寮に戻る夜道。暗い遊歩道をアキラを支えて歩く。
「すまない・・・」
「いいってことよ。それよりも大丈夫か? 気持ち悪かったりしないか?」
「大丈夫だ。問題あるとすればうまく歩けないことだ」
酔っ払いと化したアキラは、うまく歩を進めることができず、支えてもらわないとフラフラして歩けないほどまでになっている。
「まったく」
「すまない」
暗い遊歩道はところどころの外套の明かりしかなく、どこか不気味だ。
「一夏」
「どうした?」
「私のクローン。君はその話を聞いて、どう思った?」
「どう思ったって・・・」
酔ってしまったからこそ漏れしまった。酔わなければ言わないであろうセリフも、酔っていれば自制できず、ゆるくなってしまった思いは、簡単に流れ出てしまう。
「そうだな・・・。はじめは驚いた、でも・・・」
「でも?」
「それでも、アキラはアキラだ。そこに俺たちの知らない何かがあっても、それでも、俺からしたらアキラはアキラだ」
不思議な感覚だ。一夏の姿が今は亡き友人と重なる。
「・・・ありがとう」
「いや、いいってことよ」
「だから、私は君にだけ、私が持つ孤独の力を伝えようと思う」
「何急に中二病っぽいこと「真面目に聞いてくれ」・・・わかった」
「私の育て親と、私が殺そうとしている人間、その両方からもらった孤独の力があるんだ」
こちらを向いてくれ、と一夏の顔をこちらに向けさせる。
「これだ」
アキラは瞳を紅く染める。
「なっなんだそれっ!?」
「これが孤独の力だ。この魔法は吹聴。声を、いや私の場合は私特有の声の波長に相手に命令したいという意思を乗せ、相手にその波長が音して認識できれば命令することができるが、同じ人間には二度とは効かない」
それはつまり。マイク越しのスピーカーの声ですら、波長が変わっていなければ通用するということ。
「そんな魔法がっ!?」
「もう一つ。左目の魔法とは違う、右目の魔法だ」
アキラは右目を紅く発光させ、一夏から離れる。先ほどまで随伴していた一夏は動かず、姿勢すら変えず、その場に硬直した。それを確認してさらに数歩進んだところで、右目を元の色に戻す。
「えっ! さっきまで、すぐ近くにっ?」
「これが右目の魔法、体感時間停止。一夏は見ただろう? 私がこれを連発した時を」
「あっ! あの時っ!」
そう、地下でアラクネを追い詰めた種はこの魔法だった。
「この魔法は一定範囲にいる命を持つ者を、自分の望んだ範囲と時間だけ、止めることができる。代わりに、私の心臓も止まる。広い範囲で使えば心臓に掛かる負担は大きくなる、長時間の使用もまたしかりだ」
口には出していないが、一回の使用で心臓が止まるということは、複数回連続しての使用も同様に心臓への負担が大きくなる。
「じゃあ、今さっきは」
「私の心臓は止まっていた」
「どうしてそんなコトッ!?」
「百聞は一見に如かずというだろう? それにだ、流石にこんな短時間の使用で死ぬことはない」
(さすがに昨日の昼間の連続使用は応えたがな)
あれは正直、死ぬかと思ったぐらいに負担になっていた。
「でも、どうして俺だけに?」
「私は本当はしたくないが、万が一、万が一この魔法を制御できなくなった時のために、君には対処法を伝えておきたい」
「対処法?」
「そうだ。まずは左眼から。これは何か簡単な命令をさせて今後掛からないようにする」
「わかった」
「後者は・・・正直に言うと対策がない。だが、私の意識外から私の意識を刈り取れれば大丈夫だ、代わりに最速で頼む」
「どうするんだよ・・・」
「まぁ、暴走させないようにするしかない。それはともかく、前者の左目の命令なのだが、私ではなく、君が考えてくれ」
「俺が考えていいのか?」
「・・・本当は懸けたくないんだ。でも・・・不安はぬぐえない。だからな・・・私が君を信頼しているということを伝えるために、君に決めてほしい」
命令を実行させる力。それはつまりどんな命令でもよいということであり、永久隷属を願えばそれが叶う。だから、そんなことをしていない、そしてこれからもしないという思いを込め、アキラは一夏に命令の内容を決めてもらいたかった。
「俺の望む命令は・・・そうだな、今だけ一度だけ手をたたく、でどうだ?」
「ふむ・・・永久的でないかつ、一度きり・・・それで行こう。一夏、僕と目を合わせてくれ」
一夏はアキラの瞳を見据える。
「織斑一夏、今だけ一度だけ手をたたいてくれ」
左目を紅く染め、魔法を、
「わかった」
この魔法にかかると、命令の実行中は記憶が欠落する。だから、懸かったかすらわからない。一夏は一度だけ拍手をすると、ちょっと不思議な顔をした。
