とある男が葛葉キョウジになるまで   作:マック野郎

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教授宅へ

「ふむ、仲魔が言うことを聞かないか」

 

マリーから報酬を受け取った純也は、業魔殿へと訪れ、そこでヴィクトルに先程の戦闘についてを話していた。

 

「そうなんですよ、本当に死ぬかと思いました」

 

あのときピクシーが居なかったら恐らく、自分は今度こそ三途の川送りになっていただろう。

 

【おいおいサマナーさんよぉ、さっきから聞いてりゃまるで俺が悪いみたいに言いやがって】

 

約束を果たすために召喚していたボーグルが非難の声を上げる。

 

【第一、契約してるってのも一緒に戦うってだけで、忠誠を誓ってるわけじゃねえし】

 

【お前はよぉ知り合ってすぐの奴に死にそうだから命張って身代わりになってくれなんて言われてもそんなことしねぇだろ?】

 

呆れたようにそう言うボーグルの言葉に少し納得してしまう。悪魔って名乗ってるくせに人間みたいな事を言うやつだ。

 

「悪魔たちは基本、自由に生きることを望んでいる」

 

「仲魔たちに指示を出したいのならば、前に説明した、性格を参考にすることだ」

 

純也はヴィクトルの説明を思い出す。

 

強いものにただ従うもの。

共に戦うことでサマナーに信頼感を寄せるようになるもの。

ただ物欲のままに、サマナーからの贈り物に応じて、忠誠を誓うもの。

単に話が通じないもの。

など悪魔には様々な種類がいる。

 

忠誠を誓った悪魔は、サマナーのどんな命令にも従っていく。更には、その体を自ら差し出し、サマナーの装備へと変化する献身的な者もいるらしい。

 

「色んな奴がいるって部分は人間も悪魔も変わんないよなぁ」

 

【そりゃ俺たちも生きてるからな】

 

「そう言えばお前、強くなる為にここまで来たかったんだろ?何をしに来たんだ?」

 

【悪魔合体だ】

 

「悪魔合体?」

 

「それは、吾輩が説明しよう」

 

 

ヴィクトルが言うには、悪魔合体はその名の通りに、悪魔同士を合体させ、両方の力を受け継いだ新たな悪魔を生み出す邪法のことで、誕生する悪魔は、何も元になった悪魔のキメラのようなものではなく、既に存在する悪魔の分霊らしい。

 

基本、悪魔は力を付けることに好意的で、悪魔合体の素材となることには、抵抗を抱かない。

 

ボーグルの話によると、自分という存在が造り変わっても、それによって生み出された力の中に自分が存在していれば満足であるという。

 

悪魔と人間との価値観の違いが大きく現れたその言葉。自分もそんな風に割り切れればもう少し楽に生きていけるかもしれないと純也は思う。

 

【まぁ今はいいかな】

 

どうして?と聞く純也にボーグルは返す。

 

【だってそうしないとお前、すぐに死にそうだからな】

 

そう言うとボーグルはGUMPへと戻っていった。

 

「言ってくれるな、まあ、否定できないのが悔しいけど」

 

 

ボーグルとの用事を済ました純也は、業魔殿に来たもう一つの目的を果たすためにヴィクトルへと尋ねる。

 

自分の死、図書館の異界化。その原因となった【シド】という名前について何か知っていないかと

 

 

「サマナーには、大きく別れて3つのものがいる」

 

ヴィクトルが語り始める。

 

「1つは人類の為、悪魔と契約し、悪魔を滅する人側のサマナー」

「お前の体の持ち主だった男はここに属している」

 

「2つ目はどの陣営にも属していない、フリーのサマナー」

 

「そして最後は、悪魔と契約したことで、魂までを悪魔に染められ、人に仇を成す存在と成り果てたものだ」

 

「恐らく、シドとやらはここに該当するだろう」

 

ヴィクトルが此方を見つめて純也に問う。

お主はこれからどうするつもりなのかと。

 

純也はその視線に気圧されないように力強い眼差しでヴィクトルを見つめ返す。

 

「おそらくは、俺の友達が、奴の探していた本を持ってるんです」

 

「奴がそれに気がついてしまったら、俺の様に殺して、本を奪うでしょう」

 

「周りを巻き込んで…」

 

純也の頭に先程の図書館での惨状が浮かぶ。

 

まだ、この現実が受け止めきれていない自分がいることは確かだ、正直な話、悪魔やシドも怖くて溜まらないし、逃げ出したい。

 

でも、これ以上、あの人の様な犠牲者を出させる訳にはいかない。

 

純也は決意を確かめるように拳を握りしめる。

 

「だから俺…今だけは、アイツを止めるために戦います」

 

 

 

 

 

走り去っていく純也の背中を見て想う。

一般人からサマナーになってしまったあの男。おそらく奴は、悪魔との戦いに身も心もすり減らしていくことになるのだろう。

 

「だが、奴は簡単には折れんな」

 

 

 

 

 

