フランの異世界召喚記   作:松雨

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後日談のリクエストが来た為、連載に戻しました。本編自体は完結済みです。


後日談(時系列バラバラ)
友と呼ばれし皇帝


 フラン達『紅珀の月』がこの世界を去って幻想郷に行ってから20年と言う長い時を経たとある日、ノストライト皇国の皇都シェイニーグの城内ではある出来事によって、かなりの大騒ぎとなっていた。

 

「大変だ! 皇帝陛下が城から居なくなられてしまわれた!」

「またですか……後1時間でいつもの会議が始まると言うのに、困った方です」

「シェール様、昔から全然変わっていませんよね。いつの間にか城を抜ける所とか、堅苦しいのを嫌がる所とか。まあ、そのお陰で民衆との距離も近く、まるで友人のような皇帝と慕われている為、反乱等もなく国は安定しているのですが」

「それに、あのメイドのレクノヤを娶るとは……他にも前例がない事を平然とやってのけ、貴族の反対などどこ吹く風の政策を打ち出すあの精神も凄いわ、本当に」

 

 父である前皇帝が病の為皇位を譲渡し、21歳と言う皇国では異例の若さで皇帝になったシェール。その彼が会議も兼ねた貴族パーティーをすると言う時なのに、突然城から姿を消したからだ。彼は昔からそう言う癖があったが、それは皇帝となった後も変わる事はなかった。

 

「とにかく、早急に探し当てなさい! 早くしなければ面目が立ちませんよ」

「「「了解!!」」」

 

 シェールの側近長の指示により、他の側近達は僅かな兵士を率いてシェイニーグの町に拡散し始めた。

 

 

 ――――――――――

 

 

 一方その頃、当の皇帝であるシェールは……

 

「おじさん、また来たぞーー!」

「……昔から疑問なんですが、どうしていつもここに来るのですか?」

「オレが皇帝になった後でも、昔と態度が変わらない所とかかな? だからだと思うんだけどここに来ると、皇帝の重圧から解放されるんだよね」

「ああ、成る程。確かに皇帝の重圧は凄まじそうですからね」

「な? そう思うだろ?」

 

 7歳の頃から脱走時に良く寄っている傭兵や奴隷を斡旋する店に、癒しを求めてやって来ていた。まさかの現役皇帝が護衛もつけずにこの店にやってきて、店主と昔馴染みの様に会話をしているその光景に来ていた冒険者や奴隷、傭兵達は一瞬固まっていた。

 

 しかし、店主を含めた店員や王都の住民達はいつもの光景だからか、特に驚く事もなく普段通りの仕事や生活をしている。

 中には他国の王や皇帝の眼前でやったら速攻で逮捕されるような態度で接する集団も居たが、堅苦しいのが大嫌いで『普通』の生活が大好きなシェールは咎めず、むしろ自分から絡みに行く始末であった。

 

「あ~やっぱり堅苦しい貴族共の相手よりも、こっちでワイワイやってた方が楽しいな!」

「シェールさん、やっぱり貴族はお嫌いで?」

「おう! 大嫌いだ! 良い奴も居るが、大抵は民など知らんと言う奴か権力欲しさに娘をやるだの言って近寄ってくる糞ばっかだしな。オレにはレクノヤと言う最高の妻が居るって言ってんのにあの野郎共、元がメイドだからって調子に乗りやがって……! 即刻牢獄にぶっ込んでやりたい位だ。やらないけどな」

 

 絡まれた住民達はシェールの性格をよく知っている為、『陛下』や『様』と言った呼び方はせず、普段自分達が友人と会話する感じで話を進める。

 

「あんたみたいな皇帝……と言うか国のトップを見た事無いわ。護衛もつけずに町を出歩くなんて、正気じゃないわね!」

「ハハ! そりゃあ違いないな。確かにオレは正気じゃないかもしれん」

「そういや、これだけ出歩いていればあんたから国の秘密を聞き出そうとする輩だって結構出て来ないか?」

「確かに居るぞ。まあ、適当にあしらってるがな。それでもしつこかったり襲ってくる奴はねじ伏せて兵士に適当に渡す。こう言う時は身分に感謝だ」

 

 自身の妻や信頼する側近以外では、こう言った悩み等の話は名前も顔も知らない住民にしかしない。当然ではあるが、機密情報等の重要な事は話さない。

 

 そんな感じで仲良く住民達と話をしていると、この店にシェールを探しに来た側近の1人が入ってきた。

 

