デート・ア・ライブ 士織リリィデイズ   作:ラリストテレス

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今回は結構短めです。


一難去ってまた一難?いえ、多難です

「・・・・・・ふはぁ」

 

 あの一件から土日を挟んで、月曜日。

 復興部隊の手によって完璧に修復された校舎の中で、士織は気の抜けた息を吐き、ぼうっと天井を眺めていた。

 

 ──あの日。

 

 あれからというもの、すぐに気を失ってしまった士織が目を覚ますと、またも〈フラクシナス〉の医務室に寝転がされていた。

 そしてその後はメディカルチェックやらなんやらを受けたりして、十香の姿を見ることは出来なかった。

 

「・・・・・・はぁ」

 

 十香に出会ってから、目まぐるしく過ぎた10日間が嘘のように、ひたすらに何もない休日は、正直──何もする気が起きなかった。

 だが・・・・・・1つだけ、頭から離れなかったことがある。

 十香とキスを交わしたあの日。

 キスをした瞬間、十香の霊装が溶け消えたと同時に、自身の身体に、温かい物が流れてくるのを感じたのである。

 ──あれは、一体何なのか。

 

「────」

 

 無言で、唇に触れる。

 3日たっても色褪せることなく、あの日感触が、鮮明と思い出せた。

 ああ。キス、しちゃったのか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男ね」

 

「へ? ・・・・・・っ! 亜衣。いつからいたの?」

 

 急に話しかけられ、首の位置をもとに戻す。

 

「さっきからずっといたっての。それよりも・・・・・・士織。あなた彼氏出来たでしょ」

 

「な・・・・・・ッ! そんな訳無いでしょ!」

 

「いやいや。はぐらかそうったってそうはいかないよぉ。し・お・り・ちゃん」

 

「先程の顔は(まさ)しく、恋する乙女そのものだったからね」

 

「麻衣に美衣まで・・・・・・私そんな顔してた?」

 

「そりゃハッキリと」

 

「唇に触れながら、恥じらいに顔を染める少女と言えば」

 

「すなわち、恋する乙女」

 

「は、はぅ~」

 

 どうやら、さっきの姿を見られたらしい。

 確かに一見すればそれは、恋する乙女に見えても仕方のないことだろう。だが、それは士織にとって(・・・・・・)事実無根な以上、どうにかして誤解を解かねばなるまい。

 そう思って、口を開こうとした時。

 

 ガラガラガラ

 

 と、教室のドアを開ける音がひびき、士織は目を見開いた。

 なぜなら、あの鳶一折紙が、身体中包帯だらけにして登校してきたのだ。

 

「・・・・・・ッ!」

 

 さすがに息を詰まらせる。

 琴里の話では、顕現装置(リアライザ)を用いれば、大体の傷はすぐに治るとの話だったが。

 2日経ってもこれだけ包帯が巻かれているということは、相当酷い怪我だったことが伺える。

 折紙は教室中の注目を集めながら、頼りなげな足取りで、士織の目の前まで歩いてきた。

 

「と、鳶一さん。無事でよか──」

 

 士織が気まずげに言いかけたところで、視界からフッと、折紙が消える。

 よく見ると、深々と頭を下げていたのだ。

 

「ちょっ、鳶一さん!? 何やって──」

 

「ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

 士織は一瞬、何のことかと思ったが、恐らく先日のことを言っているのだろう。聞いた話によれば、十香を狙ったあの一撃は、折紙が放ったものだったらしい。

 だからこうして、それを詫びているのだろう。

 

「・・・・・・士織。あんた何したの?」

 

「え~と、したというか、されたというか何と言うか・・・・・・アハハハ」

 

 訝しげな視線を送る亜衣に苦笑いを浮かべる。

 とはいえ、ここで詳しい事情を説明する訳にもいかない。

 早々に事態を収集すべく、士織は折紙に向き直った。

 

「頭を上げて、鳶一さん。別に私は怒ってないから」

 

「────」

 

 頭を上げるよう促すも、折紙は未だ頭を下げたまま、動かない。

 それもそうだろう。普通なら、彼女は殺人者となっていてもおかしくない所業を犯したのだ。謝った程度では許されない。

 結果的に士織は生きていたが、折紙は自身の(あやま)ちを許すことが出来ないでいるのだ。

 士織も、折紙の様子から、罰を与えて欲しいのだということが、なんとなく理解出来た。

 ならば──

 

