デート・ア・ライブ 士織リリィデイズ   作:ラリストテレス

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プリンセスに約束のキスを

 公園から離れた、宅地開発中の台地。

 鳶一折紙は、随意領域(テリトリー)で強化された視力で、崩れ落ちる士織の影を目にした。

 

 朝、休校のために、仕方なく帰路についた折紙だったのだが、その途中、五河士織が女子生徒と並んで歩いているのを目撃したのだ。

 由々しき事態ではあったが、何よりその少女が、精霊と酷似していたこともあり、彼女らを尾行していた。

 

 観測機を使った結果は

 故にこうして、CR-ユニットを纏い、狙撃による精霊の討伐機会を伺っていたのだ。

 が、

 

「────」

 

 折紙は、対精霊ライフル〈C C C(クライ・クライ・クライ)〉を構えたまま、固まっていた。

 

完璧に狙いを定めていた。

 外れる要素など微塵も無かった。

 仕留められるはずだった

 

 ──士織が突き飛ばさない限り。

 

 そして、折紙の放った弾は、寸分の狂い無く、士織の身体に吸い込まれていった。

 微かに引き金を引いた指が震える。

 自分は、この手で、士織を──

 

「──折紙ッ!」

 

「──っ」

 

 隣にいる上司──日下部燎子(くさかべりょうこ)の声で我に返る。

 

「悔いるのは後にしなさい! 後で死ぬほど責めるから! だから──」

 

 言って燎子は、戦慄した表情で公園を睨む。

 

「生き残ることだけ、考えなさい・・・・・・ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「シオリ・・・・・・?」

 

 名を呼ぶも、返事はない。

 辺りに人はいない。あるのは、腹に風穴の開いた、亡骸だけだ。

 なんだ、これは。

 

「シ──、オ、リ」

 

 十香は士織の頭の隣に膝をつくと、そっと頬をつついた。

 勿論、反応はない。

 数瞬前まで、十香に差し伸べられた手は、満遍なく血に濡れていた。

 飾られたヘアピンにも、赤黒い斑点が、浮かんでいる。

 

「ぅ、ぁ、あ、あ────」

 

 頭が状況の理解を始める。

 あたりに立ちこめる焦げ臭さには覚えがあった。

 いつも十香を殺そうと襲ってくるあの一団──ASTのものだ。

 研ぎ澄まされた一撃は、恐らく──あの女。

 いかに十香とはいえ、霊装が無ければただでは済まなかっただろう。まして、普通の人間である士織がそんな攻撃を受けてしまったなら、きっと・・・・・・

 

「────」

 

 十香は手元のブレスレットを外すと、そっと、士織の手に乗せた。そして、未だ虚空を眺める双眸(そうぼう)を、ゆっくりと閉じさせてやった。

 次いで、着ていた制服の上着を脱ぐと、優しく亡骸の上に被せる。

 

 ──嗚呼(ああ) 、嗚呼

 

 駄目だった。やはり、駄目だった。

 一瞬──十香は、この世界で生きられるかもしれないと思った。

 士織がいてくれたら、なんとかなるのかもしれないと思った。

 すごく大変で、難しいかもしれないけど、できるかもしれないと思った。

 

 

 だけれど。

 

 

嗚呼、だけれども

 

 

 やはり、駄目(・・)、だった。

 この世界は──やはり十香を否定した。

 

 

 それも、考えうる限り、最低最悪の手段を以て──ッ! 

 

 

「──神威霊装・十番(アドナイ・メレク)・・・・・・ッ

 

 のどの奥から、その名を絞り出す。霊装。絶対にして最強の、十香の領地(・・)

 

 瞬間、世界が、()いた。

 

 周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の身体に絡みついて、荘厳なる霊装を形作る。

 そして、光輝く膜がその内部やスカートを彩り──災厄は降臨した。

 

 十香は、徐に立ち上がると、目線を移した。

 山が削り取られたかのような平な高台に、士織を撃った人間がいる。

 

 殺すに足りてしまった(・・・・・・・・・・)人間が、いる。

 

 十香は地面に踵を突き立てた。

 瞬間、そこから巨大な剣を収めた玉座が現れる。

 十香は、玉座の肘掛けに足をかけ、背もたれから剣を引き抜いた。

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 のどを震わせる。

 

 

 

 

あああああああああああ

 

 

 

 

 天に響くように。

 

 

 

 

ああああああああああああああああ───ッ!! 

