歩兵道   作:yudaya89

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第02話『初陣』

 

 

 

 男子生徒の所属する中学校には歩兵同好会が存在している。

 

 同好会には、戦略、武器開発、情報収集、心理戦などを得意としている4人の生徒が所属しており、彼らは日々戦車打倒のためにいくつもの戦略、戦術を考察し、それに必要である武器を考案、そしてその作戦などが適切である戦車道の情報を収集した。そして戦いの最中である人間の心理状態を考察し、戦術プロセスをくみ上げていった。

 

 

 しかし彼らには足りないものがあった。「度胸・根性・忍耐」である。戦車道と歩兵道には明確な差がある。戦車道は死亡率は極端に低い、しかし歩兵道は死亡率、致死率ともに高い水準となる。

 

 戦車に立ち向かう・・・根性

 

 恐怖に立ち向かう・・・度胸

 

 女性や世間からの批判に耐える・・・忍耐

 

 

 この3つが歩兵道には必要であり、彼らは忍耐はあったが、残りの2つについては持ち合わせていなかった。よっていつも彼らが話し合った結果「机上の空論」どまりであった。しかし転機が訪れる。

 

「俺には目的がある」

 

「だから俺を使ってくれ」

 

「頼む」

 

 

 その男子生徒は同好会の扉を開けるなり、そう叫んだ。理由を聞いたところ、自分にはこの歩兵道しかない等

 

 

 それを聞いた男子たちは奮起した。こいつしか居ない。こいつしか俺達の夢は託せない!!それまで部屋の隅で眠っていた戦術・戦略が記されたノートを再度まとめあげ、埃をかぶった試作の武器をかき集め、人間心理学と合わせ再度試作武器の作成を開始、歩兵道と対戦可能な戦車道チームの再調査を行い、1ヶ月後に対戦が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 「歩兵同好会対戦車道の試合を開始します!!礼!!」

 

 

 今回歩兵が持ち込んだものは、大型拳銃1丁、装甲貫通用の実弾16発、ペイント弾10発、発煙弾8発、大型の工業用ハサミ1つ、ウインチなど。

 

 彼の装備を事前に確認した職員は驚きを隠せなかった。何故なら彼の装備は全て、戦車への遠距離を想定したものではなく、近接戦用の装備であった。幾ら大型の拳銃であっても、戦車に密着して発射しなければ装甲を貫通させる事は出来ない。過去に唯一戦車道に勝利した歩兵道の装備は遠距離装備であった。そのため職員は彼に装備の変更を提案したが、「問題ない」と一言だけしゃべって、検査場を後にした。

 

 

 

「歩兵は、好きな場所へ移動して下さい。準備が完了次第、連絡お願いします」

 歩兵に関しては、自分たちの好きなところから開始する事が出来る。これは歩兵に対する戦車道からの「ハンデ」である。しかし

 

「俺はここから開始する」

 男子生徒は戦車から15m離れたところに立ち、そう言い放った。歩兵道が発足し、早数十年・・・戦車と対峙し、試合開始したという記録は存在しない。

 

 

「本当に・・・いいんですか?」

 審判が男子生徒に尋ねるが

「問題ない」

 その一言しか、帰ってこなかった。

 

 

 

            「試合開始!!!」

 

 試合開始が装備品であるインカムから聞こえた瞬間、彼は戦車に向かって拳銃を発射した。勿論それが通用するはずはない。しかし彼が発射した弾は命中した箇所に接着し煙を発生させる発煙弾だった。その煙は戦車の視界を遮るのが役目だ。しかし戦車の乗員もバカではない。戦車を急発進させ、煙を発散させ視界を回復させる。

 

 

 

 

