吐き出した水を機械にかけて、数分。
ほんの一握りのマツリのおしっことそれ以外とが綺麗に分けられた頃。
マツリと千夏が、上流から不満そうな顔で降りてきた。
「ちょっとちょっと! 私がおしっこでもすれば早く上の方に来てくれるかと思っておしっこしてみたのに、なんで戻っちゃうのよ!」
「……千夏、待ってたのに。っていうか千夏もおしっこしたのに全然気づいてくれないし……」
憤慨するマツリと、残念そうに項垂れる千夏。
しかし二人は次の瞬間、揃って目玉を大きくすると黙り込んでしまう。
まるで声が出せないとばかりに、口を開けてぱくぱくぱくぱくと……。
さすがにおかしいと、俺も二人の視線を追ってその方向を見る。
するとそこには……。
俺の汗を舐めたときよりも格段に幸せそうな顔をした、ほっぺたが真っ赤になって今にも落ちそうな……そんなだらしがない笑顔を隠すことも出来ずに顕にした後輩が、その場にへたり込んでいた。
……うん、これは確かに声出なくなるわ。
とはいえこのままにしておけるはずもなく。
それとなく、こんなことになった事情を聞いてみることにする。
「……えっと……アキホ。お前、どうした」
「ろうひたって……しぇんぱい、これ……」
「……えっと、これって……」
「……マツリしぇんぱいのおしっこ……こんにゃすごいの飲んだら……わたし……」
アキホは溜めたよだれを一気に飲み込むと、心底幸せそうにその魔力に酔って、この世の神秘を紐解く理論を発見した研究者かのように力強く言い放った。
「こんにゃすごいの飲んだらわたし……お嫁にいけないです……っ……」
川上で排出されたおしっこ。
それが川の流れに乗って、溶けて、おしっことしての形を既に飛び出して。
そんなただの水と化した状態の、最大限に薄めたおしっこを飲んで、この後輩はその奇跡の美味しさに舌を震わせ、虜になってしまったというのだ。
……マツリのおしっこが、一人の女の子の人生を変えてしまった瞬間だった。
「……マツリ先輩……わたし、わたし……っ」
「え、何この子急に気持ち悪いんだけど」
「マツリ先輩と結婚しますっっっっっ!」
この日からアキホは、マツリのおしっこを求めて俺の家に頻繁に訪れるようになる。
一ミリたりともマツリのおしっこをこいつにくれてやる気はないが、とはいえ千夏の遊び相手にもなるし、俺としてはかわいい後輩が家に来てくれることは少し嬉しかったりもする。
……大事なことだからもう一度言うけど、一ミリたりともマツリのおしっこは分けてやらんが。
そのあとは全員でバーベキューをして、もっと川で遊んで、遊び尽くして。
駐車場の利用時間ギリギリまで川を満喫し、俺たちはそれぞれ車に乗り込んだ。
帰りの車はマツリの安全性を加味してアキホを千夏と同じ車にし、俺とマツリ、アキホと千夏の組み合わせで分けて乗ることになったため、隣にはマツリが座っている。
「…………あのさ、トモヤ」
川遊びの心地良い疲れに身を委ねていた俺に、幼なじみの、いつもよりほんの少しだけ硬いことばが掛けられる。
「…………ん。どうした」
俺は内心既にマツリがこれから言う内容を確信して、それに合わせて真剣に返事をする。
ただ、脳内と身体。両方の疲労が邪魔して、正常な回答が出来るか不安だ。
そうでなくてもただでさえ、こんなことは話題にしたくないってのに。
だから、俺は決める。
誠心誠意、信念を持って誤魔化すことを、決める。
今からマツリが尋ねてくる質問には、まともに返さないほうが二人のためになると思うから。
そうして、たった三秒の沈黙が何十秒にも、何分間にも感じられて。
マツリがやっと口にしたのは、やはり俺が予期していた質問そのものだった。
「ーートモヤ、今日無理してたでしょ」