双璧の結晶と双璧が行くIS世界   作:白銀マーク

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まだまだ、知らないことがたくさんある

 ずっと、アキラ君を見てきた。あの日初めてアキラ君と出会った日から、ずっと。最初は監視目的だった。いつ裏切っても始末できるように、ずっと。だって、怪しいじゃない?

 

 でも、彼は裏切らなかった。裏切らないどころか、アキラ君は自分たちを裏切った子を、この学園につなぎとめた。臨海学校の時も、おぼれていた子を助けた。憎しみにとらわれていた子を、憎しみから解放してあげた。いろんな人を守って、救って、時には叱っていた。

 

 そんな彼を見ていると、だんだん、監視のためだけのはずが、自然と目で追うようになった。彼と話すと、心臓が跳ね上がる。顔が紅潮する。いろんなことを話したくなって仕方がない。

 

「これが恋・・・なのね」

 

 これが恋だということに気付いたのは、学園祭の時のアキラにかかわった子たちを見た時にわかった。明らかに嫉妬心を抱いた。ずるいと思った。自分もそこに混ざりたい、あわよくば、二人だけになりたい。そう思ったら止まらなかった。

 

「ずるい。ずるいよ、アキラ君は」

 

 とある女の子の、どうしようもない、恋心のお話。

 

 

 

 

 

「じゃあ、アキラ君。私は生徒会に戻るわね」

 

「わかりました。お体をお大事に」

 

「そのセリフをあなたが言うの?」

 

 おかしそうに笑いながら、病室を後にした。

 

「少し休んだら、僕も部屋に戻ろう」

 

 まだ、本調子ではない体をいたわるように、意識を手放した。

 

 

 

 

 

「織斑先生、四十万君の容態はどうでしたか?」

 

「体はまだまだ本調子ではなさそうだったが、問題はないようだ」

 

「そうですか・・・」

 

 いろいろと、作成しなければいけない書類は山のようにある。

 

「突き合わせて悪いな、山田先生」

 

「いえいえ、これも仕事ですから」

 

 書類の山を、淡々と、片付けていくのであった。

 

 

 

 

 

「アキラっ!」

 

「あ、一夏。おかえり」

 

「おかえりじゃねえよ。まったく、どれだけ心配したと思ってるんだ」

 

「ごめんね」

 

 苦笑してしまう。まさかここまで心配させていたとは、アキラ自身、思ってもみなかったのだ。

 

「体は大丈夫なのか?」

 

「うん。明日はISには乗れないけど、動けるよ」

 

「よかったぁ」

 

 安堵している一夏を見て、心配されるような人になったのかと、ふとそんなことを思った。

 

「僕も甘い人間に堕ちてしまったものだね」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべる。

 

「そんなことねぇよ。それより、あの劇の王冠、あれ何の意味があったんだろうな」

 

「それはねぇ、気になる?」

 

 部屋の奥から生徒会長、更識楯無が姿を現した。

 

「うわぁっ! いったいどこから入ったんですかっ!?」

 

「一夏、聞くだけ無駄。こういう人って権限を乱用するような人多いから」

 

「あら、失礼ね。これも立派な権限の使い方よ?」

 

「もう突っ込みませんからね。それより、主催者なんだから、あの王冠がどのような意味を持っていたのか、ご存知ですよね?」

 

「もちろんっ! なんとあの王冠、取れた人にはアキラ君か一夏君、どちらかと相部屋になれる王冠なのよぉっ!」

 

「「はぁっ!?」」

 

 あの王冠、実はとんでもない物だったようだ。

 

「そんなことしていいと思ってるんですかっ!?」

 

「あら? 私は生徒会長よ? 大体のことは許可が下りるわ」

 

「やっぱり、どこの会長もこう、少しずれている人が多いな」

 

「ほめてるのかしら?」

 

「そんなわけないでしょう? まったく。実際に回収されてたらどうする気だったんですか」

 

「もちろん、取ることのできた人があなたたち二人のうちのどちらかを選んでおんなじ部屋にするわ」

 

「本当にもう、めちゃくちゃだ」

 

 頭を抱えるしかないアキラとあきれる一夏。それとは対照的にうれしそうな楯無。

 

「あ、俺、ちょっと用事あるから席外すわ」

 

「わかった。怒られる前に戻ってくるんだよ」

 

「わかってる。お前は俺の母親かよ」

 

 一夏は笑いながらそう溢し、部屋を後にした。

 

「まったく。で、何か用ですか?」

 

「まぁ、頑張ってたアキラ君にご褒美でもあげようかなぁって思ったのよ」

 

「そんなことですか」

 

 アキラが笑う。声はあげていないが、クスクスと。

 

「何よ? イラナイの?」

 

「いえいえ・・・あ~、笑った。あなたからのご褒美は既に貰いましたよ」

 

