とある男が葛葉キョウジになるまで   作:マック野郎

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定期更新できる人凄いですね…


北山大学

不自然に人気のない庭園。いつもこの時間帯には午前の講義が終了し、多くの生徒が休憩時間を楽しんでいるはずだが、それらの姿は何処にも無い。平日の昼とは思えない異常な光景の中、純也は走り続けていた。

大学内には既に悪魔が湧いている様で、行く手を何度も遮られながらも、一体ずつ仲魔と対処していく。

 

「ちょっとキョウジ!流石に無視はないんじゃない?」

 

大学内でレイと合流した純也は、彼女の非難の言葉に謝りながら、レイに生徒や教師の安否を確認するように頼む。自分より彼女の方が戦闘能力が高く、仮に彼らが悪魔と遭遇したとしても確実に守る事ができると考えたのだ

 

「多分、東棟の講義室にいると思う」

 

「でも、アンタ一人じゃ危険よ!」

 

「連絡はする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに居るんだ…クソッ」

 

早く元凶を絶たねばならない。

図書館での出来事は、純也にそんなある一種の使命感という名の強迫観念を植え付けるには十分だった。

召喚したピクシーに先程からたび続けに行われる戦闘の傷を治してもらいながら大学中を駆け回る。

既に被害が出ているようで、自分の見知った廊下に何個も血の跡が見える。これ以上被害が増えていく事だけは避けたいが、エネミーソナーが大学の上部を示している為に、形状が変化した大学内で階段を探し回らなければいけない。

 

階段を探す純也は、講義室へと出る。

広い講義室の中では、尻もちを着いて後ずさる男に悪魔が襲いかかろうとにじり寄っていた。

 

「その人から離れろ!」

 

狙撃銃を構えると純也は悪魔へと語りかける。

しかし、悪魔は応答をするどころか純也に目もくれない。会話ができない事を知らせるかのようにGUMPには【talk】のコマンドが表示されていない。

 

ピクシーに悪魔の注意を引くよう指示を出して自分も狙撃銃を構え、悪魔に向けて発砲する。

 

発射された弾丸は狙いを微かに外し、致命傷には至らない。攻撃の威力に警戒をしたか、悪魔は動けない男を掴むと、盾のように使いこちらの攻撃を防ごうとする。盾にされた男は銃を向けられた恐怖からか、半狂乱になって必死に悪魔の手の中で藻掻く

 

 

ピクシーが悪魔の懐に潜り込み、炎の魔法を放つが、耐性がある様で悪魔には目立った効果がない。

純也は隙を見計らって狙撃しようとするが、男を上手く盾に使われている為、彼も撃ち抜いてしまう可能性が大きい。ピクシーの攻撃で多少の隙間ができてはいるが、そんな僅かな隙間を狙えるほどの技量は純也に備わってはいない。

震える手でなんとかトリガーを押そうとするが、『人を殺すかもしれない』という思いがどうしても純也を縛る。

 

ピクシーが攻撃できない純也の方を、おろおろと何度も見るが、純也は行動に出れない。

 

悪魔はそれを好機と見たか、鋭い氷の礫を魔法で作り出すと、純也に向かって飛ばしてくる。

悪魔から距離を離していたため、諸に喰らうことは無かったが、礫が純也の頬を掠め、血が顔をつたう。

 

その時、後ろから突如として男の声が掛かる。

 

「お前、バカだろ」

 

言葉に反応し、純也が後ろを向くと、昨日自爆したはずのチンピラの男がそこに立っている。

 

「タカシ!お前、死んだはずじゃ…!」

 

「俺をあんな三下の木偶の棒と一緒にするな」

 

そう言うと背中から剣を取り出したタカシは悪魔へと走り出す。

それを見て彼を敵だと認識した悪魔は、攻撃を防ごうと男を盾にするが、タカシは剣の腹を使って男を殴り飛ばし、強引に押しのけると、懐を晒した悪魔に剣を突き刺す。

苦悶の声を上げる悪魔に更に追い打ちを掛ける様に、その部分から上へと剣を動かし、抉るようにして剣を引き抜く。ピタリと動かなくなった悪魔はマグネタイトへと変換され、手に握られていた男はその場に鈍い音を立てて落ちる。

 

「あの程度の悪魔にも苦戦するとはな」

 

「こんな奴が『俺の身体』に入ってると思うと、不安でしょうがない」

 

「もしかして、キョウジ…さん…?」

 

『俺の身体』という言葉に純也は男の中身がキョウジということに気づく。

 

「一体どうやって…?魂は封印されているって」

 

「確かに俺の魂はシドとかいう奴によって何処かの異界へと封印されているが、奴も俺を侮っていたらしい。魂の一部だけを無理矢理外に出して、このチンピラの死体を乗っ取って活動ができるようになった」

 

だが、自分の身体と比べれば酷く劣る、そんなに長くは持たないだろう。と付け加えながら首を鳴らすキョウジ。

 

「早く俺の身体に戻りたいところだが、この状態では、まだ戻れないらしい」

 

「そうなんですか…」

 

「ところでお前、なぜあの時撃たなかった?」

 

彼のドスの効いた声に純也は黙り込む。

 

「あらかた、『攻撃をすればあの男を殺してしまう』とでも思ってたんじゃあ無いのか?」

 

図星を付かれた純也は黙り込む。

 

「こんな他人なんか心配してたら命が何個あっても足りない。邪魔になるなら殺すべきだった」

 

キョウジは足元に転がっている男を担ぎ上げる。

 

「この先少しでも長生きしたいんだったら、ガキみたいな下らん正義感は捨てるんだな」

 

「そんな割り切れる訳ないじゃないですか!」

 

