デート・ア・ライブ 士織リリィデイズ   作:ラリストテレス

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今回は少々長めになっています。
あと、後半士織ちゃんが暴走気味になっております。
そして、
UAが1000を越えたー!

こんな駄作を見てくださりありがとうございます!

では本編を、どうぞ


訓練は黒歴史を創るために

「疲れた~」

 

 4月11日、火曜日。

 士織が摩訶不思議な1日を経験した、翌日である。

 結局あのあと、士織は別室に移されると、知らないオジサンに説明とよくわからない書類を書き続けさせられ、ようやく家に帰された。

 さすがにシャワーだけは浴びたが、その後どうしたかはあまり覚えていない。気づいたらベッドの上で朝を迎えていた。

 今日くらいは休もうかとも思ったが、休むと後々3人トリオが面倒くさいので、なんとか登校した。

 その後も頑張って授業を受け、友達の話を適当に受け流し、ようやく放課後をむかえた。

 ホームルームにもしっかり出席し、なんとか1日を乗りきった士織は、ぐて~と机に突っ伏す。

 ようやく解放される、そう思ったときだった。

 

「──五河士織」

 

 瞬間。全身の身の毛が逆立つ。

 士織は恐る恐る、振り返った。

 そこには、やはり────

 

「と、鳶一さん・・・・・・」

 

 シルバーブロンドの髪をした、人形のような顔の少女。

 鳶一折紙が、こちらを覗いていた。

 

「ど、どうかし」

 

「来て」

 

「え? ちょっ──」

 

 折紙は唐突に腕を掴むと、そのまま士織を連れて教室を出る。

 突然のことで、終始呆気にとられる士織。

 折紙は無言のまま階段を上ると、屋上へと続く扉の前でようやく止まった。

 

「えっと・・・・・・どうしたの? 鳶一さん」

 

 士織が問いかける。おそらくは、昨日のことについて問い質されるのだろうなぁ、とあたりをつけながら。

 

「昨日、なぜあんなところにいたの?」

 

 やっぱり・・・・・・。

 

「い、妹が警報発令中に外にいたみたいで、探しに・・・・・・」

 

「そう──見つかったの?」

 

 士織が答えると、折紙は表情を変えないままそういった。

 やはり、士織は少し彼女が苦手かも知れない。

 

「う、うん。・・・・・・おかげさまで」

 

「そう。よかった」

 

 折紙はそう言うと、続けて唇を動かした。

 

「──昨日、あなたは私を見た」

 

「う、うん」

 

「誰にも口外しないで」

 

 折紙が有無を言わせぬ迫力で迫ってくる。

 あまりの気迫に、士織はコクコクと黙って首を倒す。

 

「それに、私以外のことも──昨日見たこと、聞いたこと。すべて忘れた方がいい」

 

 それはきっと、あの子──精霊のことを言っているのだろう。

 

「それって、あの女の子のこと?」

 

「・・・・・・」

 

 折紙は無言で、士織を見つめる。

 

「ねぇ、鳶一さん、あの女の子は一体・・・・・・」

 

 精霊のことは一通り〈ラタトスク〉から聞いていたが、士織は敢えて問うた。あれはあくまで、琴里たちの組織の見解。精霊と刃を交えた折紙たちなら、また違った考えを持っているのではないかと思って。

 

「・・・・・・あれは精霊」

 

 折紙は短く答える。

 

「私が倒さなければならないもの」

 

「・・・・・・っ! その、精霊は、倒さなきゃいけないの?」

 

 そんな質問をすると、折紙の顔が一瞬歪んだ気がした。

 

「──5年前、私の両親は精霊のせいで、死んだ」

 

「・・・・・・え?」

 

 予想外の応えに、士織は言葉を詰まらせる。

 

「そ、それじゃあ鳶一さんが戦うのは、復讐・・・・・」

 

「勘違いしないで」

 

 士織の言葉を、折紙はすぐさま否定する。

 

「私は、私のような人を、もう増やしたくないだけ」

 

「そ、そっか・・・・・・そうなんだ」

 

