シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

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シーマ・ガラハウに成り代わった女~ルウム戦役(後編)~

『クレア、これより作戦を伝える』

 コックピットのモニターに映るヒイラーが伝える。

「……」

 ヒイラーの作戦を黙って聞いていたクレアは全てを聞き終えた後

「ヒイラー、アンタ馬鹿でしょ?」

 と苦笑しながらモニターの男に呟いた。

「よくもそんなバカバカしい作戦を考えたわね」

「自分でもそう思うよ。でも──」

 とヒイラーは一度言葉を区切る。次の言葉を強調するために。

「お前なら出来るだろう?」

「フッ、簡単に言ってくれるわね。やらされる方の身にもなってよね」

 試すように笑う同期の言葉に、不満を言いながらもクレアはニィッと同じように笑った。

 

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 地球連邦軍旗艦マゼラン アスペルン

「レビル中将の戦術眼には恐れ入る」

 10隻からなる艦隊を任された30代半ばの男、ワグラム大佐は上司を褒め称える。

 ドズル・ザビが指揮するジオン軍本隊を前に一隻でも多くの戦力を投入したい中、レビルは大規模な艦隊ならば航行することはできない、普通ならば来ないであろう場所に自身が一目置くワグラムを配置した。

 その判断は的中した。ワグラム艦隊は連邦軍後方を撹乱させようとしたシーマ艦隊を捉えたのだ。敵が自分達を把握していないことに気づくと、ワグラムは挟撃による殲滅を図るため艦隊を二つに分けて、敵の退路を塞ぐように自身が率いる本隊を敵に悟られないように動かした。

「あれだけの数で後方を攻めても我が軍の優位は変わらない。いち早く駆逐してレビル中将に後方の安全は確保されたことを報告するとしよう」

 尊敬する上司に報告する自分の姿を想像するワグラム。その時だった。

「む、ムサイ級一隻がその場に留まり向きを変えてきます!」

「……っ!?」

 部下の報告にワグラムは唖然とする。戦艦6隻に1隻で対峙しようとしている事実に。

 ワグラムの考えでは4隻のジオン艦隊は前方の連邦軍を排除した後にこちらに対峙すると思っていたからだ。そして前方の連邦軍の別働隊が時間を稼ぐ間に自分たち本隊が敵後方を強襲して挟撃を完成させる考えだった。仮に退路である自分たちに向かった場合、前方の別働隊が後方を強襲し挟撃を完成させる。

 ジオン艦隊がどちらに進んでも挟撃により殲滅するという当初の予想を打ち砕くものだった。

「……まあいい。敵は1隻。さっさと撃沈して残りを片付ければ問題ない」

 予想外の敵の行動に動揺したがすぐに考えを修正すると、余裕を取り戻したのか「ふうっ」と軽く息を吐く。

「MS部隊、展開!」

「戦闘機を出撃させろ!」

 部下からの報告に次々と命令を発するワグラム。しかし彼は再び驚愕させられることになる。部下からの報告によって。

「た、大佐!?」

「何だ?」

「て、展開したMS部隊の内の一機がこちらにゆっくりと近づいてきます!」

「え、映像を出せ!」

 モニターにはゆっくりとこちらに近づいてくるザクⅠの姿が映し出される。ザクⅠの手にはヒートホークのみで銃火器の類は持っていなかった。

 ふらふらと近寄ってくる一機のMS。ワグラムはいつでも撃ち落とせるように準備をさせながら不可思議な行動をするザクⅠの行動を考える。

(降伏? それとも我が軍に寝返ろうとしているのか?)

 ワグラムは優秀な軍人だった。しかし彼は読み違えていた。

 一つは自分たちが相手をしていた軍隊がグラナダ海兵隊の中でも1、2を争う実力の持ち主であるシーマ・ガラハウとゲール・ハントの部隊だったこと。

 そして謎の行動を取るザクⅠのパイロットがMSの技術だけならばシーマと同等、もしくはそれ以上の腕前を持つエースパイロット、クレア・バートンだったこと。

 ワグラムが自身の危険信号に従い撃墜の命令を出そうとした直後、ふらふらと進んでいたザクⅠは一気に加速。命令を待たずに迎撃する戦闘機もいたが、それをあざ笑うかのようにザクⅠは回避する。

「ば、バカな!?」

 ワグラムは目を大きく見開く。

 大きく見開かれた瞳が最後に見たのは、自分がいる艦橋めがけてヒートホークを振り下ろすザクⅠの姿だった。

 

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「相変わらず無茶なことをさせるわね」

 マゼランの艦橋を破壊したクレアは苦笑する。

 ヒイラーの考えた作戦はこうだった。

 敵が部隊を展開する中でクレアの乗るザクⅠがヒートホークのみで敵に歩み寄るように近づく。

 圧倒的な戦力差にふらふらと近づいてくる、銃火器を持たないMSに敵は撃ち落とすよりもその意図を考える。

 そして撃ち落とす判断をする前に敵の旗艦の艦橋を叩き敵艦隊の指揮系統を混乱させるというものだった。

「こんなクモの糸で綱渡りをするようなこと、させてくれたわよね。ヒイラーは」

 マゼランを踏み台に近くのサラミスに接近したクレアは外壁に向かってヒートホークを振り下ろす。しかしわずかな傷が出来たのみで撃沈には程遠かった。その時数機の戦闘機がもう一度ヒートホークを振り下ろそうとするクレアのザクⅠの後ろを取ると狙い打つ。

「フッ」

 クレアは一笑するとヒートホークを手放し、機体を上昇させる。

 ザクⅠに当たるはずだった攻撃はサラミスに命中する。命中した銃弾はザクⅠのつけたわずかな傷を拡大させる。艦内で爆発が起こり、運悪くエンジンルームに誘爆。

 サラミスは爆発した。

 これにより同士討ちを避けるため攻撃を停止するように命令がかかる。その混乱に乗じてクレアはギラメルに向かう。

 指揮官のワグラムを失い指揮系統に乱れが生じる連邦軍。その混乱を拡大させるかのように銃火器を携えたクレアのザクⅠ率いるMS部隊とギラメルが攻撃を加える。

 マゼランとサラミスを失った状況でもサラミス4隻と多数の戦闘機は健在だった。しかしその未だ圧倒的な戦力差も指揮系統が整わない状況では満足な迎撃は出来なかった。

 ヒットアンドアウェイを繰り返すギラメルとクレア率いるMS部隊。そして戦況が決定付けられる事態が起こる。シーマ率いるシーマ艦隊本隊が連邦軍別働隊を駆逐して引き返してきたのだ。

 ワグラム亡き後、指揮系統が整わない状態の連邦軍と指揮系統が整ったグラナダ海兵隊最強部隊。同じ艦隊でも勝敗は見るまでもなかった。

 シーマ艦隊本隊の攻撃により烏合の衆と化し撃沈、降伏を余儀なくされた。

 

 

 

 この戦いにより作戦を立案し敵本隊を食い止めたドラント・ヒイラーと敵旗艦を潰し勝利の要因になったクレア・バートンの昇進が決定。

 中尉になったクレアはかねてからの望みだったシーマ直属のMS副部隊長に任命されることとなった。

 




柊竜真氏に「これだけの活躍したんだから二つ名あるんじゃないの?」と尋ねられたので、クレアに二つ名がない理由を投稿しようと思います。
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