「え? まだ何もしてないわよ?」

 

「貰いましたよ。とても、大切なご褒美を」

 

 アキラが立ち上がって楯無の耳元に顔を寄せる。

 

「ね? 刀奈さん?」

 

 小さく甘く、楯無だけに聞こえるように。

 

「ふぇっ!?」

 

 たぶん、今の顔をアキラ君見られていたら死んでしまうかもしれない。そのぐらい、紅潮していただろう。

 

「あなたの本当の名前を、ね?」

 

 どうしてあんな歯がゆいセリフを言えるのかわからない。

 

「ちょっといたずらが過ぎるわよ?」

 

 ちょっと拗ねてしまった楯無はそのままそっぽを向いてしまう。

 

「ごめんなさい。そんなに拗ねないでください」

 

 ばつが悪そうに頬を掻くアキラ。それを目の端でとらえ、かまってもらえてることがちょっとうれしくなって、すぐに優しい顔になってしまう。

 

「冗談よ。でも、あれがご褒美っていうのは少し味気ないわね」

 

「そうですか?」

 

「そうよ。だから、私からのご褒美は、これ」

 

 アキラに顔を寄せ、その唇を自らの唇で塞ぐ。

 

「っ!?」

 

 アキラは驚きのあまり目を見開いた。状況が飲み込めない。

 

「これがご褒美よ。じゃあね、アキラ君」

 

 そのまま部屋から立ち去る。部屋に残されたアキラは一人、唇に手を当て、感触を思い出しながら、ただ茫然と、その場に座り込んでいた。

 

 

 

 

 

(アキラ君の唇、柔らかかったな)

 

 楯無は自分の部屋で、あの時自分がした行動を思い出しながら、唇に手を当てる。頬は紅潮し、ちょっと浮足立っている。

 

 キス・・・。なんて甘美な響きだろう。

 

「あの時の顔、面白かったなぁ」

 

 あのアキラにしては珍しく目を見開くほどの驚愕を見せてくれた。いつもどこかすましていて、つかみどころのない変人さんが、あんなにわかりやすい驚いた顔をしてくれた。

 

「あぁあ、これじゃあ離れられないなぁ」

 

 もっと知りたい。あの子のことを、もっと。

 

「誰から離れられないの?」

 

 後ろから、足音も立てずに近づかれていた。

 

「誰っ!?」

 

 距離を取り、相手を見据えると

 

「そんなに驚くことした?」

 

 現在同室しているユキネがそこにいた。

 

「ユキネちゃん、もう、驚かさないでよね」

 

「いやぁ、癖で」

 

「もう、兄弟そろって」

 

「お兄ちゃんがなにって?」

 

「二人ともつかめない人だなぁって、それだけ」

 

「えぇ? あんなにわかりやすいのに?」

 

「どこがよ?」

 

「すぐにテンパっちゃうし、知らないところですごく頑張ってるし、一番周りを気にするじゃん?」

 

「た、確かにそうね」

 

「だから、考えてること、わかっちゃうんだよねぇ。要は観察力よ、か・ん・さ・つ・りょ・く」

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

「あら? 物分かりいいじゃん。さすが会長だね」

 

「ほめても何も出ないわよ?」

 

「ちぇ、お兄ちゃんと一緒の部屋がよかったなぁ」

 

「だめに決まってるでしょ? 一応あなたは監視付きじゃないとだめなの」

 

「あぁあ、悲しいなぁ」

 

 ちょっと間が空いた。もともと、そんなに仲がいいわけではない。と言っても、知り合ってからそこまで時がたっていないのだが。

 

「で、どこに行ってたの?」

 

「アキラ君のところにね」

 

「え? なにしに?」

 

「う~ん・・・ご褒美をあげに・・・かしらね」

 

「お兄ちゃんにご褒美かぁ。どんなのあげたの?」

 

「な、内緒ですっ!」

 

(・・・成程ねぇ。お兄ちゃん、相変わらずの朴念仁なんだねぇ)

 

 ユキネは、頬を真っ赤に染めて顔をそらした楯無を見て、大体どんなことをしたのか察しがついた。

 

「でも、楯無一人でお兄ちゃんにご褒美はずるいなぁ」

 

 いたずらっ子の思考は悪いことになると、とてつもない角度からとてつもない案を出してくる。

 

「そうだ、いいこと思いついちゃった」

 

 いたずら心満点の笑みで、楯無を見る

 

「楯無も協力、してくれるよね?」

 

 訳の変わらないという顔の楯無をよそに、一人だけ楽しそうなユキネだった




 はい、どうも皆さんこんばんわ、白銀マークです。

 いろいろありますねぇ、ライバルも増えちゃったし。大変ねぇ。

 今後ともよろしくお願いいたします。

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