 士織は、自分の胸に手を置いた。

 やたら煩い鼓動を、押さえつけるように。

 ふと、気になることがあった。士織は未だこちらを覗く折紙に訊ねる。

 

「えっと・・・・・・聞いた後で申し訳ないんだけど、精霊とかそういう情報って、言っても大丈夫だったの?」

 

「・・・・・・」

 

 折紙は一瞬、考えるように黙った。

 そして、

 

「問題ない」

 

「そ、そうなんだ」

 

「あなたが口外しなければ」

 

「・・・・・・もし、話したら?」

 

 また、言葉を止める折紙。

 士織は次の言葉を、固唾を飲んでまつ。

 が、

 

「困る」

 

 言われたのは、その一言だけだった。

 

「え? えっと・・・・・・じゃ、じゃあ誰にも言わないよ」

 

 こくり、と折紙が首肯する。

 それを最後に、 折紙は士織から視線を外すと、階段を下りていった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ」

 

 折紙の背中が見えなくなってから、士織は(うずくま)るようにして息を吐いた。

 正直、かなり緊張した。

 

「両親が、精霊のせいで死んだ────」

 

 先ほど折紙は復讐のためではないと、誰かに自分と同じ思いをして欲しくないと、そう言っていた。それでも、彼女の中には未だ、精霊に対する憎しみが残ってるはずだ。

 でなきゃ、高校生があんな殺伐とした空間に、進んで入ろうとはしないだろう。

 

「・・・・・・私が甘いだけ、なのかな・・・・・・」

 

 琴里や折紙には、お互い方向は違えど、確固たる信念があった。

 士織は──どうだろうか? 

 昨日士織は琴里の提案を受け入れた。だが、先ほどの折紙の話を聞いた今、彼女の前で同じ事が言えただろうか? 

 自分と似た境遇を持つ(・・・・・・・)、彼女に。

 

「・・・・・・」

 

 はあ、と息を吐く。

 自分の行動を間違いだとは思っていないが、どうにも煮え切らない気分だった。

 と、士織が階段を下りようとしたとき。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────ッ!」

 

「っ!? な、なに?」

 

 士織は慌てて階段を駆け下りて見ると、廊下に人だかりが見えた。そしてその中心には、白衣を着た女性が1人、うつ伏せに倒れている。

 

「ど、どうしたの?」

 

「し、新任の先生らしいんだけど・・・・・・急に倒れて・・・・・・っ!」

 

 聞けば、近くの女子生徒があたふたしながらそう答えた。

 

「と、とにかく今は保健の先生を──」

 

 士織が言いかけると、突然ガシッ、と倒れている女性が足を掴んだ。

 

「ひ、ひゃあ!?」

 

「・・・・・・心配はいらない。ただ転んでしまっただけだ」

 

 言いながら、女がゆっくりと顔を上げる。

 

「あ、あなたは・・・・・・!」

 

 長い前髪に、分厚い隈。ポケットに入った特徴的な熊のぬいぐるみがチャームポイント(だと士織は思っている)の女性。そんな人、忘れるはずもない。

 

「・・・・・・ん? ああ、君は──」

 

 ──〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音が、ノロノロ身を起こす。

 

「な、何してるんですか? こんなところで・・・・・・」

 

「・・・・・・見てわからないかい? 教員としてしばらく世話になることにしたんだ。ちなみに教科は物理、2年4組の副担任も兼任する」

 

 白衣の胸につけていたネームプレートを示しながら、令音が言ってくる。流石にそれだけで理解するのは難しいのではないだろうか・・・・・・。

 

「って、わかりませんよ!」

 

 思わず叫び──士織はそこで、周囲が好奇の目でこちらを窺っているのに気づいた。

 

「あ・・・・・・この人大丈夫みたいだから」

 

 言って手を差し伸べると、令音を立ち上がらせる。

 

「・・・・・・ん、悪いね」

 

「いえいえ。それよりも、歩きながら話しましょう」

 

 周囲に気を払いながら、士織は言った。

 そのまま令音のペースに合わせ、ノタノタと歩いていく。

 

