一人の青年がパソコンに向かっている。
「えーっと依智純也、平崎市朝日区、学生っと」
【DDSNETにようこそ】
【ジュンヤさんにメッセージが届きました】
【こんにちは、ジュンヤさん。】
『こんにちは。』
【ぼくは、レッドマンです。よろしくね。】
『よろしく!』
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【そういえばジュンヤさんは何処にお住まいですか?】
『平崎市だよ』
【……平崎市ですか。いいところですよね。海も近いし、緑は多いし、立派な公園や大きな図書館や博物館もあるいい街ですよね。歴史も以外と古いし…ヤクザ大親分の屋敷もあったような…それはどうでもいいか…】
『良く知ってますね。もしかして来たことあります?』
【行ったことはないです。でも有名な街だから知ってますね】
『そうですか…いつか来てみてくださいね』
【ではまたNETで会いましょう】
『それではまた』
「純也!久美子さんから電話よ!」
青年の母親が彼を呼んだ
青年は椅子から離れ、急いで電話へと向かって行く。
青年の名前は依智純也、平崎市の大学に通うごく一般の大学生である。
久美子とは彼の大学の同級生であり、彼の友人である。
「もしもし純也くん?わたし。元気だった?」
「元気だよ」
「今日の臨海公園の待ち合わせ場所だけど、どこにしましょうか?」
「決めていいよ」
「そうね 喫茶店がいいわね。公園の北側にあるオレンジ色の屋根のお店」
「分かった。じゃあまた後で」
電話を済ませると純也は身支度を始めた。父親の茶化す言葉を適当に受け流しながらいつものように櫛で髪を逆立てると、服に着替えていく。
「行ってきます」
「おう、頑張れよ!」「気をつけてね」
そう挨拶を交わすと純也は家から待ち合わせ場所に向かった。
喫茶店に付くとまだ久美子は着いていなかったようで店内に久美子の姿はない。何か頼まず人を待つのも悪いと思い、コーヒーを頼む、少し経ってから、ウェイターがコーヒーを持ってきたところに久美子が店内へ入ってきた。
「ごめんね。純也くん待った?」
「いや?全然?」
久美子にもコーヒーを頼み、世間話をしながら喫茶店のテレビを見ていると番組は昼のニュース速報へと入った。平崎市の開発計画が市長により決定され、実行されることになったらしい、そういえば、近場の神社が取り壊しになるとお年寄りが騒いでいたことを思い出す。
「わたし、開発計画には反対よ」
久美子が言った
「ただ古いものを壊して新しいものを造ればいいってものではないと思うの」
「久美子は考古学学んでるしやっぱ嫌だよな」
「そう言うあなたはどうなの?」
「うーん、反対かな?お婆さんが祟りが〜とか言ってたし」
「そうなんだ」
開発計画のことについてしばらく話していたら、久美子がレポート用の本を借りるから図書館に行くと言い出したので着いて行くことにした。
借りる本は、なんでもただの考古学の本ではなく、トンデモな理論を出したせいで学会を追放されそうになった教授が書いた本らしい。そんなものでレポートが書けるのかと思いきやトンデモ理論が出る割には理に適った内容で、あんまし出回ってない割には結構なファンが居るとのことだ。
「あっ」
「どうしたの?」
「図書館のカード家に忘れちゃった」
「じゃあ俺の使っていいよ」
「いいの?ありがとう」
本を借り終えて図書館を出た。外はもう夕方に差し掛かっている。久美子はこのまま大学に行って用事を済ましてくるらしい
「そういえば前に純也くんが行きたがっていたバンドのコンサートのチケットが買えたのよ」
「受け取りに行ってきてくれない?お店まだ開いてるはずだから」
了承の意を久美子に伝え、場所を尋ねる。
「確か矢来区のアーケードの前のビルだったはずよ。用事を済ませたら今日の喫茶店に集合ね」
純也は久美子と別れて矢来区へと軽い足取りで向かう。
「ここのビルかな?」
久美子に伝えられたビルの前に立ち、他にそれらしき建物が無いか周りを見渡す。どうやらここで間違いないようだ。
ビル内へと純也は足を踏み入れた。
ビル内になぜか電気は灯っておらず、もう夕方だからかとても薄暗い。
