デート・ア・ライブ 士織リリィデイズ   作:ラリストテレス

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久しぶりに書いたらバーに色が!(゜ロ゜;ノ)ノ

しかも赤い、だと!?(゜ロ゜;ノ)ノ

こんな作品を応援してくれてありがとうございます!
では本編をどうぞ


そしてデートは突然に

「まあ、普通に考えたら休みだよね・・・・・・」

 

 士織はため息吐きながら、高校前から延びる坂道を、トテトテと下っていた。

 士織が精霊に十香という名をつけた次の日。

 あんなこと(・・・・・)があったにもかかわらず、普通に登校した士織は、瓦礫の山と化した校舎を見て、頭を押さえた。

 昨日現場にいたのだから、休校になるのは容易に想像出来ただろう。だが、あまりにも非現実的な体験をしたせいか、自分の日常を(おろそ)かにしてしまったのかも知れない。

 加えて、昨夜は十香との会話ビデオを見ながら反省会をさせられていたため、思考力が落ちていたのだろう。

 

「・・・・・・はぁ、ちょっと買い物にでも行こうかな」

 

 確か卵と牛乳が切れていたっけ、と頭の隅で考えながら、帰路とは違う方向へと足を向ける。

 すると、立ち入り禁止の看板が目に留まり、士織は再び足を止めた。

 と、

 

「──あ、ここって」

 

 士織はこの場所に見覚えがあった。初めて十香と出会った、空間震現場の一角である。

 そういえばあの後、十香はどうなったのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 銃弾が吹き荒れる教室の中、女の子と向かい合いながら話す。

 もちろん生まれて初めての体験なのだが、不思議と恐怖や不安はなかった。

 それは、目の前の少女──十香の力によるところもあるのだが、十香といると、なぜだか安心するのだ。

 2人は銃弾の雨の下、なんてことない話を続けた。

 十香が質問し、士織が答える。そんな何気ないことの応酬で、目の前の少女はコロコロと表情を変えていく。

 そんな子供のような反応をする十香に、士織も笑いが絶えなかった。

 士織は思う。精霊とは、確かに恐るるべき存在なのだろう。だが蓋を開けて見れば何てことはない、普通の少女と同じではないか。こうして話して見れば、それが否応なしにわかる。わかってしまう。

 だからこそ、目の前の少女が、その命を狙われているということに、士織は悲しみなのか不安なのか、そんなえも言われぬ感情に苛まれるのだった。

 そして、どれくらい話した頃だろうか──士織の耳に、琴里の声が聞こえてきた。

 

『──数値が安定してきたわ。もし可能なら、士織からも質問してちょうだい。精霊の情報が欲しいわ』

 

 言われて、少し考えを巡らせてから士織は口を開いた。

 

「ねえ──十香」

 

「なんだ」

 

「あなたって・・・・・・結局どんな存在なの?」

 

「む?」

 

 士織の質問に、十香が眉をひそめる。

 

「──知らん」

 

「知らん、て・・・・・・そんな」

 

「事実なのだ。仕方ないだろう。──どれくらい前だったか、私は急にそこ(・・)に芽生えた。それだけだ。記憶は歪で曖昧。自分がどういう存在なのかなど、知りはしない」

 

「そ、そうなんだ」

 

 士織が頬をかきながら言うと、十香はふんと息を吐いて腕組みした。

 

「そうなのだ。突然この世界に生まれ、その瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていた」

 

「め、メカメカ団・・・・・・?」

 

「あのびゅんびゅんうるさい人間たちのことだ」

 

 どうやらASTのことを言っているようで、士織は思わず苦笑した。

 その時、インカムからまるでクイズに正解したときのような、軽快な電子が響いてきた。

 

 

『! チャンスよ、士織』

 

「え・・・・・・? 何の?」

 

『精霊の機嫌メーターが70を超えたわ。一歩踏み込むなら今よ』

 

「ふ、踏み込むって言われても・・・・・・何するの?」

 

『んー、そうね。とりあえずデートにでも誘ってみれば?』

 

「え、えぇ!?」

 

 琴里の言葉に、思わず声を上げてしまう。

 

「ん? どうしたシオリ」

 