「どう見てもボクシングジムだよな…」

 

純也は前にヴィクトルから聞いていた、キョウジが通っていたという回復施設へと足を運んでいた。

ヴィクトルが言うには、秘孔を付く技術に目覚めた男で、その男に秘孔を付かれた者は、人、悪魔を問わずに肉体、魂の損傷を修復していくらしい。

 

中に入るとそこに居たのは、前にアーケードで純也に声を掛けてきた男だった。

どうやらここのオーナーだったらしい。

 

「よぉキョウジ!何時ものだろ?来いよ!」

 

中へ入った純也にそう言うと、男はボクシングジムの奥の扉へと純也と共に入っていく。

 

「そんなにボロボロになっちまって」

 

そう言うと男は純也に横になるように促す。

 

男に背中を指で押されると、体の疲れや傷がみるみる癒えて行くのを感じる。

男は、純也を治療しながら話し始める。

 

「そういえばよ、前に朝日の病院に担ぎ込まれたっていう男をそいつの両親に依頼されて診に行ったんだ」

 

男が話を続ける。

 

「この俺でも全く原因が分からなかった」

 

「ありゃただの事故や病気じゃないぜ。キョウジ、お前の追ってる事件と何か関係があるのか…?」

 

純也は頷く。

 

「余り無理をしないでくれよ、ヤバイ奴と戦えるのはお前だけだからな」

 

「これは一人の友人としての頼みでもあるんだ、危険だと思ったらすぐ戻って治療を受けるんだぞ!」

 

純也は治療を終えるとジムから立ち去る。

あの男が言っていた男はおそらく自分の事だろう。

 

葛葉キョウジの身体に入ってしまった自分。

自分の魂が入っていない身体を、両親は今も目を覚まさないか待ち続けている。しかし、もとに戻る方法もわからなければ、彼の魂がここにいない以上、自分は彼の代わりとして戦っていかなければならない。

 

「もう少し待っててくれ、父さん、母さん」

 

全てを終わらせたら、絶対に帰るから。

 

 

 

 

「キョウジ!やっと見つけた」

 

「今日は、教授の護衛をするって前に言ってたじゃない」

 

護衛という言葉に純也は、引っ掛かりを覚える。

 

「護衛?」

 

「何言ってんのよ、自分で依頼を受けたんじゃない。忘れちゃったの?」

 

「あんた、滅多にあんな依頼受けないのに、『あの教授を狙ってる【シド】とかいう男はきな臭い』って、あんなに張り切ってたじゃない」

 

【シド】その言葉に純也は目を見開く。

奴が、その教授を狙っている

まだ先程の依頼完了からそんなに経っていないが、その言葉を聞いて、行かない手は無い、純也はレイに依頼主が何処にいるかを急いで聞き出そうとする。

 

「ちょっと落ち着きなさいよ。あんた、1回死んでからなんか変よ」

 

レイはそんな純也を制しながら少し考えると口を開く。

 

「そうね、私も行くわ。魔法、使える人が多いと便利でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

朝日区の住宅街。純也の家もあるその地区に教授の家があるらしい。

 

「何ここ…完全に異界化してるじゃない!」

 

異界と化した住宅街が瘴気を放ちながら広がっている。

おそらく、シドが教授を狙っての結果だろう。

急がなければ、異界化の影響が周りに広がっていき、悪魔が被害を出していく。そんなことがあってはいけない。

異界へと走り出した純也をレイは追う。

 

異界内部で悪魔と、武器をGUMPから呼び出す。

 

異界では、新たな悪魔が純也達へと襲いかかる。

悪魔達に自由行動を命じると、純也は悪魔が放った電撃が掠りながらも、攻撃を仕掛ける。

 

レイは衝撃を放つ魔法で、悪魔へと後方から攻撃している。

異界はまだ発生したばかりなのか、悪魔はそこまで強くなく、あっさりとマグネタイトへ還っていった。

 

純也は少しできた傷をピクシーに治療させることにした。

 

 

その光景を見ながらレイは考える。

やはり、病院から帰ってきた彼はおかしい。

ここまで戦闘がぎこちなくなかったし、悪魔ももっと高位なものを使役していた。

 

本当に彼は葛葉キョウジなのか?

 

浮かんだ疑問を振り払うようにレイは頭を振るう。

 

「まさかね、考え過ぎだわ」

 

きっと死にかけたから本調子に戻って無いだけだ。悪魔もGUMPを修理に出していたし、きっとそれで契約が切れてしまったのだろう。

そう自分に言い聞かせると、傷を直し終え、奥へと進もうとする彼の後へと続いていった。

 

 

エネミーソナーで異界化の中心となった場所を探していくと、ボロボロの民家が見えてくる。どうやらあれから強い反応が出ている。あそこに異界化の原因が居るようだ。

 

ボロボロになったまま放置されている標識にはかろうじて『吾妻』と表記してあるのが読み取れる。

 

「吾妻…教授の名前よ」

 

教授の家の中に入ると、奥から男の怒号が聞こえる。

 

