0×6   作:nseiuxro

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第2話 人形【王女】

 才人がこのハルケギニアに来て丸一年がたった。

 

 

 今夜、トリステイン魔法学院では、新入生の歓迎会である「スレイプニィルの舞踏会」が開かれていた。

 開かれる筈だった。

 最初は確かに普通の舞踏会だった。しかし、始まって暫くして、マジックアイテムによって施されていた仮装が解け、同時に学院の外壁から爆発と火の手が上がった。

 それも一つだけでは無い、テラスにいた才人が確認出来ただけでも10は軽く越えていた。会場は混乱の極みに陥った。だが、それよりも才人が目を引いたのは自分の目の前にある「火」だった。

 それは予め仕掛けを施してあったのか、火柱が燃え移りある形を象った。

 それは「6」。

 紅い炎によって描かれた才人が居た世界の数字。

 その数字を知っているのは自分を入れて2人しかいない。だから才人はこの意味が分かった。分かってしまった。

 数ヶ月前にアルビオンで会ったあの男の事を。自分と同じ虚無の使い魔。今でも夢に出てくる「悪意」が人の形をしたナニか。

 その男は「シックス」と名乗っていた。

 その時に男はこうも言っていた。いずれアルビオンでのお礼をすると。

 これがそれなのか?

 

「な、何が起こっていますの!?」

 

 才人の隣に居たアンリエッタも動揺していた。彼女は目の前の「6」の意味に気付いていない。

 すると、才人達の目の前に翼が生えた石像…ガーゴイルが現れた。

 ガーゴイルはテラスの目の前で滞空していた。その脇に何かを抱えている。それは気絶した少女。才人達が良く見慣れた桃色の髪が辺りの熱風で靡いていた。

 

「ルイズ!?」

 

 才人が叫ぶのとガーゴイルが飛び立つのは同時だった。

 才人はテラスを飛び降り、落下しながらデルフを引き抜く。すると、左手のルーンが強い輝きを放ち始める。

 ガンダールブの力で地面に着地し、すぐさま最高速で走り出す。彼が目指す一番近くにある扉.

そこには全く火の手が無かった。

 誘っているのは明白だったが、構っていられない。才人は扉を文字通りに蹴破り、学院の外に出た。

 ガーゴイルはこちらが視認出来るギリギリの高さを飛んでいる。才人はそれを追い掛け始める。

 学院からある程度離れたその時だった。

 才人の目の前に突然、青い竜が急降下してきた。その背には青い髪の少女がいる。

 

「タバサ!」

 

 それはトリステイン魔法学院で才人の友人の一人、タバサだった。彼女は竜…シルフィードから降り立ち、才人と正面から向き合う。

 

「タバサ、ルイズが攫われた! 助けてくれ!!」

 

 才人にとって、これは天の助けだった。自分では空を飛ぶガーゴイルには追い付けない。そこに飛行手段があるシルフィードを持ったタバサが来てくれたのは望外の望みだった。

 そんな才人にタバサは何も言わず、シルフィードを上空へ行かせ、彼に向かって「エア・ハンマー」を放つ。

 

「っ!?!」

 

 突然の攻撃を喰らい才人は吹き飛んだ。混乱する頭で何とか受身を取って立ち上がる。咳込みながらタバサを見ると、彼女の周りには幾つもの氷柱が出来上がっていた。

 

「タバサ!?」

 

 余りの事に才人は叫んだ。だが、タバサはそれをまるで聞いていない様に躊躇無く氷柱を彼に向かって放った。才人もデルフを構え、向かって来た氷柱を弾き、剣に吸収させる。そんな中でも才人は混乱していた。

 

「タバサ! いきなり何すんだよ!?!」

 

 才人の声を無視してタバサは再びルーンを唱え始める。

 その時、2人の間に先程とは別のガーゴイルが降り立った。タバサは詠唱を止め、才人はガーゴイルから距離を取った。ガーゴイルは才人の方を向き、口の部分を開いた。

 

『久しぶりだね。平賀才人君』

 

 そこから聞こえてきたのは男の声だった。才人はその声を知っていた。忘れたくても忘れられないその声を。

 

「シックス!」

 

 才人は込み上げてくる恐怖を隠すようにガーゴイルへ、その向こうにいる男に向かって吼えた。

 

「これは全部お前の仕業か!?!」

『ああ、そうだよ。気に入ってくれたかな?』

 

「シックス」はあっさりと肯定した。それを聞いて才人は奥歯を噛む。

 

「ルイズを攫って、何が目的だ!! 何でタバサが俺の邪魔をするんだ!?」

『そう慌てる事は無い。順番に説明してあげよう』

 

 才人の怒りが篭った声を、「シックス」は何事も無いように受け、まるで生徒に説く教師のように答え始めた。

 

