ただ、ここでマツリにやましいことがあることは確定事項になったといえるだろう。
昨日マツリは俺に友達と予定があるといって俺の誘いを断ったわけだが、実際には誰とも会っていない。それだけならまだ急に相手の都合が悪くなったのかもしれないと解釈できるが、今マツリはそのことを俺に言わなかった。つまり、何らかのやましいことがあって俺に隠してることは確定といっていいだろう。
そんなわけで来たときよりも少しだけ気持ちが落ち込んでいた俺だったが……。
青々とした自然と川のせせらぎを前にしたら自分の悩みがちっぽけなものに思えてきて、すっかりテンションも上がってきた。
普段通り、とまではいかないが、ここで楽しまなかったら後々後悔するって自己暗示までかけて、なんとか普段通りの自分を取り繕うまではできた。
「お兄ちゃ〜ん! こっちこっち〜!」
「トモヤっ、はやく来なさいよ〜!」
二人に導かれるように、川の上流側へと登っていく。そこは自然の川をそのままテーマパークにしたような施設で、上流の方へ行けば行くほど整備はされておらず、自然のままの風景が楽しめた。
下流で花より団子状態、バーベキューの準備を着々と進める大人たちを後目に、アキホと二人、千夏とマツリを追いかける。
その傍ら、割とずっと疑問に思っていながら聞いてなかった質問をアキホにぶつけてみた。
「……ちょっと聞いていいか?」
「なんですか先輩? あ、ひょっとして私の好きなタイプですか? それでしたら、鏡をご覧になるといいと思います。そこに写ってる人が私のタイプです」
「……そりゃどーも」
「……で、本当のところはなんですか?」
「……えーっと、お前はどうして今日ここに?」
なんだか全員すごいすんなり受け入れていたが、今日の川遊びにアキホが来る予定はなかったはずだ。修羅場のせいですっかり聞けなくなってしまったが、俺はずっと疑問に思っていた。
「あー、それならですね、マツリ先輩のお母さまがアキホちゃんも連れていったらー? って言ってくれたそうで」
「……出発するときも言ってなかったから、車の中で思いついたんだな。いかにもあの人ならやりそうだ」
「……はい。それに、私に休日の予定なんてあるはずもないんで、マツリ先輩も賛同して……まったく、人をぼっちみたいに言って酷いですよね!」
「……図星じゃんか来てるじゃんか」
そんなふうに軽口を叩いていると、川の上流から何かとてつもない雰囲気を感じ取る。
この自然に存在するにはあまりにも美しすぎるほどの香ばしい香り、そしてそれが大自然の中であろうと主張する濃厚な存在感。
……こ、これは……!
「……こうしちゃいられない、アキホ、下流に戻るぞ! 車の中から装置を持ってこないと!」
「いや待って下さい先輩全然展開が読めないんですけどあっ汗だいただきますぺろぺろ」
上流から流れて来るはマツリのおしっこに違いない。俺は確信して、先日調整を終えたばかりの装置を車の中へ取りに行く。
しかし、川の水の流れに人間が歩いて追いつけるわけもなく。
河原のごつごつとした石に足をとられている隙に、マツリのおしっこを含んだ流れはすぐそこまで近づいてきてしまっていた。
……クソ……川の流れに乗って海に出ていくなんて……そんなの、もったいない!
全部回収するのは不可能でも、一部だけなら……!
俺は咄嗟に思いついた計画を実行するため、アキホに指示する。
「アキホ、頼む! 今から六秒後に流れて来る川の水をできるだけ口に含んでくれ!」
「よ、よくわからないけど……わかりました! 先輩のためです! 報酬は先輩の全身ぺろぺろで許してあげま……はむぐぅっ!」
「さんきゅ……はむぐぅっ!」
アキホは喋りながらも六秒を数えていたようで、ピンポイントでマツリのおしっこが含まれた流れを口にほおばる。
それから遅れること二秒。
同じ流れのかたまりを、俺も同じように口を精一杯オープンしてくわえ込んだ。
そして、川の水で薄まったまま消化されてしまわないうちに川下へ。
それから、準備してあったコップの中に二人揃っておしっこ入りの川の水を吐き出した。