「くそっ吾妻のクソジジイめ!何処に本を隠しやがった!」

 

「せっかくシドの先生が異界化してくれて探しやすくなったはずなのによぉ〜」

 

そこに居たのは、前にキョウジから逃げ出したチンピラだった。純也達は武器を構えて男に近づく。

 

「ん?なんだぁ?」

 

「ああっ!てっ、てめぇはキョウジ!前にシドの先生にやられたんじゃ、」

 

動揺した様子で男が言う。

 

「クソっ、こうなったらこのタカシさま直々に引導をくれてやらぁ!」

 

「ヤコウ!手長!足長!出てきやがれ!」

 

そう言うと男の周りにマグネタイトが集まって悪魔の形をとっていく。

 

タカシという男は悪魔の後ろへと下がっていった。

前列、後列と体制を組んで具現化した悪魔が、純也達へと攻撃を仕掛けていく。

 

「レイとピクシー、ノッカーは後方から手の長い奴へ魔法を打ってくれ!」

 

「了解!」

 

【分かった!】

 

【え〜アイツとやるの?】

 

「ボーグル!足の長いやつに電撃を!」

 

【しょうがねえな!】

ボーグルの手から電撃が発され、避けられなかった悪魔を感電させる。手に持った刀を悪魔へと勢い良く振り下ろす。

 

純也によって切り落とされた部位はマグネタイトへと返還されていくが、悪魔は怯まず、鞭のようにしなった足が純也を蹴り飛ばし、床へとぶつける。

態勢を立て直した純也は、前列の悪魔の、切り落とされたはずの部分が元に戻っているのに気が付く。

 

【Enemy】

【DIA】

GUMPが敵の魔法を検知している。

 

「回復魔法か!」

 

奴を叩くためには、一撃で魔法のような大きな一撃を放たなくてはいけない。

 

レイの方は彼女達の魔法によって既に倒し終え、後列の悪魔に攻撃を始めている。

 

もう一度、悪魔へと向かって走り出した純也は、先程のように蹴り飛ばそうと向かってくる足を刀で受け止めると、ボーグルに電撃の指示を出す。

 

【次に決めなかったら、言うこともう聞いてやんねえからな!】

 

死角からの電撃を諸に受けた悪魔は、体のバランスを衝撃によって大きく崩す。

純也はそこを狙って刀で悪魔を切り上げる。

 

衝撃で強張った顔のまま両断された悪魔は、そのまま消滅していく。

 

【サマナー!後ろだ!】

 

ボーグルのその言葉を聞き終わる前に、純也を衝撃が襲う。この屋敷の中に、もう一体悪魔が潜んで居たのだ。

 

「ざまあみろ!この野郎!まいったか!」

 

タカシが悪魔の後ろで勝ち誇る。

 

「キョウジ!」

 

後列の悪魔との戦闘を終えたレイがこちらへ仲魔と共に向かってくるのが見える。

レイの言葉に頷いて安否を知らせ、立ち上がると、刀を構え直す。

 

「まだ立ち上がって来るのか!?こうなったら…」

 

男の様子がおかしい。

 

「キョウジ!アイツ、自爆する気だよ!」

 

「自爆!?」

 

相手の悪魔も状況が理解できないのか、自分を呼び出したタカシへと驚いた表情を見せている。

 

純也達は急いで教授宅から脱出する。すると教授宅から、爆風が周りを巻き込みながら起き、建物は跡形もなく消し飛んでしまい、それと同時に異界化も解除される。

 

「あんた、早めにここから逃げたほうがいいわよ」

 

そう言うとレイは、足早に去っていく。どういう意味かを聞こうと後を追う純也に後ろから大きな声が掛かる。

 

「葛葉ァ!さっきの爆発は、貴様の仕業か!」

 

純也がその言葉に振り向くとそこには、人相の悪い刑事風の男と、それに付きそう白いシャツを着た細い男が、並んで立っている。おそらく自分に声を掛けたのは刑事風の方だろう。

 

「何か怪しい事件には毎回お前の影が見えてたからな!やっと尻尾をつかんだぞこのクソ野郎!」

 

「待ってくれ!誤解だ!」

 

「お前は重要参考人だ!大人しく署までご同行願おうか?」

 

純也の弁解の言葉も聞かず、刑事は隣の白シャツの男に純也を連行することを指示をする。

 

「はいっ!警部!さあ、来るんだ!」

 

そう小気味よく返事をすると男は純也に手錠をかけ、署へと連行していく。

 

「だから違うんだ!俺は何もやってない!」

 

「やってる奴ほどそう言うんだ!前から警部に失礼ばかり働いて、嫌な奴だと思ってたんだ」

 

どいつもこいつも人の話を聞いてくれない。

葛葉キョウジは一体この人達に何を仕出かしてくれたんだ

身体の持ち主の、知らぬ素行に怨みを抱きながら、

警察相手なので抵抗もする訳にはいかず、純也は署へと連行されていった。

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