「すいません、お手数をおかけしました」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「言ったでしょ? 頼りなさいって」
「ありがとうございます」
指定された崖。アキラを抜いた専用機組がアキラと合流する。
「アキラ・・・」
「やぁ、一夏。みんなも、体大丈夫?」
「大丈夫だぜ」
「アキラさん、記憶って、どういうことですの?」
「そのまんまさ。僕、ずっと黙ってたことがあるんだ。一夏とシャルは知ってるよね?」
二人は無言でうなずく。アキラが何を指示しているか、わかったから。
「ほかは分からないと思うから。たぶん、見てもらった方が早い」
アキラはみんなに背を向け、おもむろに上着に手をかける。
「ちょ、ちょっとっ! なんで脱ごうとしてるのよっ!」
「いや、鈴、これでいいんだ。確かにその考え方は普段なら間違ってないんだけど、今回ばかりは違うよ」
アキラはYシャツも脱ぎ、上半身を晒した。
「なっ、なんですのっ! これはっ!」
シャルロットと一夏は知っていた。アキラは体に傷を持っている。
「これが、隠してたものだよ。だから、この臨海学校中、逃げたり隠れたりしてたんだ」
「・・・痛くはないのか?」
「古傷だから。でも、たまに痛むよ。僕の精神面に比例してね」
「なぜ黙っていたのだ?」
「だって、怖いもん。この傷は、虐待とか、そんなものの傷じゃないから」
「どういうことだ?」
「これは、僕の背負っている命のほんのひとかけらなんだ」
軍属ならわかる、それを聞いてラウラは思案する。候補は二つ。一つは重傷を他の者の何かで補っている場合。もう一つは、戦場で付いた傷。
「戦場・・・でなのか?」
ラウラは後者を選んだ。それが最も軍属なら現実味を帯びているからだ。
「半分正解。この傷のうち、胸の傷だけは戦場でつけてもらったものだよ。ほかは、家族に着けてもらったんだ」
アキラは両親にすら話していなかった、傷のついている理由。両親は全部、自分たちがつけてしまったものだと思っていた。
「僕はね、家族を殺したんだ。僕の部屋にある刀でね」
「「「「「「!?」」」」」」
両親はそこまでは知っている。
「僕はね、守るために、武術も勉学も幼いころに吸収したんだ。それが守るための最も近い道だと思ってたんだ」
服を着ながら、悲しげな声色で、紡ぐ。
「でもね、身の丈に合わない力はその身を亡ぼすって言うでしょ? まさに僕の場合はそれだった。守る力は、僕の意思とは別の方向に働いたんだ。守る対象を殺す、っていう形でね」
なかなかボタンを留めることができない。
「つらかったよ。守ろうと思っていたものを、自分で壊しちゃうんだから。だから、僕はそのことを忘れないように、一人に一つ、傷をつけてもらったんだ」
やっとボタンを留め切って、体をかばうように左手を回す。
「それがこの細い傷跡で、もう一つ、胸の傷跡は、僕の友人のものなんだ」
そこから先は両親にも話していない、未知の領域だ。
「僕は、小学校に上がってから、軍に入ったんだ。それが、一人で生きていくうえで、最も強くあれる方法だったんだ。そして、足りない力を手に入れれると思ってたんだ」
「お前は軍属だったのか」
「うん。上官とも父との交友関係でかなり簡単に直属の兵、ラウンズっていうんだけど、そこまで上り詰めたんだ。ラウンズとして正式に認められたのは高校入ってすぐだよ」
「私の知る限り、お前のような奴は何処の軍にも属していないはずだ」
「ラウラ以外は人が人を殺しあう場を知らないでしょ? だから、僕はそもそもこの世界の人間じゃないのさ。もっと別の、学生の力じゃどうしようもない世界の人間なんだよ」
「え・・・」
「僕の乗っているISも、僕が乗っていた人を殺すための兵器を模したものなんだよ。本当の紫星は僕と一緒に沢山の人を殺した」
