謝罪。
そんな風に何かが欠けたような、空っぽの日々を過ごしたある日のこと。その日は一学期最終日。学校から帰宅した俺が自室の扉を開けると、妙な違和感が襲い掛かって来た。
鞄を置いてその正体を探ると、机の上に手紙と一緒に包みが置いてあるのが見える。
もちろん自分でそんなものを置いていくはずはないし、家族とも考え難い。
置いていった人物のことを考えると、なんだか少し、身体に緊張が走った。
手紙を、手に取る。
その便箋はところどころ文字が滲んでいて。
それが何によるものかなんて、考えなくともすぐにわかった。
ただ、手紙を読んでみないことには、包みの中身と差出人の真意は見当もつかない。
とりあえず、手に取った手紙に目を通すことにする。
その手紙は、ある特徴的な一文から始まっていた。ある特定の日に、ある特定の人物にしか使用されない、特別な言葉。その一文を読んで、自分にとって今日がどんな日なのか、初めて気付かされる。
『誕生日、おめでとう』
……そういえば、俺は今日、誕生日だった。
千夏は終業式で挨拶をするとかで俺が起きる前には家を出てたし、すっかり気づかなかった。いや、まあマツリのこともあったし、それに誕生日なんてそんなもんだろう。歳を重ねるごとに、誕生日の意味なんて薄くなってくる。当日でも特に意識しないのも不思議じゃないだろう。
そうやって薄れていく自己の高揚感に寂しさを感じながら、手紙を読み進める。
途中、何かに気付かされながらも読み進める。読み進めて、読み進めて、何かに気付く。
(……マツリが俺に嘘を吐いた理由って……)
気がついたら俺は、包みを持ったまま走り出していた。
そのまま勢いを殺さずに、幼少の頃から何度も訪ねたドアの前へ。
ノックを三回、二人だけの合図。
カチ……と、音を立てて開錠されるドア。
そして扉が開いて……幼なじみが、そこに立っていた。
「トモヤ……。ごめんね、迷惑……だったかな。誕生日プレゼント……どうしても、渡しておきたくて……ごめん」
久しぶりに聞くマツリの声は、震えていた。
雨に濡れた子猫のように。あるいは、美しい音色を響かせて届ける、空気中の振動のように。……だからだろうか。俺の鼓膜を揺さぶるマツリの声は、なんだか妙に俺を落ち着かせて。今やらなくちゃならないことを、明確化させた。
「……マツリ」
「……なに」
「……あのさ、俺、まだこのプレゼント、開けてないんだ」
「……そう」
「…………ここで、マツリと一緒に開けていいかな? 多分そうした方が、俺にとって意味のある誕生日になるんだ。いい思い出に……なる気が、するんだ」
俺の我儘に、マツリは無言で扉を大きく開いて応じた。中に通すから一緒に開けようと、態度で示した。
マツリの部屋に入って、二人座って。
よく来てた部屋だけど、前に来た時よりも女の子っぽさが増していて、少しだけ鼓動が早くなって。それを悟られないように努力するも、相手の心音でそんなことはどうでもよくなって、プレゼントの包みを開き始める。
丁寧に時間をかけながら包みを開いて、その間に俺はこの疑念の掛け合いに決着をつけようと口火を切った。
「……まず、謝らせて欲しいことがあるんだ」
「……えっ」
急に謝罪宣言を受けて、驚きを露わにするマツリ。まあ、無理もない。俺がこれから謝ることは、俺が勝手に傷ついて、俺が勝手に傷つけて。マツリが事の概要も掴めていないところで起こったことに対する謝罪なんだから。と、一人シリアスな雰囲気で決意を固め、納得していたんだが。
「……ついに私のおしっこ盗んでることに対して謝罪する気になったのね!」
見当違いだった。