月 フォン・ブラウン市 資源搬入港
サングラスをかけビシッと決まった白いスーツに身を包んだクレアが輸送艇から降りると、頭頂部がはげた中年の男性が出迎えた。
オサリバン。
アナハイム・エレクトロニクス社フォン・ブラウン支社の常務で、連邦軍からガンダム開発計画を受け持つ一方でシーマと裏で取引をしている
「お待ちしておりました、クレア様」
男は右手を胸に置いて降りてきたクレアに頭を下げる。
「フフッ、アナハイムも商売がうまいじゃないか」
クレアは冷ややかな笑みを男に見せる。
「上得意の連邦の
「はて? これはお伝えしておりませんでしたか?」
男はお世辞笑いを浮かべながら続ける。
「デラーズ・フリートの決起放送以降は連邦軍の監視が強化されておりまして」
「今度は連絡を徹底させてもらう!」
ギロッとクレアはオサリバンを睨みつける。並の男はおろか数々の戦場を潜り抜けた軍人ですら震え上がるクレアの睨みを、表も裏も知り尽くした男は
「はい」
と笑って受け流す。
普通なら震え上がる自分の睨みを軽く受け流すオサリバンに、クレアは「ふんっ!」とつまらなそうに言うとサングラスに手をかける。
「まあいい。でもこれだけは覚えておけ」
サングラスを外してクレアはニヤリと笑う。
「こちらの補給艦の入港時にもしも連邦軍が手ぐすねを引いていたら……月にコロニー、落としちゃうよ?」
「心得ておきます」
普通の者ならば腰を抜かしそうなクレアの言葉にオサリバンは邪悪な笑みを浮かべながら答えた。
(喰えないハゲ狸だ)
クレアはオサリバンが用意したリムジンに乗り込む。
「ところでクレア様。シーマ様の体調はまだ優れないので?」
クレアはシーマがまだシーマ艦隊を指揮している頃から度々シーマの代理として何度もオサリバンと出会っている。故にオサリバンはクレアが来訪することを気に留めていなかった。
シーマ艦隊№2のデトローフ・コッセルや二番艦ギラメル艦長、ドラント・ヒイラーがすぐさまクレアを支持したため大部分はクレアに従った。しかし数少ないもののクレアに不満がある者がその時まだいたため、シーマ艦隊が混乱していることを悟られたくなかったクレアはシーマは病気ということにして対応していた。
「……」
「……クレア様?」
「……ゴールドマン常務、彼は可哀想だったねぇ。内示で専務に昇進が決まった直後に
「……?」
かつての上司の名前を出したことに首を傾げる。しかし
「なるほど、確かにおっしゃる通りですね」
クレアが言った意味を理解したオサリバンはニンマリ笑う。
ジョージ・ゴールドマン。
オサリバンが本部長だった頃の常務で、直属の上司だった男だ。
ゴールドマンは頭角を現していたオサリバンを嫌っていた。あの手この手で邪魔をするゴールドマンはオサリバンにとって邪魔者でしかなかった。
そんなある日。ゴールドマンは家族とリゾート地でショッピングを楽しんでいた時に、偶然すれ違った
ゴールドマン暗殺はオサリバンが仕組んだ事。
そういう噂もあったが証拠は挙がらなかった。オサリバンはゴールドマンを嫌悪していたが、彼の殺害を計画したという証拠は何一つ見つからなかったからだ。ゴールドマン暗殺はオサリバンと
その結果。ゴールドマン暗殺事件はテロリストの犯行ということで終結し、犯人はわからないまま迷宮入りすることとなった。
オサリバンは悟る。出世を邪魔したゴールドマンの死によって出世した自分同様、ゴールドマンを殺害した目の前の女もシーマを排除してシーマ艦隊を掌握したのだと。
(シーマに代わった
シーマ艦隊はシーマ・ガラハウから目の前のクレア・バートンに代わった。それによって今まで通り取引をしても何の問題はない。
そう答えを出したオサリバンはその後シーマ・ガラハウに成り代わったクレアと補給やMSの譲渡など踏み入った話に入った。
彼の頭にはシーマは利用価値のない過去の人になっていた。