「ええと・・・・・・村雨解析官?」

 

「・・・・・・ん? ああ、令音で構わないよ」

 

「え?」

 

「・・・・・・私も、君のことは名前で呼ばせてもらおう。連携と協力は信頼から生まれるからね」

 

 令音はうんうんと頷き、士織の顔を見た。

 

「ええと、君は・・・・・・しずか、だったかな」

 

「し、しか合ってないですよ・・・・・・」

 

 信頼は何処へいった・・・・・・。

 士織は頭をおさえる。昨日の時点で薄々気づいてはいたが、令音はどうもマイペースすぎる性格のようだ。

 

「・・・・・・さてシズ、早速だが」

 

「華麗にスルーしないで下さい。あと、それとなく変な愛称をつけるのも止めて下さい」

 

 士織がジト目で抗議するも、令音は聞いていないかのように続けた。

 

「・・・・・・昨日琴里が言っていた強化訓練の準備が整った。君を捜していたところだ。ちょうどいい、このまま物理準備室に向かおう」

 

 士織は令音に何を言っても無駄だと思い、諦めて問い返した。

 

「訓練って一体何をするんですか?」

 

「・・・・・・うむ。その前に聞くが、シズ、君は同性と交際したことはあるかね?」

 

 それを聞いた瞬間、士織の顔はまるで茹でダコのように真っ赤に染まった。

 

「そ、そそそそんなことあるわけ、ないじゃないですか・・・・・・」

 

 呟くように言う士織。

 もちろん士織は、同性どころか、異性とすら付き合った経験がない。(主にとある3人組の生徒が男を近づけないために)

 告白された経験もあるにはあるが、いつもなんとなく断ってしまっていたため、士織にはそういった色恋への耐性は無に等しい。

 

「・・・・・・ああ、別に責めているわけじゃあない。身持ちが堅いのは大変結構なことだ。・・・・・・だが、精霊を口説くとなるとそうも言っていられないんだ」

 

「そ、そうですよね」

 

 士織は苦笑しながら相槌をうつ。

 と、職員室の近くを通った時だった。

 

「・・・・・・え?」

 

 士織は奇妙なものを目にして立ち止まった。

 視線の先にはタマちゃん教諭がいたのだが──その後ろになぜか見覚えのある赤い髪がついて回っていたのだ。

 

「・・・・・・どうかしたかね?」

 

「いや、あれ・・・・・・」

 

 士織がその異様な光景を説明しようと足を止めたその時、こちらに気づいたのだろうか、小さな影──琴里が目を輝かせながら迫ってきた。

 

「おねーちゃぁぁぁぁぁん!」

 

 そのまま、琴里が吸い込まれるように抱きついてきた。

 

「きゃ!」

 

 かなりの勢いで抱きついてきたのを、なんとか踏みとどまる士織。

 

「ん~おねーちゃぁん」

 

 言って頬擦りする琴里。なぜかスンスンという音が聞こえて来るが、気のせいだろう。

 

「こ、琴里? 何で高校に・・・・・・」

 

 呟くと、琴里の後ろからトテトテと担任の岡峰珠恵(おかみねたまえ)──通称『タマちゃん』が歩いてきた。

 

「あ、五河さん。妹さんが来てたから、校内放送で呼ぼうとしてたんですよぅ」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

 未だ顔を埋める琴里を見ると、来賓用のスリッパや入校証をつけている。どうやら正規の手順を踏んで学校に来たらしい。

 

「と、とりあえず琴里。先生にお礼言わないと」

 

「おー、先生、ありがとー!」

 

「はぁい、どういたしましてぇ」

 

 元気よく手をブンブンと振る琴里に、先生がにこやかに返す。

 

「可愛い妹さんですねぇ」

 

「は、はい。私の自慢の可愛い妹です」

 

 先生は琴里と笑顔で「バイバイ」と手を振り合うと、職員室の方に歩いていった。

 

「ねぇ、琴里」

 

「んー、なーに?」

 

 琴里が首を傾げながら、その丸っこい目で士織を見る。

 その仕草は、士織のよく知る可愛い妹の姿だった。

 