 

 

 

 

 地が揺れ動くように。

 頭が痺れるような、自我を摩滅させるような感覚。

 

よくも

 

 烈火の如く、猛り狂う。

 

よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも

 

 十香は剣を握る手に力を込めると、視線の先まで距離を殺した(・・・・・・)

 

「な──ッ!?」

 

「────」

 

 瞬く間もなく、十香は今し方見ていた高台に移動していた。

 目の前には、驚愕に顔を染める女と、悄然(しょうぜん)とした顔の少女がいる。

 憎い、憎いその(かお)を見ると同時、十香は吼えた。

 

鏖殺公(サンダルフォン)──最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)!! 

 

 刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。

 そして、破片が剣にまとわりつき、そのシルエットをさらに大きく変えていく。

 全長10メートルはあろうかという、長大に過ぎる大剣。しかし十香はそれを軽々と振りかぶると、2人女めがけて振り下ろした。刀身から極光が煌めくと、一瞬にして太刀筋の延長である地面を這っていく。

 次の瞬間、凄まじい爆発があたりを襲った。

 

「な・・・・・・ッ!」

 

「────く」

 

 咄嗟にかわした2人が、戦慄に染まった声を上げる。

 それも当然だ。十香はたったの一撃で、台地を2つに両断して見せたのだから。

 

「──嗚呼、嗚呼。貴様だな、貴様だな」

 

 怒れる姫君は、静かに唇を開く。

 

「我が友を、我が親友を、シオリを殺したのは、貴様だな」

 

 十香がそう言うと、ほんの少しだが、少女が初めて表情を歪めた。

 だが、そんなことはどうでもいい。

最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】を顕現させた十香に(かな)うものなど、この世に存在しないのだから。

 真っ黒に淀んだ瞳で少女を見下ろしながら、冷静に(・・・)狂う(・・)

 

 

「──殺して(ころ)して(ころ)し尽くす。死んで()んで()につくせ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「司令・・・・・・ッ!」

 

「わかってるわよ。騒がないでちょうだい。発情期の猿じゃあるまいし」

 

 琴里は口の中で飴を転がしながら、狼狽した様子の部下に言葉を返した。

 しかし、部下の動揺もわからなくはない。

 画面の向こうでは、これまでの十香が可愛く見えるほどの、凄惨な破壊劇が繰り広げられている。加えて、〈ラタトスク〉の最終兵器であったはずの、五河士織の突然の死。

 琴里たちは、考えうる限り最悪の状況に立たされたのだから。

 

 しかし、

 

「ま、ちょっと優雅さが足りないけど、騎士(ナイト)としては及第点かしらね。今のでお姫様がやられてたら目も当てられないかったわ」

 

 琴里は、 さほど深刻そうな調子も見せずにそう言って、キャンディ棒を動かした。

 そんな琴里に、クルーたちは戦慄の視線を向ける。無理もない。今まさに姉が死んだばかりなのだ。この場で泣き崩れたとしても、不思議ではなのに──

 それでも、琴里は冷静に指示を出す。

 

「いいから自分の作業を続けなさい。士織が、これで終わりな訳がないでしょう?」

 

 そう。ここからが、彼女本当の仕事なのだ。

 

 

「し──ッ、司令! あれは・・・・・・!」

 

 と、艦橋下段の部下が、公園を映すモニターを見て、驚愕の声をあげる。

 

「──来たわね」

 

 ニヤリと口を歪ませる。

 画面には、公園に横たわり、制服の上着をかけられた士織の姿が映されているのだが────

 突如、その制服が燃えだしたのだ。

 いや、違う。先程抉られた、士織の傷口が、燃えている。

 

「き、傷が────」

 

 クルーたちが食い入るように見つめるなか、燃え上がる炎は徐々にその勢いを衰え、やがて傷1つない、士織の身体が現れた。

 さらには──

 

 

『────ん』

 

 息絶えたはずの士織が、

 

『ん・・・・・・・・・・・・ぁ熱っつぅぅッ!』

 

 と、未だお腹に燻っている火をみて、跳ね起きた。

 慌てて火を消そうと、手で払いのけている。

 

『て──あ、あれ? 私・・・・・・どうして』

 

 艦橋内が、静寂に包まれる。

 

「・・・・・・し、司令、これは──」

 

「言ったでしょ。士織は一回死んだって、すぐにニューゲームできるって」

 

 事も無げに返す琴里。

 クルーたちは一斉に訝しげな視線を送るが、とりあえず無視だ。

 

「すぐ回収して。──彼女を止められるのは士織だけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ──意味がわからない。

 士織は自身の腹を触りながら、息を呑む。

 着ていたブレザーとワイシャツにはぽっかり穴が開いている。

 だが、そんな恥ずかしげな格好も、今はどうでもいい。

 

「私──何で、生きてるの・・・・・・?」

 

