抜錨!対ブラック企業連合艦隊!   作:劉翼

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信じられるか…?これ、3ヵ月ぶりの更新なんだぜ…?
間が空きすぎてもう追ってる人いなさそう…。


天誅

「司令、B班C班準備が完了しました」

 

「うむ」

 

 研究棟から少し離れた通路で、兵士の報告を聞いているのは龍造寺(りゅうぞうじ)大佐だ。

 突入の準備が完了し、邪魔者の抹殺まではあともう少し。あの化け物じみた金剛(こんごう)型用として無反動砲に対物ライフルまで持ってきたのだから、討ち損じる事は無いはずだ。

 

「……よし、行け。目標の3匹は全て消せ」

 

 通信機から響く龍造寺の命令を合図として、暴徒鎮圧用の盾を持った2人を先頭に、その後に通路を進む4人の兵士達が続く。

 しばらく進むと、先頭の2人が盾を構えたまま左右に分かれ、その間に大きな黒い筒を持った兵士が膝立ちの体勢を取る。

 カールグスタフ84mm無反動砲。スウェーデン製の対装甲火器であり、あのRPG-7同様に様々な国や組織で運用されている。

 近年は技術進歩で戦車などにはほとんど通用せず、無論深海棲艦相手にも力不足となっているが、施設ごと人間を吹き飛ばすくらいなら十分な殺傷力だ。

 他の兵士達もバックブラストを避けるために通路の端に寄って姿勢を低くし、発射準備は完了。

 

「ソウハイカネェンダナァ!」

 

 トリガーに人差し指をかけたまさにその瞬間、曲がり角から猛スピードで飛び出した白い影が盾持ちの間を一陣の風のごとくすり抜けていき、左腕で無反動砲を払うと、振り上げた右脚の踵落としによってその黒い筒を切断してしまった。

 

「……へっ……?」

 

 無反動砲を持っていた兵士も、周りの兵士も目を丸くしてぼーっとその光景を眺めていたが、斬られた先端部が床に落ちる音と共に正気に戻って銃を抜いた。

 

「で……出たぁっ!!」

 

 盾持ちの2人が拳銃を構えるが、影の主……レンの行動はその先を行く。

 

「フッ!」

 

「はごっ……!」

 

 無反動砲の残骸を取り落とした正面の兵士の胴を蹴って宙返りしたレンはさらに通路の天井を蹴り、2人の盾持ちの間に割り込むと、彼らがこちらを向く前に、回し蹴りでまとめて壁へと蹴り飛ばした。

 

「がっ……!」

 

「かひゅっ……」

 

 めり込むかめり込まないかという絶妙な力加減で壁に叩き付けられた2人はそのまま失神してしまった。

 

「ひっ……!」

 

 一瞬で半数を無力化され、カバー要員の残り3人は慌てて銃を構える。

 が、深海棲艦の反応速度に敵うはずもなく、レンは両手に握っていた麻酔銃を兵士達へ向け、一瞬で狙いを定めると首筋目掛けて麻酔弾を発射。

 あまりにも動きの流れが速すぎたため、2人の兵士は何が起きたかも理解できず、混濁する意識の中で小さく呻くとその場に倒れてしまう。

 そんな仲間に気を取られた残り1人には、鳩尾への拳をプレゼントした。

 

「……ヨシ、全員生キテルナ。ッタク、ヒヤヒヤサセヤガル」

 

「……B班どうした! 突入合図はまだか!?」

 

「ン……」

 

 倒れた兵士の通信機から声が聞こえる。

 どうやら今無力化したこのグループは、無反動砲で入口を抉じ開けると同時に、その爆発を合図に他のグループに突入タイミングを指示する役割だったらしい。

 

「……トイウ事ハ……」

 

 事前に記憶した見取図を思い出しながら、他のグループが待機している箇所に当たりをつけ、そちらの撃破へ向かう。

 

「か、艦娘だあぁぁぁーーーーっ!!」

 

 すると、案の定注意喚起など無く発砲してきた。

 

「今度ハ不意討チジャネェカラメンドクセェナ……仕方ネェ」

 

 曲がり角に身を隠していたレンは、やむ無く飛び出すと両腕で顔を覆って兵士達へ突進していった。

 息もつかせぬ銃弾の雨霰。

 だが。

 

「な……なんだコイツは!? なんで艤装無しでこんなに……!」

 

 銃弾が傷付けているのは、纏った金剛型の衣装のみ。

 そして露になっていく青白い肌に、兵士達の恐怖が煽られていく。

 

