訓練の後、朝会があった。内容はざっとまとめると、学園祭が近いから、早急に何をするか、案をまとめて提出しろ、とのことだった。
(が、学園祭・・・)
高校の時の学園祭が異様なものであったがために、あまり乗り気になれない。
(僕が言うのもあれなんだけど、かなりカオスだったんだよなぁ)
学園祭のせいで、今まで手を抜いてきたのがバレ、いろいろと面倒ごとが発生しやすくなったのだ。・・・主な原因は後者の屋上から飛び降りたかららしいが。
「ええっとぉ・・・うちのクラスの出し物の案ですが・・・」
教室に戻り、みんなの草案をボードに出したところ、どれも難しい内容の物ばかりだった。
(えっと・・・ホストクラブにツイスター、ポッキー遊びに王様ゲーム・・・)
すべて初めには「男子と」が織り込まれている。どれもどんなものかは知らないが、どうしてこうなるのだとアキラも頭を抱える。
「全部却下っ!」
クラス代表の一夏が勢いよく言い切る。
「えぇっ!?」
クラスメイト(アキラとライ、カレン以外)は不満たらたらだ。
「あほかっ! 誰が嬉しんだ、こんなもんっ!」
「僕も同感かな。第一、僕らだけしかやることないじゃないか」
ライも便乗する。まったく、何がどうなったらこんなものをやろうとするのだ。
「あたしはうれしいわねぇ、断言する」
「「「「えっ?」」」」
「そうだそうだっ! 女子を喜ばせる義務を全うせよっ!」
「「「「はぁ!?」」」」
「このクラスの男子は共有財産であるっ!」
そうだそうだ。少なくともクラスメイト(アキラとライ、カレン以外)はうれしいようである。
「紅月さんも、タキシード姿の蒼月君が見れるんだよっ!?」
「タキシード姿のライ・・・」
ちょっと考えるしぐさをとる。
(((ま、まさか)))
「その話、乗ったっ!」
(((うそ・・・)))
「山田先生、だめですよね、こういうおかしな企画は?」
助け舟が出せるのはもう教員しかいない。何も言わずにライとアキラも視線を向ける。自分たちを助けろと。
「えっ? ええっとぉ・・・」
そう少し置いてから、
「わ、わたしは、ポッキーなんか、いいと思いますよぉ?///」
(((先生もですか・・・)))
がっくりと、首を垂れる。
「と、とにかくっ! もっと普通な意見をだなっ!」
まったくもってその通りとうなずきながら味方をする。
「メイド喫茶はどうだ?」
思いがけなくまっとう(?)な意見がでた。声の主に注目する。クラスからも感嘆の声が上がる。
「ら、ラウラ?」
一夏としては混乱ものだ。
「客受けはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える」
至極まっとうな意見。
「うん・・・いいんじゃないかな」
それにシャルロットも便乗する。アキラとしては、この考えには賛成だ。メイド喫茶では今のところ逃げ出したくなるような厄介ごとは起きていない。
「アキラたちには執事か厨房を担当してもらえばOKだよね?」
「イケメン男子の執事・・・イイッっ!」
・・・こうなることまでは考えていなかった。
そこから先はクラスの女子のみで話がどんどん進み、代表の決定ではなく、クラスの女子の決定で、メイド喫茶に決まった。
「失礼します」
職員室を一夏が後にする。
「大変そうだね」
アキラとしては、手伝えることは何もない。
「まぁな。・・・つか、代わってくれてもいいんじゃね?」
「最後まで職務は全うしなさい。・・・にしてもメイド喫茶かぁ」
「ん? どうかしたのか?」
「学園祭にあまりいい思い出がなくてね。なぜかいつも女装させられた覚えしかないんだよ」
そうため息をこぼす。女装趣味なんてないし、それでちやほやされるのもごめんだ。めんどくさいだけだ。
「お前、女装してたのかっ!?」
「無理やりだよっ!?」
「それでも、よくできたな・・・」
「もうね、会長の一存。僕のところは会長が理事長の娘っていうのもあって、会長の無茶はかなりのレベルでも許されたんだよ。だからね、もう生徒会に属してようがそうじゃなかろうが、一生徒に決定権なんてなかったんだよ」
「それは・・・気の毒に・・・」
「今となっては過ぎた話だけどねぇ」
あんな醜態晒すのは二度とごめんだ。
そこから何日か経って、学園祭当日。クラス名と全員がメイド姿に統一される。
「はい、蒼月君にはこれ。織斑君はこれ。四十万君のはごめんね。採寸し忘れててできてないんだ」
「ふぇっ!?」
(服ができていないだとっ!)
すごく大きなフラグがたった気がする。この流れは女装させられる流れになりそうな・・・
「そういえば、アキラ、それっぽいもの持ってたよな?」
「それっぽいもの?」
一夏からの助け舟。しかし、ピンとこない。いまいち答えまでの道がぼやけている。
「ほら、特訓の時に来てるやつ」
「あ、あれねっ!」
(ありがとう、一夏)
(いいってことよ。気にすんな)
「あるある。それっぽいのが」
「え、四十万君、そういう服があるの?」
「あるある、ちょっと待ってね」
持ってきたのはラウンズの騎士服。舞踏会などでも着ていくことができることから、紳士服ではないが、それに準ずるものであるだろう。見た目も近い。
「これなんだけど」
「ちょっと着てみてくれる?」
「わかった」
騎士服に袖を通す。成長は終わってるから、サイズは変わらない。訓練の時に来ているのもあってすんなり着れる。
「こんな感じだけど、どう?」
クラス中の女子が親指を立てる。
(・・・問題はないみたいだね)
女装させられるぐらいなら、仕事着の不正使用なんてどうってことない。
「アキラ、その格好でするの?」
シャルロットが興味津々にこちらに来る。
「うん。僕からしたら軍服なんだけど、紳士服としても使うように命令されてたから、まぁ、問題はないよねって感じ」
「似合ってるよ♪」
うれしい言葉をかけてくれる。ほんと、この子には敵わないかもなぁ。
「ありがとう。シャルも、似合ってるよ」
今のアキラにできる、精いっぱいの褒め言葉とともに、笑顔を向ける。
「あ、ありがとう///」
頬を赤らめて嬉しそうにする。アキラには紅くなる理由がわからないが、喜んでもらえたことがうれしいようだ。上機嫌そうな、いつも以上に柔らかい顔をする。
「アキラ」
「ライさんっ!」
さらに上機嫌になった。犬みたいな尻尾が揺れてるように見えた。もちろん、尻尾なんて存在しない。
「確か、5番目だっけ?」
「はい」
「似合ってるよ」
ぱぁっと笑顔が浮かぶ。小さな子供が親に褒められた時のように無邪気な笑顔。尻尾がさらに大きく揺れる。・・・尻尾なんてないけども。
「ありがとうございますっ!」
いつもの笑顔とは違う破壊力。クラス中の視線がアキラに注がれる。
(か、可愛いなぁ)
思うことはクラス中一致していた。カッコいいとは違う感情に支配される。撫でたいとか、甘えてほしいとか、保護欲を掻き立てるような、そんな感情。
「みなさん、そろそろ時間ですよぉ」
時計はそろそろ開店時間を迎えようとしている。
「みんな、準備はいい?」
確認をとる。みんなちゃんと服を着終わっており、厨房もOKサインを飛ばしてくる。
「始めよう、開店っ!」
アキラの号令とともに開店の合図が学園内を駆け巡る。