 視界が回復し、状況を確認したが歩兵の姿を視認出来なかった。戦車を移動させながら正面、左右を確認しても視認できなかった。先ほどから戦車後方からカタカタという音よりも歩兵を視認する事に頭が一杯であった。しかしいくら周りを見渡しても歩兵は影も形も無かった。これ以上戦車を動かす必要がないと判断した車長は操縦士に戦車停止の命令を出そうとした。しかしその命令よりも先に後方で発生している異音の原因を確認する必要があった。車長は命令を下す前に後方を確認した。

 

 

 

 そこには見慣れない丸い鉄板が、戦車の装甲に引っ付いていた。異音の原因は走行中の振動により、戦車の装甲と引っ付いていない鉄板の箇所とが、当たっていた事で生じていた。しかし何故こんな所に厚さ3cm程度の鉄板が引っ付いているのだろうか?事前の点検では、こんなところに鉄板は無かった。

 

 

 鉄板から太いワイヤーのようなものが戦車後方に続いている事に気づき、後方に視線を向けた。

 

 

 

 

 歩兵が居た!!

 

 

 

 

 戦車に引きずられるように

 

 

 

 戦車後方に居た。

 

 

 

 

 

 

 

 車長は・・・・・・可笑しい事に気付いた。今自分達は戦車を「動かして」いる。それもこの砂利、小石が混じった「荒地」で戦車を動かしている。そして歩兵は「荒地」で「動いている」戦車に引きずられている。

 

 

 考えてほしい、時速20~30kmで、砂利道を引きずられたら体はどうなる?そう、全身の皮が剥がれ血まみれになるだろう。そうなれば、体の痛みで見動き出来ずにその場に蹲るだろう。しかし歩兵は引きずられているだけだった。

 

 

 

 

 車長が引きずられる歩兵の姿を見ていると、少しずつだが、歩兵の姿が大きくなってきた。その姿を見て気付いた。歩兵はワイヤーを伝って戦車に張りつこうとしているっと・・・

 

 

 

 

 

         「バカ丸出し」

 

 

 車長は歩兵の姿を鼻で笑い捨て、操縦士と砲手に命令を下す。

 

 「後ろに歩兵が張り付いている。大きく蛇行して引きずり廻せ。砲手は、機銃を歩兵に発射、効果が無ければ砲撃も許可する」

 

 操縦士は了解と返答し、車体を大きく左右に振り始めた。それと同時に歩兵への機銃掃射も開始された。蛇行と同時に掃射するため命中弾は多くないが、それでも数十発は歩兵に命中している事を車長は目視確認している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし歩兵は落ちない。それどころか、その姿は大きくなる。車長は理解する。自分の指示が間違えていた事に。本能が警告をガンガン発する。

 

 

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ

 

 

 

 

 

 「砲撃開始!!急いで!!速度ももっと上げて!!」

 

 

 しかし車長の命令は聞き入れられなかった。

 

「ダメです。これ以上速度を上げて蛇行すると足周りが損傷します!!」

「相手が近すぎます!!照準入りません!!」

 

 

 だが、冷静さに欠けた車長は

 

「このまま張りつかれるよりマシ!!もっと車体を振って!!砲撃がダメなら機銃よ!!」

 

 先ほどから効果のない対策を再度指示する。なんとかしなければ!!

 

 

 

 

 そうだ!!車体についている鉄板を剥がせばいい!!なんでそんな単純な事に気付かなかった?そんな愚策を思いつき実行する。車体にくっ付いている鉄板に手を掛けたが、

 

 

 

 

 

 剥がれない

 

 

 

 

 ビクともしない

 

 

 

 そこで我に帰る。

 

 

 そうだ、人間一人を引き摺り廻して取れない鉄板が、自分みたいな非力な女子に剥がせるはずがない。落胆した彼女に更なる事態が降りかかる。

 

 

 

 何かが車体に当たった音がした。その方向に目を向けると

 

 

 

 

 

 

 「ごきげんよう。お嬢さん」

 

 

 

 見上げると、そこには最初に会った時の姿とは違い、服がボロボロになり、頭からは血を流している歩兵の姿があった。落胆している間に戦車に辿り着いたのだ。

 