「ま……まさか……まさか……!」

 

 この兵士がその先の言葉を紡ぐ事は無かった。

 銃弾の嵐を駆け抜けて兵士達の間に割り込んだレンは麻酔銃を投げ捨てて左右に腕を伸ばすと、手頃な所にいた2人の兵士の顔面を掴み、その場で回転しながら他の兵士達へ向かって投げつけたのだ。

 その後はまるでドミノ倒し。投げられた方も、ぶつけられた方も、折り重なるように倒れて山になり、その大部分が気絶してしまった。

 

「くそっ、化け物めっ!」

 

 少し離れていた1人が、他の兵士の持つ自動小銃とは明らかに異なる威容を持つ銃をレンへと向ける。

 バレットM95対物狙撃ライフル。アメリカ製のM82ライフルを小型軽量化した廉価モデルである。12.7×99mm弾という、対装甲火器を除いた歩兵携行火器としては最大級の弾薬を使用し、まともな人間であればたとえ当たったのが腕や脚であっても、着弾の衝撃でショック死するとまで言われている。

 これが頭にヒットすれば、いくら艦娘でも艤装無しなら即死は間違いない。

 兵士は眼前の脅威に対して迷い無く発砲。さしもの化け物もこれで沈黙する。……はずであった。

 

「……ぇ……?」

 

「……ハフヘェハァ(あぶねぇなぁ)……」

 

 それはまさに絶望的な光景。

 人体を激しく損壊させる恐れがあり、人間に対する使用が非人道的とも囁かれる12.7mm弾が、その少女の上下の鋭い歯に挟まれ、白い煙と共に回転が止められていたのだ。

 

「……プッ………………サァテ……」

 

「あ……あぁあ…………ぁ……」

 

 そして、完全に停止した弾丸を噛み砕き、破片を床へ向けて吐いたレンは、首を鳴らしながら歩き出したかと思うと一気に距離を詰め、絶望感からライフルを取り落とした兵士の腹に膝をめり込ませて意識を奪った。

 

「イッチョアガリ。ッテナ。……アーア、ボロボロニナッチマッタ……雷達ニ何言ワレッカナァ……」

 

 倒れた兵士達の中心で、パンパンと手や服に付いた汚れを払い落としながら、穴だらけになってところどころ破けた衣装と、メイクが剥げて本来の青白い肌が露になった自分の姿に溜め息を吐く。

 

「……こ……こちら……C班…………化け……物…………が……」

 

「ア?」

 

 不意に聞こえてきた声の方向へ顔を向けると、最初に投げ飛ばした兵士の1人が通信機を手にしている。

 

「突入……突入を……! ぁぎっ!?」

 

 そんな兵士に歩み寄ったレンは、通信機を持った腕を捻り上げる。無論、引き千切ってしまわないよう力加減には細心の注意を払って。

 

「マダイルノカ……残リハドコニ待機シテル?」

 

「……ぐ…………!」

 

 顔を近付けて威圧するレンに怯みながらも、兵士は口をつぐむ。

 

「……ナァ、オ前…………『命アッテノ物種』ッテ言葉知ッテルカ?」

 

 レンは兵士の首を掴むと、ゆっくりゆっくり……あえて時間をかけて少しずつ力を強めていく。

 万力でじわじわと締め上げられるように、人間離れした握力で喉が握り潰され、空気の行き交う道が狭まっていく感覚。兵士の目には明らかな恐怖の色が浮かび、冷や汗がどっと出てきた。

 

「ぁが……が……わ……わ゛がっ……た! 言う゛……! 言い……まずぅ……! だ……助けで……! ……っげほっ……げほっ……!」

 

 その言葉を待っていたとばかりにレンが手を放し、身体に力の入らない兵士は崩れ落ちて咳き込む。

 

「げふっ…………ぇ……A班は……研究棟の……西側出入口を……封鎖してます……。B班は……研究室への……突入口を……開けるために……」

 

「アア、ソコハイイワ。ゴ苦労サン」

 

 知りたかったのはA班だけの居所だけで、B班は今さっき壊滅させてきたばかりだ。

 知りたい情報を得たレンは、恐ろしく速い手刀で兵士を気絶させると、残る敵のいる研究棟入口へと向かった。

 

 

 

「はぁっ!!」

 

「ヲ゛ッ……!」

 