「やっぱりここに居ましたか。シェールさん、もうすぐ貴族パーティーの時間ですからお戻りになってください」

「えぇ……はいはい、分かりましたよ。じゃあ、頑張ってきまーす」

「頑張って!」

 

 そう言うとシェールは、住民達に励まされながら側近に連れられてその場を後にし、城内にある会議室兼パーティー会場へと入っていった。

 

「うわぁ……面倒臭い奴が結構居るな。て言うか、良い奴2人しかいねぇ! 救いは常識はある貴族もある程度居る事だが」

「シェールさん、確かにその通りですが正直に言い過ぎですよ。幸いにも聞こえていない様なので良かったですけど……」

「ああ、ごめん。確かにこの場で言う事じゃなかったな……さて、会議だったか? 早速頼むぞ」

「了解です」

 

 すると、シェールの隣に居た側近を含む数々の重職の人達が盛り上がっている貴族達を鎮め、会議を始められる雰囲気を作る。そうして彼が特注の椅子に座った所で、側近の1人が議長となって会議が始まろうとしていた。

 

 ただ、会議と言ってもそれほどの重圧が掛かる物ではなく、美味しい料理や飲み物を食べたり飲んだりしながら話す事が可能な、比較的リラックス出来る感じの会議となっている。ちなみに、こう言う会議を考案したのはシェールであった。

 

「では、これから会議を始めます。と言っても、皇帝陛下のご意向で堅苦しいのは無しで、何か意見等があればご自由にどうぞ」

「はーい。まずは私から、良いですか?」

「ミイさん、どうぞ」

 

 そうして会議が始まると、ミイと呼ばれる女性貴族が最初に手を上げてこう言い始めた。彼女曰く、領地付近に私兵だけでは対処しきれない程の魔物の大群が現れてしまったらしい。

 

「冒険者ギルドにも緊急依頼をしましたが、やはり時間が掛かるとの事なのです。どうか、冒険者到着まで皇国精鋭の『弾幕魔導戦闘軍』の派遣のご検討をお願い致します……」

「ああ、分かった。それにしても確か、ミイの所の私兵は1300人程だったよな。腕利きの戦士や魔導師も居た筈だが、それでも無理となると……魔物の戦力は最低でも同数か――」

「いえ、ざっと3000以上は居るとの報告が……」

「は!? 小規模戦争並みって、大ピンチじゃねえか! 念には念を入れて1000人送っておくか……」

 

 それを聞いたシェールは速攻で弾幕魔導戦闘軍7000人の内の1000人を派遣する事に決めたが、敵のあまりの規模に衝撃を隠せない様だった。いくら鍛え上げた精鋭とは言え、数の差が大きいとそれだけでも致命的な事態になりうるからだ。

 

 かといって7000人全員を送ってしまえば、その間に他国の軍や高ランクの魔物が皇都やその他の場所に襲撃してきた場合、通常兵力だけでは被害が大きくなり、国力に影響を及ぼしてしまう事もあり得る。

 

「そう考えると、冒険者の人達に頼らないと厳しいな……全く、こう言う時に彼女達さえ居ればなぁ」

「あのシェールさん、彼女達とは一体誰なのですか?」

「えっとな……お前は知らないだろうが、オレがまだ7歳の小さい子供だった20年前に出会った、吸血鬼姉妹と回復魔導師のパーティーの事さ。もうとっくの前に冒険者を辞め、故郷に帰ってしまったがな」

 

 そんな時にふと、シェールは20年前に出会ったフラン達一行の事を思い出し、もしも彼女達が居たらなどと考えた。

 しかし、居ない人の事を望んだとて来る訳でもない事は理解している彼は考えるのを止め、今目の前の課題をどうにかする方に力を注ぐ。

 

「さて、魔物襲撃には弾幕魔導戦闘軍1000人に兵士2500人を対応に当たらせるとしようか。位置的にも都に近いし、これ位は妥当だろう。必要に応じて援軍の用意もしておけと、軍部にもそう伝えておく」

「ありがとうございます!」

「よし、この話はこれで一旦おしまいだな。さて次は……」

 

 その後は、貴族の一部がシェールを妻関係でからかう等をしてやらかし過ぎてしまって連行される場面があったものの、その後は良い雰囲気のまま会議は進み、無事に終える事が出来た。

 

(はぁ……これからやること沢山増えそうだ。まあ、頑張るか)

 

 心の中でそう決意した後、シェールは会議室兼パーティー会場を後にした。




後日談の方も読んで頂けて感謝です!

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