『最初の爆発はひとつの花火だと思ってくれ。私からの君達への歓迎の花輪さ』

「花輪だと!?」

『ルイズ・ヴァリエールを攫ったのは、この前言った君へのプレゼントさ。趣旨は至って簡単だ』

 

 

『そこの少女を殺せたら、君の主を返そう』

 

 

「なっ!?!」

 

 余りの事に才人は呆気に取られる。しかし、すぐに怒りが再燃する。

 

「ざけんな!! そんな事出来るか!!」

『そうか。なら君の主はこうなるな』

 

「シックス」がそう言うと、突然ガーゴイルの腹が開いた。そこには1枚の紙が入っており、ガーゴイルはそれを才人に向かって投げた。

 才人はそれを右手に持って見る。だが、すぐにそれから手を離し、口元を押さえる。その様子をガーゴイル越しに見ていた「シックス」は笑いが混ざった声を掛ける。

 

『画像が悪い白黒写真ですまないね。こちらの技術を総動員しても、まだそれ位が精々なんだ』

 

 だが、才人にはそれを聴いてる余裕は無かった。正直、白黒で良かったと内心思っている。これがもしカラーなら間違い無く吐いていた。

 そこに写っていたのは人の形をした「ナニカ」だった。

 顔は見たことも無い平凡そうな男の顔だが、それは泣いてるのか笑っているのか判らない程に歪んでいた。それより酷いのはその下だ。

 下の身体が無い。正確には内臓しかないのだ。本来そこに在るべき皮膚や筋肉、骨が一切無い。内臓だけなのだ。

 

『ちなみにその写真の男はまだ生きている。街で適当に見つけたモノで久々でやってみたんだが。そんなに酷いかね?』

 

「シックス」の声は疑問がこもっていた。才人はそれに対して酷いに決まっていると怒鳴りたかったが、そこまで精神が回復していなかった。

 

『もし目の前の少女を殺さなければ、君の愛しの主も同じ様になってしまうぞ』

 

 まるで他人事の様に「シックス」は才人へ言った。それを聴いた才人の頭の中は一瞬真っ白になる。そこに残ったのは先程の男の写真の姿。

 次の瞬間。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

 

 才人は腹の底から咆哮を上げてガーゴイルへ突進する。ガーゴイルは予想以上の俊敏さでその場から離れる。同時にすでに詠唱を終えていたタバサが才人に向かって「ジャベリン」を放つ。様々な感情が混ざり、それを受けたガンダールブのルーンは今だかつて無い力を才人に授ける。才人は巨大な氷の槍を一刀両断し、向こうにいるタバサを睨み付けた。

 

「退いてくれタバサ!! 頼む!!!」

 

 才人の叫びを無視し、タバサは彼に向かって「エア・カッター」を撃つ。才人はそれを切り裂きながら彼女との間合いを詰め、峰打ちを放つ。タバサはそれを己の杖で受け止める。鍔迫り合いになるが、身長と地力、そしてガンダールブのブーストを纏った才人が止まる筈も無く、すぐにタバサが押され始める。彼女はそれに対して素早くルーンを唱えて才人の頭上に一本の氷柱を作り、それをすぐさま落とす。それを察した才人は後ろに跳ぶ。直後、地面に氷柱が刺さった。

 再び開く間合い。才人はタバサを睨むが、タバサはそれに対してもいつもの無表情。否、明確な敵意の目を彼に向けていた。

 

「何でだよ!?! 何で邪魔すんだよ!!!」

 

 才人の声をまるで聴いていない様に次の攻撃を撃とうとするタバサ。だが、それを「シックス」の声が遮った。

 

『簡単な事だよ、平賀才人君。彼女のターゲットは君だからだ』

 

 今まで上空にいたガーゴイルが再び降りてきた。タバサはそれを睨む。だが、「シックス」はそれを気にもせず話し続ける。

 

『彼女の「タバサ」という名は偽名でね。本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。ガリア国の王族で、現ガリア王の姪にあたる』

 

 突然の説明に才人は怒りを一瞬忘れてタバサを見る。タバサは忌々しくガーゴイルを睨む。

 

『だが彼女の父シャルル公はガリア王に暗殺され、彼女の母親も特性の毒物により精神を壊された。その日よりシャルロット姫は自分の母親に我が子と認識されず、母親は自分が抱く人形こそが娘だと錯覚している』

 

「シックス」の言葉が2人の耳に、脳に響く。

 

『それ以降、彼女は己の名を捨て、人形の名前である「タバサ」を名乗り始めた。彼女の目的はふたつ。ひとつ目は現ガリア王への復讐。もうひとつは母親を治す解毒剤の入手だ』

 