「本当に懸けたのか?」
「問題はない」
「そうか」
「酒が抜けてきた」
「それは良かった」
酒は抜けても足はおぼつかない。そのまま支え、寮に急ぐ。と、目の前に人影が。該当よりも後ろにいるため顔や輪郭ははっきりととらえれていないが、誰かいる。
「「誰だ」」
正体不明の人物はゆっくりと、外套の明かりに体を入れる。見た目は・・・千冬だった。
「ち、千冬姉?」
「いや、私はお前だ。織斑一夏」
「っ!? なにっ!?」
「昨日は世話になったな」
「サイレント・ゼフィルスのパイロットか。で、そのあなたがこんな夜中に何の御用で?」
「貴様には関係ない」
確かにそうだ
「まぁいい。私は、織斑マドカ。私が私たるために、織斑一夏の命を貰うために来たのだからな」
ハンドガンを一夏に向ける。
「だめだよ、それは。それは君ができることじゃない」
アキラは知っている。それがどんな結果をもたらすか。それがどんな過ちを引き起こすか、アキラは知っている。だから、銃口を自分の脇腹に向きを変える。
「復讐心に駆られていたって、その気持ちの矛先を向けるのは一夏じゃない」
「黙れ」
「復讐できたとしても、何も残るものはないよ。結局、残ったのは復讐を果たせたことでぽっかりと空いた心の隙間だけだから」
「黙れっ!」
「縛られていることが原因なら、それを取り除くことだってできる。僕は・・・君に同じ道を進んでほしくない」
そう、たとえ復讐を果たせたとして、残るものは何もない。だから、そうなってしまわないよう、同じ結末をたどらないように、アキラは語る。
「僕は・・・僕を殺すことで復讐を果たせたと思った。でも・・・いざ殺してみて、残ったのは目的を失ってぽっかり空いた心だけだった。でも・・・でも君ならまだ間に合う。失ってから気づくんじゃなくて、失う前に気づける」
だから・・・、
「だから、君は僕たちのところに・・・ううん、このIS学園に来るんだ」
「わ・・・私はっ!」
パァンっ!
乾いた音とともに、消炎が上がる。
「アキラっ! こいつっ!」
アキラが呻く。銃弾はしっかりとアキラの横腹をとらえていた。
「落ち着いて一夏。僕は平気だ」
それでも、銃を離すことはなかった。ずっと、撃たれた直後も抑えていた。
「銃の使い方を知っているのに、そんな顔をするんだね」
マドカと名乗った人物は狼狽えた。今までは何も感じなかったはずだ。殺すことが普通だった。殺すことを目的にしていたはずなのに。目の前の男は撃たれているのに倒れない。血を流しはするし、撃たれた直後は苦痛に歪んだ顔をした。でも、すました顔でほほ笑みかけてくる。
「・・・当たったはずだ」
「当たってるよ。しっかり痛い。でも、それでも僕は止めるよ。君は、復讐心だけで行動してはいけない」
「・・・帰還する」
マドカは飛び立っていった。暗い夜空に、白い機体を煌めかせて。
「だめだね、僕も。妹と聞いて、ついお節介をかいちゃった」
いまだに血が流れる傷口を眺める。
(僕は・・・止められなかった)
止めることができたら、ユキネみたいな子が生まれることはなかったはず。止めることができればアキラのようなぐちゃぐちゃの人生を歩まなくてもいいはず。そう考えると、だめだった。
「僕は・・・いつ何時でも、無力なんだなぁ」
(両親を守れずに、親友を殺し、クローン技術で僕が僕を殺し、妹に血生臭い戦場を体験させてしまって・・・。あげると切り無いや)
「アキラ・・・」
「ごめんね一夏。僕は、僕、は・・・」
膝から崩れ落ちるアキラを、一夏は支える。
「無茶しやがって」
一夏は、あの時のアキラの顔を忘れることはできないだろう。何が原因かはわからないが、すぐにでも消えてしまいそうな、儚げな笑みを。
一度、回り始めた歯車は、永遠に回る、噛みあおうが、そうでなかろうが、永遠に回り続ける。
アンケートを取ってから少し時間がたちましたね、どうも、白銀マークです。
さて、アンケートはもう数話分残しておきます。できることならアンケートへの回答、よろしくお願いします。
現在のアンケート結果が五分五分といったところなので、一応両方書いていく方針で進めますが、今後のアンケート結果次第で変わるかもしれませんのでご了承下さい。
「安息は突然に」以降のお話について。
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小説読め、複線よこせよおらおら
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含ませなくていいから投稿あくしろよ