 士織の声に反応して、十香が目を向けてくる。

 

「へ? ──あ、えと、な、何でもないよぉ」

 

「・・・・・・」

 

 士織が取り繕うとするも、十香はじぃっと訝しげな表情で見つめてくる。

 

『誘っちゃいなさいよ。親密度を上げるためにも、一気にこう、さ』

 

「そ、そんなこと言ったって、一緒に出たらASTが・・・・・・」

 

 琴里の催促に、否定的な意を唱える士織。

 そんなインカム越しの討論を繰り返していると、隣から金属が擦れ合うような鋭い音が聞こえてきた。

 

「さっきから何をブツブツ言っている。・・・! やはり私を殺す算段を!?」

 

「! ち、違うよ! 誤解だって!」

 

 視線を鋭くし、今にも射殺さんとばかりに光球を出現させた十香を、慌てて制止する。

 

「なら言え。今何と言っていた」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 士織がたたらを踏んでいると、はやし立てるような声が、右耳を震わせた。

 

『ほーら、観念しなさいよ。デートっ! デートっ!』

 

 それに呼応するかのように、インカムの向こうから遠雷のようなデートコールが聞こえてくる。恐らく、艦橋内のクルーたちの声だろう。

 

「・・・・・・も、もうわかったから! 言えばいいんでしょ!?」

 

 士織は度重なるデートコールに観念し、小さく叫んだ。

 それに、元はといえば士織がここに来た目的は、目の前の少女とデートすることなのだし、今回はダメでも次への布石にはなる。

 が、いざ言うとなると──やはり、その、恥ずかしい・・・・・・。

 

「あ、あのね、十香」

 

「ん、なんだ」

 

「そ、そのぉ・・・・・・今度私と」

 

「ん」

 

「で、デートに・・・・・・行かない?」

 

 すると、十香はキョトンとした顔を作った。

 

「何だ? そのデェトとやらは」

 

「え? そ、それはその・・・・・・」

 

 思わぬ返しに、士織は頬を赤く染め、困ったように目を泳がせた。

 と、そのときだった。

 

『──士織! ASTが動いたわ!』

 

「え・・・・・・?」

 

 士織は十香に聞こえてしまうのも構わず、声を発した。

 瞬間──いつの間にか開放感に溢れた教室の外から、折紙が現れた。

 

「──っ!」

 

 十香が一瞬のうちに表情を険しくすると、その手のひらを広げた。

 刹那、光の刃を手にした折紙が、十香に襲いかかる。

 だがその刃は十香には届かず、 辺りを閃光が煌めく。

 

「くっ──!」

 

「──無粋!」

 

 十香は一喝するように叫ぶと、光の刃を受け止めていた手を、折紙ごと振り払った。

 

「・・・・・・っ」

 

 微かに歯を食いしばりながら、折紙が後方へと吹き飛ばされる。

 ──が、見事な身のこなしで、銃痕だらけの床に華麗に着地してみせる。

 

「ち──また、貴様か」

 

 刃を受け止めた手を軽く払いながら、吐き捨てるように言う十香。

 折紙は士織を一瞥すると、安心したように小さく息を吐いた。しかしすぐに見慣れない武器を構え、十香に冷たい視線を放つ。

 

「・・・・・・」

 

 そんな折紙に、十香は士織を一瞥して、足下の床に踵を突き立てた。

 

鏖殺公(サンダルフォン)!」

 

 瞬間、床が隆起し、玉座が現れた。

 

『士織、離脱よ! 一旦〈フラクシナス〉で拾うわ。できるだけそこから離れなさい!』

 

「え? で、でもそんなこと言ったって・・・・・・っ」

 

 琴里が叫ぶも、何処に逃げていいかもわからず、慌てる士織。

 と、十香が玉座から剣を抜き、折紙に向かって振るう。

 その際の衝撃波で、士織の身体はまるで枯れ葉のように、吹き飛ばされた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁッ!?」

 

『ナイスっ!』

 

 そんな琴里の言葉とともに、士織の身体が無重力に包まれる。

 不思議な感覚を感じながら、士織は〈フラクシナス〉に回収された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「・・・・・・」