 そこでガーゴイルは首を振り2人を見回した。

 

『今回の報酬はその解毒剤。条件は君の殺害だ』

 

 それを聴いた才人は目を見開きタバサを見る。タバサは殺意が篭った目でガーゴイルを睨みながらも才人への攻撃を再開した。

 幾つもの氷柱が才人を襲う。才人はそれを避け、弾き、いなしながら迎撃する。

 

「タバサ! 頼む!! 止めてくれ!!!」

 

 才人の声は怒りから悲痛へと変わった。だが、タバサは止まらない。今度は巨大な氷の槍を2つ作り出す。

 

「タバサ!!」

「悪いけどそれは出来ない」

 

 タバサは才人を睨みながら槍を放った。才人はそれを紙一重で躱す。その顔は様々な感情によって歪んでいた。

 

「タバサ! 頼む!! このままじゃルイズが!!」

「恨んでくれて構わない」

「アイツがそんな約束を守ると思ってんのか!?!」

 

 才人のその言葉にタバサの攻撃が止まる。

 そんな事は彼女自身が一番知っている。この前直接会ったのだから。あの雰囲気は人のそれではなく、あの目は人に出来るものでもない。様々な危険にあってきたが、彼と対峙していたあの時が一番危険と感じた。それにこの悪趣味の極みを平然とする人間が約束を守る筈が無い。

 それでも、私は……。

 

『そうだ、シャルロット姫。私は今外出中でね、いつもの場所にはいないんだ』

 

 ガーゴイルが唐突に話し始めた。それがどうしたというのだ? それに私は「タバサ」だ。「シャルロット」では無い。

 

『たまには旅行でもしようと思ってね。この前聞いた綺麗な湖が見れる場所へと向かう事にした』

 

 綺麗な湖? だから何だ。サイトが向かってくる。聞くな。私はルーンを唱えて魔法を彼に向かって撃つ。

 

『そこに着いたのが丁度夕方でね。晴れた昼間は綺麗な青色になるらしいんだが、夕焼けに染まった赤い湖も中々のものだったよ』

 

 そんな事今は関係ない。聞くな。彼が魔法を躱して間合いを詰めてくる。聞くな。私は「レビテーション」を唱えて間合いを外す。

 

『逗留先は近くで見つけた古い館でね。こちらも立派な物だったよ。そこの老執事にお願いして、今はそこに泊めさせてもらっている』

 

 聞くな。着地してすぐさま「エア・カッター」を連続で撃つ。聞くな。サイトはそれを剣で打ち落としていく。聞くな。

 

『驚いた事にその館にいた使用人はその彼を合わせて僅か3人しかいなかったよ。早めの夕食を頂いた後、私は彼らに休んだらどうだと提案した』

 

 彼が再び間合いを詰めてくる。きくな。きくな。兎に角今は間合いを詰めさせない事が最優先。きくな。だがそれではジリ貧。きくな。点では無く回避不能の面攻撃にしなければ当たらない。

 

『彼らも最初は渋っていたが、最後にはこちらの提案を飲んでくれた。今では私が用意した『箱』の中でゆっくり休んでいる』

 

 次の攻撃は彼が間合いを(きくな)詰めてきた時だ。(きくなきくな)そこで彼でも躱せないタイミングで(『箱』とはなんだ? きくな)迎え撃つ(きくな)。

 

『その後、そちらの準備が出来るまで館の散策をしていたのだが、その一番奥の部屋に一人の女性がいた』

 

 (キクナキクナ)重要なのはタイミング(キクナ)だ。彼が(キクナ)打ち込んで(キクナ)時にこの呪文を(キクナ)撃つ。

 

『挨拶も兼ねて私は彼女とお茶を飲むことにした。だが、体調が悪かったのか余り長く話す事が出来なかったよ』

 

 彼が(キクナキクナ)詰め寄って(キクナ)来る。その距(キクナ)離は後7メイ(キクナ)ル。これで(キクナ)決め(キクナ)る。

 

『さすがに無理強いをしてしまった手前、私が彼女の看病をした。彼女は今、私の横でゆっくり寝ているよ』

 

 (キクナキクナキクナ)残り4(キクナ)メイル。後(キクナキクナ)半(キクナキクナ)歩。

 

『彼女は…』

 

 

 キクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナそのキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナさきをキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナいうなキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナキクナ!!!!!!!!!!

