「……えーっと、それはどういう……」
「……今日のトモヤ、いつもと違った。楽しそうなのは本当だったけど……その他に、なにか別の感情があったよね? 誤魔化しても無駄だよ……私には、わかっちゃうんだから……」
寂しさと、それを包み隠すほどの心配を孕んだ声音で紡がれる、繊細な布のような感触の数々。吐かれた嘘に知らないふりをするために吐いた、変わらないことを望んだが故の嘘。嘘を嘘で包み込むことで幸せになれるわけなんてなかったのに、どこで選択を間違えたんだろう。
一方通行だった嘘は今、俺の手によって複雑に絡み合って、もとの何もない状態には到底戻れない修復不可能な糸と化している。
それでも俺は嘘を重ねる。
ここで真実を言ったところで、マツリとの関係が崩れる未来しか見えない。ならば、形式上の繋がりだけでも持っておきたい。故に、俺は彼女を誤魔化すことをやめない。
嘘を吐き続けることを、躊躇わない。
「……いいや、それはマツリの勘違いだ。俺は今日楽しかったし、無理してる事なんてなんにもないよ……でも、さすがに遊び疲れたかもな」
「…………そう」
マツリは怪訝そうな顔をする。
悲しそうな顔をする。
なぜならこれまで俺がマツリに隠し事をしたことなんてなかったから。
冗談で誤魔化せない嘘をついたことなんて、初めてだったから。
だからこそマツリは今、戸惑ってるんだろう。動揺してるんだろう。
初めての状況に、どうしたらいいか分からないんだろう。
……だが無論、それは俺も同じこと。
むしろその状況を、俺は昨日先にマツリに突き付けられて、今嘘を吐いているわけなのだから。
ただ、マツリはそのことに気が付かない。
俺の状況を、知らない。
だから今、俺はマツリの瞳に相当な極悪人として写っていることだろう。
自分が嘘を吐いたことに気が付かずに、仕方なく同じことをしてきた俺に向けてやり切れない気持ちを抱いていることだろう。
「…………そっか。私の思い違いだったんだね、ごめん」
だから、対処法も同じ。逃げ道は、同じ。
嘘には嘘で対抗して、空元気の笑顔で対応する。……マツリは一日遅れで、俺の姿を全くそのまま追いかけていた。
まあ、強いて違うところを挙げるとすればーー。
「……母さん、後ろ修羅場かな」
「……修羅場ね、面白いから黙って見ときましょう」
……運転席、助手席の両親が下世話なことだった。いや面白がるな盗み聞くな。
それから数日間、マツリとは一切会話がなかった。お互いなんだか気まずくて、学校でもプライベートでも避けてしまっている。毎日一緒に登校してたのに、自然と二人は別行動になり。それだってもちろん悲しいけれど、あんなに強い、たった一本の命綱だと思っていたマツリとの関係が切れても案外やっていけてる自分が、病的なまでに悲しかった。
……あ、でもおしっこはちゃんとマツリの家から産地直送でいただいておりますごちそうさま。