「さすがに厳しいな」
紅蓮と白蓮を相手取りながら、アンノウンとも刺しあう。空は紅と銀、白の軌跡。急制動、急加速を繰り返し、相手を翻弄しながら、確実に打点を稼いでいく。肉体に掛かるGも半端ないが、それは今のアキラにはわからない。
『まだあいつに動きはないわ』
「わかった」
コトノハにアンノウンの行動を逐一報告してもらいながら、殺しに来る紅と銀を、殺さないように、丁寧に、かつ大胆に機能停止に追い込まなければならない。
「まだまだ武器は残ってるな、二機とも」
通信は切った。邪魔だから。今は止める言葉もない。ただひたすらに、先に、一歩でも、近くに。必ず、手に収めるために。
『動いたわっ!』
「このタイミングでかっ! なるほど、この指揮のとり方。確実にV.V.だな」
1on3の戦場。戦局は完全に不利。機体性能でひっくり返せるが、それもない。カタログスペックだけならほぼ同性能の機体2機と、予測スペックしか出せないアンノウン。それでも、引き下がるわけにはいかなかった。引き下がれるわけがなかった。自然と口角が上がる。
『あんた、笑って・・・』
「面白いじゃないか」
絶望的だからこそ、燃えてしまう。戦士としての血が騒いでしまう。この状況を打破できると、すべて殺しきれると。壊して、壊して壊して、壊して。壊すことしかできなかったから。戦いのない世界に落ち着けなかったのはきっと、そういうことなのだろう。
『あんた、戦いが、血を血で争う殺し合いを望んでるのね』
「・・・ふむ、考えたこともなかったが、初めての体験が”殺し”だったからな。それ以外に何も知らないだけかっも知れないが」
紅蓮も白蓮もほぼ無傷だ。こちらもまだまだ元気だが。
「まだ舞えるよな、泪呪?」
見ることはできないが、ツインアイがキラッと、強く輝いた気がした。
「まだなのっ!?」
焦りは消えない。友人が、大切な人が死ぬために戦場に行ってるかもしれない。そう思うと心は焦らせてくる。あの悲しい会話が最後なんだと、二度と彼の声は聞けないのだと、そう呼び掛けてくる。・・・そんなのは、悲しすぎる。
「もっと、もっと速くっ!」
GPSはだんだんと近くなるが、それでもまだ距離がある。今この一瞬一秒がもどかしい。
「なんでこんなに遠いんだっ!」
無事でいてほしい、できれば止めたい。それがみんなの願い。だから翔ぶ。
「・・・なかなか厳しいな」
紅蓮が機能停止。白蓮も武装の半分はすべて壊した。しかし、泪呪もまた、武装の半分を壊され、左腕を失いかけていて、フレームがむき出しだ。今はビットで代用するように左腕のフレームがあった場所に纏わせているが、そのビットも万全な状態ではない。右腕も、輻射波動は使えなくなった。
『機体損傷率38%。残存エナジー60%』
「・・・かなり使ってるな」
『仕方ないわよ』
「白蓮を仕留める。アンノウンの位置報告、頼んだぞ」
『わかった』
まだ動く右手に刀をしっかり握りしめ、飛び込む。左のビットで射撃を敢行しながら、確実に追い込む。右に、左に、上に、下に。一撃ですべての武装を壊さないと、刃が持つかわからない。メーザーバイブレーション機能を採用しているが、それでもボロボロだ。今まで取れだけ刃を交えたかわからないほど、斬って、受けてきたその刀も、もうガタが来ているのだ。元は二本だったがうちの一本は遠の昔に折れている。
「はぁっ!」
白蓮の左腕を破壊し、折れた刀の柄で右腕を砕く。そのまま回転蹴りで翼を片方もぎ取る。白蓮はうまく機体姿勢が保てず、徐々に高度を下げて、遂には見えなくなった。
「貴様で最後だ、V.V.」
通信をオープンチャンネルで使う。どれだけ長い時間、通信をシャットアウトしていただろう?