 確かにあのとき(・・・・)、身体が貫かれたはずだ。その証拠に、穴の開いた服と、地を染める赤い花が残っている。

 夢とは思えない。

 

「──ん? これは・・・・・・ッ!」

 

 右手に違和感を感じ、それとなく視線を移す。そこには、十香が身につけていたはずの月のブレスレットが、虚しく取り残されていた。

 

「そう言えば──十香は・・・・・・!」

 

 あの攻撃は間違い無く十香を狙ったものだ。

 一体十香はどうなったのか。

 その姿を探そうとして────

 瞬間、士織を凄まじい爆音と衝撃波が襲った。

 

「きぁ・・・・・・ッ!?」

 

 不意ことに力が入らず、風に煽られるようにして転がされる。

 

「な、何よ今の・・・・・・!」

 

 砂埃が舞う中、そちらに目を向けようとして──士織は身体を硬直させた。

 目に映る光景が、士織が意識を失う前とは、まるで違っていたのである。

 そこにあったはずの台地が、まるで鋭い刃物で切り裂かれたかのように、鋭利な断面をいくつも覗かせていた。

 

「あれって・・・・・・」

 

 と、呆然と呟いた瞬間。

 

「ふぇ・・・・・・ッ!」

 

 士織は、自身から重さがなくなるのを感じた。

 この感覚には覚えがある。〈フラクシナス〉の転移装置だ。

 が、それを認識した時にはすでに、士織の視界は、公園から〈フラクシナス〉へと一変していた。

 

「こちらへ!」

 

 と、そこに控えていたクルーが、大声を上げてくる。

 

「は、はい・・・・・・」

 

 少し混乱しながらも、士織は艦橋へと赴いていった。

 そして到着するなり、

 

「お目覚めの気分はいかが、士織」

 

 艦長席に腰掛け、チュッパチャプスの棒をピコピコとやりながら、琴里が言ってくる。

 

「・・・・・・琴里」

 

 聞きたいことは山ほどある。が、今は──

 

「・・・・・・一体何が起きてるの?」

 

「ん、士織がASTの攻撃でやられて、キレたお姫様がASTを

 殺しにかかってるわ」

 

「な・・・・・・ッ」

 

 士織がスクリーンに目を移すと、大剣を振るって山を切り刻む十香と、応戦するASTの姿があった。

 いや──応戦、なんて呼べたものではなかった。

 言うなればそれは──鏖殺。

 ASTの接近すら許さず、泣き腫らした咆哮を上げ、剣を振り下ろす。

 ただ一方的で、圧倒的で、絶対的な殺戮の嵐。

 

「完全にキレてるわ。よっぽど士織を殺されたのが許せないのね」

 

 琴里の言葉に、士織は改めて、自分が一度死んだことを痛感する。どうやら、後できっちり問いたださねばならないようだ。

 

「さて士織。ここからが本題だけど」

 

「う、うん・・・・・・」

 

「ウチとしても、精霊関係で人的被害が出るのは勘弁願いたいのよ」

 

「・・・・・・ッ、そんなの当たり前でしょ!」

 

 士織が叫ぶと、琴里が楽しそうに目を細めた。

 

「オーケイ、上出来よ騎士(ナイト)様。──それじゃあいくわよ。お姫様を止めにね」

 

 琴里はそう言って士織から視線を外すと、声を高らかに張り上げる。

 

「〈フラクシナス〉旋回! 戦闘ポイントに移動! 誤差1メートル以内に収めなさい!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 操舵手と思し数名のクルーが、一斉に声をあげる。

 次いで、重苦しい音とともに、〈フラクシナス〉が移動を開始した。

 

「こ、琴里!」

 

「ん、何よ士織」

「十香を止めるって──本当にそんなことできるの!?」

 

「何言ってんの? できるか、じゃなくてやるのよ。士織が」

 

 琴里が盛大に眉を上げ、呆れたような顔を作った。

 

「わ、私ぃ!?」

 

「当たり前でしょ。いつまで日和ってんのよ──士織以外には不可能よ」

 

「で、でも、一体どうやって・・・・・・ッ!」

 

 士織が困惑した様子で尋ねると、琴里は怪しい笑みを浮かべながら、

 

「知らない? 呪いのかかったお姫様を助ける方法なんて、1つしかないじゃない」

 

 言って、すぼめた唇でキャンディにチュッ、と口づけた。その途端、士織は自身顔が青くなるのを感じた。

 

「ま、ままままままさか・・・・・・」

 

「そのまさかよ。話が早くて助かるわ。というわけでこれから──」

 

「ちょ、ちょちょちょっとまって! ストップ!」

 