 那智(なち)の放った回し蹴りがヲ級の腹部にめり込み、吹き飛ばされた身体が2度3度と海面を跳ねる。

 だが、のんびり倒れているわけにはいかない。那智はすぐさま艤装の主砲を展開し、追撃の砲弾を発射しているのだから。

 ヌ級達もその動きを学習してきた名取(なとり)の牽制射撃でヲ級の救援に迎えない状態だ。

 

「ヲ……」

 

 砲弾を飛び上がるように回避し、那智との距離感を図りながら時間を稼ぐ。

 だが、やはり最強にして唯一の武器たる航空機を使わない空母では、重巡洋艦の相手をするのは厳しい。

 航空機の無い空母など、主砲の無い戦艦、魚雷の無い駆逐艦も同然だ。いや、装甲や速力に特別優れているわけでない分、それらよりも劣るとすら言えるだろう。

 

「ちょこまかと……! これでどうだ!」

 

 那智の艤装が可動し、61cm三連装魚雷発射管がヲ級へその矛先を向け、3本の魚雷が飛び出して着水するや、加速しつつ扇状に広がっていく。

 

「(ッ……! 下手ニ動ク方ガ当タル……!)」

 

 三連装ならば魚雷1本1本の間隔はそう狭くはなく、那智とヲ級の距離から計算すると、こちらへ到達する頃にはかなり幅が開いているはずだ。

 足でブレーキをかければ、案の定魚雷は自身の前後をすり抜けていってしまった。

 

「取った!!」

 

「ッ!」

 

 砲撃の轟音が響き渡る。

 この魚雷はあくまで牽制と足止めが目的であり、本命は魚雷で動きを止めたところへ放たれる主砲というわけだ。

 20.3cm砲弾4発がヲ級へと降り注ぐ。

 

「ヲッ……!」

 

 最初のかなり離れていた位置関係ならまだしも、この距離で発射された4発の砲弾を全てかわす事など叶わない。

 

「……白雪(しらゆき)……」

 

 ヲ級の目前に迫るは、深海棲艦の下級艦艇には隣り合わせが当たり前の『死』。

 だが、自我とトモダチを得た彼女は、いまだかつてないほどにそれを恐れ、目尻からは雫が零れた。

 ……しかし、突如として横から飛んできた物体が砲弾に激突して誘爆し、砲弾が彼女を殺める事は無かった。

 

「(っ!? 今のは……魚雷!?)」

 

 那智の目にははっきりと自身の砲弾に横からぶつかる物体の正体が見えていた。

 どこからともなく飛んできた4本の魚雷が、飛翔する砲弾に寸分違わず命中し、爆発に巻き込んだのだ。

 が、当然の事ながら魚雷は通常は空など飛ばない。つまり、あの魚雷は発射管から放たれたのではなく、手動で投擲された物だ。

 

「申し訳ありませんが、横槍を入れさせていただきました。これ以上の戦闘は無意味ですので」

 

 緑色の鉢巻と艶やかな黒髪を靡かせて海上を滑る人物は、ともすれば雅とも取れる軽やかな動きで那智とヲ級の間に割って入った。

 

「まずはこのように荒っぽい初対面となってしまった事をお詫びいたします。……そして、はじめまして。私は川内(せんだい)型軽巡洋艦2番艦・神通(じんつう)。鹿屋基地司令・浅井誠貴(あざいまさたか)中佐の補佐を務めさせていただいております」

 

 上品な所作でお辞儀する神通に、那智はすっかり毒気を抜かれてしまい、気付かぬ内に艤装の主砲も砲口が下を向いてしまっていた。

 

「あ、ああ……私は那智…………って、違う! どういうつもりだ貴様っ! なぜ邪魔をした!? 戦闘が無意味とはどういう事だ!!」

 

 我に返った那智が、ここぞとばかりに捲し立てる。

 

「……その疑問もごもっともですが、那智さんも戦闘中、彼女からまったく敵意を感じない事にはお気付きだったはずです。つまり、彼女にはあなた方を傷付けるつもりは毛頭無いのです」

 

「む……」

 

 確かにその違和感は戦っている間もずっと感じていた。

 

「……百歩譲って敵意が無いとしよう。ならばなぜ攻撃を匂わせる真似をしたのだ」

 

「あなたと羽黒(はぐろ)さんのためです。現在、妙高(みょうこう)さん、足柄(あしがら)さんを含む鹿屋基地所属艦娘が総出で羽黒さん救出のために動いています」

 

 姉と妹の名が出た事で、わずかながら那智の表情が弛んだのがわかる。

 

「な……妙高……姉が……? 足柄も……? 岩川基地に来ているのか……!?」

 