「いい加減離れてくれない? お姉ちゃん歩きにくいんだけど・・・・・・」

 

「えぇ~、いいじゃんもうちょっとだけ~」

 

 はぁ、とため息を吐く士織。

 こうやって純粋に甘えられると、厳しくでられないのは悪い癖かもしれない。

 今度からはもっと厳格に接すべきだろうか、と思案する士織だった。

 と、士織の後ろから、令音の静かな声が響いてくる。

 

「・・・・・・早かったね、琴里」

 

「うん、途中で〈フラクシナス〉に拾ってもらったからねー」

 

 そういうことを普通に言っていいのか、と士織はそう思いつつ苦笑する。

 まあたとえ聞かれたとしても、中学生とは多感な時期だ。きっとみんな生暖かい目(痛い人を見るような目)で見てくるだけだろう。

 

「お姉ちゃん? 何か失礼なこと考えてな~い?」

 

「っ! そ、そんなわけ無いじゃん!」

 

「ホントー? ま、いっか。それよりおねーちゃん。早く行こ!」

 

「ちょっ、わかったから、廊下走っちゃダメだよー」

 

 妹の勘の良さに戦慄しつつも、走りながら先導する琴里についていく。

 なぜ、物理準備室の場所を知っていたのかについては、とりあえずおいておこう。

 程無くして、東校舎4階の物理準備室に到着した。

 

「さ。入ろー、入ろー♪」

 

「ちょっ、入るから制服引っ張らないで! 伸びちゃうでしょ」

 

 そんな家庭的なことを言いつつ、士織はスライド式のドアを滑らせた。

 そしてすぐに、眉根を寄せて目を擦る。

 

「・・・・・・あのー、令音さん」

 

「・・・・・・何かね?」

 

 士織の言葉に、令音が小首を傾げた。

 

「何なんですか、この部屋」

 

 そこは、某学園都市もかくやというほどの様々な機械やモニターで埋め尽くされていた。

 一体何の能力を開発するつもりだったんだ・・・。

 

「・・・・・・部屋の備品さ?」

 

「何で疑問形何ですか・・・・・・」

 

 ため息が出る。

 他にも、ここにいた先生はどうなったとか色々聞きたいことは山ほどある。

 が、それを言っては話が進まないので、士織は口を(つぐ)んだ。

 令音は士織が何も言って来ないのを確認すると、部屋の最奥にある椅子に腰かける。

 ふと琴里の方を見ると、髪を括っていたはずの白いリボンが、いつの間にか黒いリボンになっていた。

 そして令音の隣の椅子にドカッと座り込むと、鞄からバインダーのようなものを取り出す。しかしそれはよく見れば、様々な種類のチュッパチャプスが綺麗に整頓された飴玉ホルダーだった。これは本格的に飴玉禁止令を出さなければならない、と頭を抱える士織だった。

 そして琴里はその中の1つを口に放ると、未だドアの前で立ち尽くす士織へ向き直る。

 

「いつまで突っ立ってるのよ、士織。もしかしてカカシ志望? やめときなさい。あなたじゃ逆に変な虫(糞男ども)が寄ってくるだけよ」

 

 琴里の突然の変化に、唖然とする士織。どうやらリボンの色でキャラクターを切り替えているようだ。

 

「ほら、さっさと座りなさい。訓練を始めるわよ」

 

 琴里に促されるまま、士織は手近な椅子に腰掛けた。

 

「それで琴里、訓練っていうけど具体的には何をするの?」

 

「それについては、令音が答えてくれるわ。令音。お願い」

 

「・・・・・・うむ、わかった」

 

 そう言うと、令音は士織へと身体を向ける。

 

「・・・・・・さて、シズ。君は我々の作戦に乗る以上、最低限クリアしてもらわねばならない事がある」

 

「クリアすべき、こと?」

 

「・・・・・・単純な話だ。君には同性を口説き、魅了するためのテクニックを学んでもらわねばならない」

 

「く、くく口説くですか!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、士織はボフッと顔を真っ赤にしあたふたと動揺した。