「何よ? まだ何かあるわけ?」

 

「だって! 私初めてなんだよ! いきなりそんなこと言われても困るって言うか・・・・・・なんて言うか・・・・・・その」

 

 気まずそうに目を伏せる士織。

 だがこうなるのも無理はない。

 花も恥じらう、うら若き乙女である士織にとって、それ(・・)は深い意味をもつ。軽んじることなど出来ないのだ。

 しかし──

 

「別にいいじゃない。女同士なんだからノーカンよ、ノーカン」

 

 妹はそれを、平然として切り捨てた。

 

「そ、そんなぁ~!」

 

「それしか方法がないの。いい歳して愚図るんじゃないわよ。まったく」

 

「それしか方法がないって・・・・・・ッ! そもそもそんなことで止められるわけが──」

 

「アーハイハイ。言いたいことはわかったからもう結構。連れてって」

 

「「はッ!」」

 

 尚も口ごたえする士織だったが、どこからともなく屈強な女が2人現れ、士織の両手を拘束した。

 そのまま、士織を引きずっていく。

 

「え? あ、ちょっ、琴里まだ話しは終わって──!」

 

「ハイハイ。とりあえず覚悟決めていってらっしゃい」

 

 琴里の無情な言葉を耳に、艦体下部に位置するハッチに連れてこられた士織は、

 

『幸運を』

 

 必死の抵抗虚しく、空に突き落とされた。

 

「う、うそでしょぉぉおおおおおお──ッ!?」

 

 凄まじい烈風が襲い、士織は夕空を舞う。

 失禁してしまいそうな浮遊感。もう、なんにもコワクナイ。

 とー意識が飛びそうになる恐怖の中、士織は視界の端に1つの影を見つけた。今まさに、剣を振り下ろそうとする最中のだ。

 

 正直、琴里の言うことは信じられない。けど、この状況で馬鹿なことを言うははずはないだろう。ならば一か八か、やるしかない。

 それに──

 

(絶対助けるって決めたから)

 

 やけくそだ。どうなろうと知らない。とにかく、助ける! 

 覚悟を決めた士織は、ぶれまくる視界の中、その少女を捉えた。

 そして。

 

 

 

十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ──ッ!! 

 

 

 

 力の限り声を張り上げ、その名を呼んだ。

 そしてそのまま、十香めがけて落ちていく。

 

「────」

 

 十香が、士織に気付いてか、長大な剣を振りかぶったまま、顔を向ける。

 瞬間、その姿を捉えるやいなや、落下中の士織めがけて飛びたち──抱き止める。

 

「シ・・・・・・オリ・・・・・・?」

 

 十香と目が合う。

 頬と鼻の頭は真っ赤で、目はぐしゃぐしゃ。せっかくの可愛い顔も、これでは台無しだ。

 

「シオリ・・・・・・なのか?」

 

 まだ状況が理解できないような様子で、十香が呟やく。

 

「本当に、シオリ、なのか・・・・・・?」

 

「うん・・・・・・多分、そうかな」

 

 士織が言うと、十香は唇をふるふると震わせた。

 

「シオリ、シオリ、シオリ・・・・・・っ!」

 

「うん、十香、私はここに──」

 

 と、言いかけたところで、士織の視界を凄まじい光が遮る。十香の剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒な輝きを放っていたのだ。

 

「────十香、これは・・・・・・」

 

「ッ・・・・・・! しまった・・・・・・! 【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】の制御を謝った・・・・・・! どこかに放出するしかない・・・・・・!」

 

「ど、どこかにってどこ!?」

 

「──────」

 

 十香は無言で、地面の方を見た。

 つられて目をやれば、そこには今にも息絶えそうな折紙の姿が見える。

 

「・・・・・・ッ! 十香、あなた・・・・・・っ! 絶対ダメ、あっちに撃っちゃ絶対ダメ!」

 

「で、ではどうしろというのだ! もう臨界状態なのだぞ!」

 

 言っている間にも、十香の握る剣はあたりに黒い稲妻を撒き散らしていた。その一撃一撃が、まるで機銃掃射のように、連続して抉る。

 やるしか、ないのか。

 意を決して、士織は十香を見つめる。

 

「・・・・・・十香。あ、あのね、落ち着いて聞いて」

 

「なんだ! 今はそれどころでは──」

 

「それを! 何とかする方法があるっ! ・・・・・かも

 

「なんだと!? 一体どうするのだ!?」

 

「え、ええと。その──」

 

 だが、士織は、すぐにはその言葉を口にできなかった。

 だって言ったことは、到底納得できるものではないし、あまりに支離滅裂で根拠もない──

 

「早くしろ!」

 