「はい。あなたと顔見知りのはずの(いかずち)さん、(いなづま)さん、イムヤさん、そして……白雪さんもです」

 

「……!? し、白雪が……生きているのか……!?」

 

 さらにダメ押しとばかりに出された、戦死したとばかり思っていた戦友の名に、那智と名取の戦意が完全に消えた。

 

「はぐれ深海棲艦との戦闘で重傷を負いましたが、彼女に救助と手当てを施されており、1ヶ月前に彼女共々鹿屋基地に保護されました。私達の今回の行動は、白雪さんの証言も考慮してのもの。現在は岩川基地で他の方々の案内をしてくださっています」

 

「……そう……か……白雪が……」

 

「……そして、先ほど監禁されていた羽黒さんの身柄を確保したとの連絡が入りました。しかし、羽黒さんの首に爆薬が取り付けられている、と」

 

 関係者しか知りえないはずの神通のその言葉で、嘘でない事を察した那智が眉をひそめ、名取はポカンとした顔を見せる。

 

「へ……? か、監禁…………爆……薬……?」

 

「……そうだ。羽黒と私は交代でそれを取り付けられ、奴に……龍造寺に無償で酷使され続けている」

 

 那智の告白に目を丸くしていた名取であったが、引っ込み思案な彼女には珍しく眉を吊り上げて那智の両肩を掴んだ。

 

「な……なんでそんな大事な事を話してくれなかったんですか那智さんっ!!」

 

 常には無い名取の激昂を真正面から受け、今度は那智が目を丸くする番になった。

 

「す……すまん……だが、これは私達姉妹の問題で、お前達に不安や心配をかけるわけには……」

 

「そんな事を2人だけで抱えるなんて……お2人はお馬鹿さんですっ!! 私達だって那智さんも羽黒さんも心配してるんですよ!? 仲間なんですから当たり前でしょう!? ……なのに……うぅ……」

 

 那智を掴んでいた名取の力が緩み、そのままずるずるとへたり込んでしまう。

 

「……もっと……全部、全部……話してほしかったです……」

 

 普段の姿からは想像もつかない大声で激したかと思うと、小声ですすり泣き始めてしまった。

 

「……すまなかった、名取。……話したところでどうにもならない、と諦めてしまっていた。……本当にすまない」

 

 泣かれてしまうと那智は弱く、目線を合わせて慰め、謝る外無い。

 しゃがんで名取の肩を抱きながら神通を見上げると、深々と頭を下げる那智。

 

「……神通。……頼む、羽黒を助けてくれ……。それと……」

 

 そして、ヲ級の方を向くとそちらにも頭を垂れた。

 

「すまなかった。危うく戦友の恩人を海の藻屑にするところだった」

 

「ヲッ、仕方ナイ。知ラナカッタカラ」

 

 ヌ級の上に座ったヲ級がパタパタと手を振って無邪気な笑みを浮かべる。

 確かに那智の知る深海棲艦であればまずやらない行動である。

 

「それで那智さんにお尋ねしたいのです。爆薬の解除は龍造寺大佐の持つリモコンでなければ不可能なのですか?」

 

「ああ。……だが……」

 

 神通の質問に答えた那智だが、少し考え込む素振りを見せてから言葉を続けた。

 

「もしかするとリモコンは2つあるかもしれない。前に羽黒と人質役を交代した時、奴の持っていたリモコンがいつもと微妙に違う色合いに見えたのだ」

 

「2つ……」

 

「あの用心深い龍造寺の事……リモコンが故障した場合を考え、予備を用意していてもおかしくはない」

 

 片方が故障しても、そちらが直るまでの間もう片方を持ち歩いている可能性がある、というわけだ。

 なにしろ、1つしかないリモコンが故障している事をなんらかの要因で那智らに悟られれば、その隙に首輪を外されてしまう恐れがあるのだから、警戒心の強い人物ならば十分に考えられる。

 

 

 

「なるほど、予備ですか」

 

司令執務室で不正の証拠とリモコンを探していた妙高は、神通経由で那智からもたらされた情報を再確認する。

 

「はい。恐らくはリスクを分散するため、同時に持ち歩く事は無いはずです。1つはその部屋にある可能性が高いかと」

 

 2つを同時に持っていて、なにかしらのトラブルに巻き込まれて纏めて壊れましたでは目も当てられない。

 で、あれば持ち歩くのはどちらか1つだけというのが道理だ。

 

「わかりました。那智に礼を伝えてください。……私から直接言うのは会ってからにしますので。はい、では……」

 

