0×6   作:nseiuxro

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第1話

 それはとある場所の夜の酒場。

 そこで街の司祭であるクロムウェルは一日の楽しみである晩酌を楽しんでいた。そしてテーブルの向かいには一人の男が座っている。酒場は満席で相席となったのだ。

 男は珍しい服を着て、少しウェーブがかかったこの辺りでは珍しい黒髪をしていた。顔の作りも端整で、歳特有の渋さと人としての美形が見事に調和した感じである。正直、何故このような場末の酒場に居るのか疑問だった。

 クロムウェルは男と楽しく談笑しながら酒を交わしていた。男の話はとても知的で、魔法を使えるだけで威張り散らしている貴族達よりもよほど気品があった。

 

「それで司祭殿、子供の頃の夢はどのようなものでしたか?」

「夢か~」

 

 男の質問にクロムウェルは幼少の頃に記憶を馳せる。信心深い両親を見習い、自分もブリミル教を熱心に学んだが、それでも子供らしい夢はあった。

 

「王様ですな。貴族ではなく、一国の王様に成りたかったなものです」

 

 クロムウェルは苦笑を浮かべながら答えた。それはとても叶えられない夢。血を重んじるハルケギニアでは決して叶わない夢だ。

 それを聞いて男は笑った。とてもとても楽しそうに笑った。

 

「ならば叶えてみないか? その夢を」

「は?」

 

 突然のことにクロムウェルは男を凝視した。だが、男は愉快そうに笑う。

 

「君を一国の王にしてあげよう。私を愉しませてくれるなら、君の夢を叶えて上げよう」

「な、なにを?」

 

 クロムウェルは余りの事にからかわれていると思った。だが、男の笑みを見て、言葉を聞き、その雰囲気に飲まれていく内に自身の思考が狭まっていく。

 

「下準備や面倒な事は私が全てして上げよう。君はそれを動かすだけで良い。だが、一つだけ君にはしてもらいたい事がある」

「して…もらいたい…こと?」

 

 男は深い笑みを浮かべる。

 

「不幸をばら撒きなさい」

「な…」

 

 それは人を救う司教とは真逆の事柄。私は物語のような優しい王を描いただけなのに、何故この男はそのような事を子供の様に笑いながら言えるのだ?

 

「戦争を起こし、人を沢山殺しなさい。それだけで君は王になれる。だがそれだけではだめだ。このアルビオンを始め、ゲルマニア、トリステイン、ロマイツ、ガリア、そして聖地に東方。これら全てに戦火と不幸をばら撒きなさい。そして私を愉しませなさい」

 

 男は当然のように、まるで「明日は晴れる」という風に恐ろしい事を口にした。

 本来ならばこのような酒場で言う事ではない。こんな事を口にすれば、誰であれ酔いは醒める。だが、男を取り巻く雰囲気はもう普通ではなかった。

 

「ハハ…ハハハハ…」

 

 気が付いたら、クロムウェルは涙を流しながら笑っていた。それは恐怖から来る笑いなのか、己の願望が叶った為の笑みなのか本人にも判らない。だが、これだけは判った。この御人は人ではない。この御人は始祖など足元にも及ばぬ超越者。そうでなければこのような空気を纏えるはずが無い。

 このドロドロで吐き気を催す筈なのに、まるで最高級の銘酒の様に甘美な雰囲気を人の身で出せるはずが無い。

 クロムウェルは椅子から転げ落ちるが、すぐさま彼の目の前に跪いた。今、この御人が「靴を舐めろ」と言えばすぐさま自分は舐められる。

 

「仰せのままに、我が神よ」

 

 クロムウェルは服従の言葉を口にした。男はそれを聞いて笑った。

 それは子供が玩具を手に入れたような笑みだった。

 

 

 

 

 それから数ヵ月後。白の国アルビオンにて戦乱が起こる。

 反乱軍はレコン・キスタと名乗り、瞬く間にアルビオン王国を滅ぼし、そこに新たな国、神聖アルビオン共和国を建てた。そこの王は元司祭で虚無の魔法を操る男クロムウェル。

 クロムウェルはハルケギニアの統一と聖地の奪還を掲げて世界に戦火をばら撒き始める。

 それはまともの精神では出来ない事。だが、それでも彼は実行した。彼の下に就く者はそれを王の風格と捉えた。

 それが一人の男の娯楽の為だと、クロムウェルを除いて誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 シティオブサウスコーダの周りにある、雪に覆われた山の一つに二人の男がいた。