「・・・・・・鳶一さん。そんなに気にしてるならさ、今度私に勉強教えてよ」

 

「・・・・・・え?」

 

 折紙はそこで、初めて顔を上げた。

 

「聞いたよ。鳶一さん凄く頭がいいって。だから、今回のお詫びに、私に勉強を教えてほしいの」

 

 それは、あまりにも軽すぎる罰。

 しかし、士織は折紙を恨むようなことは出来ない。

 以前彼女は言った。

 

『私は、私のような人を、もう増やしたくないだけ』

 

 未だ彼女の復讐心が消えたとは思えない。けれど、士織は折紙のこの言葉を、信じたいと思った。

 だから、士織は恨まないし、憎まない。

 折紙は折紙なりに、自らのすべきことをしただけで、恨むことなど、何もないのだから。

 

「どうかな? 鳶一さん?」

 

「・・・・・・」

 

 折紙は考え込むようにして、目を伏せる。

 そして──

 

「・・・・・・わかった。約束する」

 

「本当!? じゃあ──」

 

「でも、それだけでは私の罪に釣り合わない。だがら・・・・・・」

 

 折紙が、士織に詰め寄る。

 

「私は一生、あなたに身を捧げる」

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・え~!? 」」」」 」

 

 士織をはじめ、折紙の挙動に注目していたクラスの面々が、叫ぶ。

 と、同時に、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。

 クラスの面々は興味深そうにヒソヒソと言葉を交わしつつ、(一部は赤面しながら)覚つかない足取りで席についていく。

 仲良し3人組も、『三角関係』という言葉を口にしながら、席に戻った。

 というか──

 

(え!? 何これ、もしかして告白!? いやいやいやそうと決まった訳じゃないし。でもでも『身を捧げる』ってことはつまりそういうことで・・・・・・)

 

 士織は大きな混乱の渦の中で、必死に考えをまとめていた。

 これまで幾度となく告白を受けた士織だが、同性に、しかも大勢の前での告白は、前例に無い。

 目の前の折紙は、じっとこちらを見つめている。

 恐らく、返事を待っているのだろう。

 かといって、ここで答えを出してしまえば、クラス中に知れ渡ることになる。一体どうすれば・・・・・・その時だった。

 

「はーい、皆さーん。ホームルーム始めますよぉー」

 

 救世主、タマちゃん教諭が現れたのだ。

 

「・・・・・・? と、鳶一さんたち、何してるんですかぁ?」

 

「・・・・・・」

 

 折紙は無言のまま珠恵を一瞥すると、歯噛みしながらも、自らの席に戻った。

 とはいえ、席は士織のすぐ隣。安心はできない。

 

「は、はい。皆さん席に着きましたね?」

 

 なにやら教室の雰囲気がおかしいのを感じ、やたら元気そうな声を上げる珠恵(ちなみに殿町君は遅刻らしい)。

 次いで、思い出したかのように手を打ち、うんうんと頷いた。

 

「そうそう、今日は出席をとる前にサプラーイズがあるの! ──入ってきて!」

 

 言って、今し方自分が入ってきた扉に向かって声をかける。

 

「ん」

 

 あれ? この声どこかで・・・・・・

 

「な・・・・・・」

 

「────」

 

 士織と折紙の驚愕とともに。

 

「──今日から厄介になる、夜刀神(やとがみ)十香だ。皆よろしく頼む」

 

 高校の制服を着た十香が、ものっすごくいい笑顔をしながら入ってきた。

 あまりの美しさに、教室が騒然となる中で、十香は意気揚々と自己紹介をする。

 

「ど、どうして・・・・・・」

 

「ぬ?」

 

 言うと、その不思議な輝きを放つ瞳が、こちらを覗く。

 

「おお、シオリ! 会いたかったぞ!」

 

 そして大声で士織の名を呼び、先ほどまで折紙が立っていた場所へとかけよってきた。

 そうなれば無論、クラスの注目を集める。

 加え、さっきの折紙の件もあってか、3人の関係性についての声が聞こえてくる。

 おい、そこの3人! 『やっぱり三角関係か』って何よ! 『やっぱり』って! 