 

 

『君の母親だよ。シャルロット・エレーヌ・オルレアン』

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 

 

 才人は目の前に咲いた氷の花を死に物狂いで躱した。直撃は逃れたが脇腹が抉られた。後半瞬、タバサが撃つタイミングを遅らせていたら躱せなかった。彼は血飛沫を上げながら地面を転がる。

 痛みに耐えて顔を上げると、そこには初めて見る女の子がいた。正確には初めて見る少女ではない。そこに居たのは彼が良く知る青い髪の少女。だが、その表情が今までの彼女から…いや、彼が生きてきた中で見たことも無い表情だったからだ。

 それは怒り、悲しみ、憎しみ、哀れみ、諦め、嫉妬、絶望。人が持つ様々な負の感情を混ぜて合わせて、捏ね回して、押し固めた顔だった。それをガーゴイルを通して見た「シックス」は嬉しそうに笑う。

 

『お初にお目に掛かるで良いのかな? シャルロット姫』

「なんで……」

 

 タバサ…その仮面を剥がされたシャルロットは涙を流し、肩で息をしながらガーゴイルを睨み付けた。

 

「何でアナタがそこに居るの!?!!」

『さっき言ったじゃないか。旅行中の逗留先だよ。それ以上でもそれ以下でも無い』

 

 嘘だ、とシャルロットは思った。人質だ。あの男は名実共に私のお母様を人質にしたのだ。もし私がこの場で彼を殺さなければお母様は……

 

「サイト!!!」

 

 シヨリモオソロシイメニアウ

 

「死んで!!!!」

 

 シャルロットは氷の槍を今度は5本作り出した。それは本来の彼女の力量ではない。皮肉にも彼女の感情の乱流がその才能を底上げした。

 才人はそれを必死になって躱した。痛みと、焦りと、この理不尽な状況に歯を食いしばり、涙を流しながら彼は吼えた。

 

「何でだよ!?! 何でこんな事するんだよ!?!!」

『最初言ったじゃないか才人君。君への『お礼』だと』

「もういい!! もうアナタは何も喋らないで!!!」

 

 才人の怒りとシャルロットの叫びを聞き、「シックス」は愉しそうに笑う。

 

『そうだな。観客である私が話していては、さすがの君達も集中できないか。では最後にひとつだけ』

 

 

 

『大切なものを取り返したいのなら、君達の大事なものを捧げなさい』

 

 

 

 双つの月の光が降り注ぐ草原で、大切なものを守る為に涙を流しながら2人の子供が殺し合う。

 それを観るのは「絶対悪」。ヒトから生まれながら、ヒトならざる「悪意」を持つ絶対者。

 

 

 

 

 

 地球 日本 東京 某所

 

 そこでひとつの焼死体が発見される。近くには遺留品が「まとめて」置いてあり、現場には他に燃えた箇所が無い事から、殺人と死体遺棄の事件として警察は調査を開始する。

 遺留品から被害者はフリージャーナリストと判明。

 遺留品の中にボイスレコーダーがあり、警察はそれらか事件の様子を調べる事とする。

 

 以下レコーダーの内容

 

若い男の声(被害者:以下 被)『あなたにお会い出来て光栄です』

中年の男の声(犯人と思われる:以下 犯)『ヒヒヒ、こんな中年のおじさんに畏まるなよ』

被『いえいえ、貴方のことはひとつの生きた伝説です。こうしてお会いできるだけでも僕個人としても嬉しいです』

犯『ありがとよ。で、何が聴きたいんだ?』

被『単純に貴方が犯罪をする動機です』

犯『ヒャーハハハハハ!! そんなストレートに聴いてきた奴は初めてだ!! いいぜ、特別に答えてやるよ。なぁアンちゃん、長生きの秘訣は何だと思う?』

被『長生き…ですか?う~~~ん、規則正しい生活ですかね』

犯『いやいや、実はそんなんじゃない。一番煙草を吸ってて、農薬たっぷりの野菜を喰って、有害な空気吸って、朝から深夜まで働いていた世代はいまバリバリ元気に老後を迎えているだろ。だから、長生きの秘訣はそこじゃあ無い』

被『では、その秘訣とは?』

犯『あの御方が生きている世代に生まれちまったら、世間一般の秘訣は何の役にも立たない。長生きするにはな、『おもちゃの歯車』になることだ』

被『歯車?』

犯『そう。『おもちゃ』になるんじゃなくて、『おもちゃの歯車』だ。『おもちゃ』になっちまったら、あの御方に殺されちまう』

被『あの御方とは?』

犯『理解する必要は無い。あの御方にとってこの世界はおもちゃで、暇を潰す為の道具でしかない。だから俺は、あの人を愉しませる『歯車』に徹しているのさ。それが長生きの秘訣で、俺の犯罪の動機だ』

 

 ここで急に何かが燃える音と騒音、男の絶叫が響き始める。

 

犯『ヒヒヒ、最期にアンちゃんには熱く燃えて貰おうか。まあ、遅かれ早かれ、どいつもこいつもあの御人に遊ばれて死んじまうさ』

 

 以上レコーダーの内容

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