フランの異世界召喚記 作:松雨
「なあ、ジェノ。あの戦いを見てどう思ったんだ?」
「えっと……あれだけ見れば軍隊の隊長かそれ以上の実力者が全力でやり合ったって感じでしょうか。たった3分の戦いでしたが、物凄い迫力でしたよねアルゼさん」
「ああ。それにしても、あいつら見てると俺やお前が雑魚みたいに見えてくるんだよなぁ」
「俺もアルゼさんと同じ思いです。付け入るとするなら3分間だけしか出せず、出した後は大幅に魔力が低下すると言う弱点でしょうね。現に効果が切れた瞬間、空中から落下してきましたし、何とか3分耐えきる事が出来れば確実に勝てると思います」
オウラン学園の魔法訓練用ドームにて、シルフィオとサラの全魔力を使用した最終奥義込みの戦闘を見終えたアルゼとジェノの2人は、そのあまりの実力差に気圧されつつも、勝つための分析をしていた。
最終奥義魔法込みであれば、近接・魔法戦闘共に両学園では抜きん出ている実力者である2人。そんな彼女達とまともに戦える者は居るものの、勝てる学園生は今現在両学園には居ないと言われている。
「いや、あれを3分耐えるとか鬼畜すぎないか? それこそお前らに『弾幕』や『スペルカード』を教えたって言う吸血鬼の女の子『フランドール・スカーレット』じゃなきゃ無理だろ。それとも何か対策でもあるのか?」
「勿論です! ついこの間、あれに耐える為だけの魔法がようやく様になってきました。まあ、まだ完全とは言いがたいですが……見ます?」
「ああ、頼む」
アルゼとの会話中にジェノが2人の最終奥義魔法に対抗する為の魔法を開発してあると、自信ありげにそう言った。
それ程までに自信を持って言うのだから、きっと凄い物なのだろう。心の中でアルゼは思いながら、魔法の発動準備を始めたジェノを見ている。
「では、見ていて下さいね……我が身よ、揺らげ!『
ジェノがそう言って魔法を発動させると、辺りにやかましい甲高い音が響き、眩い閃光が一瞬だけ辺りを覆い尽くした。アルゼ達は反射的に目を瞑り、耳を塞ぐ。時間が経った後に目を開けると……
「……ん? 何だ、全然変わってないじゃないか。失敗か?」
「いえ、発動は成功しました。試しに本気で魔法攻撃をしてみて下さい。自分からは動きませんのでもし、何か不測の事態が起こったとしても俺は何も咎めないので」
「は!? 何を言って……おう、分かった」
彼の目の前に現れたのは、先程までとはまるで変わりのないジェノであった。てっきり、シルフィオやサラの様なはっきりとした変化があるものだと思っていた為、失敗だと思ったアルゼがそう問いかけるが……どうやらあれで成功した様だ。
「それじゃ行くぞ! 『エクスアクアランサー』!」
そうして、魔法を発動に成功したらしいジェノが自分に攻撃してみてくれとアルゼに頼んだ。
端から見れば何も変化のない様に見える上、逃げ隠れもせずに本気の攻撃を受けると言ってきた為、思わず声を荒げたアルゼ。だが、ジェノの真剣な表情を見てようやく決心がつき、水属性魔法を放つ。
対象に当たった瞬間小規模の水蒸気爆発を起こす槍を放つ攻撃力の高い魔法、使い方によっては属性相性すら無視する事がある。こんなのをまともに受ければいくら実力者でもダメージは免れない筈なのだが……
「消え……!?」
「どうですか? だから俺は平気だと言ったんですよ」
「……なるほどな、一体どういうカラクリなんだ?」
「えっとですね……」
当たったと思ったら揺らぐようにして消え、またすぐに現れると言う、例えるなら光の点滅の様な現象を目の当たりにし、アルゼや遠巻きに見ていた他の生徒も衝撃を受けた。当然、どういう魔法を発動させたのか気になった彼はジェノに対して問いかける。
そう聞かれてジェノはまだ完全ではない、開発途中かつ欠点だらけの不完全なものである魔法について話すのを好ましく思っていない。ただ、知らない他人に町で聞かれたのならともかく、お互いに新魔法を披露しあったり等して高めあう為の交流会なのに、聞かれて答えないのは好ましくないと思っている。
なので前置きを入れつつ、完成している部分のみをアルゼに対して話した。だが、それだけでもアルゼにとっては十分衝撃に値するものであったらしく、凄いものだと感心していた。