 一人は『閃光』の二つ名を持つ風のスクウェアクラスのメイジ、神聖アルビオン共和国の重鎮の一人ジャン・ジャック・ワルド。もう一人は雪山だと言うのに見慣れない服を着た男だった。

 男は険しい山中をまるで散歩をする様に軽々と踏破していく。ワルドはその男の背についていった。

 男は皇帝クロムウェルの秘書として常に彼の近くにいるようだが、公の場所では全く姿を現さない。恐らく、ワルドを含めた他の重鎮達も彼と直接あったことはないだろう。

 昨夜、男は急に自分の前に現れて、この山中を往くから護衛を頼むと言って来たのだ。

 彼は皇帝の秘書だ。共和国に本来の位は無いが、自分よりも上に位置する人間ではある。特に断る理由も無かった為、ワルドはそれを引き受けた。それよりもワルドはこの男の雰囲気が気になった。

 この男が纏うそれは秘書のものでは無く、ましてや貴族のそれでもなく、王の風格を感じていた。もし皇帝と今の男が横に並べば、彼が王と錯覚するだろう。

 そう考えていると男は急に立ち止まった。ワルドも止まり、男の向こう側を見る。そこには雪に覆われた岩場があった。中心部からはこんこんと水が流れ続けている。

 

「ここは?」

「街の水源の一つだよ、ワルド君。ここの水で街の3分の1の水を賄っている」

 

 ワルドの質問に男は事も無げに答える。そう言いながら男は自分の懐を探り始める。

 

「この雪山の中でよくこの様な場所が判りましたね。マチルダに聞いたのですか?」

 

 本来なら敬語を使う義理は無いのだが、ワルドは自然と敬語で話していた。彼の疑問に男は首を振って否定する。

 

「いや、彼女から聞く必要は無い。私には土と水の声が聞こえるのでね、それを追ったまでだ」

「土と水の声、ですか?」

 

 男の答えに要領を得られず、ワルドは首を傾げる。男はそんなワルドに微笑みながら懐から目的の物を取り出した。それはクロムウェルが常に身に着けていた指輪だった。

 

「それは?」

「アンドバリの指輪という玩具だよ」

 

 男はそう言いながら岩場に流れる清水の上に指輪をかざした。すると、指輪から水滴が滴り始める。水滴は水に溶け込みそのまま流れ去っていった。

 それを見届けると男はワルドの方を振り返った。その顔は悪戯をした子供の様に笑っていた。

 

「さて、ワルド君。君をここに連れてきたのは他でもない。君と話したかったからだ」

「私と…ですか?」

 

 ワルドは男の言葉に疑問を思いながらマントの影に隠した杖を握り締める。この男は得体が知れない。

 

「そう怖がる事は無いよ、ワルド君。私は君に一つ提案があってね」

 

 男は笑いながらワルドに近寄る。ワルドは後退ろうとするが、身体が動かなかった。そんな彼には気にも留めず、男は近寄ってくる。

 

「ワルド君、君は力が欲しいそうだね。何者にも犯されない絶対の力が。祖国を裏切り、こちらに付いたのもそれが目的だ」

「なぜ…それを…」

 

 ワルドは動かない身体を何とか動かそうとするが、絞り出せたのは声だけだった。

 自分の本当の目的はマチルダ以外に漏らした事は無い。あの女がそれをばらしたと考えたが、それは無いと思い直す。この男がそんな回りくどい事をするとは思えない。それは理性ではなく直感で感じた。

 

「力が欲しいのなら簡単だ」

 

 男はついにワルドの目の前に立った。ワルドよりも男の方が若干身長が高い。ワルドは男の瞳を見上げる。その瞳はとても暗く、全てを飲み込む何かを称えていた。

 

「捨てなさい」

 