『ボロボロじゃないか。そんな状態で殺せるとでも?』
「殺すさ。それが私だ」
『まぁいいさ。やっちゃいなよ』
アンノウンは光線で形成された熱戦の刃を振り下ろす。今の泪呪では、受け止める術がない。
「くっ!」
回避行動をとらざるを得ない。逃げた先で、紅い光線が迫る。直撃コース。長時間の気を張り詰めに張り詰めた戦闘が長く続き、集中力が切れ、予想しやすい判断をしてしまった。
「しまったっ!」
(・・・あぁ、これで僕は、やっと、死ぬことができるのか。・・・父上、母上、レイ、みんな、今そっちに行くから)
しかし、光線は当たることはなかった。
「・・・父上、母上!?」
『あんた、死ぬ気だったでしょ? 私は許さないから』
『そんな簡単に僕の息子が死んでいいはずないでしょ?』
アンノウンはたじろぐ。
『君たちは完全に無力化されたはずっ!』
『下にアキラがもいだ羽があってね。それを盾にさせてもらっただけだ』
『お前の邪魔をするのか、ライゼルっ!』
『貴様にその名を口に出す資格はない』
「・・・いいのですか?」
『やってしまいなさい。あんたのやり残したことを、ここで』
『僕らはいつでも応援してるから』
白蓮と紅蓮はおたがい杖のように飛翔する。
『これ、最後の一発だよ』
受け取ったものは輻射波動弾だった。
「・・・行ってきます」
『『行ってらっしゃい』』
壊れかけの色づかない天使は、よみがえった悪魔を討つため、傷だらけの翼を羽ばたかせた。
「ついたっ!」
アキラの反応のある島にたどり着いた。しかし、当のアキラの姿はなかった。
「ん? こんな島に来るもの好きもいるものだな」
アキラの代わりに緑の長いさらりとした髪の少女がそこにはいた。
「なんだ、お前たちか」
「あなたとは初対面のはずですが?」
見知らぬ人にお前呼ばわりされて、いい気なわけはない。とげを含ませてセシリアは応える。
「まぁそうだろうな。で要件はアキラなんだろう?」
「今どこにいるんだっ!? 答えろっ!?」
「行ってどうするんだ?」
「アキラを、助けるっ!」
「ならだめだ」
緑の少女ははっきりと告げる。
「お前たちが行って、それで何ができる? アキラを止めれるとでも思っているのか?」
覚悟を決めた男は泣いても、腕を引っ張っても、殺しても、止まることはない。それを緑の少女は知っていた。
「一度決めた道から、一度覚悟を決めた人間を、引き戻すなんてできないんだよ。どんなに泣いても、どんなに怒っても、だ」
私は知っている。止めることはできなかった。どんなに訴えても、曲がることはなかった。
「生半可な人間が、覚悟を決めたものの邪魔をするなっ!」
この言葉が届くかどうかはわからない。それでも、伝える。伝えなければならない。
「・・・あんたは誰なんだ?」
一夏は問う。緑の少女は知っている。今、一夏が知りたい情報を、全部。
「わたしはC.C.。まぁさしずめ、魔女、といったところか」
怪しげな笑みを浮かべたまま、C.C.は専用機組を見つめる。
空は軌跡で彩られる。直角の直線。日は落ち星の輝くCの世界。
「くっ! しぶといっ!」
アンノウンは傷を大量に追いながらもまだ落ちない。爪と蹴りで傷をつけていく。輻射波動は残り一発。討つための機構はまだ動く。
『さっさと死ねよっ!』
アンノウンの砲撃は空を埋め尽くすほどだ。その砲撃の隙間に糸を通すように、機体は空を駆け、ヒットアンドアウェイを繰り返す。熱はひしひしと伝わってくる、光線は視界を奪ってくる。それでも、空を駆け続ける。一瞬の隙、それが生まれるまで。
「きたっ!」
その隙は意外と早く生まれた。長い長い張り詰めた糸も切れそうになるほどの一瞬の隙。
「この一撃でっ!」
肘を突き出し、輻射波動を使おうとする。
『それを待ってたんだっ!』
アンノウンはアキラの機体をがっちり捕まえて固定する。
「くっ!」
暴れてもほどけることはない。完全にマシンパワーがアンノウンのほうが優れている。
『このまま君にはサヨナラしてもらうよ』
突如、V.V.が機体から飛び降りた。
『アキラっ! 単一一定の信号音を確認、自爆する気よっ!』
「くっ!」
どれだけあがいても外れることはない。固く、固く縛られた泪呪から脱出する術もない。
「コックピットもがっつりガードされてるっ!?」
あがく。生きろと言われた。生きていいと言われた。だから、帰りを待ってくれている二人のために。
『予想爆破時間、残り2分っ!』
「琴、君自身のバックアップを起動キーにっ!」
『わかったっ!』
爆破時刻が着々と迫る。拘束は爪で傷をつけても、翼を無理やりはためかせても、射撃してもほどけない。
残り時間1分。
(ごめんなさい。もう、戻れないかもしれません)
コトノハに自爆指示を出そうと口を開けた。
『アキラぁッ!』
ライでも、カレンでもない声で、そんな弱音も吹っ飛んだ。
「シャルっ!? みんなもっ!?」
頭をよぎるのはみんなが巻き込まれた時のこと。死ぬべきなのは僕だけで十分だ。
「琴、被害範囲はっ!?」
『予想範囲はこんなものね』
頭部バイザーに映し出された予想被害範囲に、ライとカレンも含めて入っている。このまま爆発させるわけにはいかない。アキラは考える、みんなを助ける方法を。
「琴、全装甲パージっ!」
『わかった』
機体の全装甲をパージする。パージしたことによって生まれた少しの隙間。その隙間のおかげで拘束を抜け出せた。
「誰も死なせない」
パージした装甲の中から輻射波動弾を拾い上げる。そして、自爆するアンノウンに向かって、輻射波動弾を押し付けた。
「輻射波動、鎧袖伝達っ!」
アンノウンを侵食していく熱線。自爆前に融解させることで爆破範囲を弱める。しかし、輻射波動弾をフレームで直接押し付けて発動させているため、泪呪をも侵食する。
「じゃあね、みんな。短い間だったけどありがとう」
視界が急に光りだした。
『アキラぁぁぁぁぁぁっ!』
(みんな、無事かな?)
意識はだんだん遠のいていき、そして・・・何も、見えなくなった。聞こえなくなった。みんなが口々に罵倒し、戻って来いと叫んでも、今のアキラには、届かない。
さようなら・・・そして、ありがとう。
あぁ、アキラ君、今度こそ死んじゃいましたかねぇ。この物語、アキラ君が死んじゃったら、どうやって展開しましょう・・・ジタバタo(+_+。)(。+_+)o ジタバタ
今度こそどうぞ良しなに。