 

「はぁ~予想はしてたけど流石にこれは論外ね」

 

 士織のウブな様子に琴里があきれると、咥えていた飴玉を士織に突き出すように向ける。

 

「いい士織。あなたは女だから、女の子と会話するくらい訳ないでしょうけど、それじゃ駄目なのよ」

 

「・・・・・・駄目?」

 

「そう。士織にはこれから、女の子を恋愛対象として接してもらう必要があるわ」

 

 琴里が目配せする。それを合図に令音がパソコンを弄りはじめた。

 

「・・・・・・そこでシズ、君にはこれで訓練を受けてもらう」

 

 令音がパソコンの画面を向ける。そこには、可愛らしい文字で〈ラタトスク〉と映されており、次いでカラフルな髪をした少女たちが順番に登場し、タイトルだと思われる『恋してマイ・リトル・シオリン』が踊っていた。

 

「・・・・・・えっと、これは・・・・・・」

 

「・・・・・・恋愛シミュレーションゲームというやつさ」

 

 士織はガックリと肩を落とす。

 訓練というからには何か実践的なことをするものだとばかり思ってたが、まさかゲームだとは・・・・・・

 

「本当にそれで訓練になるんですか?」

 

 士織は不安そうに令音に問う。

 

「・・・・・・そう言わないでくれ。これはあくまで訓練の第一段階さ。それに市販品ではなく、〈ラタトスク〉総監修によるものだ。現実に起こりうるシチュエーションをリアルに再現している。心構え位にはなるはすだ。ちなみに15禁だ」

 

 当たり前だ! という言葉をなんとか飲み込む。

 まあ士織は16歳だから当然なのだが、この2人なら18禁のゲームをさせかねないだろう。

 そう思うと、士織は言い知れぬ寒気を覚えた。

 

「そんなことより士織。やるならちゃっちゃと始めちゃって」

 

 琴里の言葉に、士織はしぶしぶという様子でコントローラーを握った。

 そして、

 

「おはよう、お姉ちゃん! 今日もいい朝だね!」

 

 そんな台詞とともに、小柄な女の子が映し出される。

 おそらく、主人公の妹なのだろう。

 だが、かおかしい。その妹は、寝ている主人公を踏んでいる構図になっており、パンツがバッチリ見えていたのである。

 

「無いってこんなの!」

 

 士織はコントローラーを握りしめながら声をあげる。

 

「・・・・・・どうしたねシズ。何か問題でも」

 

「大ありですよこんなの! 現実に忠実に作ったんじゃないんですか!?」

 

「・・・・・・そうだが、何かおかしいかね」

 

「おかしいですよ! 現実にこんなこと起こりません!」

 

「士織。これは訓練なのよ。つべこべ言ってないで次進めなさい」

 

 士織は何か不条理さを感じつつも再びゲームへと戻った。

 しばらくすると、画面になにやら文字が現れた。

 

「これって・・・・・・」

 

「それは選択肢よ。この中から主人公の行動を1つ選ぶの。それによって好感度が上下するから気を付けなさい」

 

 琴里が画面の右下を指差す。そこにはなにやらメーターのようなものが表示されていた。

 士織はそれを一瞥すると、選択肢に視線を移した。

 

①「おはよう。愛してるわリリコ」愛を込めて妹を抱きしめる

 

② 「起きたわ、ていうか思わず濡れちゃったわ」妹をベッドに引きずり込む。

 

③ 「かかったわね!」踏んでる妹の足を取り、アキレス腱固めをかける。

 

「何なの! この選択肢!?」

 

 思わず叫び声を上げる士織。

 

「何でもいいけど、制限時間付きよ」

 

 よく見れば、端の方にある数字が着実に減っていた。

 仕方ないので士織は比較的まともな①を選択する。

 

「おはよう。愛してるわリリコ」

私は妹のリリコを、愛を込めて抱きしめる。

すると、リリコは途端に顔を侮蔑の色に染め、私を突き飛ばす。

「え……なに、そんなシュミがあるの? 、やめてくんない? キモいんだけど」

 