 男は言いながらワルドの胸元に手を伸ばす。ワルドはそれを止めようと身体を動かそうとしたが、彼の瞳を見ているだけで動く事が出来ない。そうしている内に男は彼の胸元にあるロケットを手に持った。

 

「君の過去、君の傷、君の執念。それはただ君を縛るだけの鎖だ。本当に力が欲しいのなら、まずはその鎖を自らの力で断ち、切り捨てなさい」

 

 男は微笑みながらロケットをワルドの眼前に翳す。ワルドの脳に男の声が染み込んでゆく。それは彼の脳を侵し、宣託のように彼を包み込む。

 ワルドは笑った。泣きながら、笑いながら、救われたような感情が脳に吹き荒れ、それを感じながら彼は笑った。いつの間にか、彼は男の前に跪いていた。

 

「さあ見せてくれ、ワルド」

「畏まりました」

 

 ワルドはすぐさま胸元にある己の母の肖像が納められたロケットを引き千切り地面に叩きつける。すると今度は、持っていたサーベル状の杖でそれを何度も何度も突き刺した。何度も何度も発条仕掛けの人形のように突き刺した。

 ロケットがボロボロになり、原型を留めなくなって漸くワルドは動きを止めた。肩で息をしながらワルドは晴やかな笑みで男を見上げる。それを見ていた男は優しげに微笑んだ。

 

「上出来だ、ワルド」

 

 男は笑いながらワルドに手を差し出す。ワルドはそれを躊躇する事無く摑んだ。

 

 

 

 

 その日、トリステイン軍はシティオブサウスコーダから敗走を始めた。

 それまでの連戦が嘘のような瓦解した敗走だった。それは軍の半数以上が敵側へ寝返ったのが原因だが、詳細は不明。その敗走の際に多数の死者が出る事になった。

 そしてその日を境に、神聖アルビオン共和国の重鎮『閃光』のワルドとクロムウェルの秘書の男は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 才人は恐怖していた。

 先程目の前に開いた召喚のゲートを再び潜り、剣士の人形に襲われていたルイズを助け、アニエスと共に他のガーゴイルを倒したまでは良かった。だがその後、森の向こうから出て来た男のせいで全てが変わった。

 男は長身で、こちらの世界には無く、才人には見慣れた服…スーツを着た、ウェーブがかかった長い黒髪と暗い瞳をした男を見た瞬間、身体が動かなくなった。ルイズもアニエスも男の空気を感じて声も出せず、動けなかった。

 逃げなきゃ。ルイズと一緒に逃げなきゃ。

 頭の中はそれだけの考えで満たされるが、身体が動かない。そんな才人には気にせず、男は近付いて来た。

 

「はじめまして、左手の少年」

 

 男は才人の前に立つと微笑みながら挨拶をした。まるで街角であった知人のような気軽さで。

 

「私は君と同じで向こうからこちらに召喚された者だ。君と同じで、私も地球出身だ」

 

 男はそう告げる。才人はこちらに来て一年目でついに同郷者に会えた事になるが、全く嬉しくなかった。そんな思考すら今は無い。今は彼から逃げ出す事しか考えていない。

 男は自分の額に指を立てると自分の皮を剥がした。その下からルーンが刻まれた額が現れる。血は一滴も流れていない。人工皮膚かな? 混乱する才人の頭の中でそんな考えが過ぎった。

 

「私の役割はミョズニトニルン。能力はありとあらゆる魔法具を操る事が出来るというものだが、そんな黴の生えた名前などに興味は無い。私の名前は」

 

 そこで男は極上の笑みを浮かべる。

 

「『シックス』」

 

「シックス」=6?