「自身に向けられた魔法から放たれる魔力を感知し、それが術者本人に当たるギリギリで身体が揺らぐように消えて避ける事が出来る魔法……か。反則だろ、それは」
「いや、割りとそうでもないですよ。『魔法』でないと駄目な上に、闇属性魔法には反応を示してくれないので。それに回避する度に魔力が湯水のごとく減っていきますし、致命的なのがこれを使っていると光属性魔法以外の攻撃の威力が極めて低くなると言う……」
「まあ、不完全でそれは凄いんじゃないのか? あ、もう昼飯の時間だな……おーい! お前ら昼飯行こうぜー!」
そうしてジェノが不触の陽炎を解除したのと同時に、室内に備え付けられていた巨大魔導時計の針がちょうど昼食の時間を差していた事に気づいたアルゼ。
すると彼は早速、その場に居たジェノとルーフィオレ学園の生徒達に呼び掛け、オウラン学園内の食堂に昼食を取りに向かった。
――――――――――
「ジェノ君、聞きましたよ。私とサラの2人が魔力切れで休んでいる時に、とんでもない魔法を披露してくれたらしいじゃないですか。何故私との手合わせには使ってくれなかったのですか?」
「ねえジェノ。ボクにも今すぐ見せてくれない? 後、また戦わない? 不触の陽炎使って良いからさ」
「何で見ていないのに知ってるの? シルフィオさん。今食事中だから後にして……後、戦うのは良いですけど今日は勘弁してもらえませんか? サラさん」
「そんなぁ……」
魔法の披露や練習を終え、食堂で昼食を取っていたジェノ達の元に、歩けるまでに回復したサラとシルフィオが合流していた。
あの時その場に居なかった2人が、魔法訓練用ドームでしか披露していないはずの『不触の陽炎』の事についてしつこい程聞いてきている為、ジェノは食事が殆んど取れずに時間だけが無情にも過ぎて行く。
「本当、それにしてもあの4人はアホみたいに高レベルなんで、ぶっちゃけ大会出禁にするべきじゃない?」
「いや、それはないでしょ。この前の大会でオウラン学園のジェノさんとほぼ互角に戦っていた弱小学園の大将もいたし……油断しているとうちらも足元を救われかねないわね」
そんな4人を見て、両学園の他選手も思い思いの会話を交わしながら出された食事を美味しく食べていた。
確かに両学園で際立って高レベルなのはジェノ・アルゼ・シルフィオ・サラの4人ではある。しかし、この3年の間に他の選手達のレベルもぐんぐん上昇していて、差は少しずつ確実に縮まりつつあった。このまま行けば、次の大会の決勝戦までにきっと……
「ふぅ。時間ギリギリで何とか食べ終わった……」
「あ、終わりましたか。では早くドームに戻ってあの魔法を披露してください」
「早くしてよ~!」
「サラさん達が俺の食事を邪魔をするからですよ。まあ、急かさずとも急いで準備をしていますから」
こうして急いで準備をした後、皆で再び魔法の披露や訓練をする為にドームへと向かい、日が暮れるまで休憩を挟みつつ楽しみながら訓練等を行い、幕を閉じた。
余談ではあるが開発中の『不触の陽炎』が皆に披露されてから1ヶ月経った頃、それが学園からカーテンド王国の軍隊の耳に入った。
以降、王都での全面バックアップの元死に物狂いで改良を重ね、1年と言う長い月日を経て効果が落ちたものの、実用性が大幅に改善されたものが軍隊の前衛職に採用されると言う快挙を成し遂げ、ジェノは一躍時の人となった。
それにより、軍隊の前衛職に採用された魔法を開発した生徒を輩出したとしてオウラン学園は表彰され、数ヶ月後には王国一の人気学園として名を上げる事になる。
それから更に3ヶ月程経ったある日、だったら同じ様に魔法で有名になってやろうと対抗心を燃やしたルーフィオレ学園の方でも先生組にサラとアルゼの2人が主導し、寝る間も惜しんで『滅弓』と命名した、相手の攻撃魔法に特殊な矢を誘導させ、激突・相殺させる魔法を開発した。
術式の複雑さやバックアップの少なさも相まって2年も掛かってしまったが、何とか実用性の問題をクリアした。そして王都守備隊に何度も売り込んだ結果、オウラン学園と同様に軍隊に採用される事に成功。
出遅れはしたものの、そこから1年経った頃にはオウラン学園と共に『国の命』と呼ばれるまでになり、彼ら彼女らの悲願が成し遂げられたのだった。
後日談も読んで頂けて感謝です!