ビル内の光景に多少の違和感を覚えながら純也はチケット受け取りをするためにビル内を歩く。
しばらく進むと奥から激しい物音が聞こえ始めた。
物音がする方へ純也は足を進める。
物音は次第に大きくなってきいき、その物音の正体を知ったとき純也は自分の目を疑った。
其処には、白いスーツを着た男が奇怪な姿をした、化物としか形容できないものと戦っていたのだ。
化物が彼を目掛けて飛びつくが、彼は軽くこれを避け、避けられた化物が勢いのまま壁にぶつかり、壁に小さな凹みができる。
他の化物たちが続けざまに彼に攻撃を仕掛けていくが、彼には掠りもしない。
化物達の攻撃を全て回避した男は手を化物に翳す、すると化物達は体を紙のようなものに包まれ、動かなくなった。男は手から巨大な火球を放つと化物を跡形もなく消滅させる。
一方的とも言える戦いを終えた男は此方の方を向き言った。
「貴様、サマナーではないな?」
あまりに現実離れした光景に呆然と立っていた純也は彼の言葉で意識を現実へと引き起こされる。
「何故ここに居る?1人でいたら死ぬぞ、わかっているのか?」
男の威圧感に押されながら、純也はここに来た経緯を話す。
「此処から速く逃げ出したほうがいい感じですか?」
事情は全く分からないが、ここに居れば危険だという事だけは純也にも理解できた。
「それは無理な話だ」
「此処は異界化されている。異界化した奴を倒さなければ此処からは出られん」
「外へ出たければ、俺について来るんだな。もっとも貴様が生き残れる保証はできんがな」
そう言い終えると男はビルの奥へと進んでいく。
純也も急いでその後を追った。
化物を次々と消し去っていく男の背中を見失わないように必死に追いかけたり、所々から湧いて出る化物から身を隠しながら階段を上へ上へと登っていく。最上階に着くと男はすぐ近くの部屋の中へと入って行った。
純也が部屋の中に入るともう方がついたようで黒焦げたオフィスだったものの中に男と死人のような肌色をしたチンピラ風の男が向かい合っている。
「なっなにィ!ピシャーチャをあっさり倒しちまうなんてお前何もんだ…?」
「クソッ!おめぇなんかシドの先生に掛かりゃイチコロだぜっチクショウ!覚えてやがれ!」
チンピラはそう捨て台詞を吐くと窓を突き破り、外へ飛び降りた。
「お前、まだ生きてたのか」
「まあ、お陰様で…」
「異界化が解ける…外へ出られるぞ」
男と純也は入り口へと階段を降りていく。
入り口まで着いたとき、男が口を開いた。
「よく生きていたな。だが、このことを誰かに話したら命はないぞ…いいな?」
男は有無を言わさないという雰囲気を醸し出し言った。
純也が返事をしようとすると、入り口から女性が入ってきて言った。
「キョウジ!デビルサマナーとあろうものが若い子相手に何凄んでるのよ」
「何だ…レイか」
「何だはないでしょ。わざわざ迎えに来てあげたのに」
「まあ、あんただったら大丈夫だとは思ったけどね」
そうキョウジにレイは言うと純也の方を向いた。
「君、もう遅いから帰りなよ」
「おい、レイ。勝手にそいつを帰すな」
「大丈夫よ。仮に彼がこんなこと誰に話したって誰にも信じてもらえないわよ」
レイは純也の背中を軽く押す
「この人の気が変わらないうちに早く帰りなよ」
「俺は帰って良いなんて言ってないぞ」
キョウジの声が少しづつ怒気を孕んでいく。しかし、レイの説得に押されたのか、はたまた彼女との言い合いが面倒になったのか、キョウジは純也へ「今日のところは帰すが、次に会た時には命の保証はしない」と言うと、出口へとむかっていく
レイがキョウジを止めようとするが、彼はそのまま「あばよ」と言い残しそのまま去っていってしまった。
純也は彼らの対話を聞きながらある事を思い出していた。ここに来て色々あり過ぎて忘れていたが、自分はただチケットを受け取りに来ていただけだということを。
「自分、ここにチケットを受け取りに来ていたんですけど…」
「えっ?チケット?ビル全体が悪魔に荒らされてたからチケットガイドも滅茶苦茶になってたはずだし手に入る訳ないよ」