 好感度のメーターがマイナス50まで減少した。

 

「あーあ、馬鹿ね。妹でも突然『愛してる』って言って抱きついたらそうなるに決まってるじゃない。まったく、ゲームだからいいものの、これが本番なら、士織のお腹にはきれいな風穴が空いてるわよ」

 

 ならどうすればよかったの! と士織が文句を言うのも取り合わず、琴里は自分の目の前にあるディスプレイを点灯させる。

 

「えっと・・・・・・何をしてるの?」

 

「訓練とはいえ、少しは緊張感を持ってもらわないとね」

 

 画面には見覚えのある景色──来禅高校の昇降口が映し出されていた。あと、なぜか制服を着こんだ女性がカメラ目線でこちらを見ている。

 と、

 

「士織が選択肢を間違えたわ。やって」

 

『ハッ』

 

 画面の女が敬礼する。

 

「・・・・・・何を、する気なの?」

 

 士織が困惑していると、女が懐から1枚の紙を取り出し、カメラに見せる。

 それを見て、士織は嘗て無いほどに顔を青ざめた。

 一方妹は、そんな姉の様子を面白そうに見ている。

 

「これっ、て・・・・・・」

 

「そう、士織が若かりし頃、恋する自分を想像し! 書き留めたポエム『至高なる愛の調べ』よ」

 

「な、ななななな何で!? す、捨てたはずなのに!」

 

 確かにあれは、恋愛経験のない士織が中学の時に少しでも恋愛気分に浸ろうと思い、書いたものだった。

 そんな士織の動揺をよそに、琴里はニヤリと笑い『やりなさい』と言った。女は短く返事をすると、紙を折り畳んで適当な下駄箱に放り込んだ。

 

「え、えぇぇぇぇ!? な、なにしてるの!?」

 

「騒ぐんじゃないわよみっともない。いい? 実戦で士織が失敗すれば、あなただけでなく私たちも狙われる危険があるのよ。という訳で緊張感を持ってもらう為にペナルティを科すことにしたの」

 

「ペナルティって、こんなのあんまりだよー!」

 

 士織は若干涙目でそう言ってくるが、琴里は異にも介さず受け流す。

 

「なら、さっさとあれを回収するためにも、早急にゲームをクリアしないといけないわね」

 

 ニヤリと笑う琴里。どうやら、是が非でもこのゲームをクリアしなければならないようだ。士織は再び、コントローラを握る。己の社会的尊厳を守るために。

 さあ、地獄の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「お、終わった~」

 

 士織はコントローラを手にしたまま、床にべたーんと倒れて込んだ。

 琴里と令音の放課後強化訓練が実施されて実に10日目。士織はようやく、ゲームのハッピーエンドをむかえたのだった。

 ・・・・・・まあそれまでに、乙女の赤裸々な妄想が幾度となく暴かれたのは言うまでもない。

 

「・・・・・・ん、まぁ少し時間は掛かったが、第一段階はクリアとしておくか」

 

「ま、一応全CGもコンプしたみたいだし、とりあえずは及第点といった所かしらね。……とはいっても、あくまで画面の中の女の子に対してだけだけど」

 

 背後からスタッフロールを眺める令音と琴里が、息を吐くのが聞こえる。

 

「じゃ、次の訓練だけど・・・・・・もう生身の女性にいきましょ。時間も押しちゃったし」

 

「・・・・・・ふむ、大丈夫かね」

 

「平気よ。もし失敗しても、ライバルが減るだけだもの」

 

 琴里、一体誰のどんなライバルが減るのか、是非とも教えてほしい。

 

「それで、士織。次の訓練なんだけど」

 

「・・・・・・恐ろしく嫌な予感しかしないけど、なに?」

 

「そうね・・・・・・誰がいいかしら」

 

「え?」

 

 と、士織が首を傾げる横で、令音がコンソールを操作すると、机の上のディスプレイに学校内の映像が写し出される。

 

「・・・・・・シズ。次の訓練が決まった」

 

「一応聞きますけど、どんな訓練ですか」

 

