急いで手桶を脚の下に構えておしっこを受け止めようとするも、時既に遅し。
ゲリラ的に勢いを発散した極上のおしっこは、手榴弾のように瞬く間に湯船を蹂躙した。俺はそれを目の当たりにし、膝をついて崩れ落ちる。さながら囚われの姫を目前にして魔王にその身を弄ばれた勇者のように。
……だが、為す術が全くないわけでもなかった。
「……マツリ、千夏。ちょっと風呂の栓はそのままにして待っててくれ。俺はすぐ戻る……!」
「えっ、普通に嫌なんだけど……って、ちょっと!」
「いってらっしゃいっ」
俺は風呂場を出ると自室に戻り、外出出来る服装に着替える。
あ、もちろん目が離れた隙にマツリが元着てた服とかはちゃんと部屋まで持ってきた。
それから俺は家を飛び出すと全力疾走。
大型の電気屋に行って、特別にキープしておいてもらったブツを購入。
断腸の思いで財布からほぼ全財産を出すが、背に腹はかえられない。
この危機的状況では、金に糸目をつけている余裕などないのだ。
頑丈なケースに入れられたそのブツは傷付くはずもなかったが、往路の全力疾走よりは少し抑えて慎重に、それでも急いで復路を辿る。
そして自室に戻ると、俺は例のブツと引き出しの機材を接合し、究極の装置を組み立てた!
その装置とは、こういった機会を想定して俺が設計していた濾過器。
液体とマツリのおしっこが混ざってしまった場合におしっこだけを抽出してくれる、マツリ専用の神器なのだ!
そのモーターが異常に高いから買うのを渋っていたのだが、こんな早くに事態が起こるなら早くに買って実験をしておくべきだった。
……ただ、俺は後悔はしていない。
なぜならこれも全てマツリのおしっこのため、全世界のため!
マツリのおしっこの研究は俺が小学生のときから六年ほど続けていたため、ほぼその点に関しては狂いはないだろう。
さぁ、今こそこの装置を使って極上のおしっこを復活させる時なのだ!
結果に影響がないことはわかっていても、一応自分を奮い立ててから風呂場の戸を開ける。
すると、後ろから着替えた千夏とマツリがやってきた。
「マツリ……服はどうしたんだ?」
「千夏ちゃんに隣の私の家から取ってきてもらったのよ……それよりトモヤ。私が着てた服どこにやったのよっ!」
「そんなことは後だ。俺はこれから……お前のおしっこを、救出する!」
「……いや、おしっこくらいいつもトイレに流してるわよ」
「……マツリちゃん、お兄ちゃん昔マツリちゃんちのトイレに細工して、マツリちゃんのおしっこだけお兄ちゃんの部屋に流れるようにしてたよ……?」
「…………鳥肌が立ちすぎて鳥になりそうになったわ」
そんな二人の会話を後目に、俺は風呂の蓋を開けて機械のチューブを湯に入れる。
そして、スタートボタンを起動!
すると、みるみるうちに風呂のお湯は吸引され、おしっこの成分でないものは排水口に排出されていく。
そして、十分程が経過して……。
「……やった……やったぞ! 人類の勝利だ!」
「そんな大袈裟な……」
俺は人類初、マツリのおしっことそうでない液体の溶液を分別する装置を作り出すことに成功したのだ!
「……マツリ……。このおしっこ……俺、大切に飲むから……っ!」
「……飲むなぁっ!」
俺は今後この装置を活用する術に考えを巡らす。すると、ついさっきの千夏とマツリの会話を思い出した。
「……! そうか!」
これまではマツリがおしっこするタイミングに手動で電源を入れて、隣のマツリの家で排泄された尿が自室に来るようなシステムを作っておしっこを手に入れていた。
しかし今回の機械を使えば、マツリの家で排泄されたもの全て、いや、川や海からだってマツリのおしっこを分別して入手することが可能になる。
……俺は一人このとんでもない力を宿した装置を前に、マツリのおしっこで勝利の祝杯を交わすのだった。