「
ほぼ完治し、単独で出歩けるようにまでなった彼女の元を、
「はい。岩川基地に所属しているはずなのですが……」
「……確かにお2人とも所属していました。ただ……」
白雪は少し考え込む素振りを見せてから、改めて口を開いた。
「ただ……私を含めた所属艦娘は、お2人が一緒に行動している場面を見た事がありませんでした。聞いた話では、決して仲の悪いご姉妹ではないはずなのですが……」
「ええ、那智はとても勇敢で頼りになる子で、気の弱い末っ子の羽黒をいつも気にかけ、羽黒も那智を信頼していました」
妙高の記憶にある2人は、仲の良い妙高4姉妹の仲でも特に一緒に行動する事が当たり前のような関係だった。
それが別々に行動しているというのだからどうにも臭い。
「……お話、ありがとうございました。白雪さん、お大事に」
「いえ、何かお役に立てたのなら」
互いに礼儀正しい2人はほぼ同時に頭を下げ、その事に妙なおかしさを感じて上品な笑い声を残して別れた。
「司令、失礼いたします。岩川基地の調査報告書をお持ちしました」
「おっ、来たか。それでどうだった?」
以前レンの力任せのノックで歪んだ執務室の扉を軽くノックし、
結果を聞こうとする
そして、彼女から手渡された資料を読み進めると、すぐさま主だった面々に招集をかけた。
20分後、会議室に浅井と神通をはじめ、妙高、
「神通に進めてもらっていた岩川基地に関する調査資料が揃った。皆の手元にある冊子は、その資料をコピーして纏めた物だ。まずは1ページ目を開いてくれ」
一同が指示に従ってページを開くと、そこには艦娘の名前と思われる物が並んでいた。
「その名簿は、現在岩川基地に所属しているとされている艦娘のリストだ」
「……オイ、コリャドウイウ事ダヨ、浅井」
この1ヶ月でだいぶ言語の勉強が進んだレンが、人差し指で資料をトントンと小突く。
そのリストはこうだ。
妙高型重巡洋艦2番艦 那智
同型4番艦 羽黒
そして……。
「……そうだ。白雪が現在も変わり無く所属している事になっているんだ。……各地の基地は、戦闘や訓練で消耗した物資を、毎月管轄の鎮守府に報告し、予算と共に翌月に支給される事になっている」
「……つまり……」
眉をひそめた妙高に、浅井が苦々しい表情で頷いた。
「そう、戦死……贔屓目に見ても作戦行動中行方不明となった白雪の事を、上に報告せずそのまま“幽霊”として残し、艦娘1人分の給金や維持費等の予算、各種物資を余分に計上していると考えられる」
集まった面々は互いの顔を見合わせてざわめく。
「そんな……! そんなのズルじゃないの!」
「なのです! なのです!」
「艦娘をなんだと思ってるんですかその人!」
雷と電が憤慨し、イムヤも同調する。
「まったくだ……しかも、事はそれだけじゃない。神通」
「はい。皆さん、次のページを」
怒りを抑え、ページを捲る一同の目に次に映ったのは、軍事基地らしき場所の入口を写したらしい写真が数枚。
「それは岩川基地の入口部分で、時間は月毎の補給が行われた日の深夜。その正面に立っている人影は、岩川基地司令・
画質が荒くわかり辛いが、中肉中背の平均的な成人男性の体格のようだ。
2枚目の写真に視線を移すと、新たに3つの人影がそこへ近付いているらしく、内2人はアタッシュケースのような物を持っている。
「ナンダ? コイツラハ……」
「……さて、3枚目を見ると、またそいつらが写っているが……」
だが、2枚目と異なり、今度はシートを被せたリヤカーを引いて基地から出てきたらしい。その手には持っていたはずのアタッシュケースは見られない。
