時は現代。平成の終わりを迎えて尚、俺こと
「あーあ。平成生まれの俺も、令和を迎えたら素敵な能力やら何やらに目覚めて楽しい日々を送れると思ったのによ。」
令和初日の朝。もそもそと布団を這い出ながら呟く。今日も今日とて何もすることのない休日だ。…といっても、大学を出てからこっち毎日が休日なわけなのだが。
「はぁ。今日もいい天気だなぁおい。…昨日買ってきた新作のVRゲーでもやるかなっと。」
どうせ何の目標も予定も未来も展望もねえんだ。このヘッドマウントディスプレイを被った途端に異世界に行ける的な素敵展開でもないと、今度の年号も暗ぁいもんになっちまうぞおい。
心の中でぼやきながらも体は正直。何だかんだで新作への欲求は止まらず、すっかり慣れた手つきで装着・電源をONに。
ははっ。今回のゲームは随分と純和風テイストだな。木造の平屋に粗土の往来。おまけに辺りは着物姿の連中で溢れてるときた。…にしても凄いな近年のバーチャルリアリティは。土の感触も田舎臭い空気の匂いまで、五感に響いてくるじゃんか。
「…んん?」
「おう、兄ちゃん、見ねえ顔だな。」
「………。」
なるほど?ちゃんと目の前の人間から声が聞こえるようになってんのか。
「…あんた、こうして目の前で話しかけてる人間をよくもまあ無視できるもんだな。」
「…ふむ、これは俺に話しかけてるって設定か…。
ええと、返事はどうすりゃいいんだ??」
「こいつぁ驚いた。度々変な人間は来るけど、返事の仕方もわからないたぁね。
兄ちゃん、口は利けるんだろ?和の言葉はわかるかい?」
「和の言葉?…あぁ日本語か。…まさか音声入力?すげえなS○NY。」
「なあ、さっきからあんた何と喋って…」
いつまでおっさんと会話するチュートリアルが続くのかといい加減イラついてきたあたりで、どうやらやっとイベントが進んだようだ。
左後ろ方向から声をかけてきたのは…これまた何とも珍妙な髪色におかしな帽子を被った女の子。頭に家建ってんぞあんた。
「おうっ、先生!いえね、この兄ちゃんが目の前に急に現れやがってよぉ。
話しかけては見たんだがどうもおかしいんだ。」
「ふむ。"急に現れた"か。…また厄介なことにならなきゃいいが。」
「厄介なことって…随分な言われようだな。何だこの女。」
「おい、聞こえてるぞそこのお前。そっちこそ、「この女」だなんて酷い言いようじゃないか?」
胸倉を掴み上げられる。首が軽く締まる感覚と同時に体が浮き上がる感覚。おいおい冗談だろ?そんな軽くないぜ俺。
「ってか、聞こえてんの?俺の声。」
「…はっ。これまた妙な質問だな。目の前で喋っているんだ、まさか聞こえないわけあるまい?」
『このゲームは何だか知らないがやばい』
それが俺の脳みそが弾き出した答えだった。一刻も早くこの
「今度はどうした、急に頭なんぞまさぐり出して?まさかこの期に及んで髪の乱れが気になり始めたわけでもないだろうに。」
「あれ?俺、ヘッド…あれぇ?」
「…お前、本当に何なんだ。…ほら、怒らないから、ここまで来た理由を教えちゃくれないか。」
足の裏に土の感触が戻る。と同時に、苦しかった呼吸も幾分か楽になる。…そうか、俺は大地に戻ってこれたのか。
今まで気にはしていなかったが、改めて自分の状態を確認してみる。…うん、服装は目覚めた時と変わっていないな。胸にでかでかと「Thank you Arizona!!」と書かれたTシャツに下は高校の指定ジャージ。だせえ。
で、目の前にはさっきまで俺を掲げ上げていた女の子。…あれ、この独特なデザインのワンピース、そして白髪に青メッシュという奇抜すぎる長い髪…に特徴的な帽子。
間違いない、俺はこの子を知っている。
「…あー、上手に喋れないんだったか…?分かることからでいいぞ。
私も、そんなに時間があるわけではないが人助けとなれば仕方ない。」
「君は…もしかして、慧音、か?」
「……!!」
まさに
「如何にも、私はこの先の寺子屋で講師をしている、
お前とは初対面の筈だ。どこで名前を知った?」
「…なあ、ここってまさか、幻想郷ってやつか?」
「……ほう。どうやら只の迷い人というわけでもなさそうだ。
お前の素性によっては巫女に突き出すことになるが…。一体何者なんだ?お前。」
今の会話だけでもわかったことがいくつかある。まず俺が何らかの方法で異世界への移動に成功したこと。直前に確認した、"幻想郷"という名こそこの世界に与えられた名前。そして次に目の前にいるこの子は上白沢慧音――俺の記憶にある人物と同一の人物なら、種族は半人半獣・ワーハクタクの種に属する少女だ。少女といってもかなりの年数を生きているはずだが。
そして最後に、ここまで判明したことにも共通していることだが、この世界のことを俺が知っているということ。
「そうだな。…まず最初に言っておくと、俺は正真正銘只の人間だ。あんたと違ってな。」
「…ふっ、私が純粋な人間じゃ無いこともお見通しか。」
「まあね。で、状況からするに俺は所謂"幻想入り"をしてしまったらしい。さっきまで
んで、この世界のことも住人のこともある程度は知っている。その詳細については…そうだな、
今名前を出した人物についても後で会った時に詳しく書くことにする。今は話すのでいっぱいいっぱいなんだ。
「…ふっ。…はははははは!!!!