「だからか、だからお前はそんな瞳ができるのか」
ラウラは知っていた。戦いになるとアキラが少し悲しそうな眼をするのを。
「黙っててごめんね」
「アキラ、ラウンズってまさか・・・」
「はい、お察しの通りです。僕はナイトオブファイブ。誰もいなかった五番目の円卓の騎士です」
「相手は?」
「王の王政に背く者です。世界はある方々のおかげで、話し合いの席を設けて戦争をすることを避けました。しかし、それでも歯向かうものはいるのです」
「なるほどね」
「アキラ、その背く者ってどんな人たちなんだ?」
「おもは嚮団。その下請けも全部含めて嚮団。僕の友人は嚮団の下請けの護衛だったんだ。嚮団屈指の腕を誇るエリート。だから、友人とも、戦場で紫星を駆って刃を交えたよ。・・・最初はお互い、誰がパイロットかなんて知らなかったんだ。ただ、ある事情でそいつと戦場の近くで一夜を共にしなくちゃならなくてね、その時に知ったんだ、互いに殺しあったパイロット同士だって」
「互いに引くことはできなかったのか?」
「引けないよ、僕も彼も。お互いの守りたいものは別々にあるから、次戦場で会うなら殺しあおうってそういう話をしたさ。僕の唯一無二の友と殺しあいをする約束をするなんてね。人生何があるかわからないものだよ」
「その友人はどうなったの?」
「勿論、また戦場で会ったよ。だから、殺した。僕もボロボロになったけどね。その時にはじめて、彼の本音が聞けたよ。まだ生きていたかったこと、僕に出会えてよかったと、そして、僕に殺されてよかったって」
「・・・生きてはいないのだな」
「うん。僕の手で、冷たくなっていく彼を看取ったから」
「そんなこと、僕たちに教えてよかったの?」
「ううん、知ってほしかったんだ。僕がこの場に、この学園にいるのは、今日で最後だから」
「どういうことだ?」
混乱が走る。ずっといるはずの人が今日で最後だからとこの場から立ち去ると言っているのだ、
『アキラ、生きているな?』
「生きてるよ」
上空から声が聞こえる。上を向くとピンク色のライのランスロットクラブに似たシルエットの機体が。
「ランスロット・フロンティアっ!?」
「そうですよ」
『迎えに来たぞ』
「彼らですか」
『そうだ』
「僕の機体は?」
『あるぞ。こちらまで持ってくることは叶わなかったがな』
「わかりました。・・・じゃあね、みんな」
アキラはランスロット・フロンティアの手に乗る。
「アキラっ!?」
「ライさん、後をよろしくお願いいたします」
「・・・わかった」
『元気そうだな、ライ』
「そんなこと言って。そっちの僕は死んでるんだから」
『そうだったな・・・。すまなかった、私がもっと考えていれば・・・・・・』
「C.C.さん、余計なことはいいですからっ!」
『別にいいだろう? 私も何年振りかにこいつらの顔を見るんだ。お前が生まれてから、こいつらとは会えていないのだからな』
「・・・そうでしたね。ならいいです、我慢します」
『意外と嫉妬深いのだな、お前は』
「知らなかったんですか?」
『いや、知っていたさ、何せ私は「魔女、なんでしょう?」・・・最後まで言わせろ』
「そりゃ、何年も変わってないんですから、その口癖」
『花婿は強奪したんだ。仕事は終わりだな』
「「「「「「なっ!」」」」」」
「変な誤解作らずに早く連れてってくださいっ!」
『まったく、人使いの荒い奴だな』
ランスロット・フロンティアは空を駆ける。アキラに新たな力を届けに。
長らくお待たせしましたぁ。
納得いくまで読み返しながら書いていたので、遅くなりましたぁ。現在、これを含めて、5話分、ストックがあります。なので何日かはちゃんと投稿されると思います。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。