「恐らくだが……そいつらは裏社会と繋がりのあるブローカーと推察される」
「……!? じゃ、じゃあ……このリヤカーは……」
「……余剰物資の横流し……と、考えられます。調査を進めたところ、白雪さん失踪の翌月から現れ始めたようです」
つまり、幽霊となった白雪の分として支給された物資を彼らに売りつけ、そこから裏に流しているのだ。
「ゆ……許せません……! 軍人にあるまじき行いです!」
「……金ノ亡者ッツーノカ? 筑紫ノヤロウモ腐ッテタガ、コイツモイイ勝負ダゼ……」
テーブルに拳を叩き付けて怒りを露にする妙高の言葉に、レンからも呆れの混じる追従の声。
「艦娘を謀殺しようと目論み、その死すら私腹を肥やすために利用する……もう考えるまでも無い。これより我々は大本営からの命令に従い、岩川基地司令・龍造寺兼昭大佐を艦娘への不当な扱いをしている矯正対象と判断。その身柄の確保を第一目的として行動を開始する。各々への指示は追って行うので、皆も自分なりの準備を進めてほしい」
「「「了解!!!」」」
「や、やっぱり……やるのですね……!」
「まぁ、まずは司令が本人と会って探りを入れるらしいけど……」
身震いする電に声をかけながらも、雷も不安そうな表情だ。
「別ニチビ共ハ無理シテ来ナクテイインダゼ? 下手スリャ相手方ノ重巡モ出テクルカモシレネェシナ。知ッテル顔ナンダロ?」
麻酔銃に弾を装填しながら、レンが2人へ出撃を止めるような言葉を投げかける。
「そ、そうはいかないのです!」
「そうよ! ここで待ってるだけなんて、そっちのが嫌!」
「ダッタラ覚悟決メナ。ホレ」
レンは催涙ガス弾を発射する小型のグレネードランチャーを2人へ手渡す。
「戦ウツッテモ、コッチハ相手ヲ殺サネェヨウニ動ク。ダガ、向コウモソウスルカハワカラネェ。迷ッテタラ死ヌカモシレネェゾ。……忘レンナ、オレ達ノ行ク先ハ……戦場ダ」
「……本当は、戦う事になんてならないのが一番なんですけど、ね……」
雷達に発破をかけるレンを見て、妙高が溜め息を吐く。すると……。
「そうも言ってられないでしょ、妙高姉さん?」
「……!? あ、
部屋に入ってきたのは、今はもう部外者となっているはずの足柄だった。
「レンから話を聞いてるわ。水臭いじゃないの、姉さん」
「レ、レンさん!? これは大本営からの機密指令ですよ!?」
「那智ト羽黒ッテノハ、オ前ノ姉妹……ナラ、足柄ニトッテモ姉妹ッテコッタロ。ダッタラ、無関係ジャネェダロウガ」
赤い袴のようなスカートに隠れた左右の脚のホルスターへ、2挺の麻酔銃を収納しながらケロリと言うレンを見て、妙高はさらに大きな溜め息ひとつ。
「そ、それはそうですけど、そういう事でなく…………はぁ……まぁ、こうなってしまっては仕方ありません。人手も欲しいですし、ここは素直に足柄にも手伝ってもらいましょう」
「そうこなくちゃ。那智姉さんと羽黒の事は私だって心配してたんだからね」
めでたく仲間入りした足柄は思わずガッツポーズ。
「まず、第1段階。浅井司令がレンさんを秘書として連れて、龍造寺大佐と面会……それとなく内部調査を行います。レンさんは髪を染めて肌に特殊メイクを施せば、まぁ、
「メイク……苦手ナンダヨナァ、アレ。クスグッタクテヨ」
ポリポリと頬を掻くレンの姿に、妙高は苦笑いする。
「ま、まぁ、我慢してもらうしかありません。いざという時、司令の護衛役としてあなた以上の人材はいないのですから。……第2段階は、ヲ級さん達深海棲艦組が沖合から近付き、基地側に警戒態勢を取らせ、その混乱に乗じて我々が基地へ潜入。龍造寺大佐の汚職、その証拠を捜索します」
