昼休みも終わり、五限目も終わった。次の授業を考えながら、ちょっと物思いにふけっているときだった。
「アキラ、いる?」
珍しい人がアキラのもとを訪ねる。
「鈴音? どうかしたの?」
「ちょ、ちょっといい?」
「いいけど・・・」
そのまま、ちょっと離れた、誰もいない廊下に連れていかれる。
「あのさ、臨海学校であたし、おぼれたじゃない?」
「うん」
「その時にさ、じ、人工呼吸、したって話らしいじゃない」
「あぁ~、ごめんね。いやだったら悪いからさ、鈴音が知らなかったら、なかったことになるかなって」
「そ、そう。あ、あの」
「ん?」
「あ、ありがと。そ、それだけっ!」
走ってどこかに行ってしまった。
「・・・助けようと思ってやったけど、かなり軽率な行動だったかな?」
その行動の真意が気になるアキラはその後の授業、若干上の空だった。それがまずかった。午後は実技講義だったがために、普段なら絶対にやらかさないような凡ミスを連発。結果として、アレクサンダ・スペリオルは大破。シールドを完全に削り切られてしまった。
「はぁ」
更衣室で今日の戦闘データを振り返る。
「こうまで凡ミスが目立つと、気が緩み切ってるなぁ」
回避の甘さ、バレルロールのコントロール制度が落ちている。さらに射撃の制度も低く、命中率が30%だ。
「これは・・・どうしようもないな」
「だぁれだ」
後ろから目を隠される。
「・・・はぁ、わかってますよ? 生徒会長さんっ?」
「えぇ、面白くないなぁ」
「面白いじゃないですよ、ここ男子用更衣室ですよ?」
「ちぇ、厳しいなぁ。四十万く、ん、は♡」
「知らないです」
「まあいいわ。そんなことより、時計見ないと、織斑先生に怒られるよ?」
「え?」
時間は六限目を刺している。
「あ、しまった」
急いで服を着て部屋を後にする。・・・織斑先生になんて言い訳しようかなぁ。
「言い訳はあるか?」
「・・・いえ、言い訳もないです」
「ほう、お前は何も考えずに講義に遅れるのか?」
「申し訳ありません」
「・・・だそうだぞ織斑。お前もこいつぐらい真面目な言い訳をしたらどうだ?」
「うっ!」
「・・・席に戻れ、四十万。あとで職員室に来い」
「わかりました」
(はぁ、憂鬱になるなぁ)
授業を終えてからのことを考え、より気分が下がる。
(今日はとことんついてないなぁ)
今日一日、あまりいいことはなさそうだ。
放課後の職員室。こってり怒られた。
「失礼しました」
時計を見ると、時間は16を指している。
「特に何かあったわけじゃないからいっか」
「あら、四十万くん」
「会長」
横に何事もなかったように立っている楯無。
「そういえば、あなたの入学試験、執り行ってなかったじゃない?」
「まぁ。そうですけど」
「だ、か、ら。このまま、試験しようかなって」
「急ですね」
「いいじゃないの、ほら、来なさい」
「・・・わかりました」
(本当に今日はとことんついてない)
場所は柔剣道場。服は柔道着。
「一本勝負でどうかしら?」
「一本ですか?」
「あら? 心配かしら?」
「いえ、それでは確実に会長が不利では?」
「あら? なぜかしら?」
「昔は、ですけど。世界を一人で転覆できるだけの力があったんですよ? 生身で」
「あら、それは面白そうね」
「・・・あなたにはそういった面では敵いませんね。わかりました」
ふぅ・・・っと一息。いつもみたいな柔らかい空気じゃない、集中する。気を張り詰める。そうすると、自分でもわかるぐらい、視界が鮮明になる。スゥっと、世界が体に馴染む。
「名乗ったほうがいいのでしょうね」
「そうね」
「ナイトオブファイブ、アキラ・サルージェ」
「生徒会長、更識楯無」
「「参りますっ!」」
お互いに動かない。・・・動かないのの、何がすごいのか。たぶん、多くの人は分からない。動けないのには理由がある。動いたら終わるのだ。どちらかが動けば、それで終わってしまう。
「来ないのですか?」
「だってぇ、罠な気がするんですもの」
「じゃあ、私が仕掛けますっ!」
