日が落ちるのが早くなったように感じる時期、時刻は6時半過ぎ。霊夢がシェアハウスに来る前に住んでいた少し古びた『博麗神社』。そこで毎年開かれる夏祭りに蒼兎達は出向いていた。
先に蒼兎と龍斗が神社前の階段で待っていると風華や雷華達が浴衣姿で現れた。
「おお、いいねぇ浴衣。」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう、私の妹はなんでも似合うのよ。」
「いやぁ〜セイバーとアサシンとルーラー、浴衣姿かわいいなぁ〜!」
「そのような姿はあまり似合わないと思うのですが……。」
『いやいや!すっごくいいと思いますよぉ?』
「エーちゃんはスマホの中のままでいいの?」
『いやいや主、私も楽しみたいので、そぉい!」
『おま!せめて人があんまりいない所でやれよ!』
「あ、ごめんごめん」
「ランサーはあれだな、浴衣じゃなくてハワイとかに居そうな服きてんな。」
「ほっとけ」
「みんな!」
声をかけた後、待ち合わせ前の階段を駆け下りてくる霊夢。
「霊夢、なんだサボりか?」
「サボりも何もほぼ私のおかげでこの祭りが成立してるのにサボりなんてあるわけないじゃない?」
「確かに、霊夢の神社ってすげぇのな!」
いつも人通りの少ない場所が祭りを楽しむために来た人達でとても賑わっている。その様子を見ていた龍斗も驚くように話している。
「そんなことないわよ?毎年このくらいの人が来るわ。」
「まぁ蒼兎くん達は今年から来ましたからね。」
「ああ」
「霊夢殿は私と同じ巫女でいらしたのですね。」
「そういう千代女も?」
「はい、私めも………。」
「話したくなさそうだし無理に言わなくていいわ。」
「ありがとうございます……」
「そんな暗い顔しないでお祭り楽しんでね?」
「さぁて、まずはどこから見ていこうかねぇ……!!」
龍斗が神社内を見回す。わたあめの屋台を見つけて過去の自身について思い出す。
『「にいちゃん!これ!これがいい!」』
『「お、わたあめ、いいぜ。」』
『「あまい!ありがとにいちゃん!」』
『「おう、けど屋台はまだまだあるから、こんなんで礼言ってたら、持たないぜ?」』
「(懐かしいな……兄貴、今生きてたらどうなってたんだろうな?)」
「龍斗〜?何ボケっとしてんの?」
「ん?ああ、わたあめ食いたくなってな。」
「わたあめか〜いいよね〜。」
「すこし子どもっぽいところあるけどね。」
蒼兎はよく分からないといった表情で博麗神社を見回す。その様子を不思議に思った結衣が蒼兎にたずねる。
「………?」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「結衣、祭りって屋台巡ればいいんだよな?」
「あ、うん……そうだよ……。」
「……そうか」
『相棒、あのハリケーンポテトってなんだ!?あれすごくね!?』
「あはは!!クロっちいい反応するねぇ〜!」
わたあめやら焼きそばやらを抱えたエボルトが面白そうに見ている。
『……クロっち?俺のことか?』
「そうそう、クロコダイルクラックフルボトルって長いでしょ?相棒さんだと愛称ではあるけど面白味がないよね!だからクロっち!」
「私は相棒さんで……。」
「でも確かにお祭りに慣れてない人に教えるのはなんだか不思議ですね。」
「マスター、あのたこ焼きというのを食べたいです!」
「雷華さん、あのヤキソバとはなんですか?」
「風華ーチョコバナナってどこー?」
「私は分かんなーい。霊夢に聞いたー?」
「(なるほど……こうやって楽しむための行事か……。)」
時刻は午後七時をまわり、花火が神社の反対の方から打ち上がる。鳥居から花火を眺める祭りに来た住人たち。龍斗や雷華達も花火を見て楽しんでいる。
「わぁ〜キレ〜!」
「霊夢、毎年こんな感じなのか?」
「ええそうよ。毎年私の神社でお祭りして、花火見るの。」
「キレイだなぁ〜」
「(しばらく仕事続きだったからな…………こんな風に落ち着けるのもたまにはいいな……。)」
祭りを満喫した蒼兎達はシェアハウスに帰り、翌日の始業式のために早めに眠りについた。蒼兎は寝ている龍斗を起こさないように自身のアタッシュケースを取り出す。
「(神と戦う時に、有効活用できればいいが。)」
そう言って蒼兎は筒状の注射器と水色のボトルととある武器を取り出した。これらを使う時がすぐ来ることをこの時の蒼兎はまだ予想だにしなかった。