 

 昨日の様子を思い出し、細く、息を吐く。

 昨日まで、名前を持つことのなかった、精霊と呼ばれる少女──十香。

 まだ2回しか会ったことはないが、昨日話してみて、士織は確信した。

 あの少女が常軌を逸した力を持つのは、もはや疑いようがない。国が抹殺を試みようとするのも、当然なほどに。

 今、士織の目の前に広がる惨状が、それを如実に語っている。

 

「・・・・・・オリ」

 

 だがそれと同時に、彼女がその力をいたずらに振るう、狂気的な怪物だとは、到底思えなかった。

 

「・・・・・・い・・・・・・オリ」

 

 そんな少女が、士織が大嫌いな鬱々とした顔を作っている。その事が、士織にはどうしても我慢ならなかったのである。

 

「おい、シオリ」

 

 ・・・・・・まぁ、そんなことばかり考えてたものだから、こうして校門前まで歩く羽目になってしまったのだが。

 

「・・・・・・無視をするなっ!」

 

「──え?」

 

 視界の奥──通行止めになっているエリアの向こうから、こんなところで聞こえるはずのない声が、響いてきた。

 まさか、と思いつつも、士織は自分の記憶と今し方聞こえてきた音声を照合しながら、振り返ろうとして。

 

「──あ」

 

 硬直した。

 その視線の先。瓦礫の山の上から、明らかに街中に似つかわしくないドレスを纏った少女が、こちらを覗いていた。

 

「とう、か?」

 

「ようやく気づいたか、ばーかばーか」

 

 そう、士織の頭か目がおかしくないのであれば、その少女は間違いなく、士織が昨日学校で遭遇した精霊だった。

 すると、顔を不満げな色に染めた十香は、瓦礫の山を蹴り、邪魔な看板などを蹴り倒しながら、こちらにやって来た。

 

「な、何してるの、十香・・・・・・」

 

「・・・・・・ぬ? 何とはなんだ?」

 

「なに、って、どうしてこんなとこにいるのってことで・・・・・・」

 

 士織は辺りに視線を送る。そこにはありふれた、何気ない天宮市の日常が広がっていた。

 つまり、誰もシェルターに避難していないどころか、警報すら鳴っていないということだ。

 なら、〈フラクシナス〉やASTも感知出来ていないと言うことになる。

 

「なんでと言われてもな」

 

 そんな士織の困惑を他所に、当の本人はさっぱりわからないといった様子で、腕組みをする。

 

「おまえから誘ったのだろう、シオリ。そう、デェトとやらに」

 

「ふぇ!?」

 

 そんなことを言われるとは思わず、士織はすっとんきょうな声を上げてしまう。

 

「ぬ? どうしたのだシオリ? 顔が赤いぞ?」

 

「そ、そんなことないよ・・・・・・」

 

「そうか。それよりもシオリ、早くデェトだ。デェトデェトデェトデェト」

 

 士織が羞恥をこらえようとするのも構わず、十香が独特なイントネーションで、デートデートと連呼する。

 

「ちょっ、わかったから、そんなデートデート言わないで!」

 

「ぬ、なぜだ? ・・・・・・はっ、まさかシオリ、私が意味を知らないのをいいことに、口にするのもおぞましい卑猥な言葉を教え込んだのか?」

 

 今度は十香が頬を赤く染め、眉をひそめた。

 

「そ、そんなことないよ! いたって健全な言葉だから」

 

 そう士織は答えた。

 が、デートとは時に不健全な言葉になることを、(うぶ)な彼女は知らなかった。

 とその時、ふと視線を感じた。

 そちらに目を向けてみると、先ほどまで立ち話をしていただろう奥様方が、微笑ましげにこちらを見ていた。

 若干一部、十香の奇妙な格好を訝しむような視線を送っていたが。

 

「ぬ?」

 

 十香もそれに気づいたらしく、士織を盾にして目を鋭くする。

 

「・・・・・・シオリ、なんだあいつらは。敵か? 殺すか?」

 

「え・・・えぇ!?」

 

 なんの脈絡もなく物騒なことを口走った十香に、士織は戦慄する。

 

