過度な期待はしないでもらえるとうれしいです。
また今回執筆にあたり大学時代の親友、柊竜真氏(本名ではなくペンネームです)に一部書いていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。
シーマ・ガラハウには自身の両腕と言える人間がいる。一人はシーマの副官、デトローフ・コッセル。
もう一人はクレア・バートン。中学生と言われれば信じてしまうほど幼い容姿をした、シーマMS部隊の副隊長を務める女性士官である。
激戦に次ぐ激戦に戦死者が出る中シーマと共に戦い抜いた猛者である。その腕前はシーマを上回りシーマ自身もそれを認めるほどだった。
そして。シーマは家であるリリー・マルレーンで自身の両腕とも言えるクレアとコッセル、家族同然の部下達に銃を向けられていた。
「どういうことだ、クレア!?」
「ふふふ、私は故あれば寝返るのですよ」
自分に反意を示した部下達の先頭に立つ少女のような女軍人を睨みつける。
「戦場と言う舞台に貴女の居場所はない、ということですよ。シーマ様」
クレアはニヤニヤと笑う。
シーマは信じられなかった。シーマ艦隊結成当初からMSパイロットとして背中を任せられる存在。28歳とは思えないほど低身長&童顔で彼女をなめてかかった男達を自分よりも上のパイロットテクニックで度肝を抜かしてきた。
自分を「シーマ様、シーマ様」と姉のように慕ってきた。
普段は妹のように癒される。戦場に出れば背中を任せられる部下。
そんな彼女が自分に反旗を翻したこと。そしてそのクレアに副官であるデトローフ・コッセルらがついたことが彼女の立つ力を失わされた。
そんなシーマにクレアはとんでもない一言を放つ。
「安心してください、シーマ様。歴史舞台から姿を消す貴女に代わって私が
「ッ!?」
「じゃあどこかに行ってください、
「くそっ!離せっ!離せっ!!」
バタンッ
シーマが部屋から連れ出されると先ほどまで馬鹿にした笑みを浮かべていた女軍人が暗い表情を浮かべた。
「クレア……」
「これしか、私には思いつかなかった。シーマ様が……幸せになる方法は」
「……」
「シーマ様は私たちのためにずっと苦しんできた。もうそろそろ肩の荷を下ろしてもいい頃よ」
「そうだな……これから頼むぞ、クレア……いや
そしてシーマは月の地方都市の一区画に軟禁され、星の屑作戦が開始される。
その後作戦が北米へのコロニーの落下という結果に終わった同じ頃、シーマは解放される。
「もうお頭はてめぇなんぞに興味もなくなっただとよ。この身分証は一応世話になったてめぇへのお頭からの餞別だ。そいつでどこへなりとも行っちまいな!!」
「……」
シーマは何も言わずただ黙って男達を見つめた後、口を開いた。
「おい、お前らは確かウチの艦隊で一番年少の奴だったな。何でそんなヒヨッ子どもが私の見張りについている?」
「な、何でって……」
「そ、そりゃ俺らがお頭に評価されてるに決まってんだろ!」
「それはない」
動揺する男達を一笑する。
「私が知る限りお前らはまだまだケツの青い青二才だ。少なくともあのクレアが私の見張りを任せるとは思えん」
「そ、それは……」
「う、うう、うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
片方の男が頭を抱えて崩れ落ちる。
「あ、兄貴……うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
崩れ落ちた兄に耐え切れず、弟も兄に寄り添うように崩れ落ちた。一分前まではシーマに偉そうにしていたとは思えないほど涙と鼻水にまみれていた。
「……全てを話せ」
二人が落ち着くのを待ってからシーマは説明を促した。
「……お頭、いやクレア中尉は『自分たちが残ってたらシーマ様の足枷になる。だけど貴方たちはまだ若いから付き合う事はない』と」
「だから……だから俺たちにシーマ様の見張りと……その時期が来たら解放する役目を……」
「あの馬鹿どもが……」
怒りに震えるシーマは持っていた扇子をバンッ!と左の掌に叩きつける。
「すぐに艦隊に戻るぞ!!」
「し、シーマ様……」
「もう、遅いっす」
「お、遅い?」
「星の屑作戦はもう終わってるんっす。コロニーは落ちました」
「中尉達は一人でも多くアクシズ艦隊に逃がすために
「な、何だと!?」
持っていた扇子が地面に落ちたことすら気づかないほど動揺する。
「バカな!!なぜ逃げなかったんだ!?」
「クレア中尉は……『シーマ様の重荷はすべて背負います』って」
「……最後に別れる時にそれだけ言って……」
「……」
クレアの最後の言葉に、シーマは膝から崩れ落ちた。
宇宙世紀0083、11月12日。ガンダム試作2号機強奪から始まる一連の事件に一応の幕は閉じた。
だがその影で裏切ってでも宇宙の蜉蝣を自由な空へ羽ばたかせようと必死に戦った女達がいた事はほとんどの人間が知る事はなかった。