「まったく、ひどいぜ」
「ごめんね。まさかここまで気が入るとは思ってなくて。軍属だった頃の僕はこんな感じで部下に接してたのかなぁって思っちゃった」
部屋まで背負われる一夏。アキラの背中でアキラに悪態をつく。体がボロボロになるまでずっとアキラと訓練していたのだ。
「その服、ラウンズってやつのか?」
「そうそう。仕事の時、ずっとこの服だったんだ」
「どうしてそれを着ようと思ったんだ?」
「これから先、僕は君の教官として君を鍛えていくつもりなんだ。だから生半可な気持ちで挑まないためにって」
「にしてもなんで急に?」
「そりゃ、男がIS使ってるんだから。絶対よからぬことを考えた人が来るからね。自分の身はどんな人が相手でも守れるようにしないとね」
「・・・お前、すげえな」
「なんで?」
「俺、そこまで考えてなかった」
「僕も、ここまで考えるようになったのは小学校六年生ぐらいからだから。いつか一夏もできるようになるよ」
部屋までが長く感じる。一夏は疲れているからもちろんのこと、訓練を執り行ったアキラも疲れている。
「そういえばさ」
「ん?」
「アキラって、前の世界ではどんな感じだったんだ?」
「ん~、そうだねぇ・・・一言で言うなら、壁を作る人だったかな」
「壁?」
「そうそう、僕のプライバシーに踏み込ませない、絶対的な壁。前の世界で僕の心の壁を越えれたのは友人一人だけだったんだ」
「その友人のことも聞かせてくれよ」
「わかった。彼はね・・・」
その後、部屋についてもアキラの前の世界の話をねだり、結局アキラが話し疲れるまで、起きていた。
「・・・君もこんな時間に起きてくるんだねぇ」
「えへへ、ちょっと気になってきてみたんだぁ」
日も登らない時間。アキラは珍しい侵入者と対峙していた。
「まったく、生徒会長さんに怒られないの?」
侵入者は生徒会長と同室している。
「大丈夫、許可貰ってきたから」
「はぁ・・・全く、ユキネも会長も・・・。一夏起きてないから水場使わないから何も出せないよ?」
「うん、食べ物目的じゃないからだいじょーぶ」
「日は出てないけど、外いこっか」
「うんっ!」
まだ街灯照らす遊歩道。
「君とこんな風に歩くのは何年ぶりだろうね」
「うん・・・」
「・・・今の僕は、君にはどう映ってる?」
態度には出していないがずっと、ずっと気がかりだった。あの日から、何か自分を形成していた何かが壊れてしまってから、今の変化がいいものなのかどうか、わからないのだ。
「そうね・・・今まで見たいに捕らえられてるわけではないわね。強いて言うならおびえてるってとこかしら」
「おびえてる?」
見た感じはおびえているようなそぶりは一切ない。しかし、日常では表に出ない、心の底はどうだろう。絶対にそう思っていないと言い切れるだろうか。
「そう。なんというか・・・自分のあり方を認めて、そのうえで自分が今まで否定してきた行為を向けられて。どうしていいかわからなくなってるわね」
わからない・・・確かにそうだ。僕を知ったうえで認めてくれて、そしていつもと変わらずに一緒にいる。だから、わからない。レイは・・・僕のことを知ってから、笑ってくれることが増えたから。
「お兄ちゃんはさ、いつも隣にいてくれる人たちがいるじゃない?」
「うん・・・」
「その人たちのこと、好き?」
「・・・正直、わからない。その人たちが好きで、ずっと笑っていてほしいけど、それは僕のことを知ってるからで、だから僕は一緒にいるかもしれない」
アキラにはわからない。認めるということが、どういうことなのか。今までずっと避けてきた、否定してきた感情がどういうものなのか、まだ知らない。
「お兄ちゃんにはまだ、わからないかもね」
「そう・・・だね。まだ僕は理解できないのかもしれない。感覚的に理解することさえ・・・ね」
「でもね、きっといつか、理解できる日が来るよ。お兄ちゃんにも、きっと」
