「いらっしゃいませお嬢様、こちらへどうぞ」
ご奉仕喫茶・・・もといメイド喫茶。これが思っていた以上に人気で、かなり長い行列ができている。
「見た見た? 織斑君のタキシード姿」
「蒼月君のも捨てがたいわね」
「四十万君、一人だけホントの貴族みたい」
などなど、数々の称賛の声が飛ぶ。おかげで厨房側もかなり忙しい。厨房には今回男子は誰も入らない方針になったが、入っていたら、本当に大変だっただろう。
「お嬢様方、そんなにお焦りにならずとも、必ず順番は回ってきますので」
こういう場面は長いこと経験していたもので。ライもアキラも自分のセリフを聞き直すとたぶん羞恥にもだえ苦しむだろう歯がゆいセリフを平然と使っていく。
「アキラもライも様になりすぎだろ」
同じ男子として、劣等を感じて否めない一夏。そもそも競う相手を間違えているのだが、競う相手がこの二人しかいないため、しょうがない。
「僕は仕事柄、こういったセリフ使う場面多かったし」
アキラは仕事でも、休みでも使うことが多かった。なんせ、叔父がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアなのだ。絶対的にそういう場面が増える。さらに幼少期は叔父の娘の相手をすることもあった。宴会の席に出席することもあった。使い慣れるのも当然。
「僕も慣れてるんだ」
ライはみんなには話していないがアキラと同じ血筋だから、こういうセリフが必要な場面にぶつかっている。それに、幼少期からだから当然使い慣れている。
「お前ら、ホントに、どんな生活してんだよ・・・」
もう、呆れて物も言えなくなる。しかし、一夏は知らない。彼にしか出せないこの初々しさも、人気を買っている一つの要因となっていることに。
軽口をたたきつつ、仕事をこなす。慣れていない初々しい一夏。慣れきっていて、所作に品すら醸し出すアキラとライ。この三人のおかげで売り上げはもうすごい。
「一夏休憩入りなよ、外役変わるから。ライさんもカレンさんと一緒に回ってきてはどうですか?」
アキラは正直一日働き詰めたくらいじゃ何ともない。慣れないことをして疲れが見え始めている一夏、そして両親に先に休憩をとってもらった。
そこから五分
「ちょっとそこの執事、テーブルに案内しなさいよ」
「ん?」
聞きなれた声、声の方向にはチャイナドレスの鈴音がいた。
「ごめんね、一夏は休憩に入ってもらってるよ」
いつも一課を探しているため、何となく誰を探しているか分かった。
「なぁんだ・・・」
「珍しい格好してるね。どうしたの?」
アキラはまじまじと観察する。
「うっさいっ! 二組は中華喫茶やってるのよっ!」
「それでチャイナドレスなんだね、納得。似合ってるよ、鈴音」
「そ、そんな歯がゆいセリフいいからっ!」
「わかったわかった。お嬢様、こちらへどうぞ」
手を差し伸べる。
「何よ・・・」
「お手を取っていただけるとありがたいのですが」
お嬢様と呼ばれて恥ずかしくなっているのにそんな紳士的な笑みで手を伸ばすなんて・・・。そっと手をのせると、優しく手を引かれ、席まで案内される。
「こちらにお座りください」
椅子を引き、座ってもらうように促され、メニュー表を渡される。
「こちらからお決めください」
どれも喫茶店らしいメニューだが、一つだけ、異質さを醸し出すものがあった。
「あ・・・この”執事にご褒美セット”って何?」
「お答えしかねます」
「気になるし、これにしようかしら」
「お嬢様、こちらの”ケーキセット”など進めですがどうでしょうか?」
「今ごまかそうとしたでしょ?」
「滅相もございませんっ! ただ、こちらのご注文はやめておいた方が」
「いやよ。”執事にご褒美セット”一つ」
「・・・かしこまりました。どなたをご指名になりますか?」
「あんたでいいわ」
「・・・かしこまりました」
メニュー表をもって厨房の方に。
「まったく、なんではぐらかすのよ・・・」
不満たらたらな鈴音の元にアキラがトレイに小綺麗なグラスに注がれた紅茶と淵の広めのワイングラスに並べられたポッキーを持ってきた。
「こちら、”執事にご褒美セット”でございます」
卓上に並べるとアキラも腰を下ろす。
「うん。・・・で、なんであんたまで座ってるのよ」
罰悪そうな顔をしたまま鈴音に応える。
「えっと、これは、執事にこれを食べさせるってだけのセットなんだ・・・」
「はい?」
「だから、執事にあ~んができるセットになってるの」
顔を紅らめ大いに驚く。普通に考えて、そのセットをメニューに書く事態異常なのだ。どう考えてもおかしい。
「客がお菓子を食べさせるって」
