リリー・マルレーン ブリッジ
「……」
シーマはコッセルにクレアが反意を見せた際に万が一にも対応できるよう準備をさせる指示を出すと、その張本人が来るのを待っていた。
「おはようございま~す、シーマ様!……って何か今日は重々しい雰囲気ですねぇ。何かあるんですか?」
ブリッジに入る童顔で赤髪をショートカットにした女性士官、クレア・バートンはシーマに挨拶を終えると不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡した。何も知らない、無邪気な言動を見せるクレア。しかしその影で僅かに発せられる緊張をシーマは読み取った。
シーマは真剣な表情でクレアを見る。
「クレア。あんたは私に隠し事をしてないかい?」
「隠し事ですか?……う~ん」
クレアは腕を組んで考える。
「隠し事隠し事……隠し事は『書く仕事』。……なんちゃって!」
てへっと舌を出して笑うクレア。
(あくまでごまかすつもりかい?それとも……本当に反旗を翻すつもりはない?いや!!)
目の前の少女のような部下の反応にシーマは覚悟を決めた。
「クレア!猿芝居はいい加減にしな。あんたが私に楯突こうとしているのは見抜いているんだよ!証拠は既に上がってる!!」
シーマは虎の毛皮が掛けられたソファーから立ち上がり、扇子でビシッとクレアを指し言い放った。もちろん決定的な証拠などないハッタリだった。
「ッ!?……ふふっ。さすがはシーマ様だ」
クレアの表情が変わった。「シーマ様!」と慕う無邪気な表情から野心を秘めた邪悪な表情へと。
(まさかクレア。本当に私を……この愚か者め!)
信じたくはなかった。妹のように可愛がり、戦場に立てば右腕として活躍する部下の裏切りを。
しかし裏切りを確信してしまった以上、シーマに彼女を許すという選択はできなくなった。いかにクレアがシーマに多大な貢献したとしても、明確な反意を見せた部下を許せばシーマ艦隊の秩序が乱れるからだ。
(クレア……バカな子だよ!)
シーマが扇子を振り上げると先ほどまで様子を伺っていた部下たちが一斉に銃に手をかけた。
「クレア、最後に一つだけ聞いておきたい。なぜ私を裏切ろうとする!?」
「……裏切り?裏切りですって!?」
それはこちらの台詞だと言わんばかりにクレアはシーマを睨み付ける。
「裏切られたのは私の方ですよ。私はもっと出世したかった。そのためには有能な上官の下につくのがもっとも簡単で有効な手段と考えてシーマ様の所に来たのですよ。人事の人間
「それが本心か!?クレア!!」
シーマは心の中で投げかけ扇子を降り下ろそうとした。しかしそれはできなかった。なぜならば部下たちが構える銃口の先は自分自身だったからだ。
コッセルを始めとする部下達がクレアの後ろに集まる。
意味が分からなかった
「どういうことだ、クレア!?」
「ふふふ、私は故あれば寝返るのですよ」
自分に反意を示した部下達の先頭に立つ少女のような女軍人を睨みつける。
「戦場と言う舞台に貴女の居場所はない、ということですよ。シーマ様」
クレアはニヤニヤと笑う。
シーマは信じられなかった。妹のように可愛がり、戦場では右腕として信頼できる部下の衝撃の言葉と反逆行為。そしてそのクレアと同等に信頼するデトローフ・コッセルを始めとする部下達がクレアについたことに。
信頼していた、家族同然に思っていた部下達の裏切りにシーマはその場に崩れ落ちた。
彼女の立つ力を失わされた。
そんなシーマに追い討ちをかけるようにクレアはとんでもない一言を放つ。
「安心してください、シーマ様。歴史舞台から姿を消す貴女に代わって私が
「ッ!?」
「じゃあどこかに行ってください、
クレアが顎で「連れていけ」と指示を出す。
「くそっ!離せっ!離せっ!!」
二人の屈強な元部下に両脇を掴まれ、我に返ったシーマは抵抗する。
しかし裏切られたショックから完全に立ち直っていない身体では男二人を払いのけることなど出来るわけもなくシーマはブリッジから追い出された。
その後リリー・マルレーンを追われたシーマは星の屑が終了するまで月に軟禁されることとなった。
なぜあのクレアが私を裏切ったのか。
そのショックと共に。
筆先文十郎の一言。
第1話、いらなくね?
次回『シーマ・ガラハウに成り代わった女~すれ違う心。クレア~』投稿予定。