アキラが動いた。大技を決める必要はない。確実に相手をダウンさせるだけでいい。が大技を決めようとして、大きなモーションをとる。
「あらあら、甘いですわね」
アキラはカウンターでそのままきれいに倒された・・・ように見えた。
「残念です」
組み敷かれていたのは楯無だった。
「わざわざ大技決めに来ると思いますか? 普通」
「それも・・・そうね」
(四十万君の雰囲気に気圧されていたわね)
「久しぶりにこの名前名乗った気がします」
「そうなの?」
「えぇ、昔はこの名前でしたから。懐かしい」
「そうなの・・・。まあいいわ、あなたの腕を見込んで頼みがあるの」
「何ですか?」
「織斑一夏を鍛えて欲しいの」
「・・・成程、わかりました。引き受けましょう」
何かあるのだろう。この先、彼を鍛えなければいけないものがある。
「ならば、僕も、あの服に袖を通したほうがいいんだろうなぁ」
「どんな服なの?」
「ナイトオブファイブの正装、騎士服です。僕の仕事着でした」
「それ、今度見せなさい」
「えぇ・・・」
「いいじゃない、気になるんだもの」
「わかりました、また今度ですよ?」
アキラは一度部屋に戻る。時間はまだあるから、今から一夏の元に向かう。彼が己を守れるようになるために。今からアキラは訓練期間中は一夏の命を預かることになる。
「さぁ、気を引き締めていこう」
服装は、学生服ではない。黒に金の刺繍に入ったシャツ、白を基調としたスーツ、黄色のマント。ナイトオブファイブを示す騎士服。
「仕事だ」
第四闘技場に向かう。
「一夏、いる?」
「おう、ここだ」
今まさに、特訓の最中だ。箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、それぞれから、いろいろなものを教わっている。
「今から、ついてこれる?」
「どうしたんだよ急に。それにいつもと格好も違うし」
「ある人と話してね。君に稽古をつけることになったから」
「はぁっ! 俺の意思はっ!?」
「う~ん、ないんじゃないかな。でもまぁ、僕、普段から誰にも稽古つけていないんだから、一夏的には受けてみたいんじゃない?」
「正直、めっちゃ気になる」
「わかった。ごめんね、みんな。今から一夏借りていくね。・・・あと、シャルとセシリアにはシュータースローでサークルロンドやってほしいんだ」
「え? いいけど・・・」
「わたしもかまいませんわよ」
「一夏それをしっかり見て目に焼き付けて。さぁ、訓練開始だっ! 各自、持ち場につけっ!・・・じゃなかった、みんな、よろしく」
「おう」
(この服を着ると、どうも感覚が戻るなぁ)
アキラがいいというまでロンドで舞ってもらった。
「さぁ、一夏、今度は君がこれをするんだ」
『わかった』
「しくじるなよ?」
『おう』
「よし、では始める」
ゆっくりと回転し、高度を上げる。
「貴公のタイミングで始めろ。私が合わせる」
『わかった』
そこから進むことはなかった。一夏は回転の速度制御と回避制御、射撃制御が同時にできなかったのだ。
「詰めが甘いぞ、何をやっているっ!」
『わ、わるい』
「気を緩めるな、続けるぞ」
『は、はいっ!』
「アキラ、どうしたんだろ?」
「いつもと口調が違いますわね」
そう思うのも無理はない。実際、普段の口調とはかけ離れてきついものとなっている。それは、軍に所属していた時のアキラだ。
「あの服も、初めて見たし」
「そうですわね・・・なかなか珍しい服装ですわね。売ってるものなのでしょうか?」
(カッコいいなぁ)
「いいなぁ、一夏」
「どうかしましたの?」
「う、ううん、何でもないっ!」
二人は訓練生と教官をただただ、観客席から見守る。
「動きが甘いぞ」
『はいっ!』
ロンドは一夏がボロボロになるまで続く。
「射撃精度にムラが出てきてるぞ、集中し直せ」
『そうは言ったって・・・』
回りながらの射撃に回避行動。一度に意識を割かなければいけない部分が多すぎる。だから簡単に機体はコントロールを失う。
『ぐはぁっ!』
また、コントロールを失って地面に落ちる。
「集中を絶やすな」
『くっ!』
その日の訓練は一夏が気を失うまで続いた。