「ど、どど、どうしてそうなるの!? ただの奥様方だよ」

 

「シオリこそ何を言っている。あの爛々と輝く目・・・・・・まるで猛禽のようではないか。私を狙っているとしか思えない。・・・・・・放置しておいてはあとあと厄介なことになりそうだ。早めに仕留めておくのが吉と思うが」

 

 確かに目を輝かせてはいたが、あれは新しい話の種を見つけたときの目だろう。士織は苦笑する。

 

「大丈夫だよ。言ったでしょ? あなたを襲う人間なんてそうそういないんだから」

 

「・・・・・・むう」

 

 十香は未だ警戒を滲ませながらも、取り敢えずは今にも飛びかかりそうな気勢を収めた。

 

「まあいい、それでシオリ、そのデェトとやらは──」

 

「あ、そ、その前に十香。ちょっと場所変えよっかー」

 

 そう言って、士織は半ば無理矢理十香の手を連れて歩き出した。さすがにこれ以上、恥ずかしげもなくデートデートと連呼されてはかなわない。

 

「おい、シオリ、どこへ行く!」

 

 士織に連れられるまま、十香が不満そうな声を上げた。

 それには取り合わず、士織は十香を引き連れ、人けのない路地裏に入ると、ようやく息を吐いた。

 

「やっと落ち着いたか。まったくおかしな奴め、一体どうしたと言うんだ」

 

 十香が半目になって、やれやれといった風情で言ってくる。一体誰のせいだと思っているのやら・・・・・・

 と、色々不満はあるが──

 

「十香、昨日あのあと何してたの?」

 

 士織の口から最初に出たのは、それだった。

 十香は少し、憮然とした様子になりながら唇を動かした。

 

「別に、いつも通りだ。通らぬ剣を振るわれ、当たらぬ砲を撃たれ。──最後は私の身が自然と消えて終いだ」

 

「・・・・・・消える?」

 

 士織は首を捻った。そう言えば、琴里たちもそんなような表現をしていた気がするが、どういう意味なのだろう。

 

「この世界とは別の空間に移るだけだ」

 

「そ、そんなところがあるんだ・・・・・・それってどんなところなの?」

 

「よくわからん」

 

「・・・・・・え?」

 

 十香の答えに、士織は眉を寄せた。

 

「あちらに移った瞬間、自然と休眠状態に入ってしまうからな。辛うじて覚えているのは、暗い空間をふよふよと漂っている感覚だ。──私にしてみれば眠りにつくようなものだな」

 

「それじゃあ、目が覚めたらこの世界に来るってことなの?」

 

「少し違う」

 

 十香は首を振るう。

 

「そもそも、いつもは私の意思とは関係なく、不定期に存在がこちらに引き寄せられ、固着される。まあ、強制的にたたき起こされているような感覚だな」

 

「・・・・・・っ」

 

 士織は目を見開いた。

 もし十香の話が本当のことなら、空間震と言うのはまさしく事故のようではないか。

 精霊に責任はなく、その所在をいくら求めても意味はない。これではあまりにも理不尽だ。

 だがそこで、士織は十香の言葉に引っかかりを覚えてた。

 

「・・・・・・いつもは? ってことは、今日はいつもと違うの?」

 

「・・・・・・っ」

 

 十香はピクリと頬を動かすと、口をへの字に曲げて目を伏せた。

 

「ふん、し、知るか」

 

「ちゃんと答えて、十香。もしかしたら大事なことかもしれないの」

 

 士織は追いすがる。

 それもそうだろう。もし十香が今日、自らの意思でこちらの世界に来ていたとしたら、それが空間震の起こらない原因なのかもしれないのだ。

 だが十香はなぜか頬をほんのり桜色に染めながら、視線を険しくみせた。

 

「しつこいぞ。もうこの話は終いだ」

 

「で、でも──」

 

 と、士織が言いかけた時。十香がダンッと片足を地面に叩きつけた。十香の踏んだアスファルトが一瞬発光したかと思うと、そこから放射状の光の線が走っていく。

 

「きゃッ!?」

 

 思わず目をふさぐと、どこかからバチッと言う音が聞こえた。

 

「──いいから、早くデェトとやらの意味を教えろ」

 

