シーマがデラーズ・フリート参画を表明した翌日。
リリー・マルレーン シーマの自室。
椅子に座るシーマの目の前には副官のデトローフ・コッセルが立っていた。
「シーマ様何かあったんですかい?」
緊張した面持ちで尋ねるコッセルにシーマは緊張をほぐさせるように軽く笑みを浮かべた。
「コッセル。あんたを呼んだのは他でもない。実はクレアのことでね……」
「く、クレアが何かしたんですかい!?」
ごくっと唾液を喉に送り込むコッセルを見ながらシーマは続ける。
「クレアが……私に楯突くつもりらしい」
「ッ!?」
自身と同じ、もしくはそれ以上にシーマを敬愛する女が逆らおうとしているというシーマの言葉に、コッセルは言葉を失った。
「……シーマ様。……その情報はどこからです?」
絞り出すように言葉を紡ぐコッセルにシーマは答える。
「あいつが部屋から出た時にポツリと独り言を聴いた奴がいてね。『私がシーマ様を……この手で……』と深刻そうな面持ちで、と」
「ま、待ってください!その程度の情報でクレアがシーマ様に反旗を
「もちろん私だって本気でそう思ってはいないさ。だけどもし本当なら遅い。だからこれから一時間後……私はブリッジでクレアに本心を聞き出す。お前は万が一に備えて……部下達に準備をさせろ!!」
「ま、まさか……シーマ様!?」
「言うな!!」
コッセルの言いたいことを察し、シーマは声を荒らげた。
「あの子と言えど。私に逆らうようなら殺さないといけない……。でないと、他の部下に示しがつかないからね……」
悲痛な面持ちで言うシーマに、コッセルは「分かりました」と敬礼すると部屋を後にした。
クレア。ゲールに続いてお前まで私を……
自分の前から姿を消した恋人に続いて、妹のように信頼していた腹心が裏切ろうとしている。
そのことにシーマは歯をギリッと食い縛り額に手を当てた。
この時。シーマは知らなかった。
クレアの独り言をシーマに伝えたのがまだリリー・マルレーンの構造を完璧に把握していない新兵で、コッセルの部屋をクレアの自室だと勘違いしてしまったという不運を。
もしクレアがコッセルの部屋から出たと聞いていれば、コッセルがクレア側に回った可能性を考えて他の部下に命じてコッセルを捕縛。その上で別の者にクレア捕縛の人員を準備させていただろう。
シーマは知らなかった。
コッセルがクレアの仲間であると同時にシーマを守る盾だと考えていたことを。クレアがいなくなるということはシーマ艦隊にとって著しい戦力の低下を及ぼすと同時にシーマを守る戦力が無くなることを意味した。
もしシーマが『クレアを殺さない』と明言していたら、コッセルはシーマを裏切ることはなかったかもしれない。
しかし彼女は『クレアの裏切りが明確になったならば殺す』と明言してしまった。
シーマにつけばシーマを守る盾が失われ、クレアにつけばシーマの命が助かる可能性が高まる。
シーマを敬愛しているため反旗を翻しシーマに成り代わるというクレアの考えに乗る決断を選ばせてしまった。そのことをシーマは知るよしもなかった。
筆先文十郎が最近思うこと。
この小説、連載じゃない?