とある男が葛葉キョウジになるまで   作:マック野郎

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釈放

「まさか、ずる賢いお前をこうして留置所にぶち込めるとは思わなかったぞぉ葛葉!」

 

矢来区から離れた場所にある大きな警察署、純也はここに連行され、留置所の中で先程の刑事から取り調べを受けていた。

 

「前の殺人現場でも、お前を目撃した情報が出ているんだぞ!最近起こっている連続殺人事件にも絡んでいるんじゃないのか!いい加減白状しろ!」

 

純也が無罪を主張すると、刑事は様々な自分の知らないキョウジの素行を理由に白状を迫る。さきほどからこの問答の繰り返しだ。

 

「いつもお前は事情聴取にも答えず、挙げ句の果には俺に無能とまで言いやがったよな!」

 

そんなことをキョウジは言っていたのか。

刑事の並大抵ではない怒りようを見て、キョウジの事を余り知らない純也にも彼の素行が悪かったことが理解できたし、そんな男が疑われるのは、仕方がなかったとも思える。

しかし、それとこれとは別の話。いくら彼が恨まれていようが、本人ではない純也はいい迷惑である。

 

「埒が明かない…」

 

「こっちの台詞だ!」

 

そうこうしていると、部屋に警察の者であろう人が入ってくる。

 

「今は取り込み中だぞ!」

 

「いや、それがですね…」

 

「何っ!?上はなにやってんだ!」

 

入ってきた男の報告を聞くなり、顔を先程以上に不機嫌そうにすると、心底怨めしそうな顔で純也を睨みつけながら言う。

 

「上からお前を開放するよう指示が出た」

 

いい加減この問答の繰り返しに、うんざりしてきた純也にとってこれ以上ない朗報であった。

 

しかし、一体どうしてそんな指示が出たのか不思議でならないが、願ってもない此処から逃げるチャンス。もう数時間はここで尋問を受けているうえ、悪魔との絶え間ない戦闘の後で、純也の身体と精神は疲れ切っていた。

 

『ここを逃してはならない』と疑問を解消することも疲れからか放棄した純也は、入り口に立っていた男の案内を受け、署の出口へと向かう。

 

「吾妻とかいう男の家の爆発、実はガスの事故だったらしいぜ、怖いよな〜俺も元栓ちゃんと締めとかないと」

 

「あそこにいるの、確か現場を彷徨いてて、捕まったとかいうドジな自称私立探偵だろ?」

 

「災難だよな。どうせ捜索依頼とかだろうけど、当の本人は数日前に書き起こしを残して行方不明だしさ」

 

「そういえばさ、爆発とかに巻き込まれたか知らんけどヤクザの死体もふっ飛ばされてたらしいぞ…」

 

迎えが来るとの事で入り口で待っていたが、休憩中の刑事たちの話の中心となってしまい、純也は気恥ずかしさで縮こまる。

『ドジな』という言葉が今の純也にはどんな言葉よりも情けなく感じた。

だが、そんな中でも情報は集まる。先程の刑事の話では、吾妻教授は先程の異界化で殺された訳では無いようだ。

 

そうこう考えていると、マリーが車で迎えに来た。

彼女とはいい思い出が全くと言っていいほどないが、今の純也にとっては再開がとても嬉しかった。

 

「あんた災難だったわね〜まさかアイツに見つかるなんて」

 

「一体誰なんですかあの人は…」

 

入り口に停めてあった車に純也を乗せると、質問にマリーが答える。

あの刑事は百地英雄という男で、知る人は知っている敏腕刑事であり、キョウジにあれ程の嫌悪感を抱いているのは、キョウジが異界化を解決した後にあの刑事とたまたま鉢合わせ、異界化の惨状がキョウジが引き起こしたものだと思い込まれてしまい、目をつけられた結果らしい。

 

「葛葉曰く『足が軽いだけの無能』って言ってたけど、一般人にしてはよくやる方だと思うんだよね」

 

「そんなこと言ってるから恨みなんか買うんですよ…」

 

しかも先程の話を聞くに、本人にそれを言ってのけてしまっているのでキョウジという男は相当いい性格をしている。

 

「まぁアタシに感謝しなよ、アタシのコネのおかげで晴れて無罪放免なんだからさ」

 

「どういう事ですか?」

 

