、大丈夫。お師匠様にフランちゃんとヴァーミラちゃんと一緒に上手くやってくって宣言したし、それに2人の事が好きだから」
道中、そんな嬉しい一言をミアから貰った。こんな事を表立って言ってくれたのは、レミリアお姉様や紅魔館の皆以外だとミアが初めてだった。
「嬉しい事言ってくれるじゃない、ミア」
「そう? なら良かった」
「言っておくけど、私も姉様の事好きだからね!」
訂正、ミアが初めてでヴァーミラが2人目だ。
そんな良い感じの雰囲気で会話をしていると、ルコーの町での護衛のくじ抽選が始まっていたのに気づいた。これをやらないと自動的に対象になってしまうから急いで向かい、くじを引いた。結果は3日の滞在期間中はずっと自由に時間が使える事に決まった。
「フランちゃん、くじ運良いよね。わたしが引いたら多分3日間護衛って結果を引きだすと思う」
「本当、自分でもそう思うよ。トラブルに良く巻き込まれてる分、こっちに運が向いてるのかなぁ?」
そんな会話をしつつ、他の冒険者たちとも楽しく話ながら歩き続ける事7時間、日が暮れてきた。どうやら今日はここでキャンプをするとの事なので準備を皆と共に手伝い、終われば夕食を一緒に取る。それからは特にやる事はなかったし、もう夜だったので皆と一緒に眠りにつく事にした。
翌日、日が昇りきらない早朝に起こされた私たちは、寝ていたテントを片付ける。それを終えたらまだ片付け途中の人を手伝ったりして、少しでも早く出発出来るように努力した。
そして全員の片付けが終わった後、忘れ物等が無いか確認してから出発した。早朝だけあって、昇る太陽がすごく綺麗だった。他にも色々な景色を見ながらミアやヴァーミラとの会話を楽しみつつ歩き、太陽が真上に来る頃にルコーの町に到着した。
「ここがルコーの町か~。結構多くの人が居るんだね」
「うん。ここも賑やかで楽しそうだし、くじ引きで3日――」
その時ヴァーミラが不意に立ち止まり、まるで1人だけ時間が止まったかのようになった。良く見てみると、ある一点を見つめている事が分かったので、その視線の先を見てみると……そこには、宝飾品を売っていたレオネが居た。
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