 士織が半ば諦め気味に問うと、令音が首肯しながら返してきた。

 

「・・・・・・ああ。本番、精霊が出現したら、君は小型のインカムを耳に忍ばせて、こちらの指示に従って対応してもらうことになる。1回、実戦を想定して訓練しておきたかったんだ」

 

「・・・・・・実戦、ですか」

 

「・・・・・・そうだ。とりあえず、岡峰珠恵教諭を口説いてきたまえ」

 

「なるほど、タマちゃんをくど・・・・・・はァ!?」

 

 眉を寄せ、叫ぶ。

 

「何か問題でもあるの?」

 

 琴里が面白そうに、口を吊り上げて言ってくる。

 

「だって先生だよ!? そんなのできるわけ・・・・・・っ!」

 

「本番ではもっと難物に挑んでもらわなきゃならないのよ?」

 

「た、確かにそうなんだけど・・・・・・」

 

 士織が渋っていると、令音がポリポリと頭をかいた。

 

「・・・・・・最初の相手としては適任かと思うがね。恐らく君が告白したとしても受け入れはしないだろうし、ぺらぺらと言いふらしなりもしなさそうだ。・・・・・・まあ、君がどうしても嫌だと言うのならば女子生徒に変えてもいいが・・・・・・」

 

「・・・・・・先生が、いい、です」

 

 士織は背中に嫌な汗をかきながらそう言った。

 確かに先生ならば、大人として生徒の戯言と聞き流してくれるだろう。仮に生徒中から選んで、あの3人トリオの誰かでやれと言われるよりかは何千倍もましだ。

 

 はぁ~、どうやら地獄はまだまだ抜け出せないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 士織は物理準備室を出ると、担任の珠恵を探し始めた。

 と、階段を下りた廊下の先に、珠恵の背中が見えた。

 士織は軽く駆け足で珠恵の背中を追う。

 すると向こうも気づいたのか、立ち止まってこちらを振り替える。

 

「あれ、五河さん? どうしたんですかぁ?」

 

「あ、タマちゃん先生・・・・・・えっと・・・・・・」

 

 ほぼ毎日見ていた顔のはずなのに、いざ口説くとなると途端に緊張が増してくる。

 士織は何を言っていいかわからず、口ごもった。

 

『──落ち着きなさい。これは訓練よ。しくじっても死にはしないわ』

 

 インカムを通じ、琴里の声が響く。

 そんなこと言ったって、と内心文句を言うが、琴里の言う通りこれは訓練。

 いつまでも閉口していては先へは進まない。

 士織は取り敢えず、相手を褒めることから始めた。

 

「せ、先生の服すごく可愛いですよね」

 

「え?・・・・・・そ、そぉですかぁ? やはは、なんか照れますねぇ」

 

 珠恵は嬉しそうに頬を染め、笑顔を作って見せた。

 ──よし、掴みは上々だ。

 

「はい、先生とっても似合ってますよ!」

 

「ふふ、ありがとぉございます。お気に入りなんですよぉ」

 

「そうなんですか? ちなみにどこの服なんですか?」

 

「これですかぁ? これはですねぇ────」

 

「そうなんですか!? 私もよくそこで服買うんですよ」

 

「そうだったんですかぁ? あそこの服は可愛いですよねぇ」

 

「はい、それに種類も沢山あって、ついつい手に取っちゃうんですよー」

 

「あー、それわかりますぅ。先生も新作があるとつい試着してみたくなるますからぁ」

 

 と、2人が会話の花を咲かせていると・・・・・・

 

『士織、それ口説いてるじゃなくて、ただのガールズトークじゃない』

 

「・・・・・・あ」

 

 琴里の言葉に、思わず声が漏れる。

 確かにこれは端から見れば、女性同士仲よく語り合っているようにしか見えない。

 

「? 五河さん?」

 

 珠恵が首を傾げる。

 流石に時間がないと思ったのだろう、右耳に今度は眠そうな声が聞こえてきた。

 

『・・・・・・仕方ないな。では私の台詞をそのまま言ってみたまえ』

 