彼女が言うには、自分とキョウジは、警察と内密に繋がっており、一般人が解決できない事件を解決する代わりに、多少の罪に目を瞑ってもらっているらしい。

更に、キョウジの方は裏社会との繋がりまであり、悪魔退治の道具は、密輸入した拳銃などを買っていたそうだ。

 

「ちなみに矢来にある不動産屋は葛葉行きつけの武器屋だよ」

 

「こんなんじゃ本当に連続殺人を犯していてもおかしくないよな…」

 

本当はもう既に人を何人か殺しているんじゃ無いだろうか。

キョウジという男に感じた不安感を掻き消す為に純也は話を切り替える。

 

「そう言えば、レイさんはどうしてるんですか?」

 

思えば、数時間前に教授宅で捕まってから逸れてしまっているのに、彼女の姿は見えない。

 

「レイは、あんたが捕まるなんてヘマしないと思ってるからね。だって、あんたが葛葉じゃない事に気がついていないから」

 

おそらくキョウジという男の人柄ならば、軽く刑事を丸め込んでその場から強引に立ち去っていただろう。

 

「あの子に話をしてあげたいけど、信じてくれるかどうか…あれから葛葉の怨霊も現れないし…」

 

「真実を言っちゃ駄目なんですか?」

 

「アンタ、見ず知らずの奴が自分の相棒の中に入ってますなんて信じられる?ましては命を掛けた仕事してんだ、そんな知らない奴に背中が預けられる筈もないさ」

 

「でも、ずっと隠し通す事なんてできないです。いつかは絶対にバレます」

 

「まあ、そのときはそのとき、今あの娘が居ないとアンタ死ぬわよ」

 

自分の為に彼女を騙す。それが今は最善だとしても純也には強い抵抗感が残る。いくら仕方がないとはいえ、帰ってきた相棒が別人になってしまっている事に気が付かないままだなんて、考えただけで罪悪感が出てくる。

そんな純也の様子を見かねたのかマリーが言う。

 

「それにこれはね、あの娘の為でもあるのよ。あの娘、一人で無茶するタイプだから…アンタでも付いてると付いてないとじゃ付いてる方が安心なのよ?」

 

「そんなもんですか…?」

 

「そうよ、だから今は葛葉かどうかなんて話題は出さない方針で」

 

話が終わると、ちょうど矢来区のアーケード街の前へと着いていたようで、マリーは、純也を車から降ろし、夜の街へと去っていった。それを見届けた純也は、事務所へと歩いていく。

 

もう夜の10時をとうに越えているからか、昼間はあんなに活気のあるアーケード街も、心なしか寂れて見えた。

そんなアーケード街の端っこに小さな事務所が見えてくる。一日離れていただけなのにそこが酷く懐かしい。

 

事務所に入り、電気を付けると純也はソファーに倒れ込む。もう此処から動けそうに無い。

 

「ハードワークだなぁ…」

 

今日一日で色んな事があった。殺されかけたり、悪魔と契約したり、警察に捕まったり…本当にこの身体になってから禄な事が起きない。これが日常茶飯事とは本当に心が折れてしまいそうだ。

 

しかし、ヴィクトルに告げた覚悟を曲げるつもりは全く無い。

 

「絶っ対に負けないからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっお前はキョウジ!生きてたのか…?」

 

純也はキョウジが使っていた武器屋である不動産屋へと訪れていた。

スキンヘッドに赤いスーツ。シャム猫を膝に乗せた『いかにも』な成金の姿をしたオーナーらしき男は驚いた表情で純也に語りかける。

 

「まぁ世間話はここまでにするか、用事だろ?」

 

男は側にいた秘書らしき女性にお茶を出すように指示すると、手に持ったボタンを押す。

 

すると事務所内の机から、中に収納された銃火器が大量に表に出る。

 

「お前が来ない間に色々と仕入れたんだ、これなんかお気に召すと思うぞ?」

 

そう言うと男は銃火器の中から一つを取り出す。

 

「ドラグノフって言う狙撃銃だ。小回りは効かないが威力はお墨付きだぜ?」

 

「銃弾と合わせて、14000でどうだ?」

 

昨日の戦いでは、自分の行動範囲が狭く、後列の悪魔に攻撃が出来なかったので、レイに任せきりになってしまった。もしものときの為にも、買っておいた方が良いだろう。

 

「毎度、今後ともご贔屓に…」

 

マリーの言うとおり、あそこは武器庫のように武器が沢山置かれていた。何処で手に入れたのか、そもそも平崎はこんなに治安が悪かったのか、色々と思うところはあるが、慣れていくしかない。

