・・・久しぶりに夢を見た。懐かしい、僕が避けていた日々の、懐かしい風景。
(あぁ、僕は、いろんなものをたくさん、手放してきたんだな)
友人がいて、僕がいて。それだけで成り立っていた、あの学生時代。誰かがそばにいることから逃げ、軍に逃げ、線上に逃げた愚かな自分がいた時代。
(きっと、僕は、あの時が楽しかったんだな)
眩しい。今なら、あの時あの瞬間がどれだけ大切な時間だったか、わかる。あの時は、もう取り戻せなくて、あの瞬間だけは眩しいほどに輝いていた。
(怖かったんだ、僕は。大切な人が死んでしまうのが、大切な人と二度と会えなくなってしまうのが)
僕は今、死ぬほど後悔している。あの時、もっと仲良くしていれば。あの時、もっと楽しく笑いあえていたら。そう思うだけで、後悔は募る。そうだ、きっと、僕はこれから先も、後悔しかしないだろう。
(でも、僕はそれでも、前に進まなきゃダメなんだろうな)
後悔しながら、それでも、歩を進めないといけない。泣きながら、怒りながら、自分が進む道を考えないといけない。
ゆっくりと、意識が遠のいていく。
鼻を抜ける、アルコールの香り。一定間隔で鳴り響く機械音。白いカーテン、白い部屋。
「いき・・・てる?」
体は・・・動く。首も、動く。
「また、死にそびれちゃったな」
体を起こす。周りには誰もいなくて、涼しげな風が抜ける。安心するとともに、残念な気持ちもあった。誰も、アキラの帰りを待っていなかったんだと。
「悲しいな。だれもいない」
点滴をはぎ取り、ゆっくりと、地に足をつける。
(歩ける・・・)
体を引きずるように、手すりを頼りにゆっくりと、病室を後にした。
「えぇ!? アキラがいないぃ!?」
看護師から伝えられたのは病人が行方不明になったとのこと。
「みんなで手分けして探そうっ!」
病院内をアキラを心配している仲間たちが探し始めた。
(いい風だ)
屋上、空は澄み切った青さアキラを迎えてくれる。体は悲鳴を上げているが、外に出たかった。あんな白い病室は息が詰まる。
「ふぅ・・・」
手すりに摑まるのにも一苦労。まったく、不便な体になったものだ。首には起動キーがネックレスのようにかかっていた。
(そういえば、琴は動けるかな?)
琴はデータだ。起動キーが損傷していたら、琴の人格や処理能力に影響が出ているかもしれない。
(起動キーが特殊で助かった)
この起動キーは唯一アキラしかもっていない品で、モニター、スピーカー、マイクが付いており、琴と会話ができるように改良されているものだ。
「琴?」
『大丈夫よ、問題ないわ。バックアップもばっちり壊れてないし』
「よかったぁ」
『無茶するわね、あんた』
「そういう性分なんだよ」
『まぁ、いいわ。体は大丈夫?』
「問題はないよ、動けるし。今は屋上だよ」
『・・・どうなっても知らないからね』
「なんで?」
『すぐにわかるわ』
「ふ~ん」
風が髪を撫でる。優しい、安心する。
「生きていたのか」
後ろから声がする。この声色を僕は知っている。
「C.C.」
「お前もしぶといな」
「僕としては、また死に場所をなくしちゃったけどね」
「それでよかったのか?」
「うん。懐かしい、夢を見たんだ。友人とともにいた、学生時代のこと。それでね、初めて、僕が何を欲しかったのか、はっきりとわかった気がするんだ」
「そうか」
風はまだ、優しくなでてくれる。
「お前も、もう、子供じゃないのだな」
風とは違う、柔らかくて暖かいものが頭を撫でる。風よりも優しく、温かい。
「それはわからないな。僕じゃ、わからないことだから」
「そうか」
C.C.を見れば、優しい顔をして、頭を撫で続けている。話が続かなくなった。でも、心地いい。不思議な感覚だ。
「・・・私はそろそろ戻るとするか」
「わかった。ありがとう、C.C.」
「礼はいらん」
「今度ピザ、作ってあげるよ。もちろん、こっちに来たらだけどね」
「わかった。楽しみにしておくよ」
C.C.は元来た道を戻っていった。
(心配してくれてたんだなぁ)
今更ながら、だれにも頼ってなかったと分かった。初めて話してくれたと思ったのか。C.C.のあんな顔を見たのは初めてだ。
「もう少し、ここにいようかな」
風に吹かれながら、もう少し、待って見よう。みんなが来るまで、ここで。
「アキラ、見つかった?」