それもそうだ。待ち合わせた喫茶店へと向かいながらさっきレイという女性に言われたことを思い出す。もうすっかり日も落ちてしまった。久美子に事情はどう説明したものかと思案を巡らせながら喫茶店へと恐る恐る入る。
喫茶店の店員から久美子が自分があまりにも遅いから家に帰ってしまったと聞いて、今日は本当にツイてないと思いながらさっき頼んだコーヒーセットを待つ。
「臨時ニュースです。今日未明、市内で遺体が発見されました。」
今の日本では、連日殺人や事件が起こっている。そう珍しいものでも無いと他人事に考えながらテレビに目を向ける。
平崎市 矢来区 自称私立探偵 葛葉 【キョウジ】
自分を助けたあの白スーツの男が画面に死亡者として個人情報が簡易的に表示されている。
「遺体は近隣住民によって発見され、病院に搬送されましたが、既に息を引き取っていたそうです。遺体には目立った外傷が殆なく、明日、警察関係者によって検死がされるようです。それでは次のニュースに…」
「まったく物騒ですね最近は…平崎市の遺体発見は今回が初めてではないですし…」
喫茶店のマスターがコーヒーを入れながらポツリと言う。
ニュースキャスターは次のニュースを淡々と読み上げているが、純也は先程のニュースのことが頭から離れなかった。親しい間柄では無かったとしても見知った人が死んだ。死というものが身近に感じられてしまい、複雑な感情が彼を支配する。
喫茶店から出ると純也は家を目指す。
早く帰りたい。化物騒動といい、キョウジの死といい、現実離れした今日を彼は寝て忘れてしまいたかった。
そんな彼の考えを否定するかのように彼の背後から見るからに怪しい神父風の男が声を掛ける。
「あなたハ依智純也さン、ですネ?」
男が片言の日本語を話しながら近づいていくる。
「はい、そうですけど…」
「私ハ、あなた二、用事がありまス。こちらに来てくださイ」
男は近くの工事中の建物へと手を差し出す。
何故自分の名前を知っているのか。お前は誰なのか。と聞きたいことは山ほどあるが、こんな気味が悪い男に着いていく訳にはいかない、純也は逃げるために走り出そうとするが、身体が言うことを聞かない。何度も逆向きに力を入れるが、純也の足は建物へと自然と動いていく。
建物へと入ったが、足は止まらず奥へと進んでいく。有る程度奥まで来ると、唐突に足が止まった。身体の自由が帰ってきたのだ
男が立ち止まり話し出す。
「さテ、依智さン。あなたハ、図書館で本を借りましたネ?」
「申し遅れましタ。私、シド・デイビスといいまス。依智純也さン」
シド?何処かで聞いたような…と純也は思い出そうとするが思い出せず、下手なことをすれば何をされたか分かったものではないので、とりあえず質問に答える。
「借りてない」
「ウソを付いテも無駄でス、あなたガあの本を借りていタことはもう調べがついてまス」
「カードを貸しただけだ」
「本当ニ持ってなイのですカ?」
「持っていない!」
そう純也が強調するとシドは少し考えたあと言った。
「そうでスか…でハあなたニは用はありませン」
「死んでもらイまス…と言いたイところですガ、あなたモ死にたくはないでしょウ?」
純也はその言葉に頷く。
「私から逃げることガできれば見逃しテあげましょウ」
その言葉を聞くと純也は走り出した。どうしてこんなことに、なんで自分なんだ、と泣きそうになりながら必死に出口を目指す。一度建物に入った後すぐ通った道路を通り、出口があるはずの部屋へ入る。
「どうしましたカ?迷ったのですカ?」
其処にはシドが嘲るような笑みを浮かべながら立っていた。
純也は急いでその場から離れると逆の道を進み出す。
しかしどの道を通っても必ずシドは先回りしている。
純也は悲鳴にも近い声を上げながらも必死に出口を探し回る。不意に角から出てきたシドが一言を発した。
「そろそろお遊びハ終わりでス」
純也の身体がまた動かなくなる。
「わたしかラ逃げられなかった依智純也さンには死んでもらいましょウ」
純也の体から力が抜けていく。
「さすがニ出口の無い建物からハ逃げ出せませんでしたネ、フッフッフッ…」
純也に向かって男が魔法陣を向ける。
純也の意識が途切れる。
「おや、もうお休みですカ?」
男のその言葉と共に純也は床へと倒れ伏せた。