 才人は恐怖が占める脳にその名が刻まれるのを感じた。

 男…シックスはただ笑いながらそんな才人を見ていた。

 

「サイト!!」

 

 その時、呪縛を何とか克服したアニエスはすぐさま腰に下げていた銃を手に持ち、シックスに向かって撃とうとする。

 その瞬間。

 シックスを中心に先程とは比べ物にならない邪悪な気配が辺りを包んだ。それは文字通りのプレッシャー(重圧)となって3人を襲う。

 アニエスの手は銃に触れる前に止まり、その場に膝と手を付いた。

 ルイズはそのプレッシャーに耐え切れず、気を失った。

 才人は歯を食いしばり、デルフを杖にして倒れそうな身体を支えるので精一杯だった。

 怖い。

 才人は心底恐怖した。

 巨大なゴーレムよりも、必殺の雷よりも、空を飛ぶ戦艦よりも、全てを飲み込む竜巻よりも、七万の軍勢よりも、この男と対峙している方が圧倒的に恐ろしかった。

 

「なんだこれ? お前、本当に人間か?」

 

 そのプレッシャーはデルフにも襲い掛かっていた。その鍔は恐怖でカタカタと小刻みに震えながら己の疑問を呟いた。

 シックスはその一同を見渡して、最後に目の前で震えている才人を見た。

 

「今日はただ挨拶に来ただけだよ、そう怖がる事は無い。君にはお礼がしたくてね」

「お…れ…い…?」

「ああ、そうさ。君がここアルビオンでやった事は、私としては余り面白い物ではなくてね。そう、文字通り遊びを邪魔された気分なのさ」

「あれ…が…あそ…び…だと?」

 

 あの戦争が遊びだとこいつは言った。

 一体あの戦争で何人死んだ? どれだけの人が泣いた? どれ程の人が苦しんだ? こいつはそれを遊びと言った。

 才人は彼への恐怖と共に怒りが込み上げてきた。それを称えた目でシックスを睨み付ける。シックスはそれを嬉しそうに見ていた。

 

「良い眼だ。私を狩ると決意した獣の眼だ。それを見れただけで今日はよしとしよう」

 

 すると、木々の上から翼を持った高さ10メイルのガーゴイルが降り立ってきた。シックスはそのガーゴイルの掌に乗るとこちらを見た。

 

「お礼については、後日君にちゃんとお届けしよう。楽しみにしていたまえ、平賀才人君」

 

 そう言って、シックスはガーゴイルと共に空へと消えていった。

 シックスがいなくなった後も、才人達はその場から動く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 魔法大国ガリア。

 その王宮の奥の奥に『無能王』ジョゼフはいた。

 ジョゼフは玉座に座る事無く、只その場に立ち、あの日の事を思い出していた。

 それは自分が『サモン・サーヴァント』を行った日。あの日自分が召喚したのは自分と同い年位の黒髪の男だった。

 ジョゼフは男を見て平民を呼んでしまったと思ったが、自分が虚無の属性なら只の使い魔にはならない筈、良い手駒になると考えていた。

 だが、それは違った。男がこちらを見たときにジョゼフはそれを理解した。

 この御人を御する事など出来ない。この御人を使うなど痴がましい。この御人を計るなど出来るはずが無い。

 ジョゼフは世間では「無能王」といわれているが、実はそうではない。その知識は深く、恐ろしく聡明だ。だからこそ彼は理解した。この人の持つこの「悪意」の前では全てが無意味。賢い者ほどこの「悪意」の前に平伏し、その脳髄を蕩けさせられる。

 ジョゼフはすぐさまその場に跪いて彼に懇願した。私の力になって欲しいと。

 するとあの御人は笑いながらそれを了承した。一つの条件を出して…

 その時、部屋の扉が開く。ジョゼフがそちらを向くと、そこにはあの御人…シックスが部屋へと入って来た。

 

「お帰りなさいませ」

「ただいま、ジョゼフ」

 

 ジョゼフは跪いてシックスを出迎え、シックスはその脇を通り抜けて玉座に座った。

 彼が座っている椅子はとてもおぞましい物だった。それを作っている所を立ち会ったジョゼフはすぐさまその光景を思い出せる。

 シックスは街で適当に拾ってきた手頃の男を使用人に生きたまま両断させたのだ。彼はその男の悲鳴を聞きながら、壊れたように笑いながら両断を続ける使用人を見ながら、まるで名女優の唄を聴いてるかのように優雅に紅茶を飲んでいた。

 彼は両断された男の身体を近くにいた騎士に錬金させて鉄でコーキングし、それを椅子にしたのだ。

 シックスはその椅子に深く座り、愉しそうに笑っていた。

 