いやぁ、なるほどなるほど。これはまた面白い奴が入ってきたもんだ。
…確かに、外の世界のことなら彼らが適任だろうな。」
「…信じてもらえた?」
「ぬ?…いやはや、そこまで言われたら信じるしかないだろうさ。…ただ一つだけ聞きたい。
外の世界の人間の間じゃあ、そんなにもこの世界は有名なのか?」
「まあ…一部の人にはって感じだな。ゲームとか音楽とか…まあ色々な。」
「そうかそうか。」
満足そうな顔で頷く慧音。どうやら何となくは理解してもらえたっぽい?それと同時に確信を得てしまったな。
ここは幻想郷。――今や一大コンテンツとなった、"東方Project"の世界。そこに俺は迷い込んだらしい。
**
慧音に促されるままに先程の人里を離れ、教えてもらった道を進む。今はこの世界を確立させている結界を管理している人物のもとへ向かっているのだが。
「「歩いていけば半日ほどで着く」だって…?なんつー広さだ。」
愚痴ったところで道のりが縮まる訳ではない。が、この道中は地獄だ。ただひたすらに何もない田舎道が続くんだ。人っ子一人いやしねえ。
「はぁあ、こんな時に紫みたいに"スキマ"が使えりゃあなぁ…」
――紫。まぁ詳細は省くがこの世界に棲む偉大な"妖怪"で、空間の境界を弄る事で離れた地点同士を結ぶ、といった所謂ショートカット的なことができる。その際に生成されるゲートのようなもの、それが"スキマ"と呼ばれる謎空間なんだが…。原理とかはしらんけどそういう能力なんだと。
…そういえばこの世界。大体の有名人は何かしらの能力を一つ持っている。さっき話していた慧音もそうだ。彼女は「歴史」についての能力を持っており、改竄したり創造したりできるらしい。
話を戻そう。紫のスキマかぁ…確かあの人こんなふうに空間を指とか扇子でなぞっていたなぁ…。と、何気なく突き出した人差し指を横へ薙ぐ。
「うぉっ」
ぐもももももも…と独特な気色悪い音を立てながら人差し指の軌跡が
「…おいおいできんじゃん俺ぇ!」
早速、足元の地面に人差し指を付け、そこから真上、丁度頭より少し高い位置まで一気に振り上げる。決して調子に乗っているわけじゃない。
すると、先程と同じように空間が裂けて真っ暗な闇の空間が。純粋に好奇心から爪先を踏み入れてみると…うん、すっげぇキショい感覚だけど確かに足場がある。視覚的には何もない空間だから不安だけど、この中は歩けるらしい。
これで目的地へショートカットができると、意気揚々と中へ入っていく。
中は暑くも寒くもない、煩くも静かでもない不思議な空間になっていて妙に落ち着かない。さて、入ったはいいが出るときはどうするんだろう。そもそも現時点で俺はどこにいることになっているんだろう。
何もしないでいるのも苦手なので、ショートカットできるようにと念じながら先程と同じ動きをする。
「ほぉ、やりゃできるもんだ。」
開けた視界に映ったのはそれはそれは大きい真っ赤な鳥居。思いつきで試した行動だったが、目的地――慧音に教えてもらった、"博麗神社"に、当初の予定よりも大幅に短縮された十数分で到着したのだった。
「あらあら、嫌な予感ってのは当たるものねぇ…?」
「誰だァ!?」
石段に足を掛けると同時に後方から聞こえる妖艶な声。聞くまでもなく声の主はわかるんだが、こう、雰囲気ってあるじゃん?
特に後ろめたい事もないのでそのまま振り返ると。
「はぁい。…自己紹介は、しなくても大丈夫よね?」
空中に浮いたスキマから上半身を乗り出した金髪少女、
能力やプロフィールについても随時投稿予定ですので長い目でお楽しみください。
都合のいいキャラクターが無双する話が書きたかったんです…。