「……ん? …………! 妙高さん! ここの引き出し、底が二重になってるよ!」

 

 執務用のデスクを探っていたイムヤが声を上げた。

 駆け寄った妙高が慎重に底板を外すと、案の定複数の書類とリモコンのような物が中に入っていた。

 

「これは……ブローカーとの取引用の契約書や計画書……それに手紙、ですか。なるほど、電話や無線では傍受の恐れがあるので、このようなアナログな方法で連絡を取っていたわけですね」

 

 龍造寺の確認印も押してあるし署名もある。まさに動かぬ証拠だ。

 だが、今の妙高にとってそれよりも重要なのは……。

 

「これが予備のリモコンですね。イムヤさん、早速足柄達と合流しましょう」

 

「了解っ!」

 

 

 

「おい、B班C班からの連絡はまだか。まさかあれだけの装備を揃えて、艤装無しの艦娘1匹に苦戦しているのではなかろうな」

 

 苛立ちが募り、たんたんと足裏で床を叩く龍造寺。

 

「は、はぁ。先ほどから呼び出しているのですが……」

 

 一方、その怒りの視線を向けられている兵士は、何度も味方への無線連絡を試みるが、まったく応答が無い。

 

「や、やはり戦艦クラスの艦娘相手では……」

 

「馬鹿か貴様は。艦娘など艤装が無ければ人間より多少腕力と耐久力に優れるだけだ。なんのために重火器を持たせたのだ」

 

「そ……それはまぁ……」

 

 バタンッ!

 ……そんな人の倒れる音が2つ響き、龍造寺と残る兵士達の視線が一斉にそちらへ向けられる。

 

「残リハ2、4、6……9人カ。……ヨォ、龍造寺大佐ドノ?」

 

 額に麻酔針が刺さって倒れた2人の間をゆっくり歩きながら、レンは龍造寺を煽るように語りかける。

 

「貴様は浅井の後ろにいた……! な、なぜ生きている!?」

 

「他ノ2ツノグループナラ全滅シタゼ。アトハ……オ前ラダケダ」

 

 ……全滅。

 その言葉に、龍造寺の周りにいた兵士達が顔を見合わせてざわめく。

 

「ホラヨ」

 

 不意に後ろ手に持っていた鉄の塊を兵士達の前に放り投げるレン。

 それはレンの踵落としと手刀で切断された、カールグスタフとM95の残骸だ。

 力任せに折ったのではなく、鋭利な刃物で斬られたかのような切断面を見た兵士達の顔が見る見る内に青く染まっていく。

 

「な、何をしている! 撃てっ! 撃たぬかっ!」

 

 ヒステリックに叫ぶ龍造寺であったが、兵士達は完全に戦意を喪失し、銃を捨てて我先にと逃げ出してしまった。

 

「なっ!? も、戻れ貴様ら!」

 

 呼び戻そうと声を荒げても無駄だ。統制を失くした烏合の衆は、もはや掛け声1つで正気になど戻らない。

 彼らはあっと言う間に逃げ散り、残されたのは龍造寺とレンのみ。

 

「ハッ、1人モ残ラネェトハ、大シタ慕ワレップリダナァ、大佐サンヨ」

 

 皮肉たっぷりに言い放つレンに対して、拳銃の銃口を向けながら龍造寺は歯噛みする。

 そして、あちこち破れたその衣服の隙間から覗く青白い肌と、エコーするような独特の声から、レンの正体を察する。

 

「き、貴様……深海棲艦だな……! この……化け物がぁっ!!」

 

 響く銃声、その回数9回。

 辺境基地の所属とはいえ、さすがに本職の軍人だけあり、放たれた弾丸は寸分違わず全てレンの身体に命中した。

 しかし、9×19mm弾程度では戦艦タイプの深海棲艦には大したダメージなど入らない。

 目に当たりそうな1発だけは防いだが、他は全て防御もせず、撃たれるがままでも平然としている。

 

「ぐっ……」

 

 焦りの表情を見せる龍造寺を冷ややかに見つめるレンの背後から、1人分の足音が聞こえる。

 

「レン!」

 

「浅井カ」

 

 息を切らせて駆けてきた浅井は、レンの隣に立つと龍造寺に向き直る。

 

「大佐、あなたの目論見は全てあの研究員から聞きました。彼女に昏倒させられた兵士達からも色々と聞けるでしょう。何か申し開きはありますか?」

 

 浅井の問いかけに、龍造寺は眉を吊り上げ、指差しながら憤慨している。

 