「左手の少年に会ってきた。中々楽しめそうな玩具だったよ」

「左様ですか」

「ああ。折角の玩具が彼に壊さたから直にお礼をしようと思っていたのだが、中々の掘り出し物だったよ」

「それはようございましたな」

「ああ。また暫く退屈せずに済みそうだ」

 

 そこでシックスはジョゼフを見る。それは新しい遊びを思い浮んだ子供の様に無邪気だった。

 

「ジョゼフ。君の姪のシャルロットだが、彼女は確か左手の少年と知り合いだったね?」

「はい」

「彼女に彼を襲わせなさい。シャルロット姫にはそれを条件に母親を治してやると伝えてな」

「判りました。直にそのようにいたします」

 

 そこでジョゼフは顔を上げてシックスを見る。

 

「何なりと私に申し付け下さい。我が神よ」

「ああ」

「最初の約束通り、私の全てを貴方様に捧げましょう」

「そうだ」

「今の私は、もはや貴方様無しでは生きてゆけません」

「判っているじゃないか、ジョゼフ」

 

 シックスは懐から一本のナイフを取り出して、それをジョゼフの床の前に転がした。

 

「褒美を上げよう。私の名前を身体に刻むことを許そう」

「感謝の極み」

 

 ジョゼフは深く頭を下げ、そのナイフを手に取ると身の着ていた服を切り破り、すぐさま露になった己の胸にナイフを突き立てる。深くは刺さない。胸の肉を削る位の浅さで留める。その深さのまま、ジョゼフはナイフを動かす。

 我が神の名「シックス(6)」の文字を刻み終わるまでは止まらない。

 薄暗い玉座の間に、ガリアの無能王の苦痛を喰いしばる声が響く。

 それを聞きながらシックスは部屋の闇の向こうへ声を掛ける。

 

「いるんだろう、ビダーシャル?」

 

 すると、闇の向こうから一人の男が現れた。男は砂金を彷彿とさせる細い金髪に美しい顔立ちをした青年だった。だが、彼には人とは決定的に違う特徴があった。

 それは尖った長い耳。それはハルケギニアでは恐怖の象徴であるエルフの証だった。

 ビダーシャルは玉座の前で止まり、その頂の椅子に座る男と、その傍らで己の身体を傷付けている男を見て顔を顰めた。

 

「なんだ、『シックス』?」

 

 ビダーシャルは嫌悪感を隠さずシックスに尋ねた。シックスはそれに対して笑みを浮かべたまま用件を言った。

 

「貴様が昔作った精神を壊す薬。それの解毒剤は作れるか?」

「少し時間は掛かるが可能だ」

「ならばそれを作ってくれ。一つのアクセントを加えて」

「それは何だ」

 

 そこでシックスは料理の注文をする様に言った。

 

「飲んでから5分後に、惨たらしく、地獄の苦しみを感じながら死ぬ毒を加えなさい」

「なに?」

 

 ビダーシャルは男が言った事が理解出来なかった。解毒の薬に毒を加える? そんな物は全く無駄な物だ。作る意味が無い。

 

「解せぬ。何故そのような物を作らせる」

「知らないのか? 悲劇が一番映えるのは絶頂から瞬く間に絶望する時だよ」

 

 そこでビダーシャルは理解した。この男は薬を飲んで治った者を再び苦しませたいのだ。それは本人だけで無く、その身近な者すらも。

 分かった時、ビダーシャルはシックスを睨み付けた。彼らしくも無い、その眼に嫌悪の火を灯して。

 

「私はここに来て何人もの蛮族を見た。だが、貴様は今まで見てきたそれとは違う」

 

 そこで彼はこちらに来て始めて、自身の感情を吐き出した。

 

「貴様はヒトでは無い」

 

 その言葉とそれに篭る感情を受けて、シックスは嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう。最高の誉め言葉だ」

 

 シックスはガリアの王が漏らす苦痛の声と、エルフの青年が放つ嫌悪の感情を受けながら笑い続けた。

 

 

 シックスは考える。人ならざる「悪意」が宿る脳髄を使って。

 この世界で次は何をして遊ぼうか?

 シックスは考え続ける。

 己の脳髄を動かす「悪意」をどう満たそうか笑いながら。

 深い闇の底で考え続けた。

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