シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

30 / 45
シーマに成り代わった女~知将・ヒイラーの策~

 ギラメル ブリッジ

「……」

(まずいな、この状況は……)

 シーマ艦隊所属ムサイ級ギラメル艦長、ドラント・ヒイラーは動揺する部下達を尻目に静かに戦況を分析していた。

 事態が急変したのは10分前。単独で哨戒任務を行っていたギラメルだったが突然レーダーに異常が発生。レーダーが正常になった時には連邦のペガサス級アルビオンとサラミス級ユイリンとナッシュビルに三方向から包囲されている状況に追い込まれていた。

 ムサイの攻撃手段である連装メガ粒子砲、120mm連装機関砲は全門破損。カタパルトは破壊されMS部隊は出撃できないという反撃が一切出来ない状況に追い込まれていた。

 またミノフスキー粒子の影響でクレアが率いるシーマ艦隊本隊に連絡することも出来ない状態だった。

「艦長! 反転して退却しましょう!!」

「馬鹿者。その間に総攻撃を受けて撃沈される」

 進言する副長の言葉を退けたヒイラーは敵と対面したまま退却を指示。しかし後進での退却は速度が出ず三方向からの攻撃を受け続けることになる。

 絶望の言葉を吐く部下達を「泣き言を言う前に自分が出来る仕事をしろ! 危機を脱出する機会は絶対にある!」と叱責しながらヒイラーは苦々しい顔で戦況を見つめていた。

 

 ======================================

 

 アルビオン ブリッジ

「……」

 ガンダム試作2号機追撃の任務を任されたアルビオン艦長、エイパー・シナプスは戦況を無言で見ていた。

(敵の軍艦(ふね)の様子からして反撃もままならないようだ。反転して逃げようにもその途中に無防備状態になるのを恐れて後退しているようだ。このまま攻撃を加えれば撃沈できるだろう……しかし)

 シナプスの脳裏にとある考えが浮かんでいた。

『シナプス艦長、ユイリンが敵の退路を塞ぐように進軍します。アルビオンはナッシュビルと共にこのまま攻撃を!』

 思案するシナプスにユイリンの艦長、セバスが進言する。シナプスは自分より一回り若い少佐を制止する。

「セバス艦長。このまま敵艦を沈めないよう攻撃を抑えてもらいたい」

『なぜです!?』

 声を荒げるセバスに諭すように伝える。

「敵をこのまま退却させれば、敵は味方のところに退却するだろう。そうすればデラーズ・フリートの本拠地が割り出せる」

『なるほど!』

 ユイリンの艦長はその命令に納得し、艦隊の指揮を執る上官に敬礼する。

「スフィーダ艦長も聞いたな?」

『ハッ!』

 40歳手前の厳つい顔のナッシュビル艦長、スフィーダ中佐に確認すると、彼もユイリンの艦長同様に敬礼で返した。

「よし! このまま敵艦への攻撃を続行する。くれぐれも落とさないように細心の注意を払え!」

 

 ======================================

 

「今すぐ反転を!」と今にも泣きそうな声で叫ぶ副長に「堪えろ!」と制止するヒイラー。その時ヒイラーは敵の攻撃が緩まったのに気がついた。

(どういうことだ?)

 敵の意図がわからず思案するヒイラー。だがルウム戦役で一隻で六隻の敵艦を足止めし、シーマ艦隊全滅の危機を勝利に導いた冷静さと胆力を兼ね備えた男はすぐにその答えを導き出した。

 そして、それと同時に敵の思惑を利用し、敵を全滅に追い込む策を。

 この時を待っていたかのように部下から朗報が入る。

「艦長! ミノフスキー粒子濃度が低下。今ならリリー・マルレーンに通信できます!」

「わかった!」

 ヒイラーは立ち上がり命令を下した。

「これより本艦は反転、本隊の方へ向かう。そしてクレア……じゃなくてお頭に伝えろ。ドラント・ヒイラーに策ありとな」

 その顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

 ======================================

 

 地球連邦軍はユイリンを先頭にアルビオン、ナッシュビルが暗黒宙域に逃げたギラメルを追っていた。

(これで残党の本拠地があぶりだせる!)

 デラーズ・フリートが潜伏していると思われる箇所は100以上。それを虱潰しで探して結果は出なかった。その苦労が一気に報われることに歴戦の艦長に笑みが出る。

 その時だった。

 「なっ!?」

 突如前方のユイリンがレーザーによる直撃で爆散した。

「何が起こった!?」

 その答えは部下からの報告で明らかになる。

「艦長!ザンジバル級1隻とムサイ級4隻が我が軍を包囲しております!!」

「さ、索敵は何をしていた……ッ!」

 シナプスは叱責しようとした自分を恥じて唇を噛んだ。

(これは敵の手がかりを欲するあまり私が招いた軽率さと敵を軽んじていた結果……部下に怒りをぶつけている場合ではない!)

「敵、MSを展開!」

「こちらもMSを発進させろ!」

『艦長!』

 ブリッジのモニターに一人の男、アルビオンMS部隊の指揮を執るサウス・バニングの顔が映る。自分と同じベテラン軍人にシナプスは命令する。

「バニング大尉!敵MSを近づけさせるな!!」

『ハッ!!』

 

 ======================================

 

 リリー・マルレーン

「ふふっ。流石(さすが)は戦術だけならばシーマ様をも上回るかもしれない頭脳を持つヒイラーなだけある」

 白い虎の毛皮が敷かれた椅子で、シーマ艦隊を指揮するクレア・バートンが絶体絶命の状態から敵殲滅の作戦を立案した男に称賛の言葉を送る。

 シナプスがデラーズ・フリートの本拠地を探るためにわざと見逃されたことを見抜いたヒイラーはこれを利用してクレア率いるシーマ艦隊本隊が待ち構える場所に誘導した。

 そしてその作戦は成功し、アルビオンからなる連邦艦隊はシーマ艦隊の待ち伏せによって全滅の危機に陥っていた。

 クレアは持っていた団扇を振り下ろし、言い放った。

「MS部隊でトドメを刺す!」

「お頭のMSを用意させろ!!」

 クレアの命令にコッセルがすぐに部下に命令をだした。




本作の熱砂の攻防戦でシナプス艦長の策を逆に利用するヒイラー。

さすが参考にした人物が人物だけあってすごい。作者の自分がこういうのも変かもしれませんが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。