「何が申し開きだ! 貴様こそ深海棲艦に寝返りおって! 人類の裏切り者めっ!」

 

「あいにくと彼女は深海側を離れた個体で、善意で協力してくれていますのでね。その謗りは的外れです」

 

 怒号にもまったく怯まない浅井に、逆に龍造寺が1歩後退してしまう。

 その時、浅井の懐から無線機の呼び出し音が鳴った。

 

「ん……失礼。……見つけたか? …………わかった、ありがとう。……大佐、監禁されていた羽黒を発見しました。手枷に首輪、それに牢屋ですか……軍法で定められている艦娘の取り扱いとはずいぶんと違うようで? 大佐殿ともあろうお方が、艦娘に人間と同等の人権を適用する艦娘栄遇法を知らぬわけではないでしょう?」

 

「ぅっ……ぐ……」

 

「ああ、それから物資の流れがなにやら不穏なようです。……艦娘1人分ほどの物資が、まるで本来それを受け取る艦娘がいないかのように扱われていますね? ……で、白雪はどこですかな?」

 

 妙高、足柄らの収穫を纏めた神通の報告を受けた浅井は、ここぞとばかりに龍造寺を追いつめ始めた。

 

「ま、待て中佐! 落ち着いて話し合おう! そうだ、君にも旨味のある話だ! こ、この事を黙っていてくれるなら……」

 

「白雪はどこだ、と聞いているのですが? よもや海の底、とは言わないでしょうね?」

 

 浅井を懐柔しようと話を持ちかけるが、まるで聞く耳を持たない。今の彼は金銭欲でなく海軍士官としての正義感で動いているのだから当たり前だ。

 

「……わ、悪気は無かった! あ……そ、そう! あれは白雪のためを思っての事だったんだ!」

 

 白雪のため。

 その発言が聞こえた瞬間、終始冷静に振る舞っていた浅井の眉が動いた。

 

「か、考えてもみてくれ! 艦娘は本来、人間のために深海棲艦と戦うべく生み出されたんじゃないか! だ、だがこんな辺境で普通にやっていてはその本懐は達せられないだろう? だ、だから戦場を与えたんだ! 深海棲艦と戦って散ったなら白雪も本望……」

 

 見苦しいどころではないその言い訳と責任転嫁が、最後まで紡がれる事は無かった。

 

「ォ……ご……ぉお……!」

 

 左手で龍造寺の胸ぐらを掴んだ浅井が、右手に握った拳銃の銃口を、その口の中へ押し込んだからだ。

 

「……黙って聞いていれば、言うに事欠いて白雪のため……? どの口が言うんだクズがっ!!」

 

「オ、オイ浅井!」

 

 まったく想定外の行動に出た浅井に面食らい、レンは反応が遅れてしまう。

 

「どこの世界に死ぬのを望み、喜ぶ奴がいるっ! 生まれた経緯など関係あるか! 彼女達はそれぞれ一個の人格も感情も、そして限りある命も持った、人間と大差無い存在なんだぞっ!! 同じ事を本人の前で言えるか!? お前はどこまで生命を愚弄するんだ!! えぇっ!?」

 

 銃を突っ込まれた時に歯が折れたのか、龍造寺の口から赤黒い血が流れ落ちるが、浅井はそんな事は気にも止めずにガクンガクンと揺すり続ける。

 

「……痛いか? だが、白雪の受けた痛みはその程度じゃ済まないぞ!! 艦娘の使命感から、お前のような俗物にも懸命に尽くし、そしてその尽くした人間の欲望のための捨て石にされた彼女の心がどれだけ傷付いたか貴様にわかるか!? どうなんだ龍造寺っ!!」

 

 当然龍造寺に答えようなど無く、涙目で懇願するように呻くだけだ。

 

「俺は認めないぞ……! 貴様のような外道が同じ軍人である事……いや、同じ人間である事など……!!」

 

 怒りに揺れる瞳と、恐怖に揺れる瞳の視線がぶつかり、引き金に添えられた指に力が込められ、そして……。

 

 

 

――1発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

「……はぁ……はぁ………………レン……なんで止めるんだ……なんで止めるんだよレンっ!!」

 

 煙を吐く銃が握られた浅井の右手は天井に向けられ、その手首をレンの右手が掴んでいる。

 発射寸前で龍造寺の口から銃を引き抜いたのだ。

 

「ぁがぁぁっ……!! は……はぐぁ……!!」

 

 本当にギリギリのタイミングだったため、鼻の頭と額を銃弾が掠めて龍造寺は転げ回っているが、命にかかわる事は無いだろう。

 