 

「あ、ああ、ああ」

 

 言葉を出そうにも言葉が出ない。そして歩兵が持っているものを見てしまった。それは近接戦以外では意味をなさない拳銃・・・しかし今は違う!ここまで接近してしまえば、歩兵の手にする拳銃は戦車の装甲を貫通出来る。 

 

 

 恐怖に駆り立てられた車長は、戦車内部へ慌てて入り込んだ。その姿を見て他の乗員が何事かと尋ねる。

 

「張りつかれた!!」

 

 

 

 

 その言葉を聞いた操縦士は、無理やり車体を大きく左右に揺らす

 

 その言葉を聞いた砲手は、砲塔を回す。

 

 

 どちらも張り付いた歩兵を振りほどこうとしての行為だった・・・だが、そんな無茶な行為が、車体に影響しない筈がない。

 

 

「バキッ!!」

 

 

 車内に今最も聞きたくない音が車内に響いた。そして車体はゆっくり速度が下がり始め、数秒後には停止した。

 

 

 

「コン・・・コン・・・コン・・・コン」

 

 車体の上から何かが聞こえる。

 

「何の音・・・?」

 

「解かりません!!!」

 

 

 

 

 

「コン・・・コン・・・コーン」

 

 

 

「何?何!!何なのよ!!」

 

 車長は混乱している。操縦士は放心している。装填士のみ冷静であった。そして

 

 

「これ・・・装甲の薄いところを確認していたんじゃ・・・」

 装填士が喋った瞬間、

  

 

 その時だった

 

 

 

 轟音と共に彼女達の数cm前の座席に何かが打ち込まれた・・・そこは元は通信士の席であり、歩兵との試合では役目がないため、今回は搭乗していなかった。

 

 

 撃ち込まれた弾丸は実弾だった。この試合での実弾使用目的は戦車の装甲を抜くためである。勿論乗員の安全性を考え、火薬の量は調整されている。通常の拳銃であれば銃口を装甲に密着させて発射した場合でも特殊カーボンでも止められる。しかし相手は大型拳銃を所持している。そのため、火薬量を通常の弾丸と同じではなく、少し増量されている。これは、通常弾と特殊弾で火薬量を同量にした場合、有効射程距離が短くなるためだ。勿論普通は、通常弾と同量にするのが定石だが、ルールでは、弾丸の容量に対して火薬量は4割とする。この文言により特殊弾の威力は低下しなかった。

 

 

 

 

 その光景を見た3人の感情は恐怖に染まった。慌てて脱出しようとしたが、ハッチの上には歩兵がいる。自分達を守るものであったはずの戦車が、自分達を逃がさない檻と化した。もう自分達に出来る事は、早急に降伏する事だった。

 

 

 「降参します!!降参します!!」

 

 無線で降伏勧告を行うが、無線からは何も聞こえない。放送もされない。無線での降伏は許可されない。白旗による降伏しかない。車両は「修理可能」であるため、戦闘継続能力は有している。

 

 

 歩兵から再度銃撃される。先ほど銃撃された場所から数センチ離れた所へのピンポイント射撃だった。何故?と乗員は思った。しかし銃撃よりももっと恐ろしい事態が彼女達を襲う。

 

 

 

 銃撃された所に、工業用の鋏を差し込んで、装甲を「切断」していく。鉄板が切断されていく様子を車内から見ていた彼女達、ものの数分で車内に鋏が入るほどの穴が出来上がった。そしてその穴から歩兵が車内に手を出してきた。その手に例の大型拳銃を持った状態で。

 

 

 

 

 

 

 「ごきげんよう、お嬢さん達、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     さようなら」

 

 

 

 

 

 

 そして彼女達の悲鳴を消し去るかのように轟音が鳴り響き 

 

 

 

 

 

 

 『勝者・・・歩兵同好会・・・』

 

 

 

 







 久しぶりにパンプキンシザーズ観ましたが・・・中々面白いw

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