 

「と、十香・・・・・・? どうしてここにいるの?」

 

 士織は頬をひくつかせながら、小さく問う。

 

「ん、検査とやらが終わってな。──どうやら、私の身体から、力が9割以上消失してしまったらしい」

 

 十香も士織の真似をしてか、小さな声で答える。

 

「まあ──とはいえ怪我の功名だ。私が存在しているだけでは、世界は()かなくなったのだ。おまえの妹が色々してくれた」

 

「み、苗字は?」

 

「何といったかな、あの眠そうな女がつけてくれた」

 

「あの人たちは・・・・・・」

 

 十香を自由にしてくれたのは正直ありがたいものの、もっと他にやりようはあったでしょう。

 正直、頭が痛い。

 士織は頭を抱え、机に突っ伏した。

 

「どうした、シオリ? 元気がないな。──ああ、もしや私がいなくて寂しかったのか?」

 

 などと言ってくる始末だ。

 当然、クラスの盛り上がりは最高潮に達する。

 この上ない居心地の悪さを感じながらも、士織は何とか声を上げた。

 

「・・・・・・別にそういうわけじゃないよ」

 

「なんだ、つれないな。アノときはあんなに荒々しく私を求めてくれたというのに」

 

 言って両手で頬を覆い、「やーん」と恥ずかしそうな顔を作る。

 

『────っ!?』

 

 周囲の空気が、変わる。

 ああ。もう、普通の高校生活は送れないなぁ、とどこか諦め気味に思う士織。

 きっとこれから、有らぬ噂を垂れ流されることだろう。

 だからこれは、最後の抵抗だ。

 

「・・・・・・と、十香さん。後生ですから、どうかこれ以上口を開かないでいただけないでしょうか?」

 

「ぬ? なんだ急に改まって。・・・・・・そんなに、私とのキスは嫌だっのか?」

 

「「「「「「・・・・・・え!?」」」」」」

 

(終わった・・・・・・私の高校生活・・・・・・終わった)

 

『致命傷』『ノックアウト』『人生終了』

 

 そんな言葉が頭を過る。

 まあ、この先の士織の高校生活が波乱万丈なものなることが確定したのだから、そう思うのも当然か。

 クラスの面々も、教諭を無視して騒ぎ出す。

 

 と、瞬間──十香が士織に近づいていた顔を右に動かした。

 

「へ・・・・・・?」

 

 呆気に取られる士織の目の前を、ペンと思しき何かが凄まじい速度で横切った。

 

「ひぃッ!?」

 

 驚き、その出所を見る。そこには、たった今ペンを放った格好のまま、冷たい視線を向けてくる折紙の姿があった。

 

「・・・・・・ぬ?」

 

「・・・・・・」

 

 2人の視線が、交錯する。

 

「ぬ、なぜ貴様がこんなところにいる?」

 

「それは、私の台詞」

 

 まさに一触即発。

 ──しかし2人とも戦闘をするつもりはないようだ。

 それもそうだろう。片や力のほとんどを失い、片や装備も無く、怪我をした状態なのだ。

 

「は、はい! おしまいにしましょう! ねー! 仲良く!」

 

 珠恵が慌てた様子で2人の仲裁に入り、どうにかその場は水入りとなった。

 しかし。

 

「じゃあ、夜刀神さんの席は──」

 

 先生が十香の席を探しはじめると、

 

「無用だ。──退け」

 

 十香は士織の隣──折紙の反対側に座っていた女生徒に、鋭い眼光を放った。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!」

 

 その重圧に当てられ、座っていた生徒が椅子から転げ落ちる。

 

「ん、すまんな」

 

 言うと十香は、最初から自分の席だったかのように腰掛け、士織に視線を送ってきた。

 でもそうなると隣にいる折紙とも視線が合うわけで。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 士織を挟んで、緊迫感が漂うのを感じる。

 きっとこれは、最高の決着なのだ。

 殺し合いが、こうして睨み合いになっただけまだましなはずだ。

 けれど、これは・・・・・・

 

「もうやだ、お家帰りたい・・・・・・」

 

 こうして、士織の平穏なる日常は、音を立てて崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? 殿町? 誰だっけソイツ? 




終わりました。一巻。
長かった・・・・・・
次回更新は出来るだけ早く(今年中)にはするつもりなので、応援してくださっている皆さん、今一度末永くお待ち下さいお願いします 
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