それから日は沈み、アキラは崖の上に立つ。服装は今までとは打って変わって、膝上までの水着に、フード付きの海用に卸した半袖のパーカーだ。
「アキラ」
振り向くと、そこにはライがいた。
「父上・・・」
「みんなにその姿を見せるのは、怖いかい?」
ライは怒ることもなく、優しく問いかける。過去に自分がそうであったがために、アキラを気にしているのだ。
「・・・はい。怖いです」
アキラは夕日に顔を向ける。怖い。また、日常を失うのが。
「アキラ。僕もね、君みたいに自分のことで悩んだ時期があったよ」
アキラの隣に立ち、自分を語る。
「僕はね。最初、記憶喪失の状態で、アッシュフォード学園に入ったんだ」
「父上が、ですか?」
「そう。記憶を取り戻すためってね。その時に手伝ってくれてのがカレンだったんだ」
「母上が?」
「最初は生徒会長命令だったんだけどね。そこから黒の騎士団にいろいろあって入ったんだ」
ライは昔を懐かしむように語る。
「黒の騎士団で、神根島に行った時があって。その時に記憶が戻ったんだ」
怖かった。ライはそうアキラに伝えた。
「カレンに話すのも、ゼロ、もといルルーシュにも。僕の元からみんないなくなるんじゃないか。そう思った」
だから、話すのに躊躇したし、このまま死んでしまおうかとも思った。笑いながら紡ぐ。
「でもね、僕の過去を知っても、ルルーシュもカレンも離れていかなかったんだ」
嬉しそうに語る。今のアキラとは、逃げているアキラとは違う道を歩んだ先輩として。
「うれしかった。すごくうれしかったんだ。僕を認めて、そのうえで受け入れてくれたんだ」
(だから、今の僕には世界がきれいに”色”づいて見えるよ)
「そう・・・ですか」
「アキラ」
「はい」
「君には、世界が何色に見えている?」
真剣に、でも、追い詰めすぎないように。アキラの見えている”色”を訪ねる。
「今は・・・そうですね、父上、母上がいるから、色づいて見えてます。でも、二人のいない世界は、やっぱり、灰色です」
「そっか。でもいつか、きっと色づく。それに気づかせてくれるのが誰かは分からない。けど、いつかきっと、色づいて見える日が来るよ」
だって、世界はこんなにもきれいで、色鮮やかに写ってるんだから。・・・昔、カレンに投げかけた言葉を思い出した。
「そう、ですね・・・。逃げてばかりでは・・・始まりませんから」
(そうだよ。迷っていいんだ。人生に、生きることに正解も不正解もないんだよ。それを決めるのは自分自身なんだから)
これから、少なくとも、この臨海学校中は、アキラは己のあり方を悩むだろう。けど、それでいいんだと、ライは優しい笑みを浮かべながら、アキラの頭をなでる。夕日は二人を優しく、包み込む。
「・・・・・・」
誰にもわからない領域。シャルロットはその二人を、会話は聞こえないながらも、遠くから眺めていた。この光景を理解できるのは、カレンか千冬ぐらいだろう。
声を掛けれない。声を掛けてはならない。この二人の邪魔をしてはいけない。
(・・・悔しいな。僕じゃ、今のアキラを助けることはできないんだ)
アキラを助けることができるのは、きっと、ライかカレンなのだろう。クラスメイトじゃ、アキラは救えない。
「二人とも、何してるの?」
だから、努めて明るく、いつも通り声を掛けた。
「あ、シャルロット。ごめんね、アキラと話し込んじゃったんだ」
ライは気づいた。シャルロットの行動の意図に。だからそれに乗っかった。
(後で、カレンにフォローを頼もう)
「アキラのこと、織斑先生が探してたよ?」
「わかった、ありがと、シャル」
難しい顔をしたまま、宿泊施設に戻っていく。その背中を見送る。
「シャルロット、ごめんね」
「いいんだよ。今の僕に何もできないことぐらい、本当は分かってたんだ」
悲しそうな笑顔を浮かべたまま、ライを見る。
「今はあんな状態だけどさ。アキラのこと、嫌いにならないでほしいな。彼にも彼なりの事情があるんだよ」
「嫌いになんてなれないよ。僕を助けてくれたんだ、僕に居場所をくれたんだ。だから、嫌いになんて、なれないよ」
(アキラ、君はそばにいようとしてくれる子を悲しませていることにすら、今は気づけないんだろう?)
「僕たちも戻ろうか」
「うん・・・」
悲しそうな表情をしたままのシャルロットと、ライは宿泊施設に戻った。