「戻りましたぁ」
あの後、教室まで戻って着替えた。相変わらず、着やすくて脱ぎやすい、それでいて使い勝手のいい服だ。
「じゃじゃぁん」
「・・・何しに来たんですか」
「あぁん、冷たぁい」
「知りませんっ! 第一、何しに来たんですか、僕らの模擬店の正装までして」
「アキラ君、生徒会の観客参加型演劇に協力しなさいっ!」
「いやです」
「即答っ!?」
「だって、クラスのみんなに迷惑掛かりますし」
「それら問題ないわよ。貸出許可は貰ってきたわ」
「それって僕の意思イラナイみたいですね・・・」
「まぁ、とにかく、お姉さんとくるっ、けってぇい」
「・・・わかりました」
若干引きずられるように楯無に連行され、更衣室に。
「はいこれ」
「え?」
「それ着てステージに来てね」
「これじゃだめですか?」
「だめです。あと大事な・・・これ、王冠」
「脚本とか、その辺りは?」
「基本アドリブのお芝居だし、必要な指示はこっちからも出すから。それじゃあよろしくね、アキラ君♪」
手に持った服と去っていく会長の後ろ姿を交互に見て、ため息を一つ。
(癖の多い人、この世界にはいっぱいいるなぁ)
仕方なく、貰った服に袖を通し、ステージに向かった。
『さぁ、幕開けよっ!』
ステージについた途端、開口一番そのセリフとともに暗い空間へとシフトした。プラネタリウムの技術だろうか、まだ昼間のはずの空は夜の星々の輝くものに変わっている。
『むかぁしむかし、あるところに”シンデレラ”という少女が居ました』
スポットライトに照らされ、自分の置かれている状況が把握できた。
「一夏っ!?」
「なんでここにっ!?」
お互いに知らされていない人物が、同じ服を纏って、同じ舞台に立っている。それだけでも驚きだ。だが、演劇は止まらない。
『否・・・それは最早”名前”ではない』
プロジェクションマッピングでガラスの靴が。
(ちょっと待って・・・名前じゃないってどゆこと?)
『幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰塵を纏うことすら厭わぬ、地上最強の兵士たちっ!』
(いやいや、それってもう僕の知っているシンデレラじゃないんですけどっ!?)
『彼女らを呼ぶにふさわしい”称号”、それが”シンデレラ”』
『王子の冠に隠された軍事機密を狙い、少女たちが舞い踊るっ!』
(あぁ、これが原作崩壊ってやつか・・・)
プロジェクションマッピングにはでかでかと”
(これ、絶対、なんか裏あるでしょ)
と、突如全体の照明が点き、バックにあるものが出てくる。
「「城っ!?」」
ナレーションはクライマックスに。
『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる・・・』
と、突如上から声と質量をもった何かが降ってくる音が。
「貰ったぁっ!」
しかし、アキラはいち早くそれに気づく。常人離れした瞬発力で、一夏が切られる前に、抱えて離れた。
「ちっ!」
「あっぶなぁ。一夏、大丈夫?」
「あ、あぁ」
アキラは一夏を抱えたまま襲撃者を見つめる。
「えぇっ! 鈴音っ!?」
襲撃者は中国刀を構えた鈴音。服装は劇に合わせて生徒会長から配布されたであろう、純白のドレスを身にまとっている。
「その王冠、よこしなさいよっ!」
「「えっ?」」
疑問を解消する間もなく、クナイが投擲される。
(数は三本。・・・えっ!クナイっ!?)
投げられたクナイ。アキラは一夏を素早く置き、クナイをすべて回収する。
「えっ!」
今度驚くのは鈴音と一夏だ。一夏を地面に置き、クナイを回収するまでわずか1秒満たない。
「うっわ、すごい。これものすごく精密に作られてるわぁ」
刃を照明にかざしたり、刃を指でなぞったりながら確認する。
「一夏、僕の後ろに。絶対に離れないでね」
クナイを一本懐に入れ、残り二本を逆刃に構える。そして、中国刀を構える鈴音の前に一夏を守るように立ちはだかる。
「どうしたの? 王冠、いるんじゃないの?」
獲物があれば、長かろうが短かろうがアキラ的には問題ない。鈴音は挑発に乗って刃を向けてくる。
キィィンッ!