「わ、わかった・・・・・・」

 

 有無を言わせぬ形相に、仕方なく士織は了承した。これ以上追及すれば、昨日の二の舞になりかねない。

 士織は口を開いた。

 

「えっと・・・・・・男女や仲のいい人同士が、一緒に出かけたり遊んだりすること・・・・・・だったはず」

 

「それだけか?」

 

 拍子抜けしたように、十香が目を丸くする。

 

「う、うん。・・・・・・多分」

 

 そんなことを言われても困る。だって士織もデートなんてしたことがないのだから。まあ、漫画やドラマなどの知識はあるが、所詮は知識。加えて同姓同士のデートにおいては知識すらない。

 しかし十香は腕組みしてむうと唸った。

 

「・・・・・・つまりなんだ、昨日シオリは、私と2人で遊びたいと言ったのか?」

 

「まあ、そうなる・・・・・・のかな」

 

 気恥ずかしそうに頬をかきながら、答える士織。

 

「そうか」

 

 十香は少し表情を明るくしながら頷くと、踵を返し、路地裏を出ていこうとした。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ十香──」

 

「なんだ、シオリ。遊びに行くのだろう?」

 

「え? ・・・・・・いい、の・・・・・・?」

 

「おまえが行きたいと言ったのではないか」

 

「そ、それはそうなんだけど・・・・・・」

 

「なら早くしろ。気を変えるぞ」

 

 言って、十香が進行を再開する。

 と、そこで士織は致命的な事に気づいた。

 

「ま、待って十香! その格好はダメだよ!」

 

「なに?」

 

 士織が言うと、十香はさも意外といったように目を丸くした。

 

「私の霊装のどこがいけないのだ。これは我が鎧にして領地。侮辱は許さんぞ」

 

「その格好だと目立ちすぎちゃうよ。ASTだってどこでみてるかわからないんだから」

 

「ぬ」

 

 さすがにそれは面倒だと思ったのか、十香が嫌そうに口を曲げる。

 

「ではどうしろと言うのだ」

 

「そりゃあ、着替えなきゃいけないんだけど・・・・・・」

 

 士織は眉を寄せた。今から家にかえって自分の服を持ってくるのもいいが、十香から目を離すのもあまりよくないだろう(それにあのバストが収まる下着があるわけがない)。かといって店に連れていくとなると、必ず人目についてしまう。

 そうやって士織が頭を悩ませていると、十香が焦れたように唇を開いてきた。

 

「どんな服ならばいいのだ? それだけ教えろ」

 

「え? じゃあそれなら・・・・・・」

 

 言って、士織は自分の身に付けている制服を摘まんで見せる。

 

「こんな服なら大丈夫だよ」

 

「ぬ? それならばいいんだな、わかった」

 

 そう言うと、指をパチンと鳴らした。

 すると、十香の身を包むドレスが、みるみるうちに溶け消えていく。かと思えば、今度は光の粒子のようなものが十香の身体にまとわりつき、別のシルエットを形作っていた。

 数秒後には、士織と同じ来禅高校の制服を着た十香の姿があった。

 

「な、ななな、なにそれ!?」

 

「そう騒ぐな。霊装を解除して、新しく服を(こしら)えただけだ。まあ視認情報だけだから、細部は異なっているかもしれないが、問題ないだろう」

 

 ふふんと腕組みし、十香が言ってくる。

 

「そんなこと出来たんだ・・・・・・」

 

 士織は唖然とした様子で、十香の説明を聞いていた。

 

「そんなことより、どこへ行くのだ?」

 

「え? えっとそれは──」

 

 士織は耳に手を当てようとして・・・・・・止める。

 そうだ、今はインカムを着けていなかったのだ。これではアドバイスを求めることは出来ない。

 完全な2人っきり。

 

「と、取り敢えずここから出よっか」

 

 士織はいい案が浮かばず、仕方なく歩き始める。

 

「ん、それもそうだな」

 

