「自己紹介、ねぇ…。一応してくれる気はあるんだ?」
「あら、震えちゃってるわよ?……色々と
目の前の大妖怪さんの指摘は正しい。これが殺気かプレッシャーか。押しつぶされそうなまでの気迫に、早くも両足が小刻みのビートを刻み始めている。おいおい情けないぜ。
そうこうしているうちにスキマから這い出てくる紫。よじよじと擬音が見えるのは大変可愛らしいが、あまりこの人が地面に立っているところを見たことがないぞ?…一体何をする気なん
「…これは知らないでしょう?……ふふっ」
ヒュンッ…と、右頬の辺りを何かが物凄い速さで掠めていった。…切れた頬の痛みと流れる血の生温さを感じたのは数秒遅れてのことだった。
なんだ?何が掠め……
「どう?痛かったかしら…?」
「まてまてまて…まずは話をだな…」
「あら?
ヒュヒュンッ……脇腹のあたりと腿の横。確実に掠めさせているあたり、上手というか厭らしいというか…。…くそっ、ニコニコしやがって。
不思議なもので、飛来する物体と実感を伝えてくる痛みに意識を向けることで、恐怖に支配されていた身体に冷静さが戻る。…このまま何もせずに対峙していると確実に殺される。その未来がしっかり見えた気がしたんだ。
「あらあら、何もしないの??……この世界のことをご存知なら、返し方も解るわよね?
それに……そのまま棒立ちだと面白くないじゃない…?」
「好き放題言いやがって…。…見てろよ!八雲紫!!!
これからが俺流の……のわっ!?」
ま、まだ喋ってんだろうが!的確に口の辺りを狙って飛んできたであろうソレを、直感で体を捻るように避ける。
「……口の利き方に気をつけたほうがいいわね。…そろそろ無礼な態度も鼻についてきたところよ。」
落ち着け俺。さっきのスキマを
……あぁそうか。俺はてっきり、東方の世界観の事柄が再現できるくらいの能力はあると思い込んでいた。でもそれは違う。……何せ俺が真似したのは動画サイトにアップされていた
そう、俺の予想が正しければ再現しているというわけじゃない。この世界観に合わせて言うならば、"妄想を形にする程度の能力"。…それが俺の持つ
「…あら降参?…すっかり動かなくなっちゃって。
…やり返してくる元気もないならもういいわ。…飽きたし終わりにしてあげる。」
…来る!何かはわからないが、的確に命を奪うためのモノが来る。なら取り敢えず俺が取る行動はこれだ!!原作じゃ決して許されない方法…!
独特の音と共に放たれる数多の弾丸。…その出処は何処か全くわからないが、全ては俺を殺す直前…そこに突如として
"グレートシールド"――かの有名な全地球防衛機構軍、その中でも前線でタフに闘いを続ける二刀装甲兵フェンサーの持つタワー型シールド。…その最高クラスに位置する盾だ。…ちょっとしたオリジナル要素として、"ウルツァイト窒化ホウ素"を素材としたものを想像してみた。
……ぐっ…!?物凄い衝撃だけど、賭けに勝ったのは俺の方みたいだ。やはり予想は正しく、俺に足りない
防ぐ、という手段があまりに滅茶苦茶なためか、柄にもなく大声で慌てふためく声が聞こえる。
うるせえ、生きるためならなんだってするさ。
その盾すら打ち破ろうと続けざまに撃ち込んできてはいるが、俺の出した盾はまだまだ持ってくれそうだ。正直重すぎるためか、もやしっ子の俺には持ち運べる気は全くしないが。
ただこのままやられっ放しという訳にもいかないし、少し余裕のできた頭で反撃の方法を考える。
「盾は上手くいったが…。反撃するにしても俺が弾を出す方法なんかないし、銃だなんだっていうのも、本当に殺しちゃっても困るし…。」
いや、そもそも少女を物々しい銃で撃ち抜く絵面がもう見せられないんだがね。
「妄想でいける範囲といえば……ぅっ!?」
相変わらず後方、盾の方からは激しい激突音が響き続けている。考えるのももうやめだ。どうせ死んでもおかしくない状況なんだ、好きなようにやってやる…。
というかもう鼓膜が限界なんです。……ほんと、弾切れもリロードも無い飛び道具って反則よな。
「うるせぇっ!」
右手で盾を支えつつ、左の手に顕現させた一枚の札を、メンコよろしく地面に叩きつける。
"霊撃札"―――東方Projectシリーズだい12.3弾、東方非想天則に登場したシステムカードである。…使用すると霊力の込められた衝撃波を全方位に放ち敵を吹き飛ばすことができる札だ。
接地と同時に、俺を中心とした同心円状に見えない波が広がる。流石の大妖怪様にも効果はあったようで、その偉そうな姿勢が後ろに倒れる。同時に弾幕の雨が止むのを確認し、お世話になった盾を放棄。
一瞬で距離を詰めるために先程の"スキマ"の力を借り、空いた右手を上から下に。裂け目に飛び込みざま、地面を指差す右手を天に向けて振り上げる。開ける視界、至近距離に見える金髪少女の驚く顔を目掛けて放つのは渾身の左ストレート。
「ッ!!!」
「くらえぇっ!!」
その整った顔に届く瞬間…左手に込める力を更に強め、その手に握ったものを握りつぶす。
「……いったぁぁあああい!!???」
「はぁ……はぁ………ふぅ…。」
ジタバタと無様に地面を転げまわる少女を見下ろし、一先ずの勝利を確信した。…終わった。終わったんだ。
「どうだ紫。…これが外の、俺の力だ!!!」
「くっ………はぁ、はぁ……最後の……目に掛けたのは一体…!?」
「これか…?」
握り締めた左手からは芳しい香りが漂っている。お風呂で嗅ぐと落ち着く香りかもわからんね。
「これはな…徳島県の名産ッ!…すだちだ。」
何が可笑しいのか、紫の口から小さな息が漏れた。