「ううん」
院内を捜索したが、アキラの姿はなかった。アキラが一人旅立ってしまったのではないか、私たちから逃げていったのではないか、そう考えると、怖くなる。「さようなら・・・そして、ありがとう」。あのセリフがフラッシュバックする。
「おや? 必死そうじゃないか」
緑のさらりとした髪の少女が声を掛けてきた。
「C.C.、アキラ見てない?」
カレンは聞かずにはいられなかった。もう会えないなんて、そんなのはごめんだ。
「C.C.、僕からも頼む」
「・・・お前たちの頼みならしょうがない。あいつは屋上だ」
それを聞いた瞬間に駆けだした。・・・ライトカレン以外。
「おや? いかないのか?」
「ちゃんとお礼がしたくてね」
二人で頭を下げる。
「あの子を育ててくれてありがとう」
「それは違うぞ、ライ、カレン。そのセリフは違う」
C.C.は困った顔で否定する。
「私はあいつの生き方を変えられなかった。私ではだめだったんだ。頼ってもらうことも、わがままを言ってもらうことも、私では叶わなかったんだ。だから、礼なんてしないでくれ。私は、体だけ。あいつの体だけしか育てることができなかったんだ」
「それでも、あんたのおかげで今、こうしてアキラに会えることができたの。ちゃんと生きて、私たちの前に来てくれたの。だから、やっぱりありがとうって、そう言いたい」
「僕も同じさ。同じように、心に傷を負いながら出ないと生きていけなかったとしても、僕は今こうやって傷をいやしながら生きてるんだ。永遠に消えることのない傷だけど、それでも和らげることはできる、減らすことはできる。あの子もいつか、僕みたいに安心して誰かと笑える日が来るさ」
「・・・お前たちは強いな。ずっと変わらないな」
「変わるなんてありえないわ。私はずっと紅月カレンよ」
C.C.は笑った。優しそうに、見惚れてしまうほどの笑顔で。
「ありがとう」
「あんたらしくないわね」
「・・・ふふ、そうかもしれないな」
C.C.は踵を返す。
「私は元の世界に戻るとするよ」
「じゃあね、C.C.」
懐かしい声を後ろに、C.C.は病院を後にした。
「アキラっ!」
屋上に続く扉が勢いよく開かれた。
「やぁ、みんな」
アキラは・・・そこにいた。何事もなかったかのような優しい笑顔で、風に身を任せていた。
「お前っ! 俺たち、心配してっ!」
アキラは生きていて、こうして声が聞けて、優しく笑っていて。それだけでうれしくて、涙が流れてしまう。
「どうして泣いてるの?」
けど、当の本人はなんで泣いているのかわからない。その感情が理解できない。
「心配したんだぞっ!? 二度度会えないって言うし、俺たちの前で爆発するしっ!」
「ごめんね。でも、僕も安心した。みんながあの爆発に巻き込まれてない、みんながまたそろっているのを見て。よかった」
「よかったぁ」
みんな安堵してで、涙が止まらない。うれしいはずなのに、涙が流れる。
「僕、死に損ねちゃった。ほんとなら、亡くしたたくさんの仲間の元に、大切な友人のところに、殺してしまった両親のもとに行くはずだったのに。それもできなくなっちゃった」
ちょっと悲しそうに、けれど、どこか嬉しそうに。
「いいんだよ、それで。お前が生きていてくれて、本当にうれしい」
アキラにみんなで抱き着く。うれしくてうれしくて、感情のコントロールができない。
「・・・僕は、まだここにいて、いいのかな?」
「いいんだよ、ここにいても。アキラのいるべき場所は、僕たちの居るこの学園だよ」
今までのアキラには分からなかった。戦場で死んでいた仲間と再会できる兵たちの泣き叫ばんばかりの笑顔を見ても、どうしてそんなに嬉しそうにするのか分からなかった。
(あぁ、彼らもみんな、こんな感情だったんだなぁ)
うれしくて、たまらなくうれしくて。安心して涙が出てきて。
(僕には、居場所がある。初めてできた、僕がいるべき場所が)
頬をつぅっ、と何かが伝った。
(僕も今、みんなと同じように、再会を喜べてるかな?)
アキラは知らない。頬を伝ったものが涙だったということを。
アキラ君、生きてましたっ! マジかよ、がんじょーかよ。C.C.、アニメ本編よりも優しく描いています。未来でライとカレンを失った悲しみは彼女をも変えたんだ。(そういうことにしといて)
今後ともよろしくお願いいたします。