「こいつは……こんな奴は……!!」

 

「ダカラ落チ着ケッテンダ馬鹿野郎!!」

 

 掴んだ腕に力を込め、叱るように声を上げれば、わずかではあるが浅井の頭が冷えてきたらしい。

 

「……落チ着ケ浅井。今日オレ達ガ来タノハナンノタメダ。ゴミ掃除ノボランティアカ? ……違ウダロ。確カニコイツハクズダガヨ……ダカラッテ粗大ゴミ1ツ片付ケタカラナンニナル」

 

 平時であれば、激しやすいレンを浅井がゆるく諫めるところであるが、今回ばかりは立場が逆になった。

 次第に浅井の呼吸が落ち着き、自然と銃を持った腕が下ろされた。

 

「……そうだな。悪かった、レン」

 

 と、その時だった。浅井の背後から、カチリという音が聞こえてきた。

 振り返ると、倒れた龍造寺がリモコンのような物の赤いボタンを親指で強く押し込んでいた。

 

「……は……ははは……! 羽黒に仕掛けた爆薬を作動させた……! 貴様はあいつを助けに来たんだろう……? ふふふ……どのみち終わりならば、奴も道連れだ……! せいぜい救えなかった事を苦しめ馬鹿が! 陳腐な正義感を抱いた事を後悔しろ!! はっははははは……!!」

 

 倒れたまま狂ったように笑う龍造寺であったが、仰向けの視界の先に逆さに映る人影を見ると、その表情は真逆のものへと変化する。

 

「あーら龍造寺さん、誰を道連れだって?」

 

 それは、妙高、足柄の一行……そしてその背後に縮こまっている羽黒であった。

 さらには遅れて現れた白雪の姿に、完全に青ざめてしまう。

 1歩進み出た妙高は、複数のコードのはみ出た鉄製の輪を取り出すと、龍造寺の顔の横に投げ落とした。

 

「予備のリモコンで信管をロックし、その間に配線を切断しました。……妹達はもう、あなたの道具ではありません」

 

 そう言うや否や、もう片方の手に持っていたリモコンを音を立てて握り潰し、その破片をパラパラと床に落としていった。

 龍造寺を見下ろすその冷ややかな眼差しには、静かな怒りと侮蔑の意が込められているのが、端から見ても読み取れた。

 

「……はっ……はっ……! 妙高姉っ!」

 

 通路の曲がり角の向こうから徐々に大きくなって近付いた足音の主は、そんな妙高の姿を捉えると、肩で息をつきながら姉の名を呼ぶ。

 

「! 那智!」

 

 そして、姉もまた久々に再会した妹を見るや、駆け寄って抱き締めた。

 

「……フンッ……オラ、立チナ。テメェノ薄汚レタ目デ見テ良イモンジャネェ」

 

 抱き合う妙高と那智の姿を見てわずかに微笑んだレンは、呆然とする龍造寺の腕を掴んで強引に引きずり起こした。

 

「かぎゃっ……!?」

 

「ン……? アァ、ワリィワリィ、肩外レチマッタカ。人間ハ脆クテイケネェナ。マ、外レタモンハ戻シャ良インダ」

 

 深海棲艦のパワーで力任せに引っ張った結果、龍造寺の肩が脱臼したらしく、低く呻いて悶絶している。

 レンはそんな龍造寺の肩と二の腕を掴むと、ズレた位置を直すように思いっきり上下にスライドさせた。

 

「っ~~! ……っ! っ!!」

 

 当然の事ながら龍造寺は叫び声を上げそうになったが、姉妹の再会に水を差すまいと考えたレンに口を塞がれ、声にならぬ叫びを漏らしながら連れていかれてしまった。

 

 

 

「すまない、妙高姉……! 羽黒を守りたいと、無理を言って同じ転属先にしておきながら……守るどころか却って苦しめるような事に……どれだけ頭を下げても足りない失態だ……!」

 

 妙高の服に縋り付き、肩を震わせながらひたすら謝罪を繰り返す。

 

「いいえ、那智。あなたがいてくれたからこそ、最悪の事態にはならずに済んだのです。……よく、羽黒を守ってくれましたね。あなたは私の自慢の妹ですよ」

 

「そ、そうだよ那智お姉ちゃん! お姉ちゃんがいたから私もずっとずっと我慢できたの……! 今私がいるのは、那智お姉ちゃんのおかげ……私こそお姉ちゃんの足手まといになって……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」

 