 

ドラグノフをGUMPへ収納すると、純也は情報収集の為、銀座内を聞き込みして回る。

前日の吾妻という名前に少し引っ掛かりを感じ、今朝ネットで調べてみたところ、なんと久美子が借りていた本の執筆者だった事が判明したのだ。

行方が分からないのも何か関係があるかも知れない。

そう考えた純也は聞き込みを開始する。

 

「吾妻…?知らないな」

 

しかし、思ったようには情報は集まらない。調べた結果分かったのは教授は独身で日頃から家に籠もりきりであることと、親しい友人がいないことである。

捜査に行き詰まり感じた純也がマリーに助言を頼むと、くディスコに行くことを勧められたので純也はディスコへと向かう。

 

陽気な音楽と共に若い男女が目が痛くなるような光が天井から差し込む部屋の中で踊っている。最近の流行とテレビで放送しているのもあってか、まだ朝なのにフロア一杯に人が満ち溢れている。確かに人は多いが、本当にこんな所で情報なんか集まるのだろうか。

 

話を聞こうと集団に近づいて行くと、GUMPが自動でに起動し、その内の一人から【Enemy】の反応を示す。

場違いなくらい踊りが下手くそな男からその反応は発せられているようだ

 

「お前、悪魔だろ」

 

「ギクッ」「そっそんなことないホ!」

 

【あ〜!この子ジャックフロストだ〜!】

 

GUMPからピクシーの声が聴こえる。

 

「違うホ!オイラは人間だホ!」

 

【よく化けたね〜凄ーい!】

 

「化けてないホ!」

 

「ここまで言われたらもう観念しろよ…」

 

 

 

 

ジャックフロストを人目につかない所へ連れて行くと純也は悪魔の姿に戻ったジャックフロストに目的を尋ねる。

 

「オイラ悪い奴じゃ無いホ!人間の遊びに興味があって…」

 

ジャックフロストは必死に弁解しようとする。

 

【もう許してあげたら?】

 

【可愛そうだよ】

 

GUMPの仲魔から非難の声が挙がる。

 

「そうは言ってもな…」

 

幾ら悪意がないといってもジャックフロストは悪魔なのだ。人間とは違う点が多過ぎる。下手に放っておけば、人間と喧嘩でもして相手を殺してしまう可能性もある。

 

【じゃあ仲魔にしてあげなよ。そうすれば、人は襲えないよ】

 

そう言うノッカーの提案に頷くと、ジャックフロストに交渉を始める。

 

「俺の仲魔にならないか?」

 

「色んな遊び、教えてくれる?」

 

「ああ!俺の知る限り教えてやる」

 

「じゃあ、アイスクリームとか、オイラの好きなもの買ってくれる?」

 

「まぁ、そんなにたくさんは買わないと思うけど…希望するなら買ってやるよ」

 

「交渉成立だホ!オイラは妖精ジャックフロスト!いじめないでね…」

 

ジャックフロストと契約を完了させ、GUMPへと収納する。

 

こんな所にも悪魔は潜んでいるのか。

案外知らないだけで、現実社会には悪魔が溶け込んでいるのかも知れない。

 

 

 

「探偵さんじゃん!なんかまた探してんの?」

 

調査を再開すると、キョウジを知ってるらしい男が純也に声を掛ける。

 

「吾妻って教授を探してるんだ」

 

「吾妻教授?ああ、確か今日大学で講師するって噂だけど…あの人行方不明なんでしょ?」

 

「大学?一体どこの大学なんだ?」

 

「多分、吾妻教授は来ないと思うけど…北山大学って所だよ」

 

久美子と自分が通っていた大学であるそこに、教授が来るとなると、教授を狙っていたシドはきっと昨日の様に悪魔を送り込む可能性が高い。もし、そうなってしまえば、昨日の惨劇の比ではない、大勢の人が被害者になる。

 

純也は男に礼を言うと、急いでそこから北山大学へと向かって走り出す。

ディスコを出るとすぐ外にレイが立っていた。

 

「キョウジ!北山大学で異界が発生したみたい!」

 

「ちょっと、キョウジ!待ってよ!」

 

レイの声が自分の考えていた最悪の想定を肯定する。

まだ被害者が出たとは決まっていない。久美子も友人達も無事なはずだ。そう自分に言い聞かせながら、レイの言葉に返事も返さず、純也は大学へと向かっていった。

 

 

 

 

 

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