 言って、十香も士織に続いて歩き出す。

 琴里以外と2人並んで歩いたのなんて、きっとこれが初めてだろう。

 チラッと隣の少女を見やる。

 ルンルンと、今にも小躍りしそうなほどの笑顔を携えたその少女は、剣の一振りで街を破壊するような怪物には、到底思えなかった。

 と、路地を抜け、様々な店が軒を連ねる大通りに出たところで、十香が眉をひそめ、キョロキョロと辺りを窺い始めた。

 

「・・・・・・っ、な、なんだこの人間の数は。総力戦か!?」

 

 先程までとは桁違いの人や車の量に驚いたらしい。十香が全方位に注意を払いながら忌々しげな声を発した。

 ついで両手の指先全てに小さな光球を出現させる。

 士織は慌ててそれを止めにかかる。

 

「だ、大丈夫だから! 誰も十香の命なんて狙ってないから!」

 

「・・・・・・本当か?」

 

「本当だよ」

 

 士織が言うと、十香は油断なく辺りを見回しながらも、取り敢えず光球を消した。

 すると、ふいに警戒に染まっていた十香の顔が緩み始めた。

 

「ん・・・・・・? おい、シオリ。この香りはなんだ」

 

「香り?」

 

 士織は目を閉じ、クンクンと辺りの匂いを嗅いでみると、確かに香ばしいバターのような香りが漂っているのがわかった。

 

「うーん、多分あそこからだと思うよ」

 

 言って、右手にあったパン屋さんを指さす。

 

「ほほう」

 

 十香はそう言うと、目を輝かせながらジッとその方向を見つめた。

 

「・・・・・・十香?」

 

「ぬ、なんだ?」

 

「あそこ、入ってみる?」

 

「・・・・・・」

 

 士織が訊ねると、十香は忙しなく指を動かしながら、口をへの字に曲げた。その時、ぐーぎゅるるる、と絶妙なタイミングで十香のお腹が鳴った。

 精霊もお腹は空くらしい。

 

「シオリが入りたいのなら入ってやらないこともない」

 

 若干頬を赤らめながら言う十香。意地を張っているのだろうが、士織にはブンブンと左右に揺れる尻尾のようなものが幻視できた。入りたいという意思がまる分かりである。だから、からかいたくなってしまうのは必然のことだろう。

 

「うーん、どうしよっかな~。私はそこまで行きたい訳じゃないしなぁ~チラッ

 

 日頃の鬱憤を晴らすかのように、士織はそんなことを言い始めた。

 

「そ、そうなのか・・・・・・?」

 

 案の定、十香は先程までとはうって変わり、まるで捨てられた子犬の如く、シュンと萎れてしまう。

 士織は更に追撃する。

 

「でも今日はパンが食べたい気分だしな~。やっぱり入ろうかなぁ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 士織が入りたいということをそれとなく示唆すると、十香は再び目を煌めかせ始めた。

 更に揺さぶりをかける。

 

「うーん、どうしよっかな~。入ろうかな~止めようかな~」

 

「ど、どっちにするのだシオリ! ハッキリせぬか!」

 

 士織の煮え切らない態度に、怒っているのか焦っているのか、十香が詰め寄りながら声を荒げ始めた。

 

「プッ、フフフ」

 

「シオリ?」

 

「アハハハ、十香ってば、それだと入りたいのがバレバレだよ」

 

「な!?まさか、私を誑していたのか!?」

 

士織は耐えきれず、笑いが漏れてしまう。そこで十香もようやく自分が遊ばれていることに気がついたようだ。

 

「よ、よくも私をコケにしてくれたな!」

 

「ご、ごめん。十香の反応があんまりにも面白いからつい・・・・・・」

 

「ふん、もうシオリのことなど知らぬ!ばーかばーか」

 

「ごめんってば十香。ほら、あそこに行きたいんでしょ?ちゃんと連れて行くから機嫌直して」

 

「ふん、勝手にしろ」

 

そう言いつつも、自然と足がパン屋の方へ向かっている十香。

素直じゃないなぁ、と思いつつも士織は十香の後に続いた。

 

 

 

 ──その様子を見つめる、怪しげな少女の影に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 




あと1話で終わらせたいけど・・・・・・無理かな~
頑張ってみますが、多分あと2話くらいかかると思うので、どうか暖かい目で見守って下さいm(_ _)m
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