キョウジに純也は反論する。こんな状況でも一般人の感性を捨てきれない純也には、キョウジの様に命を合理的に切り捨てる考えが理解できない。

 

「まだそんな甘えたことを言うのか?俺が居なかったらお前はあのまま犬死にするところだったんだぞ」

 

「実力が無いくせに理想を語るのは辞めろ」

 

純也は何も言い返す事ができない。

確かにそのまま戦闘を継続していれば自分もあの人も死んでいたかもしれないのだ。言い返す事のできない自分が情けなくて、悔しさで手を握り締める。

 

「分かったら、せいぜい死なないよう気を付けるんだな」

 

「あばよ」

 

キョウジは、男を担いだまま何処かに去っていってしまった。

 

『実力がない』その事実は純也自身が一番痛感していた。前の戦いでもレイが居なければ乗り切れて居なかっただろうし、一人で戦ったときは死の恐怖を何度も経験させられた。キョウジの言うことも最もだろう。しかし、その事実があろうと罪の無い人の犠牲を出してまで勝利を手にするなんて考えを肯定する事は出来ない。

 

「言われなくたって…!」

 

 

 

 

 

 

一方レイの方は、大学内に残っていた生徒や教師を部屋に集め終えていた。悪魔を寄せ付けない為に部屋に退魔の魔法を掛けながら生徒たちに話を聞き回る。

どうやらこの大学内での緊急時には、この講義室に避難するらしく、殆どがこの部屋に逃げ込んでいたおかげで悪魔と遭遇こそすれ、甚大な被害は無かったようだ。

しかし、今日緊急でくる予定だった教授がここに居ないらしい。

 

「もしかしたら死んでるかも…」

 

「そいつは多分これだ」

 

そう言って部屋に入ってきたタカシにレイは戦闘の構えをとる。昨日死んだはずの奴がなぜ生きているのか、敵意を隠さないレイだが、そんな彼女を気にもしない様子を見せると、タカシは男を雑に降ろし、すぐに部屋から出ようとドアに手を掛けた。

 

「アンタ、何を企んでるの?」

 

「相変わらず鈍いな…」

 

「返事になってないわよ!」

 

「直ぐに分かるさ…」

「あばよ」

 

そう言うと部屋からタカシは出て行く。

レイは後を追いかけて部屋から出るが、タカシの姿は何処にも無い。意味深な言葉を残して立ち去って行った彼を追おうとすると、携帯から着信音が鳴る。

キョウジからだ。

 

「元凶を見つけた!三階の研究室に居る」

 

「分かったわ!すぐに向かう!」

 

奴のことも気になるが、今は異界化を解除してしまう方が得策だと考えたレイは純也の元へと急いだ。

 

 

 

仲魔を全て召喚した純也とレイは合流し、研究室へと入っていく。

そこには、純也が忘れるはずが無い、彼がこんな状態になる原因を作り出したあの男が立っていた。

 

「おヤ?お客さンですか?」

 

「アナタは、葛葉キョウジ…?この私が、確かに殺したはずなのニ、なぜ生きているのですカ?」

 

純也の姿を見ると、驚きを隠せないといった様子でシドは語りかける。

 

「何かの間違いでス…葛葉キョウジ、あなたが生きているのハありえませン!」

 

そう言うとシドは魔法陣を純也に向けて放とうとする。

一度自分の命を奪った時と同じものらしき魔法陣が向かって来るが、当然純也はその攻撃を避け、仲魔へと指示を出して戦闘を開始する。

 

「私にハ、貴方と遊ぶ時間ハあまりないのでスが…」

 

召喚したピクシーが彼の手から放たれた弾丸のようなもので貫かれ、GUMPに戻っていく。

 

【Enemy】

【Magic_Bullet】

 

表示を見るに魔力による攻撃らしいが、純也には一切そんな素振りが見えなかった。レイも反応ができなかったらしく彼から距離を取る。

純也は銃で攻撃を仕掛けようとするが、障壁によって阻まれまともにダメージが入らない。

レイの魔法も彼には当たらず、魔力弾により仲魔が一体ずつ力尽き、遂には純也へとシドの手が迫る。

 

「そろそろ終わりにしまス」

 

その言葉と共に純也の間近に迫ったシドの手から先程の魔法陣が光る。必死に逃れようと試みる純也だが、そんな抵抗虚しく魔法陣はついに純也をしっかりと捉えてしまった。

 

「キョウジ!」

 

レイがシドを止めるために向かうが、既に純也の体を魔法陣が覆い尽くしている。

 

「貴方の仕事は今日限りで終わりでス」

 

「さようなラ…葛葉キョウジ…」

 

 

 

 

 

 

しかし、暫く経っても何も起こらない。ゆっくりと純也が目を開き自分の状態を確認するが、一切の異常が無い。

 

「俺…生きてる?」

 

「なゼ、貴方は死んでいないのでスか!」

 

純也の反応に信じられないといった様子でシドが叫ぶ。

レイの方も驚いた様子で純也を見つめている。

シドは動揺した様子で何処からか取り出した本を弄りながら叫ぶ。

 

「クッ!」「ここは、一旦引きますカ!」

 

本の1ページが自然に破れ、悪魔の形へと変化していく。

 

「また合いマしょウ!葛葉キョウジ!」

 

転移魔法を使ってその場から居なくなるシド。

後に残された悪魔は足止め程度なのか、レイが放った魔法を数発喰らうと、あっという間に片付いてしまった。

元凶が去っていってしまった為、異界化が解除される。

 

「あの魔法は指定した人物の魂を肉体から強制的に追い出す魔法…」

 

「私から見てシドの魔法は完璧だった」

 

「貴方、誰なの…?」

 

 

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