 妙高に頭を撫でられ、羽黒にも涙ながらに感謝と謝罪を告げられ、那智の涙腺は完全に決壊してしまった。

 

 

 

「あの那智さんがあんなに泣くなんて思わなかったよ」

 

 慟哭する那智と、それを優しく抱き締めて宥める妙高の姿を少し離れたところから眺めていた時雨(しぐれ)がぽつりと呟いた。

 

「それだけ羽黒さんと2人で抱え込んでいたんですね……」

 

「気付けなかった……いや、何かおかしいとは思いつつも踏み込めなかった若葉(わかば)達にも責はあるが、もっと頼ってほしかったものだな」

 

 名取と若葉が時雨に続き、うんうんと頷いている。

 

「しかし……」

 

 若葉がちらりと見やるは、白雪と互いを気遣い合うヲ級である。

 

「変な気分だな。深海棲艦が近くにいるのに戦わなくていい、というのは」

 

 対空配置についていた時雨と若葉は、急いで帰還してきた那智、名取にまず驚き、次いで神通共々一緒に行動していたヲ級、ヌ級にまた驚き、彼女達には敵意が無いという事にさらに驚かされ、そしてそして那智、羽黒姉妹の境遇と白雪の生存を聞いてトドメの驚きを与えられた。

 

「まぁ、確かに悪い子には見えないね。……深海棲艦だから見た目は少しアレだけど……」

 

「ア、アレなんて失礼じゃないかな……白雪ちゃんの命の恩人なのに……」

 

 とは言うものの、名取もまだ深海棲艦とお近付きになるには少々勇気が足りないようで、一定の距離は保ったままだ。

 

「……まぁ良い。若葉達は基地の皆に事情を説明してこよう。龍造寺の所業の数々も含めてな」

 

「そうだね。この騒動でかなり混乱が広がっているようだし。……あ、でも……ヲ級達の事はどう説明したものかな……」

 

 歩き出そうとした若葉と、それに続こうとした時雨であったが、ふとそんな疑問が浮かぶ。

 時雨達がまだ割り切れないのと同様、人々には深海棲艦に対しては敵意と恐怖心しか存在していない。

 そんな彼らに「現在基地内に深海棲艦がいますが、敵じゃないから大丈夫です」などと言っても良いものだろうか?

 

「それに関しては正直に、そして根気強く説明するしか無いね」

 

 ひそひそと話し合う3人に近付いてそう語ったのは、ようやく落ち着いた浅井だ。

 

「どのみち龍造寺とそのシンパには戦闘中にバレてるんだ。彼らが聴取でその事を喋れば、当然こちらにも追及はあるだろう。今ここで下手に誤魔化したり隠したりすると、その時に不利になる。後ろめたい事じゃないんだから、むしろ正直に説明しておいて、より多くの人に周知しておくのが良い。「深海棲艦にも人や艦娘と同じ心を持つ者はいる」ってね」

 

「な、なるほどぉ~……」

 

 感心するような名取に対して、浅井は真剣な面持ちで続ける。

 

「だが、それを話すのはもう少し……本当にあと少し待ってほしい。この事は、1人でも多くの艦娘が説明した方が良い。深海棲艦との最前線に立つ存在である艦娘が言うからこそ、説得力も増すというものさ。だから……」

 

 そして、浅井の移した視線の先へ時雨達も目を向ければ、そこにはいまだ溜め込んでいた想いの整理がつかない妙高4姉妹。

 

「彼女達の力も必要だ。……彼女達が落ち着くまで待ってくれないか?」

 

「なるほど、一理ある。了解だ浅井中佐。……強引に割り込まず、あくまで自然に本人達の感情が整理できるのを待つという判断。……そこだけでも、あなたは龍造寺と違って信用のできる人物であるとわかるよ」

 

 そう言うと、若葉は浅井に歩み寄ってその顔を見上げ、右手を差し出した。

 

「若葉達はこれからあなたの指揮下に入るのだろう?」

 

「まぁ、恐らくそうなるかな。そうして戦力を集めるのが上からの指令だからね」

 

「それなら挨拶をしておくのが礼儀だ。……駆逐艦・若葉だ。よろしく頼む、司令官」

 

 真顔のままではあるが、纏う雰囲気は柔らかい若葉に、浅井も微笑み、その手を握り返した。

 

「浅井誠貴海軍中佐だ。こちらこそ頼らせてもらうよ」

 

 それを見ていた時雨と名取も続き、その場は俄に賑やかになっていった……。




リアルの多忙が憎い。
うちの会社こそ矯正してほすぃ…。
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