「ヲ級……?」
足柄が部屋の奥の方を見ると、白雪と話していたヲ級と目が合い、挨拶された。
「ヲッ!」
「……なんかどんどん深海棲艦増えてくわね……」
「そうですね。でも、それでも良いと思いますよ。深海棲艦だから全て人類の敵、というわけではない……今ではそう思えますから」
電磁警棒にバッテリーを挿入しながら、妙高は雷や白雪と確かな絆を結んでいるレンやヲ級を見て微笑む。
「……ま……そうよねぇ……少し前まで、深海棲艦もあんな表情するんだって事すら知らなかったし」
足柄も妙高の視線を追い、腕を組んで笑みを浮かべる。
「確かに異質は異質だけど、私達と同じ部分だってあるのよね」
「ええ」
微笑ましく見守る2人の視線に気付き、背中にへばりついたイムヤを剥がそうとしていたレンがジト目で睨む。
「……ンダヨ、ナニニヤニヤ見テンダヨ気持チワリィ」
「いえ、別に」
「気にしないで♪」
なおも生暖かい視線の2人に、レンはつまらなそうな表情のまま準備を進めていった。
「司令、失礼いたします。鹿屋基地司令の浅井中佐が着任の挨拶に来た、との事ですが」
執務室に入ってきた男性の報告に、デスクに座ったもう1人の男性が灰色の眉をひそめて怪訝そうな顔をする。
この人物こそ岩川基地を管理する龍造寺兼昭大佐である。
「浅井……? 知らん名だな」
「たしか、1、2ヶ月ほど前に前司令が更迭され、その後任として着任した人物でしたが……」
「1、2ヶ月前……? それが今さら挨拶?」
狡猾で用心深い龍造寺大佐は、この状況に疑念を抱き始める。
「自分の記憶が正しければ、所属艦娘への暴力行為を兵士によって暴かれ、急遽逮捕・更迭となったはずですので、恐らくは引き継ぎや事後処理に手間取ったのではないでしょうか? いかがいたしますか?」
「……ふん……まぁ、せっかく挨拶に来たのだ。顔ぐらいは合わせてやるとするか。通せ」
「はっ」
「お待たせしました。中へどうぞ」
「ありがとう」
基地のゲートで足止めを食っていた浅井とレンを乗せた軍用車が、ゲートバーが上へ開くと同時にゆっくりと動き出す。
「……わかってると思うけど、無口で無愛想な金剛型で通すんだぞ。まだまだ深海訛りが抜けてないからな」
「ヘイヘイ。シカシ一歩間違エバ敵ダラケノトコニ2人ダケデ潜入トカ正気ジャネェヨナァ」
「ははっ……その時は完全復活した君に頼らせてもらうよ」
こうして浅井達による九州基地戦力統一計画……その調査・介入そして逮捕第1号となる龍造寺大佐との駆け引きが始まろうとしていた……。
【キャラクター紹介】
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岩川基地司令。48歳。
出世などにはさほど興味が無く、安定して稼げれば良いと考えており、現在の辺境基地司令としての地位が戦闘も無く搾取も容易として気に入っている。
元々は貧民の出身であり、より稼ぎの良い仕事に就くために猛勉強をして海軍に入隊し、手段を選ばず今の地位を得るに至る。
そんな出自故か、エリート士官学校出で優等生タイプの白雪を妬んでおり、物資の横流しを円滑にする事も兼ねてその謀殺を目論む。
深海棲艦と戦うために生み出された艦娘の事は見下しており、人間である自身が彼女達をどう扱おうと構わないと本気で考えている。
趣味は貯蓄であり、あの手この手で部下や艦娘から搾取し、老後の蓄えとしている。
ブラック企業と美少女といえばアレだけど、R-18にせにゃならんのでやりません。