「ありがと、ユキネ」
(これは・・・お兄ちゃんの周りを調査する必要性がありそうね)
いろいろな感情が渦巻く中、ユキネはそう決心した。
時間は06:30。第四闘技場にて。
「今日は昨日やったことをもう一回やっていく」
「わかったっ!」
ラウンズ騎士服のアキラとISスーツの一夏。今日も今日とて訓練を行う。
「ただ、今回はバルーンの周りをサークルロンドしてもらう。昨日と違い流動的ではないが、難易度に差はない。気を引き締めてかかれ」
「はいっ!」
「始めるタイミングは任せる。しっかり取り組め。私は観客席から指示と回す」
一夏はISでバルーンを狙う。一夜でできるようになるものでもないが、確実に精度が上がってきている。
「速度を落とすな。そのうえで絶対に標的を狙い続けろ」
「はいっ!」
アキラはその様子を観察し、一夏が慣れ始めたころを待つ。・・・訓練は慣れが一番怖いのだ。
「慣れてきたか?」
「はいっ!」
「ではその状態をキープしたまま、|瞬間加速〈イグニッションブースト〉でバルーンに一気に肉薄しろ」
「えぇっ!?」
ロンドは円軌道。機体の姿勢制御も、それに応じた制御を行う。しかし、直線軌道は加速制動の制御だけだ。遠心力の制御は必要ない。性質の違う二つの動き。
「どうした? できるだろう?」
「全然違う動きじゃないかっ!」
「それができるようにならねば、自分の身すらも守れんぞ?」
目に見えた挑発。しかし、アキラは確信していた。絶対に一夏なら乗ると。
「ここで引いたら男が廃るっ!」
「いい意気込みだ、もう一回っ!」
何度でも、失敗しても何度でも。失敗は生かし、成功は覚える。
「もう一度だっ!」
「はいっ!」
教官と生徒。同じ学年の同じクラスの人間でありながら、そういう関係に見える。時間はあっという間で、一夏は疲労でボロボロになっていた。
「よし、今日はここまでっ!」
「あ、ありがとうございました・・・」
倒れるように座り込む。胸はせわしなく動き、体中が酸素を求める。
「・・・大丈夫?」
「無茶苦茶言っといて・・・」
「でも、できたでしょ?」
そう、最終的には一夏は百発百中というところまでできるようになっていたのだ。
「あれだけやったら、体が覚えるっての・・・」
「そりゃそうか」
さらっと言われたので何か言い返そうとしてアキラを見ると、普段から見えないような、悲しい表情をしたアキラがいた。
「ねぇ、一夏」
「ん?」
怒る気も失せた。そんな悲しそうに真剣な顔されたら、怒れないじゃないか
「好きって、どんな感情?」
「えっ!?」
「僕さ、ずっと、そういう感情知らないで生きてきたから、その・・・わからないんだ」
「そうだなぁ・・・」
「好き」にもいろいろある。が、大まかに分けて二つだ。「Like」か「Love」だ。
「アキラはさ、好きって「Like」か「Love」どっちだと思ってる?」
「学問的にはどっちも正解なんだけど、でも、そうじゃない気がするんだ。たくさん、たくさん「好き」って感情があるきがして・・・」
「なら、その答えをこの学園で探してみろよ」
「この学園で?」
「そうだ。そうだなぁ、アキラの身近だと、カレンとかシャルロットとか知ってるんじゃないか?」
「・・・そうだね、聞いてみることにするよ。ありがとう一夏」
「いいってことよ」
その様子を遠くから、ユキネは眺めていた。
(やっと、やっと自分のことを学ぶ時が来たね)
まだよちよち歩きの雛鳥と同じだ。心を置いて体だけ成長していった雛鳥。自分から逃げ、心を置いてけぼりにした雛鳥。
(わたし、あんな人を殺そうとしたのね)
ひとりじゃ半人前で、何もできない、弱くて、小さなお兄ちゃん。でも、今のお兄ちゃんの周りには、お兄ちゃんを想う人がたくさんいる。
「ふふ、これから面白くなりそう」
まだまだいろいろ困難はあると思うけど、お兄ちゃんなら大丈夫だよね。