 士織は一瞬考える。確かに慣れてない士織では、先ほどの二の舞になるやもしれん。

 士織は小さく頷き、了承すると、聞こえてくる言葉を口にする。

 

「あの、先生」

 

「何ですか?」

 

「私最近、学校に来るのがとても楽しいんです」

 

「そぉなんですか? それはいいことですねぇ」

 

「はい。・・・・・・先生が担任になってくれたから」

 

「え・・・・・・っ?」

 

 珠恵が、驚いたように目を見開く。

 士織も今からやることがわかっているからから、顔をうつむき、朱に染めている。

 

「な、何言ってるんですかもぅ。どうしたんです急に」

 

 やや困惑気味にかえす珠恵。

 士織は続けて、令音の言葉を発した。

 

「実は私、前から先生のこと・・・・・・」

 

「ちょっ・・・・・・駄目ですよぉ。気持ちは嬉しいですけど、私たち女同士ですよぉ」

 

 珠恵が苦笑する。

 教師ということもあるが、それ以前に同性であることから、きちんといなすようだ。

 

「そんなの、関係ありません! 私、先生だから好きになったんです・・・・・・」

 

「えぇと・・・・・・困りましたねぇ」

 

 珠恵が頬をかきながら、困った顔を見せる。

 流石に同性から告白されるとは思っても見なかっただろう。

 そこで、絶え間なく台詞を紡いだ令音が、小さく息を吐く。

 

『・・・・・・シズ、その調子だ。あとはできるだけ壁際へ誘導彼女を誘導してくれ。──そしたらこう言うんだ』

 

 令音が次なる台詞を指示してくる。

 士織はもはやヤケクソだと言わんばかりに口を動かした。

 

「先生、私・・・・・・本気なんです」

 

 士織は珠恵を壁際に追いやる。

 奇しくもその様子は、俗に壁ドンと言われるような構図をとっていた。

 

「ちょっ・・・・・・五河さん急に何を──」

 

 と言いかけて、止める。

 士織が珠恵の眼前に迫っていたからだ。

 それも、唇が触れあうほどの距離に。

 

「だから、ちゃんと答えて下さい。じゃないと・・・・・・」

 

 士織は珠恵の耳に顔を近づける。

 

「わたし、我慢できなくなっちゃいますよ?」

 

「っ!・・・・・・」

 

 珠恵は動揺し、目を伏せる。

 その顔は、熟れたトマトのように真っ赤に染まっていた。

 教師として、生徒と関係を持つなどあってはならない。それが女生徒ならばなおさらだ。

 それなのに、胸が高鳴ってしまうのは、どうしてなんだろう。

 

 

 岡峰珠恵29歳。

 

独身!!

 

 現在付き合っている彼氏もおらず、同級生たちも次々結婚していくなか、行き遅れつつある彼女はこのまま30代を迎えるばかりだと思っていた。

 しかし今、珠恵の目の前に、自分を愛してくれる人がいる。

 それがどうしようもなく────嬉しかった。

 このまま士織を受け入れてもいいのだろうか? 教師として踏みとどまるべきなのか? 

 珠恵は、己の内で葛藤に苛まれていた。

 一方、

 

 

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい)

 

 

 士織は、プルプルと羞恥に悶えていた。

 令音の言葉を何も考えずに言ってしまったが、よくよく考えるとかなりまずいこと言っている。というか一線を越える方向に話が進んでいた。

 

「い、五河、さん」

 

 珠恵が顔を上げる。士織も自然とそちらを見る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 数秒の沈黙が、辺りを支配した。

 周りには生徒はおろか、人っ子一人見当たらない。

 つまり、これから起こることは誰にも見られないということだ。

 2人はそっと唇を・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・やっぱりムリィィィィィィィィィ!」

 

 合わせなかった。

 

 

 

 そのまま士織は、ひたすらに廊下を駆け抜けていった。




次回はいよいよ名付け回
長かった~しんどかった~
とりあえず今週中には次話を投稿できると思います。

誤字脱字報告や感想評価をどしどしお待ちしております。
皆様の評価で、作者にやる気をくれ~!
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