「だから僕はケーキセットを進めたのに・・・。いやだったらやらなくてもいいから。何なら、一夏呼んでこようか?」
「い、いや、でもまぁ、せっかくだし・・・ついでだし・・・ご、ご褒美上げようかしらね///」
ちょっと嬉しそうに頬を紅らめながらポッキーを差し出す。
「はい、あ~んしなさいよ」
「あ~ん」
ぽきっ! ポッキー特有の子気味よい音が聞こえる。
「た、食べさせたんだから・・・今度は私も・・・」
と、突如目の前にトレイが。
「お嬢様、当店ではそのようなサービスは行っておりません」
持ち主はシャルロットだ。ちょっと不機嫌そうにその場を後にする。同じように気分を害した鈴音がポッキーをかじる。
「なんかさ、鈴音、リス見たいで可愛い」
まさにリス。リスがぴったりだ。・・・今度リスの着ぐるみでも買ってこようかな。
「んぐっ!」
盛大に喉をポッキーのクッキー部分が張り付く。
「ちょ、あんた急に何言って・・・っ!」
「いやね、なんとなぁくリスに似ててさ。食べてるところが」
「あの両親でどうしてそんな台詞がサラっと言えるのよっ?」
「え? そういう風にC.C.さんに育てられたから」
(それを言われたら、何も言えないじゃない。・・・怒る気も失せたわ)
「あんた、すごい人に育ててもらったのね」
「そうだねぇ」
「じゃ、あたしはそろそろ戻るわ。一夏によろしく言っといて」
「はいはい」
鈴音も持ち場に戻るようだ。
「四十万君、休憩とってもらっていいよぉ。人が減ってきたし」
「は~い」
ここは素直に休憩に行く。こういう時に行っておかないと永久的に働くことになる。平気ではあるが、ほかの展示等々も気になる。
「お兄ちゃん」
「どうしたの?」
ユキネはまだ休憩をもらっていないはずだ。何か欲しいものでもあるのだろうか。
「連れてって」
「休憩まだでしょ?」
「え~」
頬をリスにして怒る。
「いいよぉ、ユキネちゃんも休憩入っちゃってぇ」
「えっ!? いいのっ!? ありがとぉっ!」
本当に、ちょと前に編入したとは思えないほどの溶けっぷりである。
「いいの? 本当に」
「いいわよ。兄妹水入らずで遊んできなさいよ」
「ありがとう。行こうか、ユキネ」
「うんっ!」
アキラとユキネは教室を後にする。
「あの兄妹ホント仲いいわねぇ」
「ね。なんだかんだ妹に甘い四十万君もいいわねぇ」
「甘やかされてみたぁい」
女子は口々に言いたい放題である。
「ほぉら。一応お客様は来るんだから」
こういう時、何時もなだめに掛かるのはシャルロットだ。
「はぁい」
仕事に戻っていく。
(いいなぁ、ユキネちゃん)
アキラには想うだけじゃ届かない。
「なるほど・・・さすが吹奏楽だね。いいもの使ってるよ」
「ん~、筋いいね、四十万君」
「さすがお兄ちゃん」
「じゃあ、ちょっとだけ見え張っちゃおうかな」
アキラの手に持っているのはヴァイオリン。何が引きたいか選べる仕様になっていて、アキラはヴァイオリンをチョイスしたのだ。
「ユキネ、ピアノできるかい?」
「あ、久しぶりにデュエットする?」
「うん」
「え、もしかして四十万君、ヴァイオリン弾いたことあるの?」
「まぁ見ててよ」
選曲はピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」の第2楽章。「のだめカンタービレ」でも演奏されたシーンのある曲だ。
その曲を二人はお互いにどちらともなく引き始める。息ぴったりの演奏。教室なのに、その後ろには暗幕があって、聞き手はホールの観客席にいるような感覚。音色は美しく、澄み切った空のよう。・・・ここが教室なのが残念なほどだ。
「「ご清聴ありがとうございました」」
二人そろって礼をする。礼まで息ぴったりだ。
「二人ともすごぉいっ!」
「小さい頃はやってたからね」
「わたしも。懐かしいよねぇ」
「うん」
「吹奏楽部来てくれない? ほんとに」
「あ、部活は入らないよ。僕を呼ぶときは生徒会にヘルプ申請してね」
「え? お兄ちゃん部活は入ってないの?」
「入ってないよ」
「どこか入ればいいのに」
「僕は生徒会の駒だから。必要な時にだけ呼んでもらう形をとってるの」
「えぇ、せっかくこんなに上手なのに・・・」
「ごめんね。生徒会にヘルプ申請したらくるから」
などなど、勧誘を振り切り、吹奏楽ブースを後にする。
「じゃあ、もどろっか。そろそろ口コミとかで客が増える時間でしょ」
「はぁい」
この後、一波乱あるとはだれも予想していなかった。
あとがきを掻くことが減ってきました。どうも、白銀マークです。
なんかほのぼのしてますねぇ。こういうの綴り辛くて好き♡
何か意見等々ありましたら、コメントの方よろしくお願いします。今後ともどうぞよしなに。