長い。要請してから人が来ない。
「まだなのっ!?」
『そろそろきついな』
要請してから5分と立っていないのだが、三人は既に限界を迎えつつあった。理由は単純、アンノウンの運動性能が高すぎること、狙いが正確なこと、この二つが三人を苦しめる。
『ユキネ、後ろっ! よけてっ!』
カレンからの警告に反応して回避行動をとると、飛び上がったアンノウンの持つ刃が通り過ぎるのを目の端で見ることができた。たぶん動いていなければ殺されていただろう。
「助かったわ」
『まだなのかっ!?』
応援は、まだ来ない。
「あれは、アキラ君?」
「くそ、まだいたのかっ!」
上空にはアラクネの時にいた紫星似のISだった。
「あ、あの時の子じゃないか。さっきぶりだね」
「何してやがるっ!?」
「ん? あれ見てみなよ」
「あ、あれはっ!?」
「そう、あの時のアラクネだよ。アキラにやられた仕返しにでも行こうとしてるのかな?」
「だったら止めねぇとっ!」
「止めなくても時期に死ぬさ。あのアキラを前に勝ったのは、後にも先にもアキラの今は亡き友人、ただ一人だけだったからね」
「だったら・・・だったら俺が「無理だね」っ!?」
「あれは人間に制御できる代物じゃないから、近づいたら死ぬよ?」
「くっ!」
「あれを止めれるのは・・・そうだねぇ、君ぐらいかな」
クローンはその指先を生徒会長に向ける。
「私?」
「そう、君だよ。データ上なら、君の水を使えば、アキラをあの機体から引きはがせる」
「教えてくださるのはうれしいですけど、何か裏があるように感じるのですが?」
普通は相手に解除の仕方など教えないものだ。教えることのできる情報はデマか逆に加速させてしまう要因だ。
「ああなってしまったら私らもどうすることもできなくてね。持って帰れるものも、持って帰れなくなる」
『更識』
「織斑先生」
千冬は楯無にそちらに向かうように指示を出す。
「わかりました」
楯無はすぐさま指示に従い、ライたちの元を目指す。
「なるほど、彼らも気づいたか。さすがとほめるところかな?」
「どうでもいいですけど、このまま素直に帰れると思わないことですわね」
楯無以外の専用機組はクローンに武器を向ける。
「おっとだめだよ、そんなものを私に向けちゃ」
クローンの右目が紅く染まる。
「私を殺す気なら、アキラぐらいの実力がないとね」
いつの間にか専用機組の背後に移動し、捨て台詞を残して、また、一瞬で消えていった。
「なんだったの? 今のは・・・」
ありえない光景を目にした六人は、その場に立ちすくむしかなかった。
アンノウンと化したアキラはいまだに檻から抜け出せず、今もまだ黒い棺の中で囚われている。
「なんでこんなに型落ちの機体が強いのよっ!」
いまだに元気な棺を前に、ユキネは苛立ちをこぼす。
『あれで型落ちっ!?』
「そうよ、あれは元々、嚮団が作った対ブリタニア兵器だったのよ。それの試作品が盗まれたって話があってね」
襲い来るクナイをよける。大量のクナイを投げつけられたはずだが、壊さなかったクナイは回収されているのだろう。
「それを元にサルベージ、リペアされたのがあのアレクサンダ・スペリオルで、こうなるのは完全に副作用で」
背後から来る一撃をよける。説明できるだけの余裕が上空だからこそあるが、これが地上だったならそんな余裕もないだろう。
「本来はどんな人間も命令一つで神風もできるぐらいに従順にするのが目的だったんだけど」
アンノウンからの攻撃はいまだ止むことはなく、三人を襲い来る。
「お兄ちゃんの追加プログラムで壊れたシステムが勝手に自信をサルベージ、結果として殺戮兵器になってしまったってわけ」
システムが生まれたのは偶然。プログラムとなっている命令形が何らかの形で崩れ、それをシステム側が修復した結果。それでも、異常なまでに高い性能を発揮する。
『なるほどな・・・』
「細胞に掛けられたリミッターなんて物を外的要因で取っ払ってるから何かあっても不思議じゃないわ」
つまり、アキラを助けることができても、体や精神に異常をきたしている可能性もあるようだ。
『そんなの、冗談じゃないわね』
「来たっ!」
乱入してきた通信音声は、三人が求めていた、
『ごめんなさい。私のせいで、こんなことに』
「いいの。こうなるなんて、誰もわからなかった。予想できてたら、私が止めてたわ」
『・・・ありがとう』
「コトノハ、作戦は?」
『アキラを囲んでいる電磁バリアは機体と融合しきってなくて、まだ浮いている状態なの。だからミステリアス・レイディの水でアキラを保護した後に、紅蓮、白蓮の輻射波動で壊せば、任務完了よ』
『アキラ君に被害はないの?』
『計算上はね。ただ、計算を間違えたり、水がバリアに干渉すると、水が一定時間使い物にならなくなるわ。つまり、あなたに掛かってるのよ』
「やろうよ」
『ユキネちゃんっ!』
「コトノハ、それでお兄ちゃんは戻ってくるのね?」
『誰が計算したと思ってるの?』
「わかった。じゃ、誘導だけ担当するわね」
『僕とカレンは着かず離れずの距離を保とう』
『どうしてそんな危ない橋を渡ろうとするのっ!?』
「相手がお兄ちゃんだもん。死なないよ、絶対」
『そうだね。自爆に巻き込まれても死ななかったからね』
『ライに似てるから。あの子は大丈夫よ』
『私を信じなさい。あれしきで死ぬ男じゃないわ』
絶大な信頼。生死すらも信頼でかたずけてしまう。彼は死なないと、その眼が、声が。前を向き、助かったときのことを考えるだけのその顔が。楯無に決断を下させるだけの力があった。
『わかりました。信じましょう』
「じゃあ、行くよっ! オペレーション、ゲットスノウホワイト、レディ、ゴーっ!」
救出作戦が、今、始まるっ!
「あの野郎、私をコケにしやがってっ!」
ボロボロながら、まだかろうじて歩行能力が稼働するアラクネは、地上で脱出ルートをたどっていた。
「オータム、迎えに来たぞ」
上空には見たことのないISが。
「私を呼び捨てにすんじゃねぇっ!」
「迎撃態勢が整いすぎた。帰投するぞ」
「まだだ、私はあいつにっ!」
と、脱出ルートから見受けられた。戦う黒いISと赤と青、そして
「あいつだ、あいつを殺してからだっ!」
アラクネは向かう。屈辱を晴らしに。