「・・・・・・ッ!」

 

 士織はもう、腹を決めた。

 半ば投げやり気味に口を開くと、

 

「そ、その・・・・・・っ! 十香! 私と、キッ、キスして下さい・・・・・・ッ!」

 

「──何!?」

 

 十香が眉根を寄せてくる。

 それはそうだろう。この非常時にいきなりキスを求めたのだ。しかも、同性相手に。何かの悪ふざけととられても仕方あるまい。

 

「ご、ごめん十香。今のは忘れて。それより他に──」

 

「キスとはなんだ!?」

 

「え・・・・・・?」

 

「早く教えろ!」

 

「・・・・・・っ、ええと、キスっていうのは、こう、唇と唇を合わせて──」

 

 と、士織の言葉の途中で。

 ────十香が躊躇いもなく、桜色の唇を、士織の唇に押し付けてきた。

 

「────────ッ!?」

 

 唐突な出来事に、士織は一瞬思考が止まり、声にならない声をあげた。

 だって女同士なのに、十香の唇が柔らかくてしっとりしてて甘い匂いまでして、しかもそんなに嫌じゃなくてちょっと気持ちいいのだ。ヤバい。思考が纏まらない。

 このままでは、と思ったその時、

 

 ──天に(そび)えていた十香の剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶けだしたのだ。

 次いで、十香の見に纏っていたドレスやスカートが、弾けるように消失した。

 

「な──」

 

 十香が狼狽に満ちた声を発する。

「む、むぅ・・・・・・ッ!?」

 だがどちらかというと、驚いてるのは士織の方だ。

 十香がキスをしながら喋るものだから、唇がなんとも形容しがたい感覚を伝えて来るのだ。

 ダメだ! このままでは脳のキャパを越えてしまう! 

 そう思った時──十香の身体から力が抜け、地面へと落下し始めたのだ。

 

 少しずつ、地面へと向かう2人。

 十香の霊装が光の粒となり、その軌跡を彩っていた。

 それは夕陽と相まって、とても幻想的な光景だったことだろう。

 だが、士織にそれを認識するほどの余裕はなかった。

 未だ唇から溢れ出る情報を、何とか抑えている。

 

 やがて2人は地面に着地し、

 

「ぷは・・・・・・っ!」

 

 まるで息継ぎするかのように、十香が唇を離した。

 

「────」

 

「────」

 

 何かねば、と口を開くも、何を言っていいかもわからず、再び閉口する士織。

 確か、よくある創作では『美味しかったよ』とか『気持ち良かったよ』なんて言うのだろう。

 

 しかし、そんなの無理だ! 

 未だ恋愛未経験の士織には、到底言えることではない(出てくる言葉がそれ(・・)なのも正直どうかと思うが・・・・・・)。

 

 と、

 

「・・・・・・シオリ」

 

「! ハ、ハイ!」

 

 十香が、口を開いた。

 

「その・・・・・・あれだな。キスというのは、気持ちいいものだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

い、言ったぁぁぁぁぁぁぁ!  

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふぇ!?」

 

「む? どうしたのだ、シオリ。顔が赤いぞ」

 

「あ、えっと・・・・・・何でもありません・・・・・・」

 

 まさか、自分の考えていることをそのまま言われるとは思わず、士織はすっとんきょうな声をあげてしまった。

 

「──って十香! あなた裸じゃん!」

 

 目を伏せようと視線を移したが、士織はそこで、ようやく十香が全裸であることに気付いた。

 

「そ、そうだが・・・・・・あまり見でない、馬鹿者・・・・・・ッ!」

 

 キスの意味を知らない割には、人並みの羞恥心はあるようだ。十香が頬を染めて、こちらを睨む。

 

「ご、ごめん」

 

「・・・・・・まあ、シオリになら見せても構わないが」

 

「え?」

 

「ッ! な、何でもない!」

 

 問い返すも、十香は答えをはぐらかす。

 と、十香は突然、士織に抱きついてきた。

 

「ちょっ、十香! 急にどう──」

 

「隠す場所がないのだ。・・・・・・こうするしか他にあるまい」

 

「た、確かにそうかもしれないけど・・・・・・」

 

 色々と当たるのだ。

 胸とか、胸とか、胸とか・・・・・・主に胸とか。

 だが無闇に動くこともできず、そのまま固まる。

 

 しばらくして。

 

「・・・・・・シオリ」

 

 十香が、消え入りそうな声を発した。

 

「なに?」

 

「また・・・・・・、デェトに連れていってくれるか・・・・・・?」

 

「ええ。どこへでも、連れてってあげる」

 

 士織は、力強く頷いた。

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