刃と刃が交わる音がする。幾度となく刃を重ね、相手を仕留めようとする。が、アキラは剣戟戦の経験もあり、さらに幼少期から教わってきたのは実刃を用いた護身術や剣術など多岐にわたる。だからこそ完全にアキラが主導権を握り、守りだけなのに攻め切られていない。
(1on1なら勝ち確定だね。まだまだ、中国刀を使い慣れていないね)
しかし、そうならないのが戦闘の常。アキラは目の端で紅い点を見つけてしまった。
(この光は・・・レーザーサイトっ!?)
鈴音と刃を交えながら、神経を張り詰める。相手は一撃必殺を狙ってくる。その一撃に反応できなければ、負け。戦場では死亡判定となる。
「はぁっ!」
刃を何もない空間に一閃。何もないはずだが、クナイは確かに何か当たった音を奏でた。
「「「はぁっ!?」」」
狙撃者と鈴音と一夏は人生で初めて、弾丸を切る人間を見た。
「一夏、ちょっと失礼するよ」
「え? おわぁっ!」
アキラは一夏を抱え、扉のある柱裏まで駆け抜け、そこに身を隠し、扉を閉める。狙撃は一端は止んだ。
「あぁっ!」
運ぶこと自体に問題ない。アキラは抱え方を間違えた。背中におぶったりするのが普通だが、アキラはお姫様抱っこを選択したのだ。羨ましがる声が観客席から上がるのも無理はない。
「一夏、怪我無い?」
一夏を地面におろす。平気そうな顔を見てアキラは安堵した。
「あ、あぁ。アキラこそ、大丈夫なのか?」
「全然平気。むしろまだ準備運動ぐらいだよ」
クナイを掌でおもちゃのように回して遊ぶ。
(つくづく、ハイスペックな奴だよなぁ)
アキラを見ながら、こんな人間がいるのかと、疑問になりつつある一夏だった。
「にしても、狙撃ねぇ・・・絶対にセシリアなんだよなぁ」
クナイを躍らせながらぼろっと漏れる。
「俺にできることあるか?」
「う~ん・・・。あ、これこれ」
懐から余っていたクナイを渡す。
「自衛用に。まぁ、ぶっつけ本番で弾は切り落とすことはできないと思うから、鈴音の刃から身を守るためぐらいの気持ちでいいよ」
「あ、あぁ」
止んでいた狙撃が敢行され始めた。扉がだんだん蝕まれていく。
「アキラッ! 一夏ッ!」
下から声がする。目線だけ向けると、シャルロットが強化ガラス製の盾を持って茂みから顔を出していた。
「二人とも、こっちっ!」
「一夏、先に。僕は少しだけ遊んでいくよ」
「わかった」
アキラは一夏が飛び降りるタイミングと同じタイミングで球を数発斬り、狙撃者の位置を割り出す。
「そんなに撃ったら位置バレるよっ!」
クナイを一本、狙撃者の居る場所の近くに投擲し、一夏と同じように茂みに。
「シャルも参加してるの?」
「う、うん・・・」
(あ、ちょっとしょげた)
「シャルもああなっちゃう?」
「ううんっ!」
(あ、今度は元気になった)
シャルロットは敵ではないみたいだ。でもまだ油断できない。ポイントを変えて狙撃されればアウトだ。
「あ、あのね。僕、その王冠、欲しいなって」
「あ、あぁ、これね」
シャルロットはアキラの頭の上を指さし、おねだりする。
「いいけど・・・、これって素直に渡しても大丈夫なの?」
『王子様にとって、国とは全て。その重要機密が失った王冠を失うと・・・』
「「失うと?」」
王冠二人組にはとっても気になる。どんな仕掛けが施されているのか・・・。気が気でない。
『自責の念によって、電流が流れまぁすっ!』
「「はぁっ!?」」
『あぁ、なんと言うことでしょう? 王子様の国を想う心はそうまでも重いのかっ!』
(あぁもうめちゃくちゃだ・・・)
二人は悟った。絶対にすんなり逃がしてくれるわけはないと。
『しかし、私たちには見守ることしかできません。あぁっ! なんということでしょうっ!』
「というわけなんだ、ごめんねシャル」
電撃はごめんだ。どうなるかわからない。
「えぇっ! こ、困るよぉ」
シャルロットもこれには困る。王冠さえあれば、アキラか一夏と同室になれるのだ。アキラと同室になるためにも、絶対に譲りたくない。
二つの思いの交錯する会話を続けていると、先ほどまでアキラたちの居た場所に人影が。
「そこまでですわ」
セシリアと鈴音が破壊された扉のを超えた先のバルコニーに。もちろん、手には武器を携えて。
「神妙になさって」
アキラは二人をかばうように前に出て、クナイを構える。
「諦めなさいよっ!」
どこに隠し持っていたか、別のクナイを投げ始める。それに助長するように狙撃も開始される。
「ちょちょちょ」
弾幕がすごい。さばけるが、さすがに後ろ二人は守る幅が大きい。
「一夏、君はそこにある盾使って。シャルはこっちに」
片手でシャルを抱き留め、一本のクナイで捌く。それが二人には癪だったようだ。なぜシャルロットだけいい思いができているのかと。
「ちょちょちょ」
弾幕が一段と濃くなる。さすがに片手では捌き切れない。一夏の持っている盾も限界が近いのか、ひびが入り始めている。
「一夏、下がれっ!」
「わかったっ!」
後方には周りより少し低い、崖がある。実は、弾幕を張られる前にアキラは一夏にこんなことを言っていた。
『ねぇ、一夏』
『ん?』
『この後ろにね、三メートルぐらいの崖があるんだ』
『そうなのか?』
『うん、確認したから。僕がね、下がれって言ったらその崖をできるだけ早く降りてほしいんだ』
『さ、三メートルもっ!?』
『大丈夫。一夏ならできる』
『・・・わかった。お前を信じる』
『おり切ったら白って言って。それで僕も降りる』
『大丈夫なのか?』
『いけるいける。僕を信じて』
だから、下がれと言う、たったそれだけで、一夏は下に下る。己の背中をアキラに任せて。
「白だっ!」
「わかったっ!」
アキラはシャルロットを抱えて三メートルの崖を飛び降りた。
「わわっ!」
シャルロットは思ったよりも高く感じる崖底を見て狼狽える。
「大丈夫」
優しい顔を浮かべ着地地点を見つめる。着地を綺麗に決める。音もなく、砂ぼこりもたてず、服だけをなびかせて。
「ね? 平気だった」
ゆっくり立たせる。三メートルから音もなく着地する技量もさることながら、人一人抱えて下りれるだけの身体能力。本当に人間なのかと疑問に思う観客席からの声も。
「じゃあ、行くね。・・・このままだと、少しは主催者に泡吹かせてあげないと、どうにも抑えられそうにないんだ」
「へ?」
「一夏、行こう。僕たちにはまだやることがある」
「わ、わかった」
((いま、アキラ、怒ってた?))
憤怒の顔ではないが笑顔が怖い。なんというか、黒いオーラを纏っているような、そんな笑顔。
(僕を使ったのが敗因だよ、会長)
体は軽く、筋肉もほぐれた。・・・ここからが、本当の四十万アキラだ。
アキラ君、すごいですねぇ。どうも白銀マークです。
普通、人抱えて三メートルから降りれないって。しかも生身で銃弾斬るとか・・・どこのGGO世界の方ですかって話。しかも獲物はクナイって・・・。この子怖いよほんとに。
さて、学園祭編、なかなか楽しいですねぇ。アキラ君自